ギャグ回です。
「はーい!お待たせしました〜!今日のランチは、怪しい倉庫のガサ入れですよぉ〜♪」
「いえーい!」
「ライブはやめろ」
「ちゃんと録画ですよぉ」
スマホ片手にヴァルキューレの輸送車から軽やかに飛び降りるクロエと、それに続いて飛び出すイキハ。
今日は朝からご機嫌だった。
「おはようございまぁす、刑事局ですよぉ」
現場は放棄された第7倉庫。
「中に大量の爆発物がある」というタレコミがあり、刑事局が出動したのだ。
「ったく、処理ならクロエさんに任せりゃいいじゃないっスか」
モナカが不機嫌そうに文句を垂れる。
先日のハイウェイでの酷使をまだ根に持っているようだった。
「まぁそう言うな、埋め合わせはしてやってるだろう?それに…」
サザナは苦笑すると、モナカに羊羹をひと棹丸々手渡した。
「クロエが『久しぶりの入れ食い』だと張り切っている上、イキハまで乗り気となると、絶対に何かが起こるだろうからな」
「はぁ…もぐ…もっとしょっぱいやつがいいっス…」
「ふふゥーん♪情報によると結構な規模らしいですからねぇ!私のハサミが唸りますよぉ!」
クロエは倉庫の巨大なシャッターの前に立つ。
鍵はかかっていない。隙間から、チチチチ…という、電子時計の音が漏れている。
「おや、もう起動してます?なら手っ取り早いですねぇ!」
クロエはハサミを構え、意気揚々とシャッターを蹴り上げた。
「さぁ、出てきなさいリトルボーイ!お姉さんが優しく解体してあげ………………は?」
シャッターが開いた瞬間。
クロエの動きが、完全に停止した。
後から入ってきたサザナ、モナカ、イキハもまた、口をあんぐりと開けて絶句した。
そこにあったのは、爆弾だった。
いや、ただの爆弾ではない。
視界を埋め尽くす物体。
その全てにダイナマイト、プラスチック爆弾、パイプ爆弾、なぜか丸くて導火線の付いたアニメ風の爆弾、電柱並の太さの違法花火、ニトロ容器…挙げればきりのない程の爆発物が、まるで物流センターの荷物のように数万個単位で積み上げられていた。
しかも、その全てがご丁寧に赤と青のコードでタコ足配線のように連結され、床を埋め尽くすケーブルの海となっていた。
『現在の爆弾個数:12,450個/連結率:100%』
中央の巨大モニターに、ふざけた数字が表示されている。
「ななんじゃこりゃあぁぁぁぁぁ!?」
イキハが叫ぶ。
「これ全部、本物ですか!?」
「…………あ、あ…………?」
クロエはハサミをカチャカチャと空打ちさせながら、焦点の合わない目で呟いた。
「いっぱい……ある…………あっちも、こっちも……え?赤?青?……あれは黄色?いやホワイト?」
キャパシティオーバーである。
普段から芸術的な「一点物の爆弾」を相手にすることに快感を覚えるクロエにとって、この「質より量」を地で行く光景は、美食家の前にドカ盛り残飯を出されたに等しい。
彼女の脳内回路はショートを起こしていた。
「おいクロエ?!しっかりしろ!いつものドヤ顔はどうした!」
「あ……あひゅ……き、切りたい……でも切れない……これ切ると隣が……隣が……む、無限……無限ループ……あははは……」
天才解体屋・烏丸クロエ。
バカみたいな物量の前に、開始1分で発狂寸前まで追い詰められていた。
『ハ〜〜イ!! 諸君!! 私の超大作を見てくれたか〜い!?』
「あっ!あいつは…!」
「最近動画サイトで活動している迷惑爆弾魔じゃあないか」
『ククク説明どうもぉ!!』
モニターにノイズが走り、派手なアロハシャツを着てサングラスをしたパグの獣人が映し出された。
「げっ、こいつかよ…」
モナカが頭を抱える。
『今回は新記録に挑戦だ!!1万個の爆弾で、ドミノ倒しをしてみた〜〜?!』
『これだけの火薬を集めるのに、ブラックマーケットのセールで半年待ったんだ!スゴいだろう!?』
「しょーもなッ!!!」
『お陰で転売価格の半額で買えたぜ!』
「それはセールの意味ないだろ」
早々に頭痛がしてきたのか、サザナは額を押さえていた。
「で、でも局長これマズイですよ!?」
イキハがタイマーを指さした。
