烏丸クロエの切断論理   作:四条の利

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取り調べ方は四社四葉。
刑事達の印象がちょっと変わるかも?



取り調べ室にて

 

 

ヴァルキューレ警察学校、その取り調べ室。

日々さまざまな容疑者が送られてくるこの場所では、その数以上の戦いが繰り広げられている。

 

これは、四人の刑事たちが容疑者を追い詰める、四者四様の記録である。

 

 

Case1 : 潮凪サザナ 『海上茶会』

 

取調室の冷たいスチール机の上に、湯気の立つ湯呑みが二つ、静かに置かれた。

注がれているのは、市販の安っぽいティーバッグではない。

彼女が私物として持ち込んだ、香り高い高級な玉露だ。

 

「さぁ、まずは一口どうぞ。取調べというものはお互いに神経をすり減らす。温かいものを飲んで少し肩の力を抜こうじゃないか」

 

サザナは柔らかく菩薩のように穏やかな微笑みを浮かべて対面に座る男に語りかけた。

男はブラックマーケットで急成長中の詐欺グループの幹部だった。

高級なスーツを着崩し、警察の世話になることなど慣れっこだと言わんばかりにふんぞり返っている。

 

「へっ、刑事局長直々のおもてなしとは恐れ入るねぇ。だが、俺は何も喋らねぇぞ。そもそも俺が詐欺に関わった証拠なんて、どこにもねぇんだからな」

 

男は出された茶に口をつけることもなく、鼻で笑った。

 

「ああ、分かっているとも」

 

サザナは咎めることもなく、自らの湯呑みを両手で包み込む。

 

「君のように上に立つ人間は、直接手を下さない。部下が勝手にやったこと、自分は知らなかった。よくある話だ。組織をまとめるというのは苦労が絶えないからね」

「分かってんじゃねぇか、だったら早く弁護士を呼べ。こんな狭い部屋に閉じ込められて、気分が悪い」

「そう急ぎなさんな、外はひどい雨だ。雨宿りくらいしていってもバチは当たらない。その高級な服を濡らしたくはないだろう?」

 

サザナはゆっくりと、ワイシャツの袖を捲り上げ始めた。

白く細い腕が露わになり、そこに刻まれた古傷が蛍光灯の光を反射する。

 

「君の言う通り、決定的な『証拠』はまだない。だがね、私たちは君の口座の金の流れ、ダミー会社の登記、そして…君が昨日、高飛びのために用意していた偽造書類の存在まで、全て把握している」

 

男の眉が、ピクリと動いた。

 

「な、何を言っている。書類なんか…」

「話さないのは自由だよ。現実という大海原では、誰もが自分の身を守るために嘘という浮き輪にすがるものだ」

 

「ただ、一つだけ忠告しておこう」

 

サザナが、伏せていた目をゆっくりと開いた。

その瞬間、取調室の気圧が急激に下がったかのような錯覚が男を襲った。

 

「…」

 

サザナの瞳は、光の全く届かない深海のような底知れぬ濃紺色をしていた。

温かかったはずの部屋の空気が、一瞬にして凍りつく。

 

「君の浮き輪は、既に私がこの手で穴を開けておいた。君の部下たちは、君に全ての罪をなすりつける気でいる。彼らの調書はもう隣の部屋で完成しているんだよ」

「なっ…嘘だ!あいつらが俺を売れるわけがねぇ!」

「嘘かどうか、確かめる術は君にはない。君は今、何の救命具も持たずに、この冷たい海にポツンと浮かんでいるんだ。体力は続きそうかい?」

 

サザナの声は決して大きくない。怒鳴ってもいない。

だが、その声の波動は男の鼓膜を抜け、直接脳髄を締め付けてくるようだった。

 

「ひっ…!」

「君には二つの道がある」

 

サザナは机の上で両手の指を組んだ。

 

「このまま『知らない』と泳ぎ続けて、いずれ力尽きて深海の底へ沈むか。あるいは今ここで私の差し出すロープを掴み、真実を吐いて幾分かマシな陸地に上がるか。さあ、選ぶといい」

 

男はガタガタと震え出した。目の前にいるのは刑事ではない。

生殺与奪の権を完全に握った、冷酷なる怪物だ。

 

「は、吐く!吐きます!だから助けてくれ!」

「……そうか」

 

サザナの表情がふわりと緩んだ。

再び穏やかな「仏の顔」に戻る。

 

「賢明な判断だ。さあ、冷めないうちにお茶をどうぞ。きっと今なら、冷えた五臓六腑に染み渡るはずだからね」

 

男は震える手で湯呑みを持ち上げ、涙を流しながらお茶を飲み干した。サザナの茶会に、決して逃げ道は存在しないのだ。

 

