その頃───
▶ショッピングモール建設予定地・裏手の路地
「あーもー!なんでいつも私がパシられるんですか!」
的場イキハは、自販機コーナーの前で頭を抱えていた。
「モナカにやらせなさいよ!あいつの方が後輩なんだから!!」
「というか!!」
避難誘導も終わり、爆弾処理現場の緊張感から解放された気分で待機していたイキハ。
そこを喉が乾いたらしい局長に目をつけられ、パシリもとい買い出しを頼まれていた。
「500円玉入れたのに!ジュースもお釣りも出ない!呑まれた!? これ経費じゃない私のお小遣いなのに?!」
そしてたった今、イキハの「不運」が遺憾なく発揮されていた。
怒った彼女は、ヤケクソで自販機の前面を「えいっ!」と蹴り飛ばした。
ガンッ!
ガコンッ!!
しかし自販機からではなく、自販機の「裏の隙間」から、何かがぶつかる音がした。
「いたぁっ!!」
「えっ?」
イキハが恐る恐る自販機の裏を覗き込むと、そこには薄汚い作業着を着たロボットが、ノートパソコンを抱えてうずくまっていた。
パソコンの画面には、先程のエントランスホールの監視カメラ映像。
───先生とクロエが爆弾を無効化した瞬間が映っている。
「…」
そしてそのパソコンが繋がれている先は…自販機。
「ち、ちくしょう!予備起爆装置が反応しねぇ!なんで
イキハに自販機越しに蹴られた事にも気付かず、自身の自信作がクロエによって潰された事に困惑していた。
「…ん?」
男が悪態をつきながら顔を上げると、そこには缶ジュースを買えずにキレていた警察学校の生徒と目が合った。
「「…」」
沈黙が1秒。
イキハの目は、自販機に繋がれたコードに向けられていた。
「なっ?!」
ようやく状況を把握した男が、慌てて懐から銃を取り出そうとする。
「け、警察か!?どうしてここが!」
「!!!!!」
しかし、イキハの方が動きは早かった。
彼女にとって、この程度の「巻き込まれ」は日常である。
「あああああ!私の500円玉泥棒ーーーーッ!!」
「なんの事だァーーーーッ!?!」
イキハは条件反射で愛用の拳銃を抜き、発砲した。
弾丸は男の銃を弾き飛ばし、その勢いで男は自販機裏から飛び出す。
「そのパソコンで自販機を操作していたんですねオラーーーッ!!!」
「なんのこ…ぐえーっ!!」
ドゴォ!!
立ち上がろうとしたその懐にスッと飛び込んだイキハは、ショルダータックルで突き飛ばす。
小柄な見た目にそぐわないとんでもない威力のタックルで吹っ飛ばされた相手は、ギャグみたいな勢いでゴミ捨て場に突っ込み、カラスよけのネットでぐるぐる巻きになった。
「ハっ…ハッ………あ、あれ?これ、もしかして犯人?」
イキハは捕獲されたロボットの持っていたノートパソコンを見て、ぽかんと口を開けた。
「いえーい!いつものー!」
晴れた空にイキハのピースサインが掲げられる。
──的場イキハ、人呼んで『イキハも歩けば事件に当たる』
そして座右の銘は『怪我の功名』───
「…で、私の500円は?」
「しらねーよ!!」
取調記録:1233-B-1
担当者:ヴァルキューレ警察学校 3年 潮凪サザナ
容疑者:爆破物専門業者 従業員
▶ヴァルキューレ警察学校・護送車内
「離せ!」
犯人のロボットは手錠を掛けられ、護送車の固いシートに座らされていた。
向かいには優雅に脚を組み、イキハに買わせてきた缶のお茶を飲んでいる黒髪の少女─刑事局長、潮凪サザナが座している。
「さて、爆弾魔『爆弾兄弟』の三男か…余罪多数、そして今回の現行犯…まぁ逃れられないよね」
サザナは細い目を三日月のように細め、穏やかに話しかける。
