九時十五分
後方支援の司令テントの中は、戦場とは別の意味で騒がしかった。
布一枚隔てた外では、絶え間なく銃声が鳴り、遠くで爆発音が腹の底を揺らしている。
テントの中にも、振動は細かく伝わってきて、卓上の薬莢や工具がカタカタと音を立てた。
だが――その音よりも、最初に異変を感じ取ったのはセイアだった。
外では絶え間ない銃声と爆発音が鳴り響き、地面は震え、空気は焦げた匂いを帯びている。
その混沌の中で、彼女の思考だけは異様なほど冷静だった。
先ほどまでセイアは、もはや“予測”を超えた精度で戦況を読み切っていた。
「右手の路地からミメシス、二十……いや、三十」
「正実の左翼が押されてる、二分以内にラインが下がる」
「マコト議長、戦車の射線、もう一段右へ。今、対戦車の動きは見えないが――嫌な予感がする」
無線の向こうでマコトが短く「了解」と返し、次の瞬間には、現場の怒号と銃声が応える。
セイアの言葉が“当たっている”という証拠が、無線から洪水みたいに流れ込んでくる。
だからこそ
そのセイアが、今――瞬きも忘れたみたいに、黙り込んでいた。
セイアの視線は、地図でもなく、無線機でもなく、机の端に置かれた“弾薬消費の記録”に刺さっている。
指先だけが僅かに動き、何かを数えるみたいに机を叩いている。
アコも、言葉を出さずにそれを見ていた。
彼女は、セイアの沈黙が「次の指示を練っている」時間だと理解して、待てる。
だが今の沈黙は違った。沈黙そのものが、重い。
やがてセイアが、喉の奥から絞り出すみたいに言った。
「……このままだと、マズイぞ……」
声が震えていた。
テントの空気が一段、冷える。
アコが反射的に聞き返す。
「どういうことですか?」
セイアは机を叩く。乱暴に、ではない。自分の焦りを押さえつけるために、拳を置くみたいな叩き方だった。
「敵の攻撃密度が想定より高い。地上部隊の弾薬消費が異常に早いんだ……
このままでは残り十五分、耐えられない!」
セイアの語尾が跳ねる。
「このまま行けば地上部隊は……壊滅するぞ」
その言葉が落ちた瞬間、アコの肩が僅かに跳ねた。
テントの中の空気が止まったのがわかった。無線越しの銃声が、やけに遠く聞こえる。
アコは次の瞬間、迷いなくタブレットを引き寄せた。
画面を叩き、各部隊の補給状況、報告された弾薬残量、撃ち合いの頻度、ミメシス出現数――可能な限りのデータを開く。
指が速い。冷静というより、冷たかった。感情が入り込む余地を削り取るみたいに、数字だけを追う。
セイアは、アコの背中を見たまま動かなかった。
アコは、息を吸った。胸の奥が嫌な形で痛む。
間違っていて、と誰にでもなく思った。
数字が“正しい”方向へ整っていくのは、救いではない。破滅の確定だ。
アコの指が止まった。
彼女の瞳が、わずかに見開かれる。
次の瞬間、アコは小さく――本当に小さく息を吐いた。
「……合ってます」
声が、掠れていた。
「セイアさんの予想は……合ってます。消費速度が想定の1.5倍。現状のままだと、九時三十分までの保持は不可能……」
絶句という言葉は、たぶんこういう時のためにある。
アコは一瞬だけ、言葉を失った。だが、すぐに顔を上げた。
司令役の顔に戻る。
「各隊に通達します!」
アコは無線機を掴み、送信ボタンを押し込む。
「こちら後方支援。セイアさんの推定により、弾薬消費が想定を上回っている事がわかりました!