 


 

 

Case2 : 烏丸クロエ 『解体される自尊心』

 

「あーらら。やっぱり近くで見ても酷いもんですねぇ」

 

パイプ椅子に脚を組み、烏丸クロエは手元にあるタブレットの画面をフリックしながら鼻で笑った。

取調室の対面に座っているのは、先週D.U.西区の商業施設に爆発物を仕掛けた自称・爆弾芸術家の男だ。

 

彼は逮捕されてなお、自らの犯行を「社会に対する芸術的なアンチテーゼ」だと豪語し全く反省の色を見せていなかった。

 

「ふん。警察の犬に俺のアートが理解できるわけがない。あの爆弾の起爆回路の美しさ、そして警察がパニックになる様を計算し尽くした配置!あれこそが至高の…」

「うるさいですね。私が述べたくもない感想を述べているんです、静かにしなさい」

 

クロエは苛立たしげに言い放ち、タブレットをドンッと机に置いた。

そこに映し出されているのは、男が仕掛けた爆弾の、クロエによる解体時の記録写真だった。

 

「いいですか?私が酷いと言っているのは、貴方の思想ではありません。この『工作技術の低さ』について言っているんです」

「な、なんだと?!」

 

クロエは胸ポケットから愛用のハサミを取り出し、チャキリと鳴らした。

「まず、この並列回路。市販のタイマーに頼りすぎです。ブラックマーケットで売られている初心者用キットの配線を、色だけ変えてごまかしている。独創性が全くない。パクリですね」

「ぱ、パクリじゃねぇ!あれは俺のオリジナルアレンジで……!」

「ならアレンジすらままならない無能。ということですね」

 

クロエの赤い瞳が、犯人を冷酷に射抜く

 

「ハンダ付けの甘さを見ればわかります。貴方、右利きなのに無理して左手で作業しましたね?鑑識の目を誤魔化すための浅知恵でしょうが、そのせいで基板への定着が甘くなり、振動に極端に弱い『欠陥品』になっていた」

「っ!」

「それにこの外装。どうしてここで無駄に装飾のLEDを光らせるんです?自己主張ですか?目立ちたいんですか?バカなんですか?ゲーミングはゲーミングだから良いのであって…」

 

クロエはくどくど文句をつけながらハサミの先で、画面上の爆弾の写真をツンツンと小突く。

 

「本物の爆弾(あくい)というのはね、もっとこう静かに、陰湿に、相手の日常の隙間に溶け込むものなんですよ。貴方のコレからは、火薬の匂いじゃなくて『僕ちゃんのことを見て〜ん♡』っていう安っぽい承認欲求の悪臭しかしない」

「だ、黙れ!!お前みたいな小娘に何が分かる!」

「分かりますよ。だって私、貴方のこの『最高のアート(笑)』を現場に到着して12秒で潰しましたから」

「っ!」

 

男の顔が、怒りと屈辱で真っ赤に染まる。

だが、クロエの追撃は止まらない。

 

「本当に退屈でした。こんな三流以下のゴミのせいで、私の貴重なランチタイムが潰されたかと思うと、今すぐこのハサミで貴方のその無駄なプライドの結び目をジョキジョキに切り刻んでやりたいくらいです」

 

クロエは立ち上がり、男の顔のすぐ横でハサミの刃を勢いよく開閉させた。

 

「ヒィっ?!」

「貴方の才能はゼロです。爆弾を作るセンスも、テロリストとしての覚悟も、何一つ持っていない。ただの、騒がしいだけの『無能』です」

「あ…あぁ……」

「さあ、自分がどれだけ無価値な存在か理解できたら、さっさと調書にサインしてください。貴方にかける時間は、これ以上はミリ秒たりともありませんから」

 

男は両手で顔を覆い、嗚咽を漏らして泣き崩れた。

自らのアイデンティティを根こそぎ否定された犯罪者に残されたのは、完全な敗北感だけだった。

 

クロエは「つまらないですねぇ」と呟き、足早に取調室を後にした。

 

 


 

 

Case3 : 八咫黒モナカ 『不動の時間』

 

「……で?次は何すか?」

「だから!俺じゃねぇって言ってんだろ!あの路地裏でカツアゲしてたのは、俺の顔に似た別の奴だ!防犯カメラの映像だって不鮮明じゃねぇか!証拠を出せ、証拠をォ!」

 

取調室の中で、怒声が響き渡っている。

声を荒げているのは、繁華街で連続恐喝事件を起こしたチンピラだ。

気性が荒く、机をバンバンと叩いては担当刑事に凄みを見せている。

 

