Q.ヒタキってどれくらい丈夫なの?
A.こいつSRだし回避型だしデコイ設置EXの設定なので本体はそんなに固くないんすよ(比較モナカ)
【挿絵表示】
異形れんちょが振動なのでワンパンされたわけですね。
こいつら裏方のくせに割と正面戦闘するからちくしょう!
Q.ヒタキのステータスおかしくない?
A.CROW小隊で総合スペックが一番高いのがこいつ
やっぱ怖いスねアビドスは
キャラクター紹介を更新しました!
未だ赤黒く空が染まる戦場。
戦いの余波が時折伝わるオフィスビルのエントランス。
ここでもまた、外に負けないくらいの凄惨な修羅場が繰り広げられていた。
「いやああああ!!血が!血が止まんないよぉ?!」
チドリの悲痛な叫び声が、歪みから解放された空間に響き渡った。
彼女の腕の中には、異形の衝撃波をまともに受けたヒタキが横たわっている。
その傷は肩口から下半身にかけて深く刻まれ、制服はもはや元の色がわからないほどに赤黒く染まりきっていた。
「チドリちゃん!泣いてないで手伝って!ヒタキちゃんの命を繋ぐの!」
FOX小隊のニコが、医療キットを展開しながらチドリを叱咤する。
「わかってる!わかってるけどぉ!こんなのどうすればいいのよ!ねぇニコ、止血これどうすんの!?焼いて塞ぐ?!」
「焼いたら死んじゃうよ?!貸して!私が圧迫するからチドリちゃんは患部を押さえて……っ…!」
(でも…出血量が多すぎる…!こんなのどうすれば…!)
パニックに陥るチドリと、冷静さを欠いて焦るニコ。
二人が血まみれの身体を前に四苦八苦していたその時だった。
「……うるさ、い……!」
かすれきった声が、二人の間に落ちた。
「ヒタキ!?ヒタキ!何?!遺言!?何!?」
「チドリちゃん落ち着いて!まだ生きてるから!ヒタキちゃんも喋らないで!」
「…違うん…だって…!」
だが、ヒタキは血に染まった手をゆっくりと持ち上げ、ニコが持っていた止血帯をパシッと叩いた。
「……ニコちゃん。そこちがう…鏡ある…?」
「え「鏡ィィ!!」あ、あるけど…?!」
「幹部写して…こっち向けて…!歯医者さんみたいに!早く!」
「は、はい!」
彼女の手鏡越しに自分の様子を観察するヒタキ。
「ゼェ、ヒュー、ヒュー……呼吸オーケー…肺は大丈夫…内蔵はわかんね…ぶった切られたわけじゃないからとにかく一時閉鎖……ガーゼありったけ出して…あとはテープも……」
虚ろな目のヒタキが、なぜか急にスイッチが入ったかのように、スラスラと自己分析をし始めた。
「あとチドリ……お前、泣いてないで…うちの医療パックから青いラベルの血液製剤と黄色いバッグだして…………それから直接骨髄針を……」
「ひぃぃぃ!赤い!血が赤いよぉ!!」
「血が赤いのは当たり前だバカ!早くしないとウチがマジで死ぬから!ゲホッ!手ェ動かせゲホォォッッ!!」
「ヒタキちゃん!!?」
「ぎゃぁぁぁぁああ!!!!」
吐いた血が顔にかかったチドリが白目を剥く。
瀕死の重傷者が、最も冷静に自分自身の止血処置を指導している。
そのあまりにもシュールで恐ろしい光景に、ニコはドン引きしていた。
しかしそんな彼女にもヒタキから雷が落とされる。
「……ニコ!ぼんやりしてる暇があるなら手伝って!中から骨髄針出して!位置は指示するから………!!」
「これ?!」
「消毒!!」
「はい!」
「穿刺!」
「え」
「刺してグリグリして!!!」
「ひ、ひぃ…!」
ドスッ!!
