▶D.U.地区 第14商業エリア
ショッピングモール『D.U.モールドタウン14』(建造中)
ジリリリリリ!!!!!
”な、何これ…?!?!”
「おお」
建設中の巨大モール。まだ色々とむき出しのエントランスホールで、烏丸クロエは冷ややかな目を周囲に向けていた。
ジリンジリンリンリンwww!!!!!
「こーれはまた、みにくい現場ですね」
”見にくい?”
「醜い、醜悪の方です」
現場には、けたたましいアラーム音が響き渡っていた。
”すごい数だしすごい音…”
「先生、インカム噛ませますよ」
”おおすごい…聞こえなくなった”
「古いですがノイズキャンセリング機能付きです。少しは話しやすくなるでしょう」
床一面にばら撒かれたのは、数百個にも及ぶ「目覚まし時計」
ジリリリと耳障りなベルの音を立てる時計のどれか一つが、建設中の柱に設置されたC4爆弾の起爆トリガーと連動しているという、極めて悪質な
「サザナ局長たちは住民の避難誘導。モナカは壁……で、爆弾本体の前にいるのは、私と先生だけ」
「うっす、ナチュラルに壁扱いしないで欲しいっす」
クロエの声が聞こえていたのか、後方で盾を構えていたモナカが顔をこちらに向ける。
(なんであいつあれで聞こえているんですかね…)
クロエはそれをガン無視してしゃがみ込み、数ある目覚まし時計の一つを指先で弾いた。
時計の裏には…
『どれが本物か分かるよね?』
という犯人からの挑発的なメモが貼られている。
「残り時間は3分。ミレニアムとかなら、こいつらの周波数をジャミングして強制停止させるんでしょうけど。あいにく刑事局の予算じゃ、そんな機材は買えません」
クロエは立ち上がり、ハサミの刃先を先生に向けた。
「ねぇ先生。どうします?」
”…”
「ひとつずつ分解してたら間に合いませんよ?ここで逃げるのも『賢明な大人の判断』だと思いますけど?」
彼女は試している。
この絶体絶命の状況で、新しい「飼い主」がどう振る舞うのかを。
”いいや”
先生は逃げなかった。
静かに周囲を見回し、数百個の時計の「音」に耳を澄ませる。
そして、クロエに向かって尋ねた。
”クロエには、もう分かっているんじゃないかな?”
クロエの動きがピタリと止まる。
「は?」
先生は気づいていた。
クロエがこの部屋に入ってから、一度も焦った様子を見せていないことを。
彼女は「間に合わない」と言ったが、「解除できない」とは言っていないことを。
「ふふっ、買いかぶりすぎですよ」
クロエはハサミをクルクルと回し、ニヤリと笑った。
「まぁ嘘をついても何もないですし白状しますが、えぇ、分かりますとも」
彼女は鼻先に刃先を当てる。
「匂いですよ」
”匂い?”
「ここにある数百個の時計…そのほとんどは新品のプラスチック臭しかしません。でも、たった一つだけ、安っぽい『ハンダ』と『銅』の臭いがする個体がある」
犯人が改造を加えた痕跡。それは、クロエのような専門家の鼻をごまかせない。
クロエはハサミを構え、無数にある時計の山の中から、迷うことなく1個の赤い目覚まし時計を見つけ出し、刃をコンコンと当てた。
「これです。こいつの中にある送信機を切れば、柱の爆弾も沈黙します」
”なら、切ればいいんじゃ…「いいえ」
そう言おうとした先生の言葉を、クロエが遮った。
「でも、一つ問題がありましてね」
クロエはハサミの刃を、時計のプラスチックカバーに押し当てる。
「この犯人、頭が悪ければ性格も悪いです。時計の内部に『感圧センサー』が入っている」
「もちろん粗悪品なんである程度はなんとかなりますが、私が外装をこじ開けようとカバーに力を込めた瞬間に、センサーが反応してピーってなってドカン!です」
時計が彼女の手の動きに合わせて宙を舞う。
”ピーッてなってドカンなんだよね?!”
