ティーパーティーに潜む、忠実な駒   作:KuRoNia

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黒夜が居なかった世界 ~6~

 その日の朝、黒夜が目を覚ますと、部屋の空気が少しだけ違っていた。

 

 窓の外には、いつもと同じトリニティの朝が広がっている。

 けれど、部屋の中にいる三人の表情だけが、いつもと違っていた。

 

 ナギサ*テラーは窓の外の景色を眺めている。

 ミカ*テラーはソファに座り、珍しく大人しくしている。

 セイア*テラーは窓辺に立ち、指先をじっと見つめていた。

 

 その指先に、淡い光が集まっていた。

 

「……時間ですか?」

 

 黒夜が声をかけると、セイア*テラーは振り返った。

 

『そろそろ元の世界に戻される頃だよ』

 

 ミカ*テラーが小さく息を吐く。

 

『思ったより短かったね。黒夜との旅行、結局できなかったし』

 

「旅行目的ではなかったでしょう」

 

『でも百鬼夜行に行く予定だったじゃん』

 

「行く前にミカ様と出会ってしまいましたからね」

 

 黒夜はそう言って苦笑した。

 だが、その胸の内は軽くなかった。

 戻れる事、それは本来、喜ぶべきことだった。

 

 ナギサ*テラー達も、自分も、元の世界へ帰れる。

 元の世界には、自分を知っている人達がいる。ナギサも、ミカも、セイアも、皆がいる。

 けれど、この世界のナギサとミカを残していくのだと思うと、胸の奥が少しだけ重くなる。

 セイア*テラーはそれを見透かしたように言った。

 

『まだ少し時間はある。けれど、長くはないだろうね』

 

 ナギサ*テラーが黒夜の前に紅茶を置く。

 

『黒夜さん。今日も、あちらへ行くのでしょう?』

 

「はい」

 

『……最後かもしれませんね』

 

「そうですね」

 

 その言葉を口にすると、思った以上に実感があった。

 ミカ*テラーが不満そうに頬を膨らませる。

 

『あの私に変な情を移してない?』

 

「…世界は違えどミカ様ですし、あんなにも苦しんでいるのに――」

 

『分かってるよ。黒夜は壊れそうな人を見たら放っておけないんでしょ』

 

 ミカ*テラーは、少しだけ視線を逸らした。

 

『でも、帰る時はちゃんと傍に居てよ』

 

「もちろんです」

 

 ナギサ*テラーも静かに言う。

 

『黒夜さん。どれほど気にかかっても、ここは私たちの世界ではありません』

 

「分かっています」

 

『本当に?』

 

「……分かっているつもりです」

 

 セイア*テラーが微笑んだ。

 

『ならいい。最後に、君が言いたいことを言っておいで』

 

 黒夜は三人を見た。

 そして、深く頷く。

 

「行ってきます」

 

 テラスには、いつものようにナギサがいた。

 ここ数日、黒夜は彼女の補佐として資料を整理し、紅茶を淹れ、言葉を交わしてきた。

 

 最初の頃の警戒が消えたわけではない。

 だが、完全な不審者として扱われることはなくなっていた。

 ナギサは黒夜を見ると、少しだけ表情を和らげた。

 

「来ましたか、黒夜さん」

 

「おはようございます、ナギサ様」

 

「ええ、今日もいい朝ですね」

 

 短い挨拶。

 それだけでも、最初の日よりはずっと自然だった。

 

 黒夜はいつものように茶器を整え、紅茶を淹れる。

 ナギサはその様子を静かに見ていた。

 

「……不思議ですね」

 

「何がでしょうか?」

 

「貴方は完全に部外者です」

 

 ナギサはカップへ視線を落とす。

 

「この世界のトリニティに所属しているわけでもなく、補習授業部とも、今起きている問題とも関わりがない」

 

「………」

 

「だからこそ、貴方が裏切者であるはずがない」

 

