翌朝、黒夜はいつもより少し早く目を覚ました。
特に身体に異常はない。
頭痛も、吐き気も、倦怠感もない。
先生とプレ先から聞いていた通り、薬そのものに毒性はないらしい。
黒夜は身支度を整え、シャーレへ向かう準備をする。
先生とプレ先には、翌朝必ず来るように言われていた。
昨日の結果を報告しなければならない。
部屋の方を見ると、昨夜遅くまで好き放題対戦ゲームをしていたテラー達の痕跡が残っていた。テーブルの上に置かれた空のカップ、少しずれたクッション、なぜか綺麗に整えられたゲーム機周辺。
ナギサ*テラー達は、朝方にはいつの間にかいなくなっていた。
黒夜は軽く片付けながら、苦笑する。
「……本当に、自由な方々ですね」
それでも、テラー達には薬が効かなかった。
先生とプレ先が危惧していた事態にはならなかった。
黒夜は鞄を手に取り、家を出た。
その頃。
トリニティでは、紅茶のカップが床に落ちる寸前で止まっていた。
ナギサは震える手でカップを持ったまま、昨日の記憶を思い出していた。
黒夜がテラスに来た。
いつものように礼儀正しく、穏やかに入ってきた。
それに対して、自分は何と言った。
今は貴方と話す気分ではありません。
貴方にそう呼ばれるのも不快です。
お引き取りください。
確かに自分の声で、黒夜に向かって言った。
その瞬間、ナギサの喉が凍りつく。
「……私、は」
隣で、ミカが真っ青になっていた。
彼女は両手で自分の口を押さえている。
昨日、自分が黒夜へ言った言葉を、思い出してしまったからだ。
私の傍に来ないで。
ゲヘナ風情が。
あの言葉を、黒夜に向けた。
黒夜は怒らなかった。
傷ついた顔も見せなかった。
ただ、少しだけ安心したように笑って去っていった。
ミカの目から、ぼろりと涙が落ちた。
「ちが……違う……」
声が震える。
「違うの、黒夜……違う、私、そんなこと思ってない……!」
セイアは、椅子に座ったまま動けなかった。
昨日の自分の声が、耳の奥で何度も響く。
君と同じ空気を吸っているだけで、少し気分が悪い。
自分は、それをよりにもよって黒夜に言ってしまった。
黒夜は静かに受け止め、笑っていた。
その笑顔が、セイアの脳裏から離れない。
あれは何だったのか。
昨日の自分には、不思議なほど黒夜への嫌悪感があった。
今思えば明らかに異常だった。
けれど記憶は残っている。自分が言った言葉も、黒夜が去っていった顔も、全部。
あの笑顔は、どう見ても安心の笑みではなかった。
少なくとも、セイアにはそう見えなかった。
傷ついたのに、隠した顔。
もう自分には期待していないと、諦めた顔。
拒絶されることを受け入れてしまった顔。
セイアは静かに立ち上がった。
「今すぐ…黒夜の所に行こう」
ナギサも、ミカも、同時に顔を上げる。
言葉はいらなかった。
三人は、ほとんど駆け出すようにテラスを出た。
同じ頃、ゲヘナでも混乱が起きていた。
万魔殿の会議室で、マコトは机を叩いたまま固まっていた。
昨日、自分は黒夜に言った。
貴様に構っている暇などない。
黒夜は笑っていた。
皆さん、お仕事頑張ってください。
そう言って、頭を下げて出ていった。
マコトの手が震える。
「……馬鹿な」
声が掠れた。
「私は……私は、黒夜に一体何を……?」
サツキも顔色が悪かった。
昨日の自分は、黒夜に近づかないでほしいと言った。
いつもの様に黒夜ちゃん、と呼びもせずただ拒絶した。
その時の黒夜の笑顔が頭に残っている。
いつもの困ったような笑み。
けれど昨日のそれは、まるで「そう言われても仕方ない」と受け入れてしまっているように見えた。
「……黒夜ちゃん」
サツキは口元を押さえた。
