ティーパーティーに潜む、忠実な駒   作:KuRoNia

112 / 112
嫌いにならないで

 翌朝、黒夜はいつもより少し早く目を覚ました。

 

 特に身体に異常はない。

 頭痛も、吐き気も、倦怠感もない。

 先生とプレ先から聞いていた通り、薬そのものに毒性はないらしい。

 黒夜は身支度を整え、シャーレへ向かう準備をする。

 

 先生とプレ先には、翌朝必ず来るように言われていた。

 昨日の結果を報告しなければならない。

 

 部屋の方を見ると、昨夜遅くまで好き放題対戦ゲームをしていたテラー達の痕跡が残っていた。テーブルの上に置かれた空のカップ、少しずれたクッション、なぜか綺麗に整えられたゲーム機周辺。

 

 ナギサ*テラー達は、朝方にはいつの間にかいなくなっていた。

 黒夜は軽く片付けながら、苦笑する。

 

「……本当に、自由な方々ですね」

 

 それでも、テラー達には薬が効かなかった。

 先生とプレ先が危惧していた事態にはならなかった。

 

 黒夜は鞄を手に取り、家を出た。

 

 その頃。

 

 トリニティでは、紅茶のカップが床に落ちる寸前で止まっていた。

 ナギサは震える手でカップを持ったまま、昨日の記憶を思い出していた。

 

 黒夜がテラスに来た。

 いつものように礼儀正しく、穏やかに入ってきた。

 

 それに対して、自分は何と言った。

 

 今は貴方と話す気分ではありません。

 貴方にそう呼ばれるのも不快です。

 お引き取りください。

 

 確かに自分の声で、黒夜に向かって言った。

 その瞬間、ナギサの喉が凍りつく。

 

「……私、は」

 

 隣で、ミカが真っ青になっていた。

 

 彼女は両手で自分の口を押さえている。

 昨日、自分が黒夜へ言った言葉を、思い出してしまったからだ。

 

 私の傍に来ないで。

 ゲヘナ風情が。

 

 あの言葉を、黒夜に向けた。

 

 黒夜は怒らなかった。

 傷ついた顔も見せなかった。

 

 ただ、少しだけ安心したように笑って去っていった。

 ミカの目から、ぼろりと涙が落ちた。

 

「ちが……違う……」

 

 声が震える。

 

「違うの、黒夜……違う、私、そんなこと思ってない……!」

 

 セイアは、椅子に座ったまま動けなかった。

 昨日の自分の声が、耳の奥で何度も響く。

 

 君と同じ空気を吸っているだけで、少し気分が悪い。

 

 自分は、それをよりにもよって黒夜に言ってしまった。

 黒夜は静かに受け止め、笑っていた。

 

 その笑顔が、セイアの脳裏から離れない。

 あれは何だったのか。

 

 昨日の自分には、不思議なほど黒夜への嫌悪感があった。

 今思えば明らかに異常だった。

 けれど記憶は残っている。自分が言った言葉も、黒夜が去っていった顔も、全部。

 

 あの笑顔は、どう見ても安心の笑みではなかった。

 少なくとも、セイアにはそう見えなかった。

 

 傷ついたのに、隠した顔。

 もう自分には期待していないと、諦めた顔。

 拒絶されることを受け入れてしまった顔。

 

 セイアは静かに立ち上がった。

 

「今すぐ…黒夜の所に行こう」

 

 ナギサも、ミカも、同時に顔を上げる。

 言葉はいらなかった。

 三人は、ほとんど駆け出すようにテラスを出た。

 

 同じ頃、ゲヘナでも混乱が起きていた。

 万魔殿の会議室で、マコトは机を叩いたまま固まっていた。

 

 昨日、自分は黒夜に言った。

 貴様に構っている暇などない。

 

 黒夜は笑っていた。

 皆さん、お仕事頑張ってください。

 そう言って、頭を下げて出ていった。

 

 マコトの手が震える。

 

「……馬鹿な」

 

 声が掠れた。

 

「私は……私は、黒夜に一体何を……?」

 

 サツキも顔色が悪かった。

 