 その声は、少しだけ疲れていた。

 

「貴方と過ごしている時間は……不思議と、不安を忘れていられました」

 

 黒夜は手を止めた。

 ナギサは、どこか恥じるように目を伏せる。

 

「私は、誰かを疑い続けています。疑わなければならないと思っていました。けれど、貴方と話している時だけは、少しだけそのことを忘れられた」

 

「ナギサ様……」

 

「感謝しています」

 

 ナギサは、黒夜を見た。

 

「貴方が来たことが正しいのかどうか、私には分かりません。ですが、少なくとも私は、貴方に救われた時間がありました」

 

 黒夜はすぐには答えられなかった。

 自分は何か大きなことをしたわけではない。

 資料を整理した。紅茶を淹れた。問いを置いた。

 

 それだけだ。

 

 それでも、ナギサにとっては少しだけ息ができる時間になっていたのなら。

 

「……そう言っていただけるなら、来た意味があったのだと思います」

 

 黒夜は静かに答えた。

 そこへ、軽い足音が近づいてきた。

 

「おはよ、ナギちゃん。黒夜くんも」

 

 ミカだった。

 いつものように明るい笑みを浮かべている。

 けれど、黒夜はもう、その笑顔の奥に揺れるものを見逃さなかった。

 

「おはようございます、ミカ様」

 

「うん、おはよ」

 

 ミカはテーブルの近くに腰を下ろす。

 

「今日も黒夜くんの紅茶?」

 

「はい。ミカ様の分も淹れましょうか」

 

「お願いしていい?」

 

「もちろんです」

 

 黒夜はミカの好みに合わせた紅茶を淹れる。

 ミカはそれを受け取り、香りを確かめてから小さく笑った。

 

「やっぱり、黒夜くんの紅茶って不思議。私の好きな味がする」

 

「私の知るミカ様の好みと似ているので」

 

「そうだったね」

 

 ミカはカップを両手で包む。

 しばらく、静かな時間が流れた。

 やがてミカは、何気ない調子を装って言った。

 

「黒夜くんとの会話、とっても楽しかったよ」

 

 黒夜は顔を上げた。

 

「そう言っていただけて、嬉しいです」

 

「ほんとだよ。そっちの私の話とか、ナギちゃんの話とか、セイアちゃんの話とか……聞いてると、なんか変な感じだったけど」

 

 ミカは笑う。

 

「でも、楽しかったのはホント」

 

 その声が、ほんの少しだけ震える。

 

「これからも、居てくれると嬉しいな」

 

 黒夜は答えられなかった。

 

 居られない。

 

 もうすぐ、自分達は帰ってしまう。この世界に残ることはできない。

 それを言わなければならないけれど、言葉が喉で止まる。

 

 その時だった。

 

 テラスの入り口に、三つの影が現れた。

 ナギサとミカが驚いて立ち上がる。

 

「貴女達……」

 

「どうしてここに……?」

 

 だが、三人は二人を見ていなかった。

 ナギサ*テラーは真っ直ぐ黒夜を見る。

 

『黒夜さん』

 

 ミカ*テラーが、少し寂しそうに笑った。

 

『ごめん、思ってたよりもすぐに帰る時間が来ちゃったよ』

 

 彼女の体には、今朝よりも淡い光が集まり始めていた。

 ナギサ*テラーの羽根にも、セイア*テラーの指先にも、同じ光が滲んでいる。

 

 ナギサとミカは息を呑んだ。

 

「帰る……?」

 

 ミカが呟く。

 

 黒夜は立ち上がった。

 

「もう、ですか…」

 

『まだ少し時間はある』

 

 セイア*テラーが黒夜へ近づく。

 

『けれど、あまり長くはないだろう。何か伝えたいことがあるなら、言っておきたまえ』

 

 黒夜は、ナギサとミカを見る。

 二人とも、混乱していた。

 