イブキは、今にも泣き出しそうだった。
「私……黒夜先輩に、酷い事言っちゃった……」
チアキは普段の軽さを消して、低く呟く。
「これ、普通じゃないよね」
イロハも目を伏せる。
「普通じゃないです。昨日の私たちは明らかにおかしかった」
「だが、記憶はある!」
マコトは叫んだ。
「私が言ったのだ! 私が、黒夜に……!」
その声は怒鳴り声だったが、怒りではなかった。
恐怖に近かった。
ヒナもまた、風紀委員会の執務室で静かに凍り付いていた。
用がないなら帰って。
貴方の顔を見ると気分が悪くなる。
気味が悪い。
何を笑っているの、と自分は問い詰めた。
黒夜は、何でもないと答えた。
ヒナはその笑顔を思い出して、拳を握りしめる。
「何が、何でもないのよ……」
あの顔は、何でもない顔ではなかった。
少なくとも、今のヒナにはそう思えてしまう。
黒夜はいつも、無理をする。
傷ついても大丈夫だと言う。
消えようとしても、誰かのためだと言う。
その黒夜が、拒絶されて笑っていた。
そんなものを、平気だと受け取れるわけがなかった。
カヨコもまた、便利屋68の事務所で端末を握っていた。
昨日の自分の言葉。
近くに来ないで。
理由はわからないけど、一緒に居たくない。
本当に無理。
カヨコは、奥歯を噛んだ。
「……違うでしょ」
怒ってよかった。
聞き返してよかった。
どうしたんですか、と言ってよかった。
なのに黒夜は、何も言わずに引いた。
いつものように。
自分が傷つく場所から、一人で静かに離れる時のように。
「……なんで…どうして私は…!?」
泣きそうになりながらもカヨコは立ち上がった。
アリウスでも、朝は静かではなかった。
サオリは、昨日黒夜を追い返した記憶を思い出していた。
ここにお前を入れる理由はない。
今日は帰れ。
その言葉を、黒夜に向けた。
アツコは、膝の上で手を握りしめていた。
サッちゃんたちに近付かないで。
気持ち悪い。
その記憶が蘇った瞬間、アツコは息ができなくなった。
分かりました。今日は帰りますね。
皆さん、お身体に気をつけて。
そう言って去っていった。
あの笑顔が、優しさに見えなかった。
許しにも見えなかった。
自分達から離れることを、当然のように受け入れた顔に見えた。
「……違う」
アツコの目から、涙が落ちた。
「違うの、黒夜……」
ヒヨリも泣きそうな顔で震えている。
「わ、私……黒夜さんに、嫌って……嫌だって……」
ミサキは顔を伏せていた。
「……行こう」
サオリが低く言う。
「謝らなければならない」
アツコは泣きながら力なく頷くしか出来なかった。
ミレニアムでも、リオとヒマリは異変を自覚していた。
リオは昨日、黒夜を不要だと言った。
貴方に割く時間はない。
貴方の存在は、今の作業に不要よ。
ヒマリも、不快だと言った。
リオは端末を握りしめる。
「……異常な外部干渉があったと考えるべきね」
理性的に分析しようとした。
けれど声が震えている。
ヒマリは、いつもの自称を言わなかった。
「黒夜さんに、確認しましょう」
「そうね」
「……そして、謝らなければなりません」
ヒマリの声は、ひどく小さかった。
その頃、黒夜はシャーレに到着していた。
先生とプレ先は、すでに待っていた。
先生は黒夜を見るなり、立ち上がる。
「黒夜!大丈夫だった!?」
「おはようございます、お二人とも」
「体調はどうだい?」
「問題ありません。薬の効果も切れたようです」
黒夜は穏やかに答えた。
先生は、その表情を見て少しだけ眉を寄せる。
「昨日は……どうだった?」
「効果はありました」
黒夜は素直に報告する。
「皆さん、私をはっきり拒絶していました。かなり強い言葉もありましたので、薬の効果は十分に発揮されていたと思います」
