P3コラボに備えて石を用意する賢明な候補者、しきょーかいと申します。
助けてください、龍門幣がありません。
深夜。
一人の感染者が苦難の道を外れ、一時の暇を得た。
俺にできることは何も無いはずだった。いつも通りの夜でもある。
しかし……今回は違った。
「どうしたんだ?アーミヤ。」
「あっ……リアン、さん。」
既に死んだ者に拘るこの子はまだ幼く、しかし強く賢かった。
周囲の者は優しい、無邪気な子だと思っているだろうが……その目に宿る慈悲は、あまりにも優しくて直視できないほどだ。
指令が死んでいて良かったと、心の底から思う。
都市の意志は残酷で、優しさの芽を摘み取るよう俺に指示していただろうから。
そして俺も、従って彼女を壊していただろう。
「お前はもう寝る時間だろう、アーミヤ。ケルシーに叱られてしまうぞ。」
「…………そうですね……。」
「———ふむ。」
影から見守る影が二つ。このまま俺が放っておいたとしても、問題はない。
膝をつき、目線をできる限り合わせて提案した。
「アーミヤ。お前が良ければ、眠るまで本を読み聞かせてやろう。テレジアが話さない終わりまで。」
「……本当ですか?」
「あぁ。眠ることができるくらいの、優しい結末を話してやろう。」
膝をついても尚、俺よりも小さな体。
興味半分、不安半分の表情を浮かべて見上げるアーミヤへ、笑顔を浮かべる。
手を差し出して立ち上がらせる。
「疲れているだろう、抱えたほうがいいか?」
「大丈夫です、私も成長してるんですから。」
「そうか。」
手を引いて、いつも読み聞かせに使っている部屋へと歩を進める。
歩幅を合わせて歩いていると、次第にふらつき始めた。
ゆっくりと瞼が落ち、開いて、また落ちる。元々ゆっくりだった移動は、更に速度が落ちる。
「抱えていいか?」
「……はい。」
「目を閉じていい、お前はまだ子どもだからな。」
「……。」
抱きかかえ、持ち上げる。
右腕を下にして。左手で落ちないように、かつ規則的なリズムで背中を優しく叩く。
ピンと立っていた耳は下を向き始める。静かな寝息が聞こえ始めた。
「ドクター。あとは頼んだ。」
「あぁ、すまない、リアン。」
「問題ない。子供の世話をするのは三回目だからな。」
「……意外だな。だが、さっきのやり取りを見ていると納得もできる。」
腕の中にいるアーミヤをドクターへと渡す。
深くは踏み入らず、こちらもまた追い詰めることがない。
付かず離れず、ドクターと俺はその絶妙な関係で成り立っていた。
「では。」
「ああ。」
軽い挨拶を交わして別れる。再び一人になった。
不思議と眠れない夜は、歩いて気を紛らわせる。
そのうち疲れて眠りに就く事もあれば、同じような相手と巡り合って夜を明かすこともある。
相手はいなくなった。
「……。」
夜はまだ明けない。
===
「リアンさん、今日は最後まで聞かせてもらいます。」
「……もう夜だが、大丈夫か?」
「はい。ケルシー先生にも許可をもらいましたから!」
数日後、再び訪れた眠れない夜に来客が現れた。
小さな来客は前回と比べ元気で、今度は手を引かれる側に回ってしまう。
棚に沢山の本が収められている部屋に入り、期待した目でこちらを見るアーミヤ。
彼女が望んだ一冊の本を取り出した。
「むかしむかし、大きな大きな砂漠に立ち向かう、布で作られた小人がいた。小人は誓った。いつかこの砂漠を抜け、伝説に語られる希望の平原を見つけるんだ……と。」
「テレジアさんは、いつも結末まで話してくれません――—なぜでしょうか……。」
「それはな、砂漠には恐ろしい物事がたくさんあるからだ。お前が聞いたら本当に眠れなくなる。」
「私、怖くありません!それにテレジアさんのお話なら、きっと素敵な結末が待ってるはずですから。」
「……それはどうだろうな。」
「え?」
「なんでもないさ、続きを読もう。」
テレジアは優しい。
だが、理想の結末のために必要のないもの、障害を切り捨てる非情さも持ち合わせている。
彼女は本当にアーミヤの望む結末を与えられるだろうか?