 突然現れた三人に突然の帰還の知らせ。

 それはつまり、目の前の黒夜がいなくなるという事実。

 その全てが、二人の思考を揺らしているのが分かった。

 

 黒夜は静かに息を吸った。

 

「ナギサ様、ミカ様――」

 

 二人の視線が、黒夜に向く。

 

「私は、この世界でお二人が何を抱えているのか、最後まで分かりませんでした」

 

 黒夜は正直に言った。

 

「私は本当に部外者で、この世界の事情を知りません。何が正しいのかも、何が間違っているのかも、断言できません」

 

 ナギサは唇を結ぶ。

 ミカは、紅茶のカップを握る手に力を込めた。

 

「ですが、そんな私にも分かることがあります」

 

 黒夜は一歩、前へ出る。

 

「ナギサ様とミカ様が、お互いを凄く大事に思っているということです」

 

 ナギサの目が揺れた。

 ミカの顔から、笑みが消える。

 

「それなのに、お二人がすれ違ったまま過ごしているのは、悲しい限りです」

 

 黒夜の声は、穏やかだった。

 けれど、逃げ道を塞ぐような真っ直ぐさがあった。

 

「一度、お互いに腹を割って話してみてはいかがでしょうか?」

 

 テラスに、風が吹いた。

 誰もすぐには答えない。

 

 ナギサは何かを言おうとして、言葉を失った。

 ミカは俯いたまま、肩を震わせている。

 

 黒夜達が帰る。黒夜が残した言葉。

 そして、ここ数日で胸に積もった後悔。

 それらが、ミカの中で限界を超えた。

 

「……私なの」

 

 小さな声だった。

 ナギサがミカを見る。

 

「ミカさん……?」

 

 ミカは俯いたまま、震える声で言った。

 

「私が、ナギちゃんの探しているトリニティの裏切者なの……」

 

 時間が止まった。

 ナギサは何も言えなかった。

 その目が、信じられないというように見開かれる。

 

「……何を」

 

 声がかすれる。

 

「何を、言っているのですか!?」

 

 ミカは顔を上げられない。

 拳を握りしめ、泣くのを堪えるように唇を噛む。

 ナギサはゆっくりと立ち上がった。

 

「ミカさんが……裏切者……?」

 

 その言葉は、ナギサ自身にも信じられないものだった。

 テラー達は、その光景を静かに見ていた。

 誰も口を挟まない。

 

 ただ、ようやく言ったか、という表情を浮かべていた。

 黒夜も黙っていた。

 

 これは、二人の会話だ。

 自分が割って入る場面ではない。

 ナギサは震える息を吸った。

 

「……私は」

 

 その声は、今まで黒夜が聞いたどの声よりも弱かった。

 

「セイアさんが殺されたと知らされた時、次は私だと思いました」

 

 ミカの肩が跳ねる。それでもナギサは続けた。

 

「私は、いつ殺されてもおかしくない。ならば、私が殺された後に残るミカさんを守るために、一人でも多く敵を減らさなければならないと思ったのです」

 

「ナギちゃん……」

 

「裏切者を探していたのは、トリニティのためでもありました。けれど、それだけではありません」

 

 ナギサの声が震える。

 

「私がいなくなった後、ミカさんを危険から遠ざけるためでもあったのです」

 

 ミカの目から、涙が溢れた。

 

「ごめんなさい……」

 

「ごめんなさい、ナギちゃん……私が……私がバカなばっかりに……」

 

 ナギサは動けなかった。

 ミカは涙を拭うこともできず、ただ言葉を吐き出す。

 

「でも……もう私は止まれないの……」

 

「ミカさん」

 

「セイアちゃんを殺してしまった……」

 

 ナギサの顔が、真っ白になった。

 ミカは両手で顔を覆った。

 

「そんな私が、今さら立ち止まったら……セイアちゃんの死は何だったの? 私がやったことは、何だったの? 全部、全部、無駄だったってことになるじゃん……!」

 