 昨日の自分は、黒夜に近づかないでほしいと言った。

 いつもの様に黒夜ちゃん、と呼びもせずただ拒絶した。

 

 その時の黒夜の笑顔が頭に残っている。

 

 いつもの困ったような笑み。

 けれど昨日のそれは、まるで「そう言われても仕方ない」と受け入れてしまっているように見えた。

 

「……黒夜ちゃん」

 

 サツキは口元を押さえた。

 イブキは、今にも泣き出しそうだった。

 

「私……黒夜先輩に、酷い事言っちゃった……」

 

 チアキは普段の軽さを消して、低く呟く。

 

「これ、普通じゃないよね」

 

 イロハも目を伏せる。

 

「普通じゃないです。昨日の私たちは明らかにおかしかった」

 

「だが、記憶はある!」

 

 マコトは叫んだ。

 

「私が言ったのだ! 私が、黒夜に……!」

 

 その声は怒鳴り声だったが、怒りではなかった。

 

 恐怖に近かった。

 

 ヒナもまた、風紀委員会の執務室で静かに凍り付いていた。

 

 用がないなら帰って。

 貴方の顔を見ると気分が悪くなる。

 気味が悪い。

 

 何を笑っているの、と自分は問い詰めた。

 黒夜は、何でもないと答えた。

 ヒナはその笑顔を思い出して、拳を握りしめる。

 

「何が、何でもないのよ……」

 

 あの顔は、何でもない顔ではなかった。

 少なくとも、今のヒナにはそう思えてしまう。

 

 黒夜はいつも、無理をする。

 傷ついても大丈夫だと言う。

 消えようとしても、誰かのためだと言う。

 

 その黒夜が、拒絶されて笑っていた。

 そんなものを、平気だと受け取れるわけがなかった。

 

 カヨコもまた、便利屋68の事務所で端末を握っていた。

 

 昨日の自分の言葉。

 

 近くに来ないで。

 理由はわからないけど、一緒に居たくない。

 本当に無理。

 

 カヨコは、奥歯を噛んだ。

 

「……違うでしょ」

 

 怒ってよかった。

 聞き返してよかった。

 どうしたんですか、と言ってよかった。

 

 なのに黒夜は、何も言わずに引いた。

 

 いつものように。

 

 自分が傷つく場所から、一人で静かに離れる時のように。

 

「……なんで…どうして私は…!?」

 

 泣きそうになりながらもカヨコは立ち上がった。

 

 アリウスでも、朝は静かではなかった。

 サオリは、昨日黒夜を追い返した記憶を思い出していた。

 

 ここにお前を入れる理由はない。

 今日は帰れ。

 

 その言葉を、黒夜に向けた。

 

 アツコは、膝の上で手を握りしめていた。

 

 サッちゃんたちに近付かないで。

 気持ち悪い。

 

 その記憶が蘇った瞬間、アツコは息ができなくなった。

 

 分かりました。今日は帰りますね。

 皆さん、お身体に気をつけて。

 

 そう言って去っていった。

 

 あの笑顔が、優しさに見えなかった。

 許しにも見えなかった。

 自分達から離れることを、当然のように受け入れた顔に見えた。

 

「……違う」

 

 アツコの目から、涙が落ちた。

 

「違うの、黒夜……」

 

 ヒヨリも泣きそうな顔で震えている。

 

「わ、私……黒夜さんに、嫌って……嫌だって……」

 

 ミサキは顔を伏せていた。

 

「……行こう」

 

 サオリが低く言う。

 

「謝らなければならない」

 

 アツコは泣きながら力なく頷くしか出来なかった。

 

 ミレニアムでも、リオとヒマリは異変を自覚していた。

 

 リオは昨日、黒夜を不要だと言った。

 

 貴方に割く時間はない。

 貴方の存在は、今の作業に不要よ。

 

 ヒマリも、不快だと言った。

 

 リオは端末を握りしめる。

 

「……異常な外部干渉があったと考えるべきね」

 

 理性的に分析しようとした。

 けれど声が震えている。

 

 ヒマリは、いつもの自称を言わなかった。

 

「黒夜さんに、確認しましょう」

 