現状のままでは、出口死守は十五分維持できません。繰り返します、十五分維持できません!」
その瞬間、無線の向こうの空気が変わった。
銃声や怒号の隙間に、短い沈黙が混ざる。皆が「今言われたこと」を、理解しようとしている。
すぐにマコトの声が飛び込んできた。
『……了解した。各隊、弾薬残量を確認しろ! 報告は即時!』
それに続いて、ナギサの声。
『正実各員! 残弾報告を! 隠す必要はありません! 今ここで、正確な状況を共有します!』
ヒナの声も重なる。
『風紀委員会、弾倉交換を一度止めろ。残弾を数えろ。今のまま撃ち続けると、五分後に手が止まる』
撃ち続けるなではない。
“数えろ”。
彼女たちの声には、撤退という選択肢をまだ入れていない響きがあった。
数十秒。
戦場の真ん中で、数十秒は永遠に近い。だが、彼女たちはその永遠を、命を削って買っている。
報告が返ってくる。
『正実、残弾二割八分!』
『戦車隊、主砲は問題なし! だが機銃の弾が――三割切ってる!』
『風紀委員会、残弾二割五! 盾役の弾が特に少ないです!』
『便利屋68、弾は……正直、そろそろヤバいかな』
数字が並ぶたびに、アコの喉が乾いていく。
そして、最悪の事実が一つの形になって揃った。
――全体の残弾が、三割を下回っている。
マコトの声が低くなる。
『……チッ。三割か』
ナギサは、怒りとも悔しさともつかない息を吐いた。
『想定よりずっと早い……』
ヒナは短く言う。
『敵の物量が多すぎるせいね』
テントの中で、セイアが目を閉じた。ほんの一瞬。祈るかのように。
そして、マコトが無線で叫ぶ。
『この残り全部使ったとして、何分耐えられる!?』
セイアの喉が動いた。
答えはわかっている。わかっているから、言いたくない。
それでも、後方支援として言わなければならない。
セイアは息を飲んでから――悔しげに、言った。
「……残り五分が、精いっぱいだ」
無線の向こうが、一度だけ静かになった。
その静けさは、恐ろしかった。
戦場が静かになったのではない。
皆が、一瞬だけ未来を見たのだ。
弾が尽き、武器が沈黙し、ミメシスが押し寄せ、気絶していく味方。
戦車が孤立し、救出部隊は戻れず、出口は閉じる。
アコが、か細い声で続ける。
「……今なら、残弾を使って撤退は……可能です」
それは合理的だった。
一番合理的な判断だった。
だからこそ。
ナギサの声が、怒鳴るように無線から飛んだ。
『ふざけないでください!!』
その声は、テントを揺らした。
『そんなことをしたら、救出部隊はどうなるんですか!!』
ナギサの言葉は、戦術の話ではない。責任の話だ。見捨てるか、背負うかの話だ。
マコトも、ヒナも、すぐには答えない。
三人は――自分の受け持った部隊を見回していた。
無線の向こう。
戦車隊の歓声が混じる。正実の生徒の叫び声が混じる。風紀委員の短い指示が混じる。
便利屋四人の軽口が混じる。
誰の目も、死んでいない。
弾が減っても、息が切れても、倒れそうでも。
“まだやる”という熱だけが、そこにある。
それを確認した三人が、同じ結論に辿り着くのは、早かった。
マコトが低く笑った。
だがそれは、いつもの調子の笑いではなかった。
『……五分で、先生たちが戻ってくるのに賭ける』
ナギサが、重ねる。
『同意します。出口は死守します。救出部隊を、見捨てません』
ヒナも短く――しかし強く。
『私も。ここは崩さない』
その決意が固まった瞬間、戦場の空気が少しだけ変わった気がした。
“負ける”未来が消えたわけではない。
ただ、“逃げる”未来が消えた。
マコトが続ける。
『セイア、アコ。もし――もし先生たちが戻らず、作戦が失敗したら』
そこで一拍。
言葉が、重くなる。
『お前たちはすぐにその場から逃げろ。トリニティとゲヘナに、そして連邦生徒会にこの事実を伝えろ。次の手を打たせろ』