「起爆まであと10分です!これ全部爆発したら、倉庫街どころかD.U.の一部が地図から消えます!」
「クロエ、解体は」
「……無理…………」
クロエは体育座りでぶつぶつ呟いている。
「この配線……美しくない……ゴミスパゲッティ……吐き気がする……一つ解体するのに30秒として、1万個なら……30万秒……つまり83時間……無理……死ぬ……」
計算が得意なのが仇になった。
物理的に時間が足りない。一本ずつ切っていては、どう足掻いても間に合わないのだ。
「ハイウェイも時間制限あっただろ」
「あれとは違いますよぉ!」
「あーもう!こうなったら配線を全部引きちぎるか!?」
モナカが盾を構え、ショットガンを向ける。
「ちょっと待ってよ?!そんな事したら即バーンだよ?!」
イキハが叫ぶ。実質詰みである。
個別に解除→時間切れ
まとめて切断→誘爆
爆破処理→被害甚大
「これだけの数、制御し切れるとは思わんが…何か『親機』のようなものはないのか?」
サザナがモニターの中の獣人を睨む。
『ちなみに〜!こいつらの解除コードは、僕の過去動画に隠された文字を並べ替えると分かる仕組みになってまーす!みんな、チャンネル登録して探してね!』
「過去動画…こいつ動画300本以上あんじゃん!!」
「ぶっ飛ばすぞこの野郎!!」
サザナがキレた。
もはや推理やら論理やらへったくれもない。ただの嫌がらせである。
ざり…
その時。
絶望に包まれた倉庫内で一人だけ、ユラリと立ち上がる影があった。
「…汚い」
烏丸クロエである。
彼女の顔からは、いつもの余裕も理知的な光も消え失せていた。
あるのは、限界を超えたストレスによる『逆ギレ』。
「私の…私の神聖なランチタイムに…こんなバイキング形式のゲテモノ料理を出して…!!」
「朝からはキツいっすよね」
「そういう話じゃないでしょ」
クロエが両手にはいつものハサミではなく、巨大な枝切りバサミとケーブルカッターが握られていた。
「クロエさん!?何をする気っスか!?」
「推理なんていりません…美学もない、思想もない、ただ多いだけのゴミの山…!」
クロエが獣のように吠え、工具を縦横無尽に振り回し始めた。
「まとめてスクラップにしてやりますよぉぉぉぉぉ!!!」
「ひええっ!? ご乱心だー!!」
イキハとモナカが逃げ惑う。
錯乱したクロエは、なんと爆弾の山に向かってダイブした。
コードを切るのではない。
爆弾と爆弾の隙間を超高速で這い回りながら、コードそのものを爆弾から解体し始めたのだ。
「邪魔だ邪魔だぁぁぁ!この配線センスが気に食わない!なんでここを直列にする!減点!死刑!没収!ここもゴミ!全部ゴミ!!」
シュパパパパパッ!!
「gaaaaaaaaaarbage!!!!」
もはや残像しか見えない動き。
「…ゴ〇〇〇みたいだな、あいつに髪染めさせて正解だったよ」
「残飯に湧く害虫みたいな言い方しないでくださいよ」
「てかクロエさんがインナー入れたの局長のせいだったんスか」
クロエは人間シュレッダーと化し、1万個の爆弾の山を燃えない(燃やしたらダメな)ゴミへと分別していく。
しかし、スピードが足りない。
残り時間3分。まだ5000個もある。
「ああっ、ダメです局長!クロエさんが早すぎて煙出てます!ていうか泡吹いてます!」
「ええい、こうなったら総力戦だ!」
サザナが叫ぶ。
「モナカ、盾で爆弾の配置をズラして、クロエの動線を確保しろ!イキハ、お前は持ち前の不運を使え!」
「へっ!?」
「いいから走れ!そして転べ!」
「んな無茶苦茶なァァァァァ!」
カオス極まる第7倉庫。
理不尽な物量VSド根性の刑事局。
爆発オチ回避のための、泥仕合が始まった。
「うわああああん!もう嫌だあああ!」
倉庫内を走り回っていた的場イキハが、派手に悲鳴を上げた。
指示通り走ってはみたものの、床はケーブルと爆弾だらけ。足の踏み場もない。
「こんなとこで転んで、役に立つわけないじゃないですかぁぁぁ!」
グシャッ!
案の定、イキハは山積みのニトロにつまづいた。
物理演算がバグったかのような豪快な転び方。彼女の体は砲弾のようにすっ飛び、倉庫の最奥にあった棚へと突っ込んだ。
ガシャーン!!