「そうね」

 

「……そして、謝らなければなりません」

 

 ヒマリの声は、ひどく小さかった。

 

 その頃、黒夜はシャーレに到着していた。

 先生とプレ先は、すでに待っていた。

 先生は黒夜を見るなり、立ち上がる。

 

「黒夜!大丈夫だった!?」

 

「おはようございます、お二人とも」

 

「体調はどうだい?」

 

「問題ありません。薬の効果も切れたようです」

 

 黒夜は穏やかに答えた。

 

 先生は、その表情を見て少しだけ眉を寄せる。

 

「昨日は……どうだった?」

 

「効果はありました」

 

 黒夜は素直に報告する。

 

「皆さん、私をはっきり拒絶していました。かなり強い言葉もありましたので、薬の効果は十分に発揮されていたと思います」

 

 先生は、苦しそうに目を伏せた。

 

「黒夜、それをそんなふうに……」

 

「おかげで私の思い過ごしと確認できました」

 

 黒夜は少しだけ笑った。

 

「私の神秘は、やはり消えているようです。本当によかった…」

 

 プレ先は黙って黒夜を見ていた。

 その目が、わずかに痛むように細められる。

 

「君は、本当に安心したんだね」

 

「ええ」

 

「大丈夫なのかい?」

 

「薬の影響だと分かっていましたから」

 

 黒夜は自然に答えた。

 

「皆さんの本心ではないと理解していましたし、むしろ神秘の影響ではないと分かって安心しました」

 

 先生が何かを言おうとした、その時だった。

 

 シャーレの入口が開く音がした。

 最初に飛び込んできたのは、ミカだった。

 

「黒夜!!」

 

 黒夜が振り返る前に、ミカは駆け寄ってきた。

 そして、黒夜の前で急停止する。

 触れていいのか分からない、というように手が震えていた。

 

「ミカ様?」

 

「ごめん……ごめん、黒夜……!」

 

 ミカの目から涙が溢れる。

 

「違うの、違うの! 私、あんなこと思ってない! ゲヘナだからとか、そんなのもう関係ないの! 黒夜のこと、そんなふうに思ってない! お願い、信じて……!」

 

 黒夜は少し驚いたように目を瞬かせた。

 

「ミカ様。昨日のことでしたら、薬の影響ですので――」

 

「でも言ったの!」

 

 ミカは叫ぶ。

 

「私が言ったの! 黒夜に、あんなこと……!」

 

 ナギサとセイアも到着した。

 

 ナギサは息を乱しながらも、黒夜の前で深く頭を下げる。

 

「黒夜さん……申し訳、ありません……」

 

「ナギサ様」

 

「私は、貴方に不快だと……貴方の呼び方すら嫌だと……」

 

 声が震えていた。

 

「違います。違うのです。あれは私の本心ではありません。どうか……どうか、あの言葉を信じないでください」

 

 セイアは、黒夜を見つめたまま静かに言った。

 

「私は昨日、君を傷つけた…」

 

「いえ、薬の影響ですから」

 

「そうでも、私の記憶には残っている」

 

 セイアの目が揺れる。

 

「君が笑って去っていった顔も、覚えているんだ…」

 

 その言葉に、黒夜は少し首を傾げた。

 

「笑っていましたか?」

 

「笑っていたよ」

 

 セイアの声が、ひどく苦しそうになる。

 

「諦めたように」

 

「……諦め?」

 

 黒夜は本気で不思議そうだった。

 その後、次々と人が集まってきた。

 

 マコトは扉を開けるなり、黒夜を見る。

 

「黒夜!」

 

「マコト様?どうしたんですか?」

 

「私は……私は、お前に下がれなどと……!」

 

 マコトは拳を握りしめ、目に涙を浮かべていた。

 

「お前は私を尊敬していると言ってくれたのに! 私はそのお前を……!」

 

「マコト様、落ち着いてください。あれは薬の――」

 

「薬だろうが何だろうが、私が言ったのだ!」

 

 サツキは黒夜の前へ来ると、いつものような軽い笑みを浮かべられず、ただ震える声で言った。

 