「砂漠は広く、夜の寒さは想像を超えて小人を凍てつかせた。しかし、小人は諦めない。なぜなら砂漠を越えた向こうには……『希望の平原』があるからだ。」
「希望の平原……どんな場所でしょうか。」
「きっと誰しもが笑って、痛みに苦しむことがない場所だろうな。」
アーミヤに読み聞かせる前に、先の結末を読む。
そこでは立ちふさがる苦難として黒い影が描かれていた。小人は針と糸でできた槍で戦う。
さて、この先はどうなっただろうか。
影を打倒した小人は自らが絶望と悲しみにまみれ、新たな影となったのだったか。
はたまた、影に心を折られて旅をやめ、希望とは遠くとも静かに暮す道へ戻るのか。
本を閉じた。
「リアンさん…?」
「……進み続ける小人に、黒ずくめの影が立ち塞がった。絶望と悲しみのこだまである影は、希望の平原に辿り着いてほしくなかったんだな。」
「なぜですか?」
「希望が広がれば、絶望は消えてなくなる。影は消えたくなかったんだ。だが……」
本を閉じた俺に、疑問を抱きつつ答えてくれるアーミヤにどう伝えようかと考える。
俺もテレジアと変わりない。指令を恨みつつ、しかし感謝もしていた自分が、いい結末を作れるのか。
いや、作る気は最初からなかった。
「だが……?」
「影は気付いたんだ。小人もまた、自分たちと同じだと。だから素直に道を譲ったんだ。」
「……同じ、ですか?」
「あぁ。人形は希望を求めて旅をしていた。だが、影もまた希望を求めて旅をしていたんだ。砂漠を越えた先にあった結末によって、絶望して影になってしまっただけでな。」
「じゃあ、小人さんも……。」
無理をしていたのか、眠そうにして応えるアーミヤに続けて読み聞かせた。
「互いに道は同じなら、先に進むものが道を譲るのは不思議じゃない。そして小人は砂漠を越えた。」
「!」
「しかし、行く手は大きな川に塞がれていた。一体どれだけ広いのかも朧げだが……向こう岸が見えないことだけは確かだろうな。」
「希望の平原はきっとこの向こうにある。布の小人はそう思ったが、近くに船はなく、勿論木の葉一枚すら落ちていない。」
「どうすればいいのか……知恵を絞って考えた小人は、泳いで渡れるか試してみることにしたんだ。」
「……でも、小人さんは、布で…………。」
既に意識が夢の中に沈みつつあるアーミヤ。
このままでは最後まで聞き届けることは叶わないだろう。
だが、起こすこともせず読み聞かせるのが正解だと思った。
これまでと同じように、結末は取っておくべきだと。
「あぁ、布でできた小人は水に濡れれば体が重くなる。最後には川に沈むだろう。だが、ここで諦めたら今までの冒険が全て無駄になってしまうから、 布の小人は水の中に飛び込んだ。」
「押し寄せる川の水は冷たく、塩辛くて、まるで海のようであることに気付いた。……この大地にはかつて希望の平原を目指した小人が沢山いたんだろう。彼らは皆、結局は失敗したのさ。」
「そんな彼らの涙が集まって、この波が生まれたんだ。布の小人は理解した、かつてその夢を諦めて涙を流した人が、海を生み出すことができるほどいたということを。」
「すぅ……すぅ……」
「———布の小人が泳ぎ続けると、段々と自分の体に涙がしみ込んできているように感じた。向こう岸なんて本当に存在するのか?そう考えてしまう。……影たちの言葉は正しかったのかもしれないな。」
「その場所が『希望の平原』と呼ばれているのは、誰もそこまで辿り着けないからじゃないのか。」
「一つの真実でもあり、見方を変えれば虚偽でもある結末へと人形は辿り着いた。」
指令は俺に絶望を与えた、憎んでも許されるだろう。
だが、絶望を見せるためだとしても、束の間の幻影だとしても、確かに幸福を与えていた。
指令を否定することは、これまでの俺を否定することに繋がる。
小人も俺と同じだろう。希望に向かうという役割を背負っただけの、誰でもない存在。
「……
「しかし不公平に抗い、前に進む者たちは確かにいる。」
眠りについたアーミヤの頭を撫でた。
頭の上についた耳は、重力に従って下を向いている。
「いつか俺を引き上げてくれ。」
直に、夜は明けるだろう。
それまでに氷が溶けるかは、誰にも分からない。
狂気はあります。
ガチャチケもあります。
パス代もあります。
かかってこいや(強気)