「ぎゃあっ!?痛っ…」
「あ、あれ?」
ふと、何かに気付いたイキハが顔を上げる。
彼女が倒れ込んだ衝撃で、棚の後ろにあったタコ足配線の延長コードがブチッとコンセントから抜けていた。
『あ』
モニターの中の犯人が間抜けな声を上げた瞬間。
倉庫内に充満していた電子音が一斉に止まった。
シュゥゥン…
中央モニターの表示が消える。
通信云々ではなく、普通に電源が切られたようだった。
「…え?」
暴走中だった烏丸クロエの手がピタリと止まる。
「……えっと…電源、落ちた?」
犯人の悲痛な叫びが、近くに置かれていた安っぽいスピーカーから響いた。
『あっ、ああ〜?!ぼくの最高傑作が!!連動制御ユニットのコンセントが抜けたぁぁぁ!!』
なんと、1万個の爆弾を制御していた大元は、市販の延長コード一本だったのだ。
前側から見た「映え」を気にするあまり、配線を裏にまとめていたのが仇となった。
「…は? 終わり?」
モナカが盾を下ろす。
「電源一本で動いてたってことっすか?…アホらし」
サザナが深く、深ァ〜く息を吐いた。
「はぁ…イキハ。お前の不運はやはり一級品だな」
「へ?…あ、はい。や、やりましたよ私!大手柄〜!」
「なんてなるか〜っ!」
「ははは」
倉庫内の空気が緩み、一転して呆れムードに包まれる。
爆発は防がれた。平和が戻った。
…かに見えた。
「……」
クロエだけが、無言で立ち尽くしていた。
彼女の手には、千切れたケーブルと枝切りバサミ。
目の前には、コンセントが抜けてただの粗大ゴミと化した、センスのかけらもない爆弾の山。
「…ゆる…さん……」
クロエの肩がわなわなと震えている。
彼女の中で何かが完全に決壊していた。
「私の…高尚な頭脳と、繊細な技術と、なけなしの情熱を……」
「なけなして」
「こんな…こんなコンセント一つで解決するような『おふざけ』に浪費させたなぁぁぁぁ?!」
クロエは鬼の形相でモニターを睨みつけた。
「おい貴様!!今どこにいる!!」
『ひぃっ!?ぼ、ぼくはこの倉庫の二階の…』
「近いだろバカか?!」
クロエは枝切りバサミを投げ捨てさらにデカいケーブルカッターを手にし、二階への階段を駆け上がった。
「そこの首洗って待ってろ! お前を大事なスマホもろとも断ち切って私の動画の足しにしてやるからなぁぁぁ!!」
『ママ〜!怖い刑事さんが来るよ〜!!炎上する〜!!』
…
「なんスかこれ」
「知らん」
その日、犯人の最後となるライブ配信は、激昂したクロエが扉を蹴破って突入し、カメラに向かってケーブルカッターが振り下ろされてブラックアウトするという映像で幕を閉じた。
これは後に「神回」として語り継がれることになる。
────────
事件解決後の刑事局オフィス。
いつもは静かな時間が流れているが、今日は重苦しい空気が漂っていた。
クロエは、デスクに向かって一心不乱に手を拭いている。
消毒用アルコールで、ハサミの持ち手を、そして自分の指を、何十回も何百回も拭いている。
「汚れた…私の美学が…あんな雑な配線に触ってしまった…うぅ…」
彼女は完全にトラウマを抱えていた。
「量より質」主義の職人が、「質の悪い量」の波に飲まれたショックは計り知れない。
「元気出してくださいよ、クロエさん」
イキハがコンビニスイーツを差し出す。
「一応、解決したんですから」
「イキハ…私、もう二度とダンボールは見たくありません…ダンボール工場に行って転んできてください」
「それは物流的に困りますけど…というか破壊兵器みたいな扱いしないでください!!」
ソファーでは、モナカが死体のように横たわっていた。
「もう無理…あんな重労働、SRTの訓練にもなかったっすよ…盾が凹んだし……」
サザナは一人、膨大な書類の山と格闘していた。
「押収した12,450個の爆発物の処理申請書」と、「犯人の損害賠償請求書」そして「クロエが起こした動画上の騒ぎに対する始末書」だった。
「はぁ…刑事局始まって以来の押収量だ、保管庫がパンクして、関係各所からクレームが来ているよ」
サザナがペンを置いて天井を仰ぐ。
「教訓だな…『バカと爆弾は使いよう』だが、バカすぎる爆弾はただのゴミだ」
「断捨離しますぅ?」
「好きにしてくれ…」
プルル…
その時、オフィスの電話が鳴った。
「はーい刑事局………あれ、カンナ局長?」
イキハが出ると、スピーカー越しにカンナ局長の声が響いた。
『──おい刑事局!貴様らが確保した動画配信者が、取調室で「次の動画の企画考えました!牢屋脱出ドッキリ!」とか言って暴れている!どうにかしろ!』
クロエの手がピタリと止まった。
彼女は消毒したばかりのハサミを手に取り、ゆっくりと立ち上がった。
その顔には、先程までのトラウマ患者の弱々しさはなく、深淵のような暗い笑みが戻っていた。
「…ほう?反省の色なし、ですか」
「行きましょうか、皆さん。どうやら彼には、再生数よりも大切な『教育』が必要なようです」
「…やれやれ。手加減はしてやれよ?」
「なんでサラッとみんなで行こうとするんすか。ヤッスよ」
トラウマは、新たな怒りで上書きされたらしい。
クロエはハサミを鳴らしながら、足取り軽く取調室へと向かっていった。
「今日のランチのメインディッシュは、彼のアカBAN(物理)ですねぇ~♪」
何だかよく分からない事件だった。
こんな事がよくある。それがキヴォトスである。
「あんな7分で5000個もバラせたならハイウェイもいけたんじゃないのか?」
「レベルが違うんですよ、繊細なフレンチと卵かけご飯くらい違います」
「それは結構違うな…」
どの話が見たい?
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クロエ
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サザナ
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イキハ
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モナカ
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ミラ(鑑識課)
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レイン(交通安全局長)
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まだ見ぬオリキャラ
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