「しかしまぁ…君は実に『賑やかな』ことが好きなようだね。わざわざ目覚まし時計を数百個も鳴らして、ショッピングモールの建設を大幅に遅延させた」
「あのまま爆弾が爆発していたら、周囲にも大きな被害が出ていただろう」
「う、うるせぇ!俺は芸術家だ!音と爆発のアートを…!」
男が虚勢を張る。
サザナは、「ふむ」と一つ頷き、傍らに置いてあったダンボール箱に手を伸ばした。
中に入っているのは、クロエによって穴を開けられヒラキにされスクラップとなった「時計」だ。
「クロエはこれを『安物』と言ったが、私は君を評価しているよ」
サザナが箱から、時計を取り出す。
発煙した影響か中身の回路は溶けきっており、黒焦げになっている。
「他にも沢山…あれだけの数の時計を用意し、時間を合わせ、一つ一つ丁寧に配置した。凄まじい労力と情熱だ」
彼女の言葉に、俯き気味だったロボットは顔を上げる。
彼の目には、優しく部品を撫でる『仏』の姿があった。
「は、ははっ!分かるか!?さすが『仏』は話が分か──」
ガシャァン!
「ひぃっ?!」
サザナは唐突に、その壊れた時計を男の足元に投げつけた。
砕け散るそれを見た男は、悲鳴を上げて足を引っ込める。
「──だからこそ、許せない」
サザナが開眼する。車内の温度が氷点下まで下がったかのような錯覚。
彼女の背後には、凍えるような暗い深海の幻影が見える。
「その情熱を、なぜもっと建設的なことに使わなかった?その緻密さを、なぜ人を喜ばせることに使わなかった?」
「君が積み上げた
「ひぃっ…!」
サザナは男の襟首を掴み、顔を近づけた。
「署に着くまで30分。その間、君の人生がどれほど『時間の無駄』だったか、たっぷりと反省会をしようじゃないか」
「い、いやだ……べ、弁護士……」
「ここには私と、運転席の
サザナが再び穏やかな「仏の顔」に戻る。
「さあ、始めようか。まずは幼少期から振り返ってみよう」
「いやだぁぁぁぁぁぁ!!」
護送車の中から、犯人の懺悔の叫びが響き渡る。
それはサイレンの音に紛れ、哀れなノイズとなってキヴォトスの空に消えていった。
後日。
「はァい先生!これ、今回の事件の始末書……じゃなくて、解決報告書です!」
イキハがシャーレのオフィスにやってきた。
元気そうにぴょんぴょん跳ねる度、彼女のベストのポケットからチャラチャラと小銭の音が聞こえてくる。
「あの後、署に戻って自販機の管理会社に連絡したら、犯人が隠してた爆弾まで見つかって、局長からジュース3本と商品券貰っちゃいました!ラッキー!」
「犯人は局長に詰められて、これまでの余罪全部ゲロったみたいですし結果オーライですね!」
イキハは報告書をデスクの上に置くと、嬉しそうにジュースを先生に差し出した。
「これ、私からのお礼です!先生があの現場で、逃げずに頑張ってくれたおかげで、私の500円が増えたようなもんですから!」
「また何かあったら呼んでくださいね!あ!でもできれば、ご飯食べてる時は避けてもらえると嬉しいです!」
そう言って、イキハは次の現場へと、風のように走っていった。
彼女が去った後のオフィスで、先生は…
”あの後?自販機?犯人?”
そういえば事件の顛末知らなかったな…と頭を傾げるのであった。
ピコンッ…
”ん?”
携帯が鳴っている。
取り出すと、サザナからモモトークが届いていた。
『やぁ先生、先日ぶり。イキハから報告書は受け取ったかな?』
『良ければ私からも説明したい。どこかで時間を貰えると有難いのだが…』
”…”
そう言われると、先生は動かざるを得ない。
”すぐ行くよ”とだけ返し、先生はシャーレの部室ビルを飛び出した。
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