「いやぁぁぁぁぁ!!!」
「イッ…うるさいチドリ!!ニコストップ!髄液確認したら固定して製剤パックと切り替え!」
「はいぃ!!」
「チドリ!」
「ひゃいい!!」
二人は血みどろになりながら、ヒタキの指示のもと処理を行ってゆく。
チドリは言うまでもなく、ニコも恐怖半分理解不能半分で泣きそうだった。
「…チドリ!圧迫…甘いッて!もっと体重かけてテープ締めて!骨くらい折れても治るから!」
「わ、わかった!こう!?」
「そう!違う!そこじゃない!痛い痛い痛い!雑!!バカ!」
「どっち?!そんな怒んないでよぉ〜〜!!!」
二人はヒタキの指示に振り回されながらも、応急(?)処置を何とか完了させた。
その直後、彼女は「あとは、よろしくゥ───」と言い残して再び気を失ったのだった。
「ハァ…ハァ…ニコちゃん…もう泣いていいよね…?」
「最初から泣いてたよね?!」
この日の鮮烈なビジュアルと、血みどろのヒタキに怒鳴られ続けた強烈な記憶により、チドリはしばらくの間、ケチャップやリンゴといった『真っ赤なもの』を見るだけで白目を剥いて気絶するトラウマを抱えることになる。*1
そして数日後。
D.U.地区にある総合病院の、静かな個室。
「んー、暇だな」
真っ白なシーツに包まれたベッドの上で、ヒタキは上半身を起こして伸びをした。
「ウッ、いてて…」
彼女の腹部から肩にかけては分厚い包帯が巻かれている。
顔色はまだ若干悪いが、数日前の蒼白な状態が嘘のように血の気が戻っていた。
「…痛いってことは、生きてるんだよなぁ」
ヒタキは生き延びた。
搬送されてきたこの病院の医師は、ヒタキの驚異的な回復力を見て「気持ち悪い程の回復力ですね」と真顔で告げたという。
内臓への致命的な損傷は奇跡的に免れており、キヴォトスの生徒特有のタフさに加え、彼女自身の細胞が凄まじい速度で傷を塞いでいるらしい。
傷跡すらもほとんど残らないだろうという見立てだった。*2
「暇だし寝るか────」
バンッ!
ゆっくり目を閉じ、意識を手放そうとした瞬間、突如として病室のドアが乱暴に開かれた。
「ヒタキッ!!」
「ギャっ?!」
飛び込んできたのは、息を切らしたチドリとクロエだった。
「…クロエ、チドリかぁ、びっくりさせないでよ…てかお見舞いに来てくれたの?なんかお土産ある?」
ヒタキがいつものように、少し生意気な笑みを浮かべて片手を上げた。その姿を見た瞬間。
「うわああああん!ヒタキぃぃぃ!!」
チドリがベッドに飛びつき、ヒタキを抱きしめて号泣し始めた。
「痛い痛い!チドリあんた重…!てかまだ傷塞がってないんだってば!」
「だって、だってあんた!死ぬかと思ったんだからね!スーーッて顔が白くなって!血がドクドク出て……!」
「あーおい!せめて眼鏡取れって壊れるぞ!」
チドリは顔をぐしゃぐしゃにして、ヒタキの胸元に顔を押し付けている。
それをなだめようとするヒタキだったが、ふとドアの前に立ち尽くしているクロエに気づいた。
「小隊長〜、そんなとこに立ってないで、こっち来なよ」
クロエは動かなかった。
彼女の赤く腫れた目は、ヒタキの包帯を見つめたままだった。
「……バカ野郎」
クロエの口から、震える声が漏れた。
「…あんな無茶をして。私の指示も待たずに前に出て」
「死んだら、私が殺してやるって言ったでしょうが…」
「えー?言ったっ……け…………?」
