この異常者…!
「ん…カニ鍋……」
どれくらい意識を失っていただろうか。
気がつくと、イキハは古ぼけた木の床板の上に倒れ込んでいた。
「あれ…ここは…」
ゆっくりと重い瞼を持ち上げる。
視界に広がるのは、古めかしい梁と天井板、そしてあちこちに積まれたホコリまみれの古道具。
鼻をつくのは、カビと埃の混ざったひどく澱んだ空気の匂いだった。
(えーっと私は確か……あー、モクブネのどこかですねこれ)
自分の現在地が、霊山のどこかにあるお堂の中であることを認識する。
「う……んん……?」
上半身を持ち上げる彼女の視界に、不気味に渦巻く黒い靄が見える。
生き物のように蠢くその靄は、イキハの足元にまとわりつき、ゆっくりと、しかし確実に彼女の頭の中へと染み込んでくる。
(なんだか…頭がぐらぐらする)
「うわっ!」
ふらりと立ち上がろうとして、足から力が抜けた。
倒れた身体に伝わる鼓動は異様に速い。
そして、耳元でノイズのような声が響き始めた。
『イキハ』
「………は?」
背筋が凍る。
それは、数年前に聞いた声だった。
その声が想起させるのは、いつも明るくて、希望に満ちていて、大会で輝かしい成績を残しては得意げに笑っていた、中等部時代の親友の顔。
だが、続く言葉は血を吐くような怨嗟の声に変わった。
『どうしてワタシは…こんな目に合わなくてはならなかった?』
目の前の暗闇がぐにゃりと歪む。
靄の中から浮かび上がったのは、凄惨な路地裏の幻影だった。
赤黒く染まったアスファルト。
『─────!』
倒れ込み、真っ赤に染まる腕を押さえて泣き叫ぶ親友の姿。
そして、その奥に薄笑いを浮かべて立ち去る、見知らぬ通り魔の後ろ姿。
『ワタシ、もう競技を続けられないらしい』
『アイツはこちらに、なんの恨みがあった?ただそこに居たからって、なんでワタシが…こんな理不尽な思いを』
「ハァ…ハァッ……!」
イキハの呼吸が浅くなる。
冷や汗が噴き出し、お堂の床に斑点を描く。
(なんで…これが……っ!)
自分が一生忘れることのない、そして消すことのできない光景が、眼前に再生されている。
(そういう…ことか…!こいつらは……そういう怪異…!!)
イキハはこの黒い靄を、人間のトラウマを引きずり出し、対象の精神を脅かすものであると断定した。
『───!!』
幻影の路地裏には、さらに一人の少女の姿が現れた。
数年前、中等部時代のイキハ自身だ。
彼女は犯人を憎悪で歪めて睨みつけながら、泣いていた。
だが今の彼女は犯人ではなく、成長した今のイキハの方を指差し、絞り出すような声で告げた。
『あなたが何をしたって無駄だ。証拠がないって理由だけで、あいつは許されたじゃないか』
「…っ」
『何を噤んでいるの。過去を読んで、答えて』
(…そうだ)
イキハは路地裏を走り、犯人を見つけ出してボロボロになりながら押さえつけた。
警察学校や治安維持組織でもない子供が死に物狂いで食らいついた。
『あなたは無力だった』
(そうだ)
だが、あの犯人は決定的な物証がないという事務的な判断のもと、あっさりと釈放された。
あんなにも明確な悪意が、法の抜け穴と証拠の不足によって日常に放り出されてしまったのだ。
『あなたがどんなに頑張っても、不幸はいつも勝手に向こうからやってくる。あなたが全部呼び寄せた』
幼い自分が糾弾してくる。
(そうだ)
『あなたは何の証拠も出せなかった。無能な子供だった。今もあの子の腕は動かない』
(そうだ)
過去の幻影は親友の声と混ざり合いながら、一歩ずつ今のイキハに歩み寄ってくる。
「あぁ…」
イキハは床に座り込んだまま、ゆっくりと両手で頭を抱えた。
『後悔しろ』
『お前が悪い』
幻影たちはその無様な姿に確かな手応えを感じ、一層おぞましい黒い靄となって彼女を包み込もうとした。
「そうだ…」
だが。
「本当に──────」
「くだらない」
『?!』
俯く彼女から漏れた声には、震えや恐れは全く混じっていなかった。
「あなたたちは…そういう湿っぽいことしか見せられないんですか?」
スッと両手を下ろしたイキハの顔からは、完全に感情が抜け落ちていた。
それは彼女が取り調べで証拠を突きつける時のような、ひどく無機質で平坦な目だった。
『何を…言って…』
幻影が困惑したように立ち止まる。
「そりゃ、最初は絶望しましたよ」
