イキリ共が鼻っ柱折られる回
▶SRT特殊学園 第4演習場。
想定されたミッションは『防衛区画の突破および、重要拠点の制圧』
相手役を務めるのは、学園内でも既に頭角を現しつつあったエリート候補生達──七度ユキノを筆頭とする防衛チームだった。
彼女らはまだ小隊は組まされておらず、それぞれのチーム候補者と共に即席の小隊を組んでいる状態である。 …と言うより、CROW小隊が早すぎただけだ。
状況としては、倍近い人数差という圧倒的に不利な状況。 しかし彼女らはそれを受け入れた。余裕だと判断したのだ。
『演習、開始』
スピーカーからの電子音とサイレンと共に、三人の1年生がフィールドへと放たれた。
「アハハッ!一番槍はウチが貰うからね!」
開始の合図と同時、ヒタキが遮蔽物を無視して一直線に飛び出した。 ダンダンと壁や屋根を蹴り、区画を我が物顔で駆け抜ける。
彼女の身体能力は確かにずば抜けていた。
風を切り、障害物を身軽に飛び越え、素早い足取りで前線へと躍り出る。
『ちょっと!まだなんも仕込んでないんだけど?!あんたバカなの!?というかスナイパーでしょあんた下がってなさいよ!!!』
後方で端末を操作していたチドリが、彼女の意味不明な行動に驚き叫ぶ。
本来なら、彼女が敵のセンサー網をハッキングし安全なルートを確保してから前進するはずだった。
「足が遅いハッカーに合わせてたら日が暮れるっての!ウチの射撃で全部黙らせればいいんだろ!」
ヒタキは自身のライフル『
その横で、クロエは呆れたように息を吐いた。
「……まさにサルですね。まあいいでしょう。あれに構っている間に、私は私のロジックで終わらせます」
クロエはチドリのハッキングを待つこともなく、単独で壁沿いの配電盤へと向かった。
彼女の目的は、敵陣の通信網の物理的な分断。
手にしたボルトクリッパーで、防衛区画の主電源とネットワークケーブルを問答無用で切断する。
バチィッ!と火花が散り、演習場の一部が停電した。
「よし。これで奴らの目は 『ちょっとアンタ何してんのよォッ!!』
クロエのイヤホンに、チドリのヒステリックな怒声が響いた。
「は?」
『アタシが今、敵のネットワークにバックドアを作ってたのに!アンタが物理回線を切ったせいでシステムがエラー吐いてこっちが逆探知されたじゃん!!』
「はぁ?システムの掌握に時間がかかる貴女の腕が悪いんでしょう。私の切断は完璧なタイミングでした」
『完璧なわけないでしょ!このバカ!アンタもイキりかよ!このイキリブラック2号!』
『あーもう! 五月蝿いなお前ら!!』
前線で孤立したヒタキが怒鳴り返す。
『いいから任せときなって!引っ込んでな!』
しかし、その時すでに彼女の周囲は、ユキノ率いる防衛チームによって完全に包囲されていた。
チドリのハッキングが失敗し、クロエの独断専行で位置が割れたことで、防衛側は全く労することなく迎撃の陣形を整えていたのだ。
「……あ、あれ?」
「射撃開始」
パパパパパ!!