ちゃかそうとしたヒタキだが、クロエの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちている事に気付き口を噤む。
「えっ、ちょ、クロエが泣いてる…」
「えっマジ?」
ヒタキとチドリは目を丸くした。
クロエがここまで感情を露わにして泣く姿など、一度たりとも見たことがなかった。
クロエは袖で乱暴に涙を拭いながら、ベッドの脇まで歩み寄り、ヒタキの頭を両手で軽く乱暴に撫で回した。
「…生きてて、よかったです。本当に」
「……」
「貴女がいなくなったら、誰が私達の狙撃手を務めるんですか…バカヒタキ」
「…あはは。ごめんって」
ヒタキは照れくさそうに笑い、クロエの手を自分の頭に乗せたまま、静かに目を閉じた。
病室にはしばらくの間、三人の静かな声だけが響いていた。
「あーもう!チドリ!リンゴの皮くらい薄く剥けないの?これじゃ実がほとんど残ってないじゃん!」
ヒタキが不満げに口を尖らせる。
その横で丸いパイプ椅子に座ったチドリが、不格好に角張ったリンゴをナイフで削りながら舌打ちをした。
「文句言わないでよ!アタシは気絶しそうなの耐えながら切ってあげてんの!嫌ならクロエに剥いてもらいなさいよ!」
「あー、それは遠慮しとく。リンゴの配線の講釈とかされそうだし」
窓際で壁に背を預けていたクロエは、二人のやり取りに呆れたように鼻を鳴らした。
「なんですかリンゴの配線って、果物の皮剥きと爆弾解体を一緒にしないでください。死にかけたというのになんて元気な患者なんでしょうか」
クロエの言葉は冷たいが、その赤い瞳には安堵の色が濃く滲んでいた。
あの絶望的な赤い空の下で、自らを盾にして二人の命を救ったヒタキ。
彼女が血の海に沈んだ時の感触は、今でもクロエの手に生々しく残っている。
「伊達に逃げ回ってないってことだよ!ウチの身体、危機回避能力が高すぎて細胞レベルで気合入ってるからね!」
「それを自慢げに言う神経が信じられないわ、はいリンゴ」
「うわぁ何これプレーリードッグ?」
「ウサギ!!!!!」
チドリが呆れながら不格好にカットされたリンゴを差し出し、ヒタキがそれを嬉しそうに齧る。
「皮もちょうだいよ、もったいないし」
「向いた意味ないじゃないこのバカ!!」
いつもの、やかましいCROW小隊の日常がそこにあった。
コンコン。
「ん?今日誰か来るっけ」
その時、病室のドアが控えめにノックされた。
医療スタッフかと思いクロエが「どうぞ」と声をかけると、静かにドアが開き、一人の少女が室内に姿を現した。
「失礼します」
「あ」
「ごふっ!!」
その姿を見た瞬間、病室の空気が一変した。
チドリは持っていたナイフを落としそうになり、ヒタキはリンゴを飲み込み損ねてむせ返った。
クロエもまた、壁から背中を離し無意識に姿勢を正していた。
「れ、連邦生徒会長…?」
連邦生徒会長。
キヴォトスの最高権力者である彼女が、護衛も連れずに単身で一介の生徒の病室を訪れたのだ。
「…どうしてこちらに」
クロエが警戒を滲ませて問う。連邦生徒会長は病室の中央まで歩み寄るとヒタキのベッドの前に立ち、そして───
深く、深々と頭を下げた。
「この度は、私の見通しの甘さにより、あなた方に多大な苦痛と危険を強いてしまったこと…心よりお詫び申し上げます」
キヴォトスの頂点に立つ者の、一切の言い訳を排した謝罪。
その光景に、三人は完全に硬直していた。