だが、その担当刑事───八咫黒モナカは、全く動じていなかった。

いや、動じていないというより、そもそも話をマトモに聞いていなかった。

 

「あー…?なるほど」

 

モナカはパイプ椅子に深く沈み込み、長い足を机の下に投げ出している。

その手にはコンビニの特大サイズのポテトチップスが握られており、バリボリと一定のリズムで咀嚼音を響かせている。

 

「…おい! 人の話聞いてんのかテメェ!ヴァルキューレの刑事はどうなってんだ!」

「聞いてるっすよ。自分じゃない、似た奴だ、証拠出せ。でしょ。ふぁぁ〜」

 

モナカは信じられないほど大きなあくびをした。

そしてポテトチップスの袋を逆さにし、最後の欠片を口に流し込む。

 

「ふざけんな!ナメてんのか!俺はな、怒らせると怖いんだぞ!表に出たら夜道に気をつけるんだな!」

 

チンピラは立ち上がり、モナカに向かって拳を振り上げた。

 

「あ?」

 

しかし長身のモナカが、のっそりと立ち上がる。

その圧倒的な質量と物理的な威圧感の前に、チンピラは思わず息を呑んで後ずさった。

 

「あっそ、夜道ね。別にいいっスけど、私を殴って逆に怪我をしても傷害にしないでくださいよ」

 

モナカはチンピラを見下ろす。三白眼の気だるげな目には、怒りも、刑事としての使命感も存在しない。

あるのはただ、底なしの「面倒くさい」と「早く帰って寝たい」という本能的な欲求だけだった。

 

「んで話は戻るんスけど、お前がやったってのはこっちも分かってるんスよ。防犯カメラが不鮮明とか言ってるけど、現場に落ちてた財布から指紋出てるし」

「なっ…?!そ、それは偶然だ!俺が拾って、親切に……」

「あーもう、うるさいっス」

 

モナカは頭をボリボリと掻いた。

 

「そういう言い訳、考えるのも喋るのも疲れないっすか?私は聞いてるだけでエネルギー消費して、お腹が減るんすよ」

「な、なんだお前は…真面目に調べろよ!」

「真面目にやるのが面倒くさいしお互いの為にならないから、早く吐けって言ってんすよ」

 

モナカは再び椅子にドスンと座り、今度はポケットから大量のチョコレートバーを取り出した。

 

「お前が粘れば粘るほど、私はここから出られない。私が帰れないってことは、私じゃダメだと判断した怖ァ〜い局長やサイコパスが、そのうち交代で入ってくるってことっスよ」

「ひっ…!」

「あの人ら、私みたいに優しくないっスからね?物理的にも精神を削りに来るんで。だから、今のうちにサインして、お互いあったかいフトンで寝ましょうよ。ね?」

 

モナカは一切の抑揚のない声で、ボソボソと語り続ける。

 

チンピラは気づき始めていた。

この刑事には、どんな脅しも怒りも嘘も通用しない。

彼女はただの「壁」なのだ。

壁に向かって延々と嘘をつき続ける徒労感に、チンピラの精神は急速に摩耗していった。

 

「……わかった。分かったよ。俺がやった」

「おー。言ったっすね。じゃあここにサインよろしくっす。あー、やっと帰れる」

 

モナカはニッコリと笑った。

調書にサインをさせると、チョコバーを口にくわえたままのそのそと取調室を出て行った。

残されたチンピラは、壁を殴って敗北した虚脱感に包まれていた。

 

「…やってられねぇ」

 

机の上に山積みだったチョコバーはたったの一本を残して食べ尽くされていた。

 

「あそうだ」「ギャッ」

 

一度退出したモナカが顔を出す。

彼女は机の上のチョコバーを指さした。

 

「そのチョコバー食べていいっすよ。話してくれたお礼っス」

「…」

「それじゃ」

 

今度こそ去っていた事を確認したチンピラは、チョコバーを手に取り開封。半分を口に含んだ。

 

「甘ぇな…」

 

悪い気はしなかった。らしい。

 

 


 

 

Case4 : 的場イキハ 『化け物』

 

「はーい、お待たせしましたー!担当の的場です!よろしくお願いしますね!」

 

バァンと勢いよく扉が開き、異常なほど明るい声と共にポニーテールの少女…的場イキハが取調室に入ってきた。

その腕には、彼女の細い体には不釣り合いなほどに分厚いファイルが抱えられていた。

 

「…」

 

対面に座る男は、大手企業の経理担当者であり巧妙な手口で巨額の横領を行っていた知能犯だ。

彼は、自分の完璧な偽装工作がバレるはずがないと高を括り、余裕の笑みを浮かべていた。

 