「黒夜ちゃん……昨日、私、近くに来ないでって言ったわよね?」

 

「ごめんね……ごめん、黒夜ちゃん……」

 

「サツキさん」

 

「嫌いになったわけじゃないの。あんなの、本当に思ってないのよ」

 

 イブキは泣きながら黒夜の服を掴んだ。

 

「黒夜先輩……イブキ、昨日やだって言った……ごめんなさい……」

 

 黒夜は少し困ったように膝をつき、イブキの目線に合わせる。

 

「大丈夫ですよ、イブキさん。薬のせいですから」

 

「でも、黒夜先輩、笑ってた……」

 

「安心していたので」

 

 その一言で、その場の空気が変わった。

 

 安心。

 

 ミカが泣き腫らした目で黒夜を見る。

 

「安心……?」

 

 黒夜は素直に頷いた。

 

「はい。皆さんが薬の効果で私を拒絶してきたということは、私の神秘の影響ではなかったということですから」

 

「私たちに嫌われて、安心したの……?」

 

 ミカの声が震える。

 

「まぁ、言い方は酷いですが、そうですね」

 

 黒夜の答えは、どこまでも穏やかだった。

 それが、全員にとって一番よくなかった。

 

 ヒナが一歩前に出る。

 

「黒夜」

 

「なんですか?」

 

「昨日、私が気味が悪いと言った時も安心したの?」

 

「私の神秘の影響じゃないと分かったので」

 

 ヒナの表情が崩れた。

 

「……そう」

 

 カヨコが低く呟く。

 

「それ、全然大丈夫じゃないよ」

 

「そうでしょうか?」

 

「あたりまえでしょ…」

 

 カヨコは黒夜をまっすぐ見た。

 

「嫌われて安心するくらい、まだ疑ってたってことじゃん」

 

 黒夜は少しだけ沈黙する。

 

 アツコが、涙を浮かべたまま近づいてきた。

 

「気持ち悪いなんて、思ってない」

 

「大丈夫、分かっていますよ」

 

「サッちゃんたちに近付かないでなんて、思って無い…!」

 

「お願いだから嫌いにならないで……」

 

 アツコの声は、小さく震えていた。

 

 黒夜は穏やかに言う。

 

「嫌いになんかなりませんよ」

 

「ほんと?」

 

「はい」

 

「本当に?」

 

「本当です」

 

 アツコは、ようやく黒夜の袖を掴んだ。

 サオリが深く頭を下げる。

 

「黒夜。昨日のこと、すまなかった」

 

「サオリさんも、むしろ飲んだ私が責められるべきでは?」

 

「それでもだ。お前が笑って去っていった顔が、頭から離れない」

 

「……私は、本当に大丈夫だったのですが」

 

 リオが口を開く。

 

「黒夜。貴方は自分が大丈夫かどうかを判断するのが下手よ」

 

「リオさんまで」

 

「神秘が消えているかどうかを確認したかった。それ自体は理解できるわ。でも、方法が醜悪すぎるのよ」

 

 ヒマリも頷く。

 

「目を逸らさないでください、黒夜さん」

 

「貴方は、私たちの好意が神秘によるものではないと確認したかった。ですが、そのために自分が嫌われることを利用しました」

 

「……そうなりますね」

 

「そして、嫌われて安心した」

 

 ヒマリの声が少し震える。

 

「そんな確認方法を選ばれる方が、私たちにとってはよほどつらいです」

 

 黒夜は、言葉を探した。

 

 自分としては、ただ確認したかっただけだった。

 薬の効果だと分かっていたから、傷つかなかった。

 皆の本心ではないと理解していたから、安心できた。

 

 それなのに、目の前の皆は、今にも壊れそうな顔をしている。

 

「……ごめんなさい」

 

 黒夜は静かに頭を下げた。

 

「私の疑念を晴らすために、皆さんを利用してしまいました」

 

「違う!」

 

 ミカが涙声で叫ぶ。

 

「そうじゃない! 黒夜が謝るの、そこじゃない!」

 

「え?」

 

「私たちは……私たちは、神秘なんか関係なく黒夜が大事なの!」

 