 泣き声が混じる。

 

「だから、もう進み続けるしかないの……! 止まったら、私には、何も残らない……!」

 

 ナギサは、ただミカを見つめていた。

 

 裏切者。

 セイアの死。

 ミカの罪。

 

 それらが一気に押し寄せてきて、ナギサの思考を壊していく。

 けれど、その中にもう一つ、別のものがあった。

 

 ミカは、泣いていた。

 今にも壊れそうな顔で、謝っていた。

 

 ミカは敵ではない。

 少なくとも、ナギサの知るミカは、こんな顔で泣く子だった。

 

 黒夜は、そのやり取りを黙って見届けていた。

 胸が痛かった。

 だが、口を挟まなかった。

 

 これは二人が、ようやく腹を割って話し始めた瞬間だったから。

 その時、視界の端で光が強くなった。

 

 テラー達の身体に、光が集まり始めている。

 本格的に時間がない。

 

 セイア*テラーが黒夜の手を握った。

 

 今度は、黒夜が離れないようにするためではない。

 黒夜を連れて帰るために。

 

『そろそろだね』

 

 黒夜はセイア*テラーを見る。

 

「ですが……!」

 

『黒夜』

 

 セイア*テラーは静かに首を横に振った。

 

『ここから先は、彼女達の世界の話だ』

 

 黒夜は唇を噛む。

 

 ナギサとミカは、ようやく話し始めた。

 だが、まだ何も解決していない。

 

 むしろ今、全てが壊れ始めたところかもしれない。

 それでも、帰る時間は来てしまった。

 

 ナギサ*テラーはナギサを、ミカ*テラーはミカを見た。

 

 二人とも、もう冷めた笑みは浮かべていなかった。

 ただ、どこか呆れたような、けれど少しだけ安心したような表情をしている。

 

 ようやく、言ったのですね。

 ようやく、話せたんだね。

 

 セイア*テラーは、黒夜の手を握ったまま、何気ない声で言った。

 

『ようやく腹を割って胸の内を話した二人に、贈り物だよ』

 

 ナギサとミカが、涙に濡れた顔を上げる。

 セイア*テラーは、穏やかに微笑んだ。

 

『この世界の私は、生きてるよ』

 

 世界が、再び止まった。

 ナギサの目が見開かれる。

 ミカは息を呑み、震える唇で言葉にならない声を漏らした。

 

「セイア、ちゃん……?」

 

「生きて……?」

 

 ナギサが立ち上がりかける。

 

「それは、どういう――」

 

『ただ、これ以上の助言はしないよ』

 

 セイア*テラーは、少しだけ意地悪く笑った。

 

『ここから先は、こっちの先生とでも探してくれたまえ』

 

「待ってください!」

 

 ナギサが叫ぶ。

 ミカも手を伸ばす。

 

「待って! セイアちゃんが生きてるって、どういうこと!? ねえ!」

 

 だが、光はもう強くなっていた。

 ナギサ*テラーが黒夜の肩に手を置く。

 

『黒夜さん、帰りましょう』

 

 ミカ*テラーも、もう片方の腕を掴む。

 

『今度は離さないからね』

 

 黒夜は、最後にナギサとミカを見た。

 

 二人は泣いていた。

 崩れかけて、縋るように、こちらを見ていた。

 黒夜は何かを言おうとした。

 けれど、言えることは多くなかった。

 

「どうか、話し続けてください」

 

 それだけだった。

 

「答えがすぐに出なくても、間違えても……どうか、お互いの言葉を聞くことだけは、やめないでください」

 

 ナギサの唇が震えた。

 ミカは涙を流したまま、何度も頷こうとして失敗した。

 黒夜は小さく頭を下げる。

 

「短い間でしたが、お世話になりました」

 

 光が弾けた。視界が白く染まる。

 テラスの景色が遠ざかる。

 最後に見えたのは、ナギサがミカの方へ一歩踏み出す姿だった。

 そして、ミカが逃げずにそこに立っている姿だった。

 

