烏丸クロエの切断論理   作:四条の利

6 / 25

SRTって全校生徒何人くらいなんだろう…


局長面談(1)

 

面談記録:1011-S-1

担当者:ヴァルキューレ警察学校 3年 潮凪サザナ

対象者:シャーレ ■■先生

 

▶ヴァルキューレ公安局 第1校舎4階 第1取調室

 

薄暗い取調室。

普段は犯罪者が冷や汗を流すその席で、先生は湯呑みを手にしていた。

 

「おかわりはいるかい?」

 

向かいに座る潮凪サザナは、いつもの穏やかな「仏の顔」で急須から琥珀色のお茶を注ぎ足した。

 

「ふふ、窮屈かい?すまないね、オフィスの方だと他の子たちが騒がしくて、込み入った話ができないくてね」

”前にも来たことがあるから大丈夫だよ”

「お?前科持ちだったか」”違うよ!?”

 

サザナは音もなく茶器を置くと、自身のワイシャツの袖をゆっくりと捲り上げた。

たくましく、僅かに傷跡が残った腕撓骨筋が露になる。

 

それはきっと、歴戦の証なのだろう。

 

「さて、クロエとの『初仕事』見事な指揮だったと聞いているよ」

 

デスクの上に置かれた書類に目を通しながら、サザナは話を始める。

 

手元にあるのはどうやら、先生に渡された報告書と同じものようだ。

先日の事件が恐ろしいほど細やかに、かなり独特な跳ね字で記録されている。

 

「───と言った流れで、犯人は逮捕、そこから芋づる式に仲間も何人か捕らえられた」

”イキハって言うんだあの子”

「あいつ自己紹介していかなかったのか?」

 

報告書の内容から話は逸れ、刑事局やヴァルキューレ全体の話へと移ってゆく。

 

そして話が一段落した頃、サザナは唐突に呟いた。

 

「それにしても…強引に中心を貫く、か。実に面白い解決策だ」

”あの時はそれしか思い浮かばなかったんだ”

「そうかい」

 

先生が苦笑して頷く。

話題は、先日のショッピングモールでの一件に移る。

 

”クロエは、試す事が好きなの?”

「…まぁ、あながち間違いではない。現場ではやめろと再三言ってはいるんだけどね」

 

サザナの瞳が意味深げに細められる。

彼女の片手に握られたペンは、書類の上で円を描いていた。

 

”あの時、もし私が判断を下せなかったら、クロエはどうしていたと思う?”

「…」

 

先生の問いに、サザナの手が一瞬止まった。

彼女は細めた目を開きはしなかったが、室内の空気がほんの少し重くなったのを感じる。

 

”…”

 

周囲の酸素を奪われ、深海に引きずり込まれるような感覚。

犯罪者ではない(余罪あり)のだが、先生は何とも言えない不安に襲われる。

 

「…どうやらあんたは、彼女を理解しようとしてくれているようで助かるよ」

 

サザナは机の上で手を組み、静かに答えた。

 

「結論から言おう」

 

「先生が命令しなくとも、彼女は『刺していた』よ」

 

サザナは確信を持って断言した。

 

「あの状況で爆発を阻止する手段は、あれしかなかった。クロエは腐っても元SRTのエリート、それも小隊長を任せられる実力者だ。とっくのとうに解法は見えていただろうさ」

 

「だからこそ」

 

サザナが声を潜める。

 

「あそこで沈黙していたら、あるいは『逃げよう』と言っていたら…あいつはあんたに失望し、一人で嘲笑いながら時計を貫いていたろう」

 

サザナは悲しげに湯呑みの縁をなぞった。

 

「あいつは『猟犬』だと、この間に紹介したよな?」

 

「あいつはずっと、自分を『道具』として扱われることを嫌い、『猟犬』として鎖を握られる事を選んできた。だが、今や同時に心のどこかで『道具として割り切って暴れる方が楽だ』という諦めも抱えている」

 

”クロエの事、よく見てるんだね”

「ん?いや、あいつとはまだ短い付き合いだ…だがね」

 

彼女の細められた目が、歪む。

愉悦、享楽、嘲り、あらゆる負と歪みの感情が込められた瞼と、その奥に見える空洞のような青い瞳。

 

「私は刑事。事件を()()()()()()()()犯人と対話をする事が役割だ」

 

彼女は報告書の余白に、いくつかの動物の顔を描き、一つづつバツをつけてゆく。

 

「同じような奴らを何人も見てきた、クロエと同じSRTだった奴らもそうだ。鎖を手放され(行先を失い)、見つけられず、どうしようもなくなった。出会ったすぐにあいつも同じだと分かったよ」

 

そして、カラスの絵にペンを向けた所でサザナは手を止める。

 

「一応言っておくが『無責任な世界に失望した』という動機で事件を起こしてしまう者は…」

 

「あんたがいた『外』とは違う、死や深い憎しみや絶望とは程遠い世界(ある意味で退屈な世界)だからこそ、あんたが思う以上に存在する」

”…”

「誰も責任を取ってくれない。だから彼女は自嘲と共にハサミを振るう『道具でもいいじゃないか』と自分で自分を偽り、蔑みながらね」

 

サザナが顔を上げる。

その瞳がうっすらと開かれ、先生を射抜いた。

 

「だがあんたは違った。あんたは命令を下した」

「『責任は私が取る。だから思う存分やれ』と、彼女の(リード)を手放してやった」

 

サザナは再び、柔和な仏の微笑みに戻った。

それは、部下の成長を喜ぶ保護者のようでもあった。

 

「ふふふ、クロエがあんなに楽しそうに仕事をしたのは、初めて見た。感謝するよ先生」

 

サザナは茶を啜り、最後にこう付け加えた。

 

「だから先生、これからもあいつの手綱をしっかり握っていてくれ」

「あいつは忠犬だが…寂しがり屋で、おまけにプライドの高い飼い犬だ。一度信頼した主人が目を離すと、すぐに拗ねて『試し行動』をし始める」

 

「今回みたいにね」

”その時は、どうにかしてみせるよ”

 

「フフ、流石だな。まぁ、もし先生が手に負えなくなったら…」

 

ダンッ!

 

サザナがわざとらしく机を叩き、照明がジジッ…と明滅した。

 

「この私が責任を持って、二人まとめて『取調べ』フルコースに招待してあげるから。安心するといい」

 

暗闇の中、局長の深い愛情が籠もった冗談が、取調室に響いた。

 

 





CROW小隊は裏工作メインで行動する小隊であり、クロエはその小隊長として多くの事件解決のサポートをこなしていました。
当然他の小隊とは繋がりがあるようで───

どの話が見たい?

  • クロエ
  • サザナ
  • イキハ
  • モナカ
  • ミラ(鑑識課)
  • レイン(交通安全局長)
  • まだ見ぬオリキャラ
  • 既存生徒との関わり
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。