過酷な例の方です。
上裸の利刃で笑った。
暗闇の中で、目を閉じる。
瞼の裏には暗黒だけがある。そう思えている、信じている人は幸せだろう。
瞬く間に生まれて消える光が見える者は幸せなのだ。
僕は目の閃光の代わりに、赤色のカーペットが、悪夢が見える。
少ない良い記憶を消し去り、悪夢だけを残したのにもかかわらず目を閉じるのは何故だろうか。
自分の渡す指令によって苦しむ人を見ないため?正しい。
自分の渡す指令によって願いが砕かれる人を見ないため?正しい。
自分の渡す指令によって涙を流して憤る人を見ないため?正しい。
自分の渡す指令によって死ぬ人を見ないため?……それもきっと、正しい。
結局、悪夢のような現在と、悪夢と化した過去を比べ、過去のほうがマシだと判断しただけだった。
その先には自由意志のない世界。僕は自ら悪夢の中に身を投げたのだろう。
もし生きることに意味を見出すのなら、さっさと命を断つべきだった。
指令が残酷なのは、指令を織る都市が残酷だから。
都市が残酷なのは、都市に住む人間が残酷だから。
腑に落ちた。目の前のことから目を逸らし続けた僕が残酷でないと、誰が言えるだろう。
自らの意志と都市の意志。一致した時、大華を咲かせるわけではない。
……。
この悪夢の中で、抗う人たちを最後に見れて良かったと思う。
僕じゃなかった。生きていけなかった。元々、都市に向いていなかったのだろう。
「ははは…。」
乾いた笑いが漏れた。
…?
待て、笑った?笑うことすら出来ない体になったというのに、笑うという行為ですら、指令がなければ出来ないような僕が、笑った?
体を包む、暗黒が晴れていく。
瞼越しに輝く光は暖かくて、どこか冷たくて…。
自分の意志で、目を開けた。
===
ザァ———。
雨が降っていた。
「あ、目が覚めた〜。心配したんだよ〜?」
「くっ…グローリア?」
目の前には光ではなく、鈍色の金属があったんだ。
聞き覚えのある声の主の名を呼んだ子供は、再び目を閉じて顔を顰めたの。
辺りには息も絶え絶えな野生動物たちが転がっていて、グローリアと呼ばれた代行者が手に持つ5つの剣はどれも血にまみれていたからかな?
「なぜ、僕を助けたんです?」
その言葉に、代行者は義体の頭をかしげたんだ。
煙を吹き出しながら考えるその姿は、この密林の中では異質だろうね。
「ん〜?裏切ったのは確かだけど〜…ヤンを殺せっていう指令は出てないし〜。」
「…そうですか。」
答えを聞いた子供は、更に顔を顰めたんだ。
どこに行っても指令、指令…人差し指として異質な考えを持ったこの子からすると、仕方がないことかもね。
巨大な剣を杖代わりにして立ち上がった子供は、白いマントについた泥も払わずに背を向けたの。
「それと〜…ヤンのこと嫌いじゃないからかな?」
「……。」
初めて振り返った子供は、もう一度だけ目を開けて、すぐに閉じた。
代行者に、真珠色の瞳はどう映ったのかな?
歩を進めて、血と泥の水たまりを歩いて行く子供を代行者は追いかけたんだ。
「ちょっと待ってよ〜。一人でどこ行くの〜?」
「……。」
「アテがないの?一緒だね〜。お腹が空くかもしれないし〜、動物たちのお肉は貰っていったほうが良いと思うよ〜?」
子供は代行者に一切の返事をせず、動物の死体を掻き分けて木々の中へと向かった。
代行者の方が正しいのは明らかだろうね。この先何が起こるかわからない以上…用意して損はないだろうから。
「ヤ〜ン、待ってよ〜。怒ってるの? 一人は危ないよ〜。」
「…。」
バシャ、バシャ。
強く踏み出した一歩で、跳ねた血泥が白いマントを彩る。
雨が止む気配はない。でも、洗い落とすほどの強さじゃないんだ。
滲んでいく雨と、血泥のついた子供は酷くみすぼらしく見えるだろうね。
「…はぁ。」
密林の中に入る一歩手前。子供は大きなため息をついたの。
そのまま進めば、大きな体の代行者は木々をなぎ倒しながら進むことになる。
そうなれば子供を見失うことになるだろうし、見失えば二度と会うことはないでしょうね。
指令との繋がりを絶ちたいのなら進むべきで、だから返事もしなかったんだ。
でも…。
「……一緒に行きますか?グローリア代行者。」
「…! もちろんだよ、ヤン伝令!」
あえて階級を付けて呼んだ子供に、どんな心情の変化があったのかな?
代行者の義体に付けられた、一つの目は喜びを表していたんだ。
急いで子供の下に向かって、一緒に密林を掻き分けて進む姿は本当に異様な光景だけれど…。
まぁ、こういうのも悪くないんじゃないか「見ていますね。」
ばさり。
真っ暗になっちゃった。
最後に見えた、鎖の巻き付いた大きな手は…。
あぁ…うん。
この先が見れないのが、惜しいと思ったかな。
===
「ヤン? どうしたの?」
「…なんでもありませんよ、グローリア。」
虚空へと手を振るい、干渉を断つ。
彼女に見られていないようで良かったと、心の中でホッと息を吐く。
ジャラ。
鎖の音が響く。
この鎖は僕と指令を結びつけるもの。
断ち切れていない以上、都市と繋がっている僕はいずれ都市へと戻るのだろう。
再び絶望し、指令に従って生きるのか。自由意志を取り戻すため、自死を選ぶのか。
悪夢を楽しむ方法は人それぞれであり、教えられた所で実践できる人は少数だろう。
悪夢を楽しむため、更なる悪夢を見ることになるかもしれない。
幸福な思い出は悪夢に飲まれて消えるのが道理であり、悪夢だけが残るのが都市だ。
答えは出ない。それでも。
一つずつ歩いていこう、答えを見つけるために。
「結局アテはあるの〜?」
「ありませんよ。ここが何処かも分かりませんし。」
「———オイオイなんだこれ!? これ、お前達が全部やったのか?」
……ワニの尾のようなものを生やした少女と出会った時には、驚きで足を止めてしまったが。
友「ソシャゲの掛け持ちは禁忌、肝が座るようになったな。」
俺「…。」
友「エンフィをやれと言ったが…禁忌を無視し、騒ぎを起こせとは言っていない。」
白紙のレポートを手渡される。
数学、物理、化学…どれも来週の金曜までだ。
それをそっと、裏向きにして机の上に置いた。
俺「判断が早ければ、必ず取りこぼすものがある。
俺は他のソシャゲとエンドフィールド、どちらも逃したくはないのだよ。」
その間にもエンドフィールドのダウンロードは進んでいく。
調律者も、足爪も来る気配はない。
俺「ダウンロードが終わったな。不是不報、時候未到。」
友「…。」
俺「じゃ、早速やr「理性を消費してからやれ」ウィッス。」