「やあ。君みたいな可憐なお嬢さんが担当とはね。警察も人手不足なのかな?」

「え?」

「言っておくが、私は経理のミスを指摘されて呼ばれただけで、横領などという不当な嫌疑には一切…」

「あ、そういう長ったらしい言い訳は大丈夫ですよ!時間の無駄ですから!」

 

イキハは男の言葉を笑顔で遮り、ズドンと分厚いファイルを男の目の前に置いた。

 

「えーと、それでは早速ですが、緊張を解すためのレクリエーション『音読会』を始めまーす!」

 

唐突すぎる流れに、男は呆然としていた。

 

「………は?音読会?何をふざけたことを」

「ふざけてませんよ?ほら、この一ページ目。黄色のマーカーが引いてあるところから大きな声で読んでください」

「一体何を読めと…」

 

イキハの口調は、まるで幼稚園の先生のようだった。

そして男が内容を確認しようとその書類に目を落とした瞬間、顔面からサーッと血の気が引いた。

 

「こ、これは…?!」

「声が小さいでーす。聞こえませんよ?」

 

イキハがニコニコと笑いながら、赤ペンで机をコツコツと叩く。

 

「…………『〇月×日。オリガミ・コンサルティング宛に、名目なきコンサル料として500万円を送金。承認者サインは………………私のものと筆跡が一致』」

「はい、よくできました!じゃあ次、五ページ目!このメールのログをどうぞ!」

「な…あ…」

 

イキハの声のトーンは変わらない。

だが、その瞳だけがビー玉のように無機質だ。

 

被疑者は渋々読み進める。

 

 

「『第三倉庫にて、ミサイル部品の受け渡しを確認。受取人のサインは……俺のものと酷似』…おい、これは!」

「はい次、次のページ。はいここ」

「『同日、21時14分。中央区のATM防犯カメラ映像…出金する俺の姿を確認』……おい、やめろ!!」

 

被疑者がバインダーを閉じようとする。

 

バァン!!

 

だが、イキハは片手を上げ勢いよくそのページに叩きつけた。

静まる取調室の中で、彼女は赤ペンで机をコツコツと叩いている。

 

「やめないでくださいよ、おじさん。自分の口で自分の証拠を読み上げる気分はどうですか?」

 

「他人に言われるより、脳にスッと入ってくるでしょう?『ああ、私はもう逃げられないんだ』って」

 

イキハは頬杖をつき、淡々と作業を進める。

それはクロエのような『愉悦』でも、サザナのような『圧力』でもない。

 

ただひたすらに『詰んでいる盤面』を確認させる作業。

 

「さて、十分な朗読も終わったところで…クイズです!二つの選択肢から選んでください!」

 

イキハは指を2本立てた。

 

「選択肢A。このまま黙秘を続ける。その場合さっき読み上げた証拠書類があと120ページ残ってるんで、最後まで音読してもらいます。その後、これに基づいた捜査で証拠が確定し、即実刑コース」

 

「選択肢B。今ここで『ごめんなさい』する。この書類の続きを読む手間は省けるし、私たちの局長は反省する人には優しいので、情状酌量の余地あり」

 

彼女は被疑者の目を真っ直ぐに見据える。

普段から修羅場をくぐり抜けるための最適解を選び続けてきた彼女の目は、相手にも「最適解を選べ」と無言で迫っていた。

 

「おじさんは賢いんでしょう?…これだけの証拠、自分の口で読み上げたんですから、どれだけ堅いか分かってますよね?」

 

「さあ、どっちがお得か…選びなよ」

 

彼女の緑の瞳、その瞳孔は限りなく絞られていた。

 

「あ…あぁ…うぅ…B、Bで……」

「はーい、正解でーす! さすがですね!」

 

男が震える手でサインをした瞬間、イキハは再び満面の笑みに戻り、ファイルを小脇に抱えて立ち上がった。

 

「それじゃあ、後の手続きは担当に引き継ぎますね!お疲れ様でしたー!」

 

バタン、と扉が閉まる。

 

残された男は自分が人間ではなく、ただの事務処理の対象として処理されたのだという事実を噛み締めながら、ただ静かに絶望の涙を流すことしかできなかった。

 

 





「本気になったイキハはさらに恐ろしいぞ」
「あれはもう二度と見たくないっス……」
「作戦でやらかして死ぬほど詰められていた知り合いを見ている気分でしたよ」

どの話が見たい?

  • クロエ
  • サザナ
  • イキハ
  • モナカ
  • ミラ(鑑識課)
  • レイン(交通安全局長)
  • まだ見ぬオリキャラ
  • 既存生徒との関わり
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