先生は、苦しそうに目を伏せた。
「黒夜、それをそんなふうに……」
「おかげで私の思い過ごしと確認できました」
黒夜は少しだけ笑った。
「私の神秘は、やはり消えているようです。本当によかった…」
プレ先は黙って黒夜を見ていた。
その目が、わずかに痛むように細められる。
「君は、本当に安心したんだね」
「ええ」
「大丈夫なのかい?」
「薬の影響だと分かっていましたから」
黒夜は自然に答えた。
「皆さんの本心ではないと理解していましたし、むしろ神秘の影響ではないと分かって安心しました」
先生が何かを言おうとした、その時だった。
シャーレの入口が開く音がした。
最初に飛び込んできたのは、ミカだった。
「黒夜!!」
黒夜が振り返る前に、ミカは駆け寄ってきた。
そして、黒夜の前で急停止する。
触れていいのか分からない、というように手が震えていた。
「ミカ様?」
「ごめん……ごめん、黒夜……!」
ミカの目から涙が溢れる。
「違うの、違うの! 私、あんなこと思ってない! ゲヘナだからとか、そんなのもう関係ないの! 黒夜のこと、そんなふうに思ってない! お願い、信じて……!」
黒夜は少し驚いたように目を瞬かせた。
「ミカ様。昨日のことでしたら、薬の影響ですので――」
「でも言ったの!」
ミカは叫ぶ。
「私が言ったの! 黒夜に、あんなこと……!」
ナギサとセイアも到着した。
ナギサは息を乱しながらも、黒夜の前で深く頭を下げる。
「黒夜さん……申し訳、ありません……」
「ナギサ様」
「私は、貴方に不快だと……貴方の呼び方すら嫌だと……」
声が震えていた。
「違います。違うのです。あれは私の本心ではありません。どうか……どうか、あの言葉を信じないでください」
セイアは、黒夜を見つめたまま静かに言った。
「私は昨日、君を傷つけた…」
「いえ、薬の影響ですから」
「そうでも、私の記憶には残っている」
セイアの目が揺れる。
「君が笑って去っていった顔も、覚えているんだ…」
その言葉に、黒夜は少し首を傾げた。
「笑っていましたか?」
「笑っていたよ」
セイアの声が、ひどく苦しそうになる。
「諦めたように」
「……諦め?」
黒夜は本気で不思議そうだった。
その後、次々と人が集まってきた。
マコトは扉を開けるなり、黒夜を見る。
「黒夜!」
「マコト様?どうしたんですか?」
「私は……私は、お前に下がれなどと……!」
マコトは拳を握りしめ、目に涙を浮かべていた。
「お前は私を尊敬していると言ってくれたのに! 私はそのお前を……!」
「マコト様、落ち着いてください。あれは薬の――」
「薬だろうが何だろうが、私が言ったのだ!」
サツキは黒夜の前へ来ると、いつものような軽い笑みを浮かべられず、ただ震える声で言った。
「黒夜ちゃん……昨日、私、近くに来ないでって言ったわよね?」
「ごめんね……ごめん、黒夜ちゃん……」
「サツキさん」
「嫌いになったわけじゃないの。あんなの、本当に思ってないのよ」
イブキは泣きながら黒夜の服を掴んだ。
「黒夜先輩……イブキ、昨日やだって言った……ごめんなさい……」
黒夜は少し困ったように膝をつき、イブキの目線に合わせる。
「大丈夫ですよ、イブキさん。薬のせいですから」
「でも、黒夜先輩、笑ってた……」
「安心していたので」
その一言で、その場の空気が変わった。
安心。
ミカが泣き腫らした目で黒夜を見る。
「安心……?」
黒夜は素直に頷いた。
「はい。皆さんが薬の効果で私を拒絶してきたということは、私の神秘の影響ではなかったということですから」
「私たちに嫌われて、安心したの……?」