ユキノの冷徹な号令と共に、四方八方からペイント弾の雨が降り注ぐ。
「ひえーっ?!?!」
いかにヒタキの運動技能が優れていようと、完全に逃げ場を失った状態での十字砲火を凌げるはずもなく。
「ぐっ……あぁクソッ!!」
「ちょっと…!ここまで来て抵抗する気?!あんた本当にバカなの?」
「んだとぉチビのくせに!!」
「オトギ!実弾撃ちなさい!!」
「ひぃぃぃ?!?!」
5分程経過した辺りで彼女の制服が鮮やかな蛍光塗料で染まり、『行動不能』の判定ランプが点灯した。
「あのバカ!クソッ、だから言ったのに……!」
チドリが慌ててドローンを展開しようとするが、そこに防衛側の制圧部隊が雪崩れ込んでくる。
『そこの電源を落とします!今のうちに隠れ──』
「見つけたよ!」
「っ!ニコちゃん…!」
「ごめん、抵抗する!!」
「?!」
クロエが周囲の電気を落としチドリを隠すも、彼女は逃げる間もなく包囲され、訓練用手榴弾による自爆を決行した。
「……チッ。烏合の衆が」
クロエは即座に状況を見切り、単独で暗がりへと身を潜めた。
だが、その行動すらも完全に読まれていた。
彼女の背後に、足音もなく歩み寄る一つの影があった。
「そこまでだ、烏丸」
振り返るより早く、冷たい銃口がクロエの後頭部に突きつけられる。 七度ユキノだった。
「…」
クロエは手に持っていた工具をゆっくりと床に置いた。
開始からわずか十数分。周囲のオペレーターや見学の生徒たちが呆気を取られ、哀れみすら覚えるほどの惨敗だった。
演習終了のブザーが、静まり返った演習場に虚しく響き渡る。
「…お前の計算は、お前一人の中でしか完結していない」
ユキノは銃を下ろし、冷ややかな瞳でクロエを見下ろした。
「個人の技術は確かに高い。だが、他者の動きをノイズとしてしか処理できないのであれば、それは戦術とは呼ばない。ただの独りよがりな『作業』だ」
「…」
「お前たちのような烏合の衆に、SRTの正義を背負う資格はない」
ユキノの言葉は、鋭いナイフのようにクロエの自尊心を切り裂いた。
言い返す言葉が見つからない。自分の完璧なロジックが、ただの『連携不足』という初歩的な原因で瓦解した事実が、重くのしかかる。
一方、フィールドの端では、ペイント弾まみれになったヒタキと拘束されたチドリが、担当教官の前に立たされていた。
「ひどい有様だな」
教官の声には怒りすらなく、ただ氷のような冷淡さだけがあった。
「喜瀬川。お前の電子戦能力は味方の動向すら把握できない程度の技術か?」
「そ、それはこいつらが勝手に動いたから!!」
「味方の不測の事態をカバーし、情報を統制するのが後方の役目だ。お前はただキーボードを叩いていただけに過ぎない。お遊戯なら他所でやれ」
「っ…!」
チドリは唇を噛み締め、俯いた。
「きょ、教官…ですがチドリちゃんも最後まで抵抗していて…」 「お前がするべきことはこいつの稚拙な自爆に巻き込まれた事を反省することだ。吉野」
「…」
教官の冷徹な視線がヒタキに移る。
「何羽。お前はただの動く的だったな」
「……ッ!」
「自分の運動能力に溺れ、状況確認もせず敵陣に突っ込む。実戦であれば、あっという間に捕まり裏社会の闇に消えていただろう。何がしたかったんだ?」
「っ…」
身を乗り出して何かを言おうとしていたヒタキだが、口をパクパクさせるだけで何も言い返せなかった。
自分が一番強いと信じていたプライドが、いとも簡単に叩き折られていた。
「お前たちには才能があるかもしれない。だが、チームとしては凡才どころか素直にお手手を繋げる幼稚園児以下だ。誰一人として『自分の背中を他人に預ける』覚悟がない」
教官はバインダーを閉じ、三人を一瞥した。
「これ以上、貴重な演習時間を無駄にする気はない。次も同じ醜態を晒すなら、CROW小隊の構想は白紙に戻し、お前たちの処分も考える…頭を冷やせ」
教官と防衛チームが立ち去った後、演習場には色とりどりのペイント塗料と、三人の一年生だけが残された。
誰も口を開かない。いつものように相手を罵倒する気力すら湧かなかった。
圧倒的な敗北。自分たちの『才能』が、このSRTというエリートの集団の中では全く通用しなかったという現実。
「…………最悪」
静寂の中、チドリがポツリとこぼした。 その顔には、先程までの生意気な余裕はない。
「……ウチが、的……」
ヒタキも拳を震わせ、床を睨みつけていた。
クロエは手元に置かれたままのボルトクリッパーを拾い上げ、その金属の冷たさを手のひらで確かめた。
(私は、負けた。私のロジックが砕かれた…)
(いや…『私たち』が負けたのか)
自分一人では、何もできない。 互いを認め合わない限り、自分たちは何にも劣る。 その残酷な事実を突きつけられたこの日が、彼女たちにとっての明確な転機となった。
誰が一番優れているかを競うのではなく。
『誰が一番、他人のために泥を被れるか』を押し付け合う、歪で狂った連携の形へと、三人のカラスが少しずつ変化していくための産声であった。
※SRTの教官うんぬんの設定は独自設定です。
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