「え?…?!……あぇ?!い、いや…えっと、あ、頭上げてください!ウチ、全然気にしてないですから!」
ヒタキが慌てて両手を振る。
連邦生徒会長はゆっくりと頭を上げた。その端正な顔立ちには、深い憂いが刻まれていた。
「あなた方にお願いした運搬任務においては、ルート上の安全確保、敵対組織の妨害対策、想定し得る事態には全て手を打ってありました」
「ですが…あの時に現れたものは、私の予測の範疇を完全に超えていた」
連邦生徒会長の言葉に、クロエは眉をひそめた。
あの赤い空。顔のない異形。空間をねじ曲げる力。
「あの化け物は、一体なんだったんですか」
クロエの問いに、連邦生徒会長は目を伏せた。
「…ちょうど一年前のことです。キヴォトス全域を襲った、大規模な空間異常と未確認の存在による侵攻事件…『未確認群体侵攻事案*3』を覚えていますか?」
クロエとチドリは顔を見合わせた。
「あの事件を境に…このキヴォトスは、私の予測がつかない方向へ進み始めています」
連邦生徒会長の声が、ごく僅かに震えた。
「私たちが知覚できない領域から、この世界を塗り替えようとする『本物の未知』が干渉を始めている。あの時に現れた影も、その一端に過ぎません」
「私は、全てを把握しているつもりでいました。ですが…未知は、私の目の、手の届かない場所で静かに浸食を続けているのです」
連邦生徒会長の瞳に浮かんでいたもの。
それは、自らの無力さに対する焦燥と、計り知れない恐怖だった。
クロエはその目を見て、息を呑んだ。
彼女には、その感情が痛いほどよく分かった。
自分がコントロールできる箱庭の外側からやってくる、圧倒的な『未知』に対する恐怖。
かつて地下室から放り出され、路地裏で世界に怯えていた自分と同じ目を、このキヴォトスで最も気高く力を持つはずの少女がしている。
(…この人も、ただの怯える子供と同じなのか)
クロエの胸の奥に、ほんの少しの同情が湧き上がった。
全てを背負い、完璧超人として振る舞いながらもその実態は未知に怯え、計算の破綻に恐怖している一人の少女。
「…まぁ、終わったことです」
クロエは意図的に、軽い口調で話を遮った。
「私達CROW小隊は、指定された荷物を無事に送り届けました。ヒタキもこうしてピンピンしています、仕事は完遂した。なら、これ以上私たちがどうこう言う理由もありません」
「クロエの言う通りっすよ!」
ヒタキがベッドの上で胸を張る。
「それに医者の先生も気持ち悪いくらいの生命力だって言ってました!傷も痕にはならないって言われたんで!だからウチは全然平気っす!」
「…そうでしたか、それを聞けて安心しました。ですが、何かあればすぐにご連絡を───」
「信じてないよありゃ」
「本当に言われてましたよね」
連邦生徒会長は少しだけ表情を緩めたが、すぐにまた暗い影をその瞳に落とした。
「……ありがとうございます。あなた方の強さに、心から敬意を表します」
そう言って、連邦生徒会長は再び静かに頭を下げた。
「あ───でもぉ、ウチの愛用のライフル、真っ二つになっちゃったんですよねー。お気に入りだったのになー」
「え?」
ヒタキはスリスリと両手をすり合わせながらチラリと連邦生徒会長を見た。
「あのー、これだけ危険な作戦を成功させたんですしぃ…褒賞というかぁ…ボーナスというかぁ…会長様の権力で、ウチのライフル、新調してもらえませんかねぇ?出来たらハイエンドモデルで!」
連邦生徒会長が目をパチクリとさせる。
バチンッ!!