イキハは埃まみれの床から立ち上がり、スーツのズボンの膝をパンパンと叩いた。
「どうして自分はこんなに運が悪いのか。なぜあの子の腕を奪った犯人がのうのうとシャバにいられるのか。自分にもっと出来ることはなかったのか。泣きながら後悔した夜なんて多すぎてもう覚えてません」
彼女の声は決して熱を帯びない。
だがその平らな音程の中に込められた純粋な執念は、悪意の塊たる幻影たちすら圧倒するほどの闇を孕んでいた。
「懺悔も後悔も、もう頭がおかしくなるくらいしてきました。あなたたちに今更蒸し返されて苦しむほど、私が弱い人間だと思わないでください」
イキハは腰のホルスターから必中のロジックを引き抜いた。
二丁の重たい金属の手触りが、現実世界の明確な答えを提示してくれる。
「…だから私は刑事になったんですよ。二度と、あんな思いを他の誰かにさせないために。絶対に相手が逃げ切れない檻を作るために」
幻影がぐらりと形を歪ませる。
悲しみと後悔を餌にする精神汚染が、一切の感情を排した圧倒的な執着の前に行き場を失ったのだ。
「それに、あなたたちが読み取った情報はずいぶん古いみたいですね?」
イキハは小さく鼻で笑った。
「あの子はね、腕がダメになったのを理由に腐るようなヤワな子じゃありません。確かに格闘技世界チャンピオンの夢は途絶えたかもしれないけど、今もリハビリしながら前に進み続けてるんです。私がクヨクヨしてたらきっとぶん殴られますよ」
彼女が抱える狂気にも似た『執着』の根源は過去にある。
しかし、彼女は過去を憎むためではなく、現実を変えるための武器としてそれを自身に落とし込んでいるのだ。
もはや
「というわけで、人を驚かせたいのならもっと人を勉強するべきなんだよこの
パンッ!!
銃声がお堂の空気を引き裂いた。
放たれた銃弾は真っ直ぐに幻影のイキハの額を撃ち抜く。
『───!』
物理的にダメージが入る対象ではない。
だが、弾丸が貫通したその瞬間、過去の追体験を作り出していた黒い霧が作る空間そのものが、ひび割れたガラスのように砕け散った。
「さて!」
偽りの視界が剥がれ落ちると、お堂の周囲を囲んでいた黒い靄が波打ちながら襲いかかってきた。
扉を突き破り、無数の唐傘やダルマの形をした怪異がドロドロとした黒い粘液を飛ばしながらなだれ込んでくる。
パァン!パァン!
「ほっ!」
イキハはためらうことなく銃を連射しながら身を低くし、前転でその距離を詰める。
着弾した弾丸は、山の中でモナカ達が遭遇したものと同じく、一瞬の物理的な停止はもたらすものの、すぐに怪異の身体を素通りし何のダメージも与えない。
「やっぱり…普通の銃弾じゃ倒せないよね」
走りながら素早くリロードを終わらせ、イキハは頭を回転させた。
ただひたすらに耐え続けるモナカのようなスタイルではないし、クロエやサザナのような解析、観察による抽出も彼女にはできない。というより理論がよく分かっていない。
そう考えた彼女の脳裏に、いつかの会話が過ぎる。
『イキハ、あなたは感覚で動きすぎです』
『分かるからいいじゃないですか〜、クロエさん細すぎですよ!』
『悪いとは言っていませんよ、ただ…手詰まりの時に手段として覚えておくと良いでしょう』
『何事にも必ず
「見なくちゃ…!」
これまで踏んできた相当な場数と、証拠を集め相手を詰める執着。
イキハを構築するあらゆる要素が、彼女が意識した事によって場の不条理を見抜く鋭い目となった。
「私の事、よそ者だと思って誘ったんでしょ!残念でした!こちとら百鬼夜行で育ってきてんの!」
イキハはスマホのライトを点灯させ、周囲を照らす。
『!!』
イキハに拒絶され動揺しているからなのか、怪異が纏う黒い霧はハッキリとした操り糸となり、積まれた木箱や柱に取り付いているお札へと伸びていた。
「バーカ!丸見えですよ!」
イキハの刑事、そして百鬼夜行に生きるものとしての勘が告げた。
「あんたらには必ず『依代』が存在する!」
直接本体は殴れなくとも、怪奇の根幹にある物体さえ見つけてしまえばいい。
「だから、この依代をぶっ壊すだけ!」
イキハは目の前に迫る怪異を身軽なステップで跳び越えた。
怪異から生えた銃口から弾丸が放たれ、床の板を突き割るが、イキハの姿は既に柱の裏へと回っていた。
パァン!