 次に黒夜が目を開けた時、そこは自分の家だった。

 

 見慣れた天井。

 見慣れた家具。

 テーブルの上には、飲みかけの紅茶がそのまま残っている。

 まるで、ほんの数分席を外していただけのようだった。

 

 黒夜は床に膝をつき、少しだけ息を整える。

 隣にはセイア*テラーが反対側にはナギサ*テラーとミカ*テラー。

 四人とも、無事だった。

 

「……戻って、きましたね」

 

 黒夜が呟く。

 ミカ*テラーはすぐに黒夜へ抱きついた。

 

『無事にちゃんと帰って来れたね!』

 

「はい。ありがとうございます」

 

 ナギサ*テラーもほっとしたように息を吐く。

 

『あちらで何日も過ごしたのに、こちらではほとんど時間が経っていないようですね』

 

 セイア*テラーは、テーブルの紅茶を見て頷いた。

 

『世界を越える現象は、時間の流れも少しずれるからね、こういったパターンもあるのだろうさ』

 

 黒夜はしばらく黙っていた。

 戻ってきたけれど、胸の中にはあの世界のテラスが残っている。

 

 泣いていたナギサ。

 泣いていたミカ。

 生きていると告げられたセイア。

 

 あの後、どうなるのかは分からない。

 自分には、もう見届けられない。

 黒夜は静かに目を伏せた。

 

「……あの二人は、大丈夫でしょうか…?」

 

 セイア*テラーは少しだけ考えた。

 

『分からない』

 

「……」

 

『けれど、何も話さないまま進むよりは、ずっといい筈さ』

 

 ナギサ*テラーも頷く。

 

『少なくとも、あの私はミカさんの言葉を聞けましたからね』

 

 ミカ*テラーも、黒夜の肩に額を預けたまま言う。

 

『あの私も、逃げずに言った。なら、前よりはマシだよ』

 

 黒夜は小さく息を吐いた。

 

「そう、ですよね…」

 

 自分は何も解決していない。

 ただ、言葉を置いただけだ。

 

 腹を割って話してみてはどうかと。

 話し続けてほしいと。

 

 それだけ。

 けれど、それが何かのきっかけになったのなら。

 

「……帰ってこられて、よかったです」

 

 黒夜は小さく呟いた。

 その声を聞いて、ナギサ*テラー達は少しだけ表情を和らげた。

 ミカ*テラーが明るく言う。

 

『じゃあさ、今度こそ百鬼夜行行こうよ! 美味しいもの食べに!』

 

「今からですか?」

 

『だって旅行できなかったじゃん!』

 

 ナギサ*テラーが微笑む。

 

『その前に、黒夜さんには休んでいただきたいところですが』

 

『えー!?』

 

 セイア*テラーは肩をすくめる。

 

『まずは紅茶を淹れ直そう。話はそれからだ』

 

 黒夜は三人を見た。

 いつもの三人だった。

 笑い合い、軽口を叩き、黒夜の家を当然のように占拠している三人。

 その光景に、胸が少しだけ温かくなる。

 

「……分かりました」

 

 黒夜は立ち上がる。

 

「では、紅茶を淹れ直しますか」

 

『やった』

 

『お願いします』

 

『ありがとう、黒夜』

 

 黒夜はキッチンへ向かう。

 その途中で、ふと窓の外を見た。

 ここは、自分の世界だ。

 

 ナギサがいて、ミカがいて、セイアがいる。

 テラー達もいて、皆が自分を知っている世界。

 

 自分のいない世界を見たからこそ、今いる場所の重みが少しだけ分かった気がした。

 あの世界の二人が、どうかこれからも話し続けられますように。

 そう願いながら、黒夜は湯を沸かした。

 

 紅茶の香りが、部屋に広がっていく。

 それは、帰ってきたことを告げる香りだった。

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