その時計でお手玉を始める姿には、さしもの先生も度肝を抜かれていた。
「そして、カバーを開けずに中の配線を切るのはいくら私でも無理です。スキャナがあれば別ですけど、そんな予算は無い!」
「なんて貧乏なヴァルキューレ!だから各校で権力が弱いしナメられるんですよ」
”それ言って大丈夫なの…?”
「まぁそれは置いておいて、今の状況をどう表しますか?」
道具がない。時間もない。手を出せば爆発する。
まさに「詰み」の状況。
「だから言ったでしょう?逃げるのが正解だって」
”…むむ”
先生は時計をじっと見つめ、そしてクロエの手元にあるハサミを見た。
そして、静かに告げた。
”カバーを開ける必要なんて、ないんじゃないかな?”
「エ?」
”そのハサミなら、外側から中枢を貫けるはずだ”
「ハァ?」
クロエが目を見開く。
通常、爆発物処理とは「分解」し「切断」するものだ。
(外から力任せに貫くなんて、爆発のリスクが高すぎるね)
そんな命令を下す指揮官は、SRTにもヴァルキューレにもいなかった。
「…本気ですか?相手は爆弾ですよ?もし中心を外して、センサーが反応したら、私たち初対面で心中ですよ?」
脳裏に、サザナの言葉がよぎる。
──今や猟犬崩れのイカれポンチだが、腕は間違いない。
”信じてるよ。君の
先生の迷いのない瞳。
クロエは数秒間先生と視線を合わせ、そして深いため息をついた。
「……はぁー。バカだとは思ってましたけど、大バカですね。まさか初対面の生徒を2回も口説くとは!」
しかしその口元には、抑えきれない歪んだ笑みが浮かんでいた。
クロエはハサミを逆手に持ち替える。
「いいでしょう!失敗したら、あの世で責任取ってもらいますからね!」
”もちろん!”
ハサミを構えたクロエの瞳孔が収縮する。
照準固定。呼吸停止。
(分解?手順?知ったことか!)
断ち切ればいいのだ。
「そーら……啄んでやりますよぉ!!」
ガッ!!!
目にも止まらぬ早技。
クロエのハサミが、プラスチックカバーの上から目覚まし時計を強引に刺し貫いた。
バリバリとカバーが砕け、刃先が内部の電子基板をピンポイントで破壊する。
感圧センサーが反応するよりも早く、電気が通うよりも鋭く。
一瞬の静寂。
「…」
”…”
時計のアラームは鳴ったまま。
しかし、柱のC4爆弾のステータスランプは消えていた。
「ふぅ〜」
クロエは串刺しになった目覚まし時計を持ち上げ、内部から煙が出ているのを面白そうに眺めた。
「内部回路、破損。センサー反応なし、大成功です」
”見事だったね”
先生が声をかけると、クロエは少し照れくさそうに顔を背けた。
「見事なのは先生の度胸ですよ」
「普通、初対面の生徒に『センサーごと貫け』なんて命令しますか?万が一を考えたら、怖ァ〜くて言えませんよ」
彼女は時計の残骸からハサミを引き抜く。
そこからおにぎりみたいに二つに割ると、基盤をまじまじと眺めていた。
しかし、その意識は先生に向けられている。
(ふぅん…?)
その姿には、彼女がかつて「猟犬」として扱われていた頃には感じられなかった、奇妙な高揚感があった。
この人はマニュアルや保身よりも、私の
私の「牙」を信じて、首輪の鎖を放したのだ。
「あーあ。こんな安物じゃ、ハサミの切れ味が鈍っちゃいます」
クロエはそう愚痴りながら、解除済みの時計を建設現場にあった廃棄資材の山へポイッと放り投げた。
「帰りますよー先生、モナカ〜」
「ウース」
彼女は先生の隣を歩むと、顔だけ向けてニヤついた。
「あ、そうだ。助けてあげたんですし今日のランチくらい奢ってくれますよねぇ?」
”もちろん、何がいい?”
「んんー…そうですねぇ…」
クロエは一瞬考え、やってきた先生の隣に並んで歩き出しながら、歯を剥き出しにしてニカッと笑った。
「冷ッたいやつがいいですね…今日の高陽が治まるくらい、冷たいものがいい」
「爆弾どこやった?」
「…さぁ?」
「さっさと拾ってこい!!!!」「え〜…」
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