 ナギサも声を震わせる。

 

「黒夜さん。貴方の神秘があろうとなかろうと、私たちが貴方を大切に思うことは変わりません」

 

 セイアが静かに続ける。

 

「君が疑うなら、何度でも言う。だが、嫌われることで確かめようとしないでくれ」

 

 ヒナも低く言った。

 

「次にこんなことをしたら、本気で怒るからね」

 

「……今は怒っていないのですか?」

 

「怒ってる」

 

 ヒナは即答した。

 

「でも、それ以上に怖かった」

 

 黒夜はその言葉に、少しだけ目を伏せた。

 

 先生がそっと口を開く。

 

「黒夜。たぶん今回、君が一番怒られるべきところはそこだよ」

 

「そう、ですね…」

 

「自分の神秘を疑ったことじゃない。不安になるのも仕方ない。でも、その確認方法として、自分が嫌われることを選んだこと」

 

 プレ先も静かに言う。

 

「君は、君自身が思うよりも大切にされている。その事実に、もう少し気が付いた方がいいみたいだね」

 

「………二人の言う通りです」

 

 黒夜は皆を見た。

 

 泣いているミカ。

 震えるナギサ。

 静かに痛みを抱えるセイア。

 拳を握るマコト。

 黒夜を抱きしめたそうにしているサツキ。

 涙を拭くイブキ。

 険しい顔のヒナ。

 ため息をつくカヨコ。

 袖を掴んで離さないアツコ。

 頭を下げるサオリ。

 気まずそうなミサキとヒヨリ。

 理性的に見えて目元が赤いリオ。

 いつもの飾った言葉をなくしたヒマリ。

 

 皆、薬のせいだと分かっている。

 それでも、自分が言った言葉を苦しんでいる。

 

 黒夜は、少しだけ困ったように笑った。

 

「……分かりました。次からは、別の方法で確認します」

 

「次があると思ってるの?」

 

 カヨコの声が低かった。

 

「あっ…いえ、ありません!」

 

「よろしい」

 

 その直後、ミカが黒夜に抱きついた。

 

「黒夜のばか……!」

 

「ミカ様」

 

「ばかばかばか! もう絶対あんな真似しないで!」

 

 ナギサも近づき、黒夜の手を取った。

 

「しばらくは、私たちの目の届く範囲にいていただきます」

 

「ナギサ様?」

 

「当然です。黒夜さんがまた自分の価値を疑わないよう、態度で示す必要がありますので」

 

 セイアは静かに頷く。

 

「監視ではない。確認だ」

 

「それは言い方を変えただけでは?」

 

「気のせいだよ」

 

 ヒナも腕を組む。

 

「今日は私たちを一緒に居てもらうわよ」

 

「ですが」

 

「いいわね?」

 

「……了解」

 

 アツコは袖を掴んだまま、ぽつりと言う。

 

「嫌いじゃないよって明日も言うね」

 

「え?」

 

「毎日言う」

 

 黒夜は瞬きをした。

 

「毎日、ですか?」

 

「黒夜が理解するまで何度でも言うから」

 

 サツキが黒夜の反対側から肩に腕を回した。

 

「いいじゃない。黒夜ちゃんが誤解しないように、みんなで分かりやすく構ってあげれば」

 

「サツキさん、それは少し……」

 

 マコトが大きく頷く。

 

「ふん! 当然だ! 黒夜がまだ我らの好意を疑うというなら、疑えないほど示してやればよい!」

 

「マコト様まで」

 

「黒夜! 貴様は私にとって重要な生徒だ! 忘れるな!」

 

「……はい」

 

 リオが端末に何かを入力し始める。

 

「定期的に心理状態の確認も必要ね」

 

「リオさん?」

 

 ヒマリも少し調子を取り戻していた。

 

「この超天才清楚系病弱美少女ハッカーとしても、黒夜さんが妙な薬を飲まないよう新たな監視システムを――」

 

「やめてください」

 

「見守りカメラの様な物ですからお気になさらず」

 

「言い方が変わっただけです」

 

 カヨコが肩をすくめる。

 

「今回は完全に黒夜が悪いでしょ」

 