セイアが目を見開き、アコが唇を噛んだ。
「……マコト議長、私たちは――」
セイアが言いかけたところで、マコトが遮る。
『命令だ。逃げ帰って、次に繋げ。……黒夜の願いを、潰すな』
その一言が、テントの中に刺さった。
黒夜
ここにはいない。
だが、ここで戦っている全員の背中には、黒夜の願いがある。
救うために背負うという、あの愛おしくなるほどの優しさが。
セイアは、言葉を飲み込んで――静かに頷いた。
アコも、震える指で無線機を握り直す。
「了解しました……。必ず、情報を繋ぎます」
セイアは胸の内で、違う、と叫びそうになった。
失敗なんてさせない。
この場の誰も、失敗を前提にしてはいけない。
だが――指揮官たちは、それでも“最悪”を背負っていた。
最悪を背負える者だけが、前に立てる。
セイアはそれを、痛いほど理解してしまった。
マコトが最後に言う。
『よし。――戦闘再開だ。五分だ。五分で先生たちが戻ってくるのに賭けたぞ!!』
その声が合図になったかのように、無線の向こうで銃声が一段と増した。
戦車の砲撃音が轟き、土煙が舞う気配が伝わってくる。
ナギサの声が、前線の正実に飛ぶ。
『倒れたら、私が引きずってでも後ろに戻します! 前だけ見てください!』
ヒナの声が重なる。
『足を止めるな! 撃て! 撃ち切ったら、殴れ!』
マコトの笑いが混じる。
『キキキッ……いいぞ。もっとだ。――ゲヘナはこういう時に強いんだ』
セイアは、机の上の記録を握り潰すように押さえた。
アコは震える息を吸って、無線のノイズの中で状況を拾い続ける。
戻ってきてくれ。
間に合ってくれ。
五分でいい。
五分で、救出部隊が帰ってきてくれれば――。
九時十五分。
“あと五分で終わるかもしれない戦い”が、再び動き出した。
◆
残り五分
その宣言から、すでに三分“も”経っていた。
五分という言葉は短い。
だが戦場における三分は、永遠に等しい。
銃声は止まらない。
爆発は途切れない。
戦車砲の反動が地面を震わせ、煙と砂塵が視界を奪う。
それでも――弾は、確実に減っていた。
「弾切れしました!!」
「こっちも残り一マガジン!」
「正実、弾薬残量ゼロ班出ました!」
ポツリ、ポツリと上がる報告。
それは雨のように降り始め、やがて嵐になる。
マコトの奥歯が軋む。
「……ちっ」
戦車から身を乗り出し、全体を見渡す。
ミメシスは相変わらず湧き出してくる。
撃っても撃っても、倒しても倒しても。
数が減らない。
アリウス生も波状で押し寄せる。
数の暴力、最も純粋な圧力。
ナギサの声が響く。
「左翼、後退しないでください! まだ耐えるのです!」
だが、押されている。
正義実現委員会の生徒が一人、撃たれて崩れ落ちる。
頭に被弾してしまい気絶してしまう。
戦力が確実に削られる。
「担架! 早く!」
気絶した生徒が戦車の裏へと引きずられていく。
だがもう、回収する余裕すら怪しくなってきていた。
風紀委員会側も同様だ。
ヒナが撃ち続ける。
精密射撃と制圧射撃で確実に倒す。
だが、その隙間から、別の群れが押し寄せる。
一人、また一人。
気絶者が増える。
弾切れの報告が増える。
空気が、焦りに染まる。
「……まずいな」
マコトの呟きは誰にも届かない。
いや、届いている。
全員が同じことを思っているからだ。
限界が、近い、その時だった。
ヒナが一歩前に出る。
「ここは私が抑える」
冷たい声だが、決意は強い。
ハスミも前に出る。
「左翼は私が引き受けます」
イロハが戦車の砲身を調整しながら言う。
「盾くらいは、最後までやりますよ」
アルが笑う。
「見せ場は譲らない主義なの」
カヨコが短く言う。
「時間を作る」
ムツキがにやりと笑う。
「爆発させればいいんでしょ?」
ハルカが震えながらも頷く。
「が、がんばります……!」