標的はお札がベタベタに貼られた巨大な壺。
銃弾が命中すると陶器が激しい音を立てて粉砕される。
『────!』
その瞬間、一番大きな唐傘の怪異が苦鳴のような空気を震わせる音を発し、どろりとその姿を崩して黒いシミに変わった。
「当たりィ!珍しく一発で賭けに勝てましたね!」
イキハは満面の笑みを浮かべた。
「お?」
しかし怪異とて伊達ではない。
床に広がっていたシミはすぐに別の陶器に向けて動き出し、新たな怪異として再形成される。
「あー、ウソ、そういう?」
しかしイキハは止まらない。
必中のロジックを構えた腕をクロスし、彼女は口元を大きく歪ませて微笑む。
「なら!全部ぶっ壊すまでェ!」
さっきまでの冷酷な顔はすでにない。今の彼女にあるのは純粋な戦意だけだ。
敵の倒し方さえ分かってしまえば、あとは
「ほらぁ!ほらほら!!」
ここからはイキハの独壇場だった。
何十という怪異から放たれる質量を伴った見えない突撃、全方位からの銃撃。
それは選択を間違えば一気に追い込まれる包囲網だった。
しかし不運の渦中でしか生きられない彼女にとっては慣れ親しんだステージでしかない。
「よいしょ!」
背後に伸びた黒い靄を感覚で察知しては腰を屈め、横からの突撃を柱を蹴って跳躍し空中でかわす。
彼女が放つ弾丸が、怪異と結びついた木札、祭壇の蝋燭立て、そしてカビの生えた古い仏具などを次々に粉砕していく。
「おらっ!害虫駆除!そのカサカサの動き本当にキモい!」
イキハはただ避けるだけでなく、壊れた床材を蹴り上げて依代の掛軸へと直撃させるという力技まで披露し始めた。
彼女自身の弾丸よりも、彼女の引き起こす無茶苦茶な連鎖事故の方がよほど破壊規模が大きい。
ガラガラッ、バキィッ!
彼女の行動は敵も味方も問わずに盤面を荒らし回る台風のようなものだった。
避けた怪異の攻撃がお堂の壁を抜き柱をへし折りと、物理的に建物への多大なダメージを与え続けるため、お互いがお堂の耐久度をどんどん削っていく状態となっていた。
「さぁ!これで終わりにしましょーぉ!」
怪異たちの断末魔のような軋む音が連鎖し、やがて大本であった最も太い注連縄のかかった梁の根本に、イキハの最後の一発が直撃した。
バキバキバキバキィッ!!
激しい轟音とともに、古い屋根を支えていた梁が限界を迎えた。
大量の木材と瓦がお堂の内部に向かって降り注ぐ。
お堂を依代としていた黒い怪異たちは、建物の倒壊とともにその結合先を失い、断末魔をあげる間もなく押し潰され、燻る種火のような細い煙となり霧散した。
「…あれ、終わった?」
周囲を漂っていた重く暗い空気が、ふっと軽くなった。
精神にプレッシャーを与えていた何かが消失したのがはっきりとわかる。
辺りには巻き上げられた砂煙だけが立ち込めており、何も残っていなかった。
「はー終わった……あーなんかすっごい疲れた……ちょっとくらい寝ててもいいよね…」
ふらふらと瓦礫から這い出たイキハ。
彼女は近くにあったベンチへ足を進めると倒れ込み、静かに寝息を立て始めた。
「ぐ〜〜〜…」
─────────
それから少しした頃。
怪異が襲い来る中、石段を必死に登り切ったサザナ、クロエ、モナカ、そして先生の四人が、イキハの信号ロスト地点にたどり着いた。
「イキハの最後の通信情報によれば、この辺りだが───」
「…これは一体何事だ?」
サザナは信じられないものを見るように、倒壊した木造建築を見下ろしていた。