「いっっっだぁ!?」
クロエがヒタキの後頭部を容赦なく引っぱたいた。
「お前は本当にバカですか!キヴォトスのトップ相手に何を強請っているんですか!」
「強請ってないよ!!だって武器ないとウチら仕事できないじゃん!これくらい貰ってもバチ当たんないって!」
「バチとかそういう問題じゃありません!礼儀作法の話をしているんです!!」
「クロエがそれ言うんだ…」
「…ふふっ」
「?!」「ほらあなたが馬鹿な事言っているから笑われてますよ!!」
漫才のような二人のやり取りを見て、連邦生徒会長は思わず吹き出した。
「ははっ…あははっ。ええ、構いませんよ。私の権限で、最新の最も優れたライフルを手配しましょう」
「マジっすか!?言質取りましたよ!録音したチドリ?!」
「もう回してるわよ、サンプルも欲しかったしね」
「お前らいい加減にしなさいよ…」
クロエが頭を抱える。だが、そのやり取りのおかげで、病室を包んでいた重苦しい空気はすっかりと霧散していた。
「お見送りをしますよ」
病室を後にした連邦生徒会長の背中を追い、クロエは病室を抜け出した。
病院の敷地の外れ、一般の目に触れない静かな公園。
木漏れ日が差し込むベンチの近くで、連邦生徒会長は足を止めた。
「ここまでで結構ですよ」
「あぁ、お見送りというのは建前です。渡したい物があったんですよ」
クロエは持参していた黒いアタッシュケースをベンチに置き、ロックを解除した。
納められていたのは、あの異形の結界を打ち破る鍵となった『黄金の杖』。
かつての眩い輝きは失われ、今は力を使い果たしたかのように表面が黒く煤けていた。
「お返しします。これは、私には過ぎた代物です」
クロエが杖を差し出すと、連邦生徒会長はそれを受け取りそっと布で包んだ。
「これについても、謝らないといせませ「結構です。私は過去に興味はありません」……そうですか」
クロエにとって、杖のことは本当にどうでもよかった。
彼女の本題は、もう一つにあった。
「問題は、こちらです」
クロエはアタッシュケースの中から、厚い保護布に包まれた何かを取り出した。
「あの怪物が消滅した際、その場に落ちていました」
クロエが布を解くと、そこには拳大の石が鎮座していた。
色は鈍い深海のような青色。
だが、その内側ではまるで星の瞬きのように、不規則で鋭い光がチカチカと明滅を繰り返している。
ただ見ているだけで、空間が歪むような錯覚を覚える異質な物質。
「SRTの設備だけでなく、あらゆる伝手を使い分析を行いましたが…ただ一つの事実しか特定できませんでした」
クロエは鋭い視線を連邦生徒会長に向ける。
「それは…この石が、エネルギー法則を完全に無視して、無からエネルギー波長を生み出していることだけです」
「意味がわかりません。これ、何なんですか?」
連邦生徒会長はその石を見つめ、静かに息を吐いた。
「…私達はそれを『C結晶』と呼称しています」
「C結晶?」
「はい。例の事件前後からキヴォトス各地で見つかるようになった新物質です。発見される場所は決まって『未知』が出現した位置、あるいは未知の存在の内部から」
連邦生徒会長の言葉に、クロエの眉が跳ね上がった。
「キヴォトス…どころか外部にも、これと似た組成の鉱石は存在しません。そしてあなたの分析通り、この結晶は熱力学第二法則を完全に無視してエネルギーを変換・増幅する性質を持っています」
「あなた、冗談を言われる方だったんですねぇ」
連邦生徒会長は、その青い石を恐ろしい爆弾でも見るような目で見つめた。
「紛れもない事実です」
「…」
「もしも、これが悪意ある者の手に渡り、兵器として転用されれば…キヴォトスの均衡が崩壊しかねない。極めて危険な物質です」
「連邦生徒会では近々、この鉱石に関する大規模規制案を施行する予定です」
クロエは指でハサミを作り、意味もなく開いて閉じてを繰り返す。
二人の視線が交わされ、静かな時間が流れた。
「…何か言いたげですね」
「……あなた方にひとつ、任務をお願いしたいのです」
「その厄介なゴミ拾いを、私たちCROW小隊にやれと言うんでしょう?」
「はい」
連邦生徒会長は、真っ直ぐにクロエを見た。
「あなた方を危険な目に遭わせた上でこのような事を頼むなど、図々しい事この上ないと承知しています。ですが、これは正規の部隊には任せられない。あなたたちだからこそ頼める極秘任務です」