彼女たちが、前線へ踏み出す。
弾幕が濃くなる。
わざと自分たちに引き付けるように。
マコトとナギサの前に、ほんのわずかな空白が生まれる。
「今のうちに打開策を考えて!」
カヨコが叫ぶ。
その声に、マコトとナギサは顔を見合わせる。
数秒、ほんの数秒。
だが、仲間が稼いでくれた時間で思考は高速で巡る。
弾はない。
増援はない。
救出部隊はまだ戻らない。
突破口は――ない。
マコトの拳が震える。
「……クソ」
ナギサの唇が白くなる。
「………万事休すですね…」
その言葉は、静かだった。
だが重い。
出口の死守は限界。
五分のうち、四分が過ぎた。
残り六十秒。
マコトは無線を握る。
「セイア、アコ」
その声は低い。
「今回の作戦は――」
“失敗だ”そう言いかけた瞬間。
無線が割り込まれる。
『待て』
セイアの声。
珍しく、切迫している。
『何かが、そちらへ向かっている』
マコトが眉をひそめる。
「何だと?」
アコの声が続く。
『地下からエネルギー反応! 位置は――あなたたちの真下です!』
次の瞬間。
地面が、揺れた。
最初は小さく。
次第に大きく。
振動が足元から伝わる。
ミメシスの群れが一瞬動きを止める。
アリウス生も戸惑う。
戦場全体が、わずかに静止する。
「一体、何が起きているんですか……?」
ナギサが呟く。
廃墟の一角。
崩れかけた建物が、内側から膨らむ。
コンクリートが軋み、亀裂が走る。
そして――
爆ぜる。
轟音と共に、廃墟が内側から吹き飛んだ。
土煙が舞い上がる。
瓦礫が宙を舞う。
その中心から、ゆっくりと姿を現したのは。
巨大な――ドリル。
回転を止め、地上へと突き出している。
そして、ゆっくりと廃墟を巻き込みながら倒れていく。
爆煙がまだ晴れきらない。
砕けた廃墟の瓦礫がぱらぱらと落ちる中、大穴の奥から軽快な笑い声が響いた。
「ハーッハッハッハッハッ!! いいぞ! 少しズレたが概ね狙い通りじゃないか!」
その声とともに、両手を大きく広げて地上へと躍り出た影。
黒い髪をなびかせ、誇らしげに胸を張るその姿は――
温泉開発部部長、鬼怒川カスミ
「な、んで……?」
思わず口から零れたのは、マコトだった。
戦場の真ん中。
ミメシスとアリウス生に囲まれ、残弾わずか。
そこに現れたのは、よりによってゲヘナ屈指の問題児。
カスミはそんな視線を一身に浴びながら、さらに高らかに笑う。
「なんで? なんでと言ったかいマコト議長!」
両腕を広げ、戦場に響く声で叫ぶ。
「そんなの決まっているだろう! 滅多に人を頼らない月城黒夜が――この私を頼ったのだよ!」
その言葉に、マコトの目が見開かれる。
「……は?」
カスミは嬉しそうに続ける。
「朝早くにだな、電話がかかってきてな? “力を貸してほしい”と、あの黒夜が頭を下げたのだよ!
ゲヘナで指名手配犯の私にだ!」
両手を腰に当て、胸を張る。
「友人の頼みには応えるのが人情というものだろう!? 準備に少し手間取ったが、概ね予定通りだ!」
マコトは頭を抱えた。
「とんでもない奴に頼んでくれたな……!!」
だが、その口元は――笑っていた。
「まったく……黒夜のやつ」
カスミはさらに指を立てる。
「それに援軍は私だけではないぞ!」
その瞬間。
ドリルの開けた大穴から、エンジン音が響く。
猛スピードで車が駆け上がり、地上へと飛び出す。
砂煙を巻き上げ、急ブレーキ。
ドアが開き、次々と降り立つ四人。
黒舘ハルナ
鰐渕アカリ
獅子堂イズミ
赤司ジュンコ
ゲヘナの問題児集団――美食研究会。
ヒナが深く溜息を吐いた。
「……あなたたちも?」
ハルナは優雅にスカートを払う。
「ええ、そうですわ」
微笑みながら続ける。
「彼が久しぶりに手料理を振る舞ってくださるそうですから。美食研究会としては、無下にはできませんわ」
「しかも好きなだけですよ!」