完全に平地になっており、お堂だった面影は無残な柱の残骸からしか窺えない。
「まだ倒壊して新しい…弾痕もある、イキハは一戦交えましたか」
「おーい、誰かいるんスかー」
モナカが重いシールドを下ろし、瓦礫の周囲へ呼びかける。
“あ、いた“
瓦礫から少し外れた境内の端、古い手水舎の屋根のすぐ近くにある石のベンチで。
呑気な寝息を立てている人物を先生は発見した。
「くかーーー」
制服はほこりで汚れ、全身に細かい擦り傷があるものの、怪我を負っているようには見えない。
彼女の足元には割れた陶器や御札の欠片が散らばっていた。
先生がそっと歩み寄り、肩を揺さぶる。
“イキハ“
「んみゅ…あと少しでおにぎりが億超える……って、ハッ!」
“どんな寝言?“
跳ねるように起きた的場イキハは、目をこすりながらぐるりと周囲の四人の姿を確認した。
そして顔をパーッと輝かせた。
「先生!局長!それにクロエさんとモナカちゃんまで!心配して迎えに来てくれたんですか!?」
満面の笑みでバンザイをするその元気な姿に、一同は深く、深く長い安堵の溜息をついた。
「全くお前と言うやつは心配をかけさせておいて…怪我はないのか?」
「大丈夫です!」
「報連相サボって呑気に寝ていたとは、随分といいご身分じゃあないですかぁ」
「お前が言うなバカカラス」
クロエはハサミをポケットに乱雑にしまいながら呆れ声を出し、サザナはそんな彼女の背中を小突く。
二人の顔には、心配が減った安らぎの色が見えた。
「で、イキハさん。ここはアンタが全部やったんスか?」
モナカが木端微塵になった建物を指差して聞く。
「あー」
イキハはちらりと背後の光景を見てから、何事もなかったかのように頭の後ろで両手を組んだ。
「いやー?何にもなかったですよ!気がついたらここが更地になってたってだけです!私の不運でお堂が倒壊したんじゃないですか?」
ニコリと笑いごまかすイキハの横顔には、つい数十分前まで戦いを繰り広げていた様子など一切感じさせなかった。
「…」
「まぁ、いいんじゃないでしょうかね」
「……そうだな」
モナカ以外の全員がその報告に大いに疑問の顔を見せたが、サザナは全員無事であることを考慮しそれ以上の追及はしなかった。
彼女の不幸による大立ち回りの一つに過ぎないのだと片付けた方が楽なこともあるからだ。
「ともあれ一件落着だね。あれだけ山を纏っていた気味の悪い濃霧も、今はすっかり晴れている」
サザナの言う通りだった。
周囲に漂っていた霧が消失し、遠くの山間の稜線からオレンジ色の温かな朝日が差し込んできていた。
ひんやりとした朝の澄んだ風が心地よく、山の木々のシルエットを美しく染めていく。
「しかし参りましたねぇ、せっかくの良い朝だというのに泥まみれの汗だくでさらには徹夜ですよぉ。しかもこんな交通網のない山奥ということは街に出るまで化粧直しすらままならない」
「マジか、クロエさんが化粧気にしてるっス。写真撮ってチドリさんに送らなきゃ」
「あなたの訓練だけ数ヶ月前に戻しますよ」
「ヤッス!」
“あそうだ!“
クロエが背伸びをしながらボヤくと、先生がパンと小さく手を叩いて提案した。
“ちょっと寄りたいところがあるんだけどいいかな?“
「寄りたいところ?」
“うん、とりあえず下山しようか。あんまり長居しても良くなさそうだし“
「それには同意だ。
バキッ!!