 黒夜は、周囲を見回した。

 明らかに、以前より距離が近い。

 

 黒夜は静かに呟いた。

 

「……私が大馬鹿者だったんでしょうね」

 

 プレ先が、横で少しだけ笑った。

 

「そうだね。だからこれは、自分で蒔いた種と言う奴だね」

 

 先生も頷く。

 

「ちゃんと受け取ろうね、黒夜」

 

 黒夜は返事に困った。

 

 受け取るには、少し重すぎる気もする。

 けれど、神秘ではない。

 

 皆の意思なのだ。

 

 そう思うと、逃げるわけにもいかなかった。

 

「……努力します」

 

 そう答えると、周囲の圧が少しだけ緩んだ。

 

 けれど、抱きついているミカは離れなかった。

 アツコも袖を離さなかった。

 ナギサも手を握ったままだった。

 

 その日、黒夜は結局、シャーレで一日中見守られることになった。

 

 薬の効果は、確かに切れていた。

 黒夜の神秘も、やはり消えている。

 そのはずだったが黒夜への過保護とスキンシップは、以前より明らかに増えた。

 

 アツコが袖を握ったまま、また言う。

 

「嫌いじゃないよ」

 

「……ありがとうございます」

 

 ミカが抱きついたまま頬を擦り寄せる。

 

「黒夜が悪いんだからね!」

 

「軽率な行動をした昨日の自分を恨んでいます」

 

 ナギサが静かに微笑む。

 

「しばらくは、覚悟してくださいね。黒夜さん」

 

「……その様ですね」

 

 黒夜は困ったように笑った。

 その笑顔を見て、今度は誰も曇らなかった。

 ただ、少しだけ安心したように、彼をさらに強く囲い込んだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

白洲アズサの兄概念(作者:Missan)(原作:ブルーアーカイブ)

アズサが可愛いことに気づいてしまったので書きました。▼


総合評価:707/評価:6.65/連載:7話/更新日時:2026年04月08日(水) 06:35 小説情報

ウチの姉ちゃんと幼馴染、何とは言わんがデカい(作者:himahy)(原作:ブルーアーカイブ)

▼カナタ「姉2人の胸が最高すぎる。」


総合評価:910/評価:6.13/連載:38話/更新日時:2026年05月07日(木) 23:50 小説情報

知らない天井は独房だった。(作者:鋼蛙)(原作:ブルーアーカイブ)

黒いコートを羽織り、銀のリボルバーを携えた青年は気が付くと、神秘に満ちた透き通るような超銃器社会「キヴォトス」…………にある独房にいた。▼多くの謎や苦難の中、彼はシャーレの一員として、先生や生徒達関わりながら、確かな”青春”と”奇跡”を体験していく。▼※宜しければ、活動報告のチェックもお願いします。▼※タグ・あらすじは展開に合わせて変更がある場合があります。…


総合評価:807/評価:6.81/連載:64話/更新日時:2026年05月10日(日) 12:00 小説情報

銃弾が飛び交う学園都市?!んでもって銃の耐性なし?!・・・やってやろうじゃねえかこの野郎!!(作者:オーバジン)(原作:ブルーアーカイブ)

突如としてキヴォトスに来てしまった何も知らない無知無知な男子高校生!ブルーアーカイブをやったことない?!噓だろ!マジかよ!▼何とかお情け程度であった特殊能力を活かして生き残れ!銃弾一発が致命傷だゾ!▼そんな男子高校生が歩むキヴォトスでの笑いあり、涙あり、曇らせあり、恋愛あり、シリアスありの、青春物語です。良ければどうぞ見ていってください。


総合評価:1172/評価:6.95/連載:46話/更新日時:2026年05月19日(火) 22:07 小説情報

シャーレを辞めたいだけなのに…(作者:無名の作者)(原作:ブルーアーカイブ)

シャーレで働くアルバイトの日下部ルイが辞めようとするのを阻止しようとする先生とあわよくば自分のものにしようと目論む生徒たちのお話


総合評価:1586/評価:8.27/連載:3話/更新日時:2026年02月19日(木) 10:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>