ミカの声が震える。
「まぁ、言い方は酷いですが、そうですね」
黒夜の答えは、どこまでも穏やかだった。
それが、全員にとって一番よくなかった。
ヒナが一歩前に出る。
「黒夜」
「なんですか?」
「昨日、私が気味が悪いと言った時も安心したの?」
「私の神秘の影響じゃないと分かったので」
ヒナの表情が崩れた。
「……そう」
カヨコが低く呟く。
「それ、全然大丈夫じゃないよ」
「そうでしょうか?」
「あたりまえでしょ…」
カヨコは黒夜をまっすぐ見た。
「嫌われて安心するくらい、まだ疑ってたってことじゃん」
黒夜は少しだけ沈黙する。
アツコが、涙を浮かべたまま近づいてきた。
「気持ち悪いなんて、思ってない」
「大丈夫、分かっていますよ」
「サッちゃんたちに近付かないでなんて、思って無い…!」
「お願いだから嫌いにならないで……」
アツコの声は、小さく震えていた。
黒夜は穏やかに言う。
「嫌いになんかなりませんよ」
「ほんと?」
「はい」
「本当に?」
「本当です」
アツコは、ようやく黒夜の袖を掴んだ。
サオリが深く頭を下げる。
「黒夜。昨日のこと、すまなかった」
「サオリさんも、むしろ飲んだ私が責められるべきでは?」
「それでもだ。お前が笑って去っていった顔が、頭から離れない」
「……私は、本当に大丈夫だったのですが」
リオが口を開く。
「黒夜。貴方は自分が大丈夫かどうかを判断するのが下手よ」
「リオさんまで」
「神秘が消えているかどうかを確認したかった。それ自体は理解できるわ。でも、方法が醜悪すぎるのよ」
ヒマリも頷く。
「目を逸らさないでください、黒夜さん」
「貴方は、私たちの好意が神秘によるものではないと確認したかった。ですが、そのために自分が嫌われることを利用しました」
「……そうなりますね」
「そして、嫌われて安心した」
ヒマリの声が少し震える。
「そんな確認方法を選ばれる方が、私たちにとってはよほどつらいです」
黒夜は、言葉を探した。
自分としては、ただ確認したかっただけだった。
薬の効果だと分かっていたから、傷つかなかった。
皆の本心ではないと理解していたから、安心できた。
それなのに、目の前の皆は、今にも壊れそうな顔をしている。
「……ごめんなさい」
黒夜は静かに頭を下げた。
「私の疑念を晴らすために、皆さんを利用してしまいました」
「違う!」
ミカが涙声で叫ぶ。
「そうじゃない! 黒夜が謝るの、そこじゃない!」
「え?」
「私たちは……私たちは、神秘なんか関係なく黒夜が大事なの!」
ナギサも声を震わせる。
「黒夜さん。貴方の神秘があろうとなかろうと、私たちが貴方を大切に思うことは変わりません」
セイアが静かに続ける。
「君が疑うなら、何度でも言う。だが、嫌われることで確かめようとしないでくれ」
ヒナも低く言った。
「次にこんなことをしたら、本気で怒るからね」
「……今は怒っていないのですか?」
「怒ってる」
ヒナは即答した。
「でも、それ以上に怖かった」
黒夜はその言葉に、少しだけ目を伏せた。
先生がそっと口を開く。
「黒夜。たぶん今回、君が一番怒られるべきところはそこだよ」
「そう、ですね…」
「自分の神秘を疑ったことじゃない。不安になるのも仕方ない。でも、その確認方法として、自分が嫌われることを選んだこと」
プレ先も静かに言う。
「君は、君自身が思うよりも大切にされている。その事実に、もう少し気が付いた方がいいみたいだね」
「………二人の言う通りです」
黒夜は皆を見た。
泣いているミカ。
震えるナギサ。
静かに痛みを抱えるセイア。
拳を握るマコト。
黒夜を抱きしめたそうにしているサツキ。
涙を拭くイブキ。