サザナのヒールが、地面に転がる陶器をぶち抜く。
それはイキハが
「私達がいる限り、エサを与えてしまうようなものらしい。それを避けることは害虫対策の基本だ」
「厄介な怪異も害虫呼ばわりされてしまえば面目丸潰れっスね」
一行は状況を共有しながら下山を始める。
石段に散らばった依代の残骸を見ながら、クロエは何かを思いついたようにイキハへ視線を向ける。
「イキハは百鬼夜行の出身でしたよね?あの怪異の対処法も分かるんですかぁ?」
イキハは口元に指を添えて少し考え、答えた。
「普通にはまず無理なんじゃないですかね?百花繚乱って治安維持組織があるんですけど、そこのトップの人じゃないとそもそも干渉すらできないとか聞いたことがあります」
「クロエは干渉出来ていなかったか?」
「私は奴らに繋がってる糸を切ってやっただけですよぉ」
「それもそれで普通できないんですけど怖…」
「そういやクロエさんってどこ出身なんスか?」
「…あーこの話はやめにしましょう、ほらさっさと行きましょうね」
強引に話を区切り、クロエはポンポンと身軽に石段を跳ねて降りてゆく。
「…」
誰にも見えないクロエの表情は、様々な感情が混ざっていた。
一行は下山する。
「それで?先生、行きたいところとは?」
太鼓橋を渡ったところで、サザナは先生に向き直る。
“そうそう、ここ先に旅館があるんだけど、そこの川床がすごく有名らしくてね“
「よくご存知ですねぇ」
“知り合いの子から紹介してもらってね“
「女たらしですねぇ」
“言い方“
先生の目線の先。
渓谷の中腹あたりから静かな湯気が立ち上っている施設があった。
早朝のすがすがしい風景の中、流れる透明な水面近くにしつらえられた風流な木造の川床が見える。
“とりあえずあそこで汗と汚れを流させてもらってから、最高の景色の中で美味しい朝ごはんを食べようよ。頑張ってくれたお礼に私が奢るから!“
「「「奢り!?!」」」
イキハ、クロエ、モナカの三人の声が山の頂上に盛大にハモった。
それぞれの瞳から一切の疲労は消え、完全なる貪欲な輝きにすり替わっている。
さすがのサザナもこの三人の無遠慮さに「…少しは礼儀を見せなさい」と苦笑するしかなかったが、その実彼女自身も空き切った腹をどうにかできる高級川床の誘いに少なからず胸を高鳴らせていた。
「さーさー、急がないと日が昇りきっちゃいますよ!クロエさん!モナカちゃん!走る!!」
「押さないでくださいこの不運娘。急がなくても食事は逃げませんから」
「川床で寝るってのも良さそうっスねぇ」
先を行く少女たちの元気な背中を見送りながら、サザナと先生は並んで坂を登り始める。
聳え立つ霊山、渓流にはただ清流のせせらぎと共に、明るい声が麓へと響いていた。
────────
「…」
霊山の山頂。
薄暗い雲に覆われたその場所。
そこには麓を歩く五人を見下ろす影があった。
「ど、どういうことですかぁ…?!手前の『怪談』があんなにあっさり…!!」
包帯を巻いた小柄な身を震わせながら、その影の主───灰色の髪に黒い衣装を纏った少女は地面に手を叩きつける。
「なんなんですかあいつら!『百蓮』が無いと怪異には手の打ちようがないんじゃないんですかぁ?!」
「
悔しさを一切隠すことなく、周囲の『依代』達に当たり散らす中、背後の影からじゃりと砂を踏み潰す音が鳴った。
『シュロや、その子らも頑張ってくれたんだ、あまり当たってはいかんよ』
「こ、コクリコさまぁ…」
影から姿を表したのは、妖艶な雰囲気を漂わせる闇と同じ黒い髪を持つ女性。
コクリコと呼ばれた彼女は、手に持った双眼鏡をゆらゆらと揺らしながら少女───シュロに近付き、優しい手つきで頭を撫でた。
「アレらは我々の風流の外にいる者さね」
「外、ですかぁ?」
「そうさね、あれらは言わば『狂人』」
「風流を理解し得ない者らに、怪談が分かるはずもないだろう?」
「そ…」
その言葉に、潤んでいたシュロの瞳が輝き出す。
「そうですよねぇ!あんな奴らに手前の風流が理解できる筈がないですよねぇ!」
「ふふ、ええ子や」
優しい表情でシュロを撫で、コクリコは踵を返す。
「えへへ…あれ、コクリコさま?どこへ…?」
「我々の目的を忘れちゃいかんよ、先ずはあの場所に赴き、『姫様』と会わないとねぇ」
「…はいっ!コクリコさま!」
元気よく駆け出して暗闇へ消えてゆくシュロを見送り、コクリコは改めて麓を見下ろした。
その視線は、黄色いメッシュの入った黒髪の少女へと向けられている。
「………お外にはあない人もおるんやなぁ」
「まるでシュロの小説に出てきた『光の聖女様』みたいじゃないか」
それはまた、別のお話…
どの話が見たい?
-
クロエ
-
サザナ
-
イキハ
-
モナカ
-
ミラ(鑑識課)
-
レイン(交通安全局長)
-
まだ見ぬオリキャラ
-
既存生徒との関わり