「このC結晶に関する情報を集め、発見次第回収してほしいのです。引き受けてもらえますか?」
クロエはしばらくの間その青い石を見つめ、そして呆れたように息を吐いた。
「随分と、都合よく使ってくれるじゃないですか」
だがクロエはアタッシュケースに結晶をしまい、それを連邦生徒会長に手渡した。
「いいでしょう。私たちの仕事は、キヴォトスのゴミ掃除です。見つけ次第、根こそぎ回収して差し上げますよ」
「とんでもない量を渡されても驚かないでくださいね」
「ありがとうございます。烏丸クロエさん」
連邦生徒会長が再び頭を下げる。
その細い肩を見て、クロエはふと、自分でも意外な言葉を口にしていた。
「……連邦生徒会長」
「はい?」
「貴女、少し背負い過ぎじゃないですか」
「……」
連邦生徒会長は、ハッとしたように目を見開いた。
「失礼は承知の上です、私は性格が悪いのでご容赦ください」
クロエ自身、なぜそんなことを言ったのか分からなかった。ただ、目の前の少女が無理をして重すぎる王冠を被り続けているように見えて、不快だったからかもしれない。
「貴女は全てを一人で計算して、全てを自分の盤面に収めようとする。それは立派なことですけど、不確定なノイズに押し潰された時、一番に取り返しがつかなくなるのは貴女でしょうね」
クロエが思い返していたのは、ヒタキが倒れた直後の自身であった。
自分は怒りに支配され、チドリの言葉も受け入れずただ感情をぶつけようとしていた。
感情は違えど、その姿が今の連邦生徒会長に重なって見えたのだ。
「分からないことは分からないと、他人に任せてみるという手もあると思いますよ?そうすれば、案外別の誰かが違う解法を持ってきたりするもんです」
クロエはチドリやユキノの顔を思い浮かべながら、自嘲気味に言った。
連邦生徒会長は、クロエの言葉にしばらく呆然としていたが…やがて、これまでに見たことがないほど、柔らかく、そしてどこか寂しげな笑顔を浮かべた。
「…そうですね。私にはあなたたちのような信頼関係が、少し眩しく見えます」
風が木々を揺らし、公園の落ち葉が舞い上がった。
連邦生徒会長は、空を見上げて静かに目を閉じた。
「…もし、私が間違えてしまった時は」
その声は、風に溶けて消え入りそうだった。
「その時は、どうか。あなたたちのような方々が、私の計算を超えて、正しい未来を切り開いてくれることを願っています」
「…」
彼女がクロエに向けたのは、これまでに見たこともないような明るい笑顔。
しかし発された言葉はまるで、別れの挨拶のような響きを持っていた。
「…あの」
クロエが何かを言い返そうとした時、連邦生徒会長はすでに背を向け、静かに歩き出していた。
その背中を呼び止める理由を、クロエは持ち合わせていなかった。
「…変な人ですね」
クロエはポケットの中のハサミに触れながら、足早に病院へと戻っていった。
それから、一年の月日が流れた。
大きな山場を乗り越え、CROW小隊の絆はより強固になり、SRTの中でも異端にして最強の部隊として完成しつつあった。
だが、あの日の公園で連邦生徒会長が残した言葉の意味を、クロエが本当の意味で理解する日は、唐突に訪れた。
『連邦生徒会長、失踪』
シャーレという新たな機関の設立と、外部からの権限者『先生』の着任を目前に控えた日。
キヴォトスの頂点に立っていた少女は、一切の痕跡を残さず、忽然と姿を消したのである。
それは、SRT特殊学園の解体を意味し、FOX小隊の暴走を招き、そしてクロエたちCROW小隊が「野良犬」としてキヴォトスに放り出される合図でもあった。
連邦生徒会長がいなくなった世界で烏丸クロエは、自らの手で未来を断ち切るための新たな戦いに身を投じることとなる。
新しい猟犬の居場所と、あの日の約束の答えを探すために。
だがそれはもっと先の話。
次の物語は二年生として順調に成果を挙げる彼女らの話に進む。
それは、W.D.Aとの因縁の始まりの物語。
この世界…なんか変…
次回「兆候」
どの話が見たい?
-
クロエ
-
サザナ
-
イキハ
-
モナカ
-
ミラ(鑑識課)
-
レイン(交通安全局長)
-
まだ見ぬオリキャラ
-
既存生徒との関わり