険しい顔のヒナ。
ため息をつくカヨコ。
袖を掴んで離さないアツコ。
頭を下げるサオリ。
気まずそうなミサキとヒヨリ。
理性的に見えて目元が赤いリオ。
いつもの飾った言葉をなくしたヒマリ。
皆、薬のせいだと分かっている。
それでも、自分が言った言葉を苦しんでいる。
黒夜は、少しだけ困ったように笑った。
「……分かりました。次からは、別の方法で確認します」
「次があると思ってるの?」
カヨコの声が低かった。
「あっ…いえ、ありません!」
「よろしい」
その直後、ミカが黒夜に抱きついた。
「黒夜のばか……!」
「ミカ様」
「ばかばかばか! もう絶対あんな真似しないで!」
ナギサも近づき、黒夜の手を取った。
「しばらくは、私たちの目の届く範囲にいていただきます」
「ナギサ様?」
「当然です。黒夜さんがまた自分の価値を疑わないよう、態度で示す必要がありますので」
セイアは静かに頷く。
「監視ではない。確認だ」
「それは言い方を変えただけでは?」
「気のせいだよ」
ヒナも腕を組む。
「今日は私たちを一緒に居てもらうわよ」
「ですが」
「いいわね?」
「……了解」
アツコは袖を掴んだまま、ぽつりと言う。
「嫌いじゃないよって明日も言うね」
「え?」
「毎日言う」
黒夜は瞬きをした。
「毎日、ですか?」
「黒夜が理解するまで何度でも言うから」
サツキが黒夜の反対側から肩に腕を回した。
「いいじゃない。黒夜ちゃんが誤解しないように、みんなで分かりやすく構ってあげれば」
「サツキさん、それは少し……」
マコトが大きく頷く。
「ふん! 当然だ! 黒夜がまだ我らの好意を疑うというなら、疑えないほど示してやればよい!」
「マコト様まで」
「黒夜! 貴様は私にとって重要な生徒だ! 忘れるな!」
「……はい」
リオが端末に何かを入力し始める。
「定期的に心理状態の確認も必要ね」
「リオさん?」
ヒマリも少し調子を取り戻していた。
「この超天才清楚系病弱美少女ハッカーとしても、黒夜さんが妙な薬を飲まないよう新たな監視システムを――」
「やめてください」
「見守りカメラの様な物ですからお気になさらず」
「言い方が変わっただけです」
カヨコが肩をすくめる。
「今回は完全に黒夜が悪いでしょ」
黒夜は、周囲を見回した。
明らかに、以前より距離が近い。
黒夜は静かに呟いた。
「……私が大馬鹿者だったんでしょうね」
プレ先が、横で少しだけ笑った。
「そうだね。だからこれは、自分で蒔いた種と言う奴だね」
先生も頷く。
「ちゃんと受け取ろうね、黒夜」
黒夜は返事に困った。
受け取るには、少し重すぎる気もする。
けれど、神秘ではない。
皆の意思なのだ。
そう思うと、逃げるわけにもいかなかった。
「……努力します」
そう答えると、周囲の圧が少しだけ緩んだ。
けれど、抱きついているミカは離れなかった。
アツコも袖を離さなかった。
ナギサも手を握ったままだった。
その日、黒夜は結局、シャーレで一日中見守られることになった。
薬の効果は、確かに切れていた。
黒夜の神秘も、やはり消えている。
そのはずだったが黒夜への過保護とスキンシップは、以前より明らかに増えた。
アツコが袖を握ったまま、また言う。
「嫌いじゃないよ」
「……ありがとうございます」
ミカが抱きついたまま頬を擦り寄せる。
「黒夜が悪いんだからね!」
「軽率な行動をした昨日の自分を恨んでいます」
ナギサが静かに微笑む。
「しばらくは、覚悟してくださいね。黒夜さん」
「……その様ですね」
黒夜は困ったように笑った。
その笑顔を見て、今度は誰も曇らなかった。
ただ、少しだけ安心したように、彼をさらに強く囲い込んだ。