アカリが目を輝かせる。
「久しぶりだな~黒夜の料理!」
イズミが嬉しそうに笑う。
「前回は私食べられなかったんだから! 今回は私がメニュー決めるからね!」
ジュンコが拳を握る。
ヒナはこめかみを押さえた。
「……本当に、いつも通りね」
だが次の言葉に、空気が変わる。
「カスミさんの用意した補給物資を、できるだけ積んで持ってきましたわ」
ハルナが言いながら、車の後部座席を開く。
そこには――
弾薬箱。
大量の弾薬箱。
マコトの目が光る。
「……おい、本物か?」
ヒナが箱を開け、確認する。
実弾。
予備マガジン。
対装甲弾。
喉が鳴る。
「……助かったわ」
思わず漏れた言葉に、ハルナが微笑む。
「どういたしまして」
カスミはヒナと目が合い、一瞬固まる。
過去に散々追い回された記憶が蘇るのだろう。
「お、おう……感謝したまえ!」
ぎこちない返答。
その様子に、ヒナがくすりと笑う。
だがまだ終わりではない。
大穴の奥から、もう一人が姿を現す。
凛とした佇まい。
救護騎士団団長、蒼森ミネ。
「ミネ団長!?」
ナギサが声を上げる。
「黒夜さんの看病をしていたのでは……?」
ミネは静かに答える。
「その黒夜さんから頼まれました」
その目は、迷いがない。
「作戦に参加している皆さんを助けてください、と」
一瞬、ナギサは言葉を失う。
黒夜、病室にいるはずの彼が。
動けないはずの彼が。
それでも、戦場を想い、仲間を想い、頼った。
ナギサはゆっくりと息を吐く。
「……そうですか」
静かに頭を下げる。
「駆け付けてくれて、ありがとうございます」
ミネは頷く。
「負傷者の回収は任せてください。まだ倒れさせません」
その言葉は、力強い。
止まっていた戦場が、再び動き出す。
ミメシスが動く。
アリウス生が銃を構える。
だが、今度は違う。
地上部隊の目に、光が戻っている。
「補給急げ!」
「全隊、再装填!」
戦車の影に弾薬箱が運ばれる。
風紀委員会がマガジンを入れ替える。
正義実現委員会が弾を分け合う。
セイアの声が無線に響く。
『補給量の確認をしてくれ!』
アコが即座に集計する。
『……全体弾薬残量、約五割まで回復しました』
マコトの目が鋭くなる。
「五割……?」
アコが続ける。
『計算上、残り十分は耐えられます』
ナギサが小さく息を呑む。
「……ギリギリですね」
ヒナが銃を構え直す。
「それだけあれば十分よ」
マコトが笑う。
「あの状況から考えれば、上等だ!」
先ほどまで絶望が漂っていた空気。
それが今、熱に変わっている。
「聞いたな! まだやれるぞ!」
マコトの声が響く。
「先生たちが戻るまで、持たせるぞ!」
歓声は上がらない。
だが、誰も目を逸らさない。
ミメシスの波が再び押し寄せる。
今度は――撃ち返す。
戦車砲が唸る。
風紀の精密射撃が敵を倒す。
正実の陣形が整い直す。
美食研究会が軽快に射撃しながら笑う。
カスミが爆破で敵の密集を吹き飛ばす。
ミネが敵を盾で吹き飛ばし、気絶者を素早く回収し戦線後方へ運ぶ。
戦場は再び、均衡へと戻る。
「……黒夜」
マコトが楽しそうに笑う。
「あいつ、ようやく自分から誰かを頼れるようになったか」
ナギサも視線を前に向けたまま答える。
「ええ……成長していますね」
自分で抱え込むのではなく。
誰かを頼る。
それが、今ここにある光。
地上部隊の目に、確かな希望が灯る。
まだ厳しい。
敵は減らない。
時間も足りない。
だが――
絶望ではない。
それは、十分すぎるほどの希望だった。
戦場の中心で、マコトが叫ぶ。
「耐えて見せろ! ここが正念場だ!」
銃声が再び轟く。
だがその音は、先ほどまでとは違う。
押し潰される音ではない。
食いしばる音でもない。
それは――
繋ぐための音だった。
救出部隊が戻るまで。
その瞬間まで、地上部隊は、踏みとどまる。