部屋の中には、まだ“さっきまで消えかけていた”名残が残っていた。
完全に元に戻ったわけではない。空気のどこかが薄く、音の反響も僅かに遅れて届く。現実に引き戻されたはずの空間は、しかし完全には安定していなかった。
その中心にいる四人も、同じだった。
黒夜は立ったまま、三人の様子を見ていた。
目の前には、確かに存在しているはずの彼女たちがいる。だが、その距離はどこか微妙に遠い。手を伸ばせば届くはずなのに、ほんの少しだけ躊躇が生まれる。
――さっきまで、消えようとしていた。
その事実が、重く残っていた。
ミカ*テラーは床に座り込んだまま、膝を抱えていた。泣き止んではいるが、呼吸はまだ不安定で、時折小さく肩が震えている。視線は下に落ちたまま、黒夜と目を合わせようとしない。
ナギサ*テラーは背筋を伸ばして立っているものの、どこか力が入っていない。普段なら自然に浮かぶ気品や余裕は影を潜め、言葉を選びすぎているようなぎこちなさがあった。
セイア*テラーはいつものように落ち着いている――ように見えるが、視線の動きがわずかに多い。黒夜の表情、ミカ*テラーの様子、ナギサ*テラーの呼吸、その全てを確認するように観察している。
誰も、最初の言葉を選べずにいた。
その沈黙は、気まずさではない。
ただ、関係が一度壊れかけた後の、“どう戻ればいいか分からない”戸惑いの沈黙だった。
黒夜が、ゆっくりと息を吐く。
「……その、ですね…」
言葉を探す。だが、適切なものが見つからない。
謝罪は、もう伝えた。
気持ちも、伝えた。
それでもなお、この距離は埋まらない。
ミカ*テラーが、小さく口を開いた。
『……黒夜』
かすれた声だった。
『……怒って、ない?』
視線は上げないまま、ただ問いだけを投げる。
黒夜は一瞬だけ言葉を止める。
その“間”に、ミカ*テラーの肩がびくりと揺れた。
「怒ってなんかないですよ」
即答だった。
だが、その直後に少しだけ言葉を足す。
「……少し、驚きはしましたけどね」
正直な部分を、隠さずに。
ミカ*テラーの指先が、きゅっと布を握る。
『……そっか…よかった』
ほんの少しだけ、呼吸が落ち着く。
ナギサ*テラーが、静かに一歩前に出る。
「黒夜さん……」
言いかけて、止まる。
続く言葉を慎重に選んでいるのが分かる。
「先ほどは……その……」
珍しく言い淀む。普段の彼女ならあり得ない姿だった。
黒夜はそれを見て、小さく首を振る。
「謝らないでください」
ナギサ*テラーの言葉を遮るように言う。
「……今回の件は、誰か一人の問題ではありません」
視線を三人に向ける。
「私も含めて、全員が間違えただけです」
その言葉に、セイア*テラーの眉がわずかに動いた。
『……珍しいね』
静かに口を開く。
『君が“相手も悪い”と明言するのは』
黒夜は苦笑する。
「色んな事がありましたからね、私も考えが変わったのかもしれません」
そして少しだけ視線を落とす。
「それに……私は、貴方たちを理解する前に目を背けてしまいましたから」
その言葉に、三人の空気が僅かに揺れる。
責めていない。
だが、軽くもしていない。
そのバランスが、ようやく場に落ち着きをもたらす。
セイア*テラーがゆっくりと頷く。
『……なるほど』
『なら、ようやく“対等”になれたわけだ』
その言葉に、ナギサ*テラーがわずかに目を見開く。
『これまでは君が私たちを受け入れる側だった』
『だが今は違う』
セイア*テラーの視線が真っ直ぐ黒夜を捉える。
『お互いに“選び直した”関係だ』
黒夜はその言葉を静かに受け止める。
だが、嫌ではない。
むしろ――
「……そうですね」
小さく頷く。
その時、ミカ*テラーがようやく顔を上げた。
目はまだ赤いが、先ほどのような崩壊寸前の状態ではない。
『……ねぇ黒夜』
「なんですか?」
『今度はさ』
少しだけ言葉を詰まらせる。
『……ちゃんと、言ってよね』
黒夜の目が細くなる。
『ダメな時はダメって』
その言葉に、ナギサ*テラーとセイア*テラーも視線を向ける。
『じゃないと、また間違えちゃうかもしれないからさ』
それは、今までのミカ*テラーではなかった。
“依存”でもない。
これからも一緒に生きていく為の条件だった。
黒夜は一瞬だけ考える。
そして、はっきりと答える。
「……分かりました」
「その代わり、私にも一つお願いがあります」
三人の視線が集まる。
「私が迷った時は、助けてください」
その言葉に、ナギサ*テラーが少し驚いた顔をする。
「私は……今回の件で、自分だけでは限界があると理解しました」
少しだけ自嘲気味に笑う。
「ですので、次は一人で抱え込まないようにします」
その言葉に、空気が少し変わる。
ナギサ*テラーがゆっくりと頷く。
「……ええ、わかりました」
今度は迷わず答える。
「私たちも、同じです」
セイア*テラーも小さく笑う。
『ようやく健全な関係になったね』
ミカ*テラーは鼻をすすりながら、
『……うん』
とだけ答えた。
その短い言葉で、ようやく空気が“戻る”。
完全ではない。だが、確かに繋ぎ直された。
黒夜は一度、大きく息を吐く。
そして、顔を上げる。
「……早速なんですけど」
三人の視線が集まる。
「三人に助けて欲しい事がありまして」
その一言で、空気が引き締まる。
さっきまでの余韻が、一段階だけ後ろに下がる。
「アリスさんを、助けに行きたいのです」
迷いはなかった。
言い切る。
ナギサ*テラーがすぐに反応する。
「ですが、場所が分かっていません」
黒夜が即答する。
「それでも助けたい」
その言葉に、セイア*テラーが口元を緩める。
『……いいね』
『ようやく“動く覚悟”が見えた』
ミカ*テラーも立ち上がる。
『行くならさ、早く行こうよ』
その言葉に、焦りはない。
だが、止まる気もない。
黒夜は頷く。
「まずはミレニアムに戻ります」
「先生がいるはずです」
その判断に、三人も異論はない。
すぐに行動に移る。
ミレニアムの街は、相変わらず整然としていた。
高層ビルの間を抜け、無機質な通路を進みながら、黒夜は周囲の空気に違和感を覚える。
――静かすぎる。
人の気配はある。
だが、どこか緊張が残っている。
まるで何かが既に“終わった後”のような空気。
その予感は、すぐに現実になる。
ゲーム開発部の前に着いた時――
そこには誰も居なかった。
椅子が乱れ、機材が半端な状態で放置されている。急いで出て行った痕跡が、はっきりと残っていた。
「……間に合いませんでしたか…」
黒夜の口から、自然と零れる。
ナギサ*テラーが静かに部屋を見渡す。
「既に……動いていますね」
セイア*テラーが続ける。
『先生たちは、アリスを追って出たみたいだね』
ミカ*テラーが小さく舌打ちする。
『……出遅れたね』
その一言が、重く落ちる。
黒夜は立ち尽くす。
完全に置いていかれた。
拳を握る。
部室の中は、静まり返っていた。
先ほどまでここに人がいたはずなのに、その気配だけが残っている。椅子の位置、開きっぱなしの端末、散らばった資料。すべてが「ついさっきまで」の時間を示しているのに、そこに“今”が存在していない。
黒夜は、その中心に立ったまま動けずにいた。
ほんの少し遅れただけだった。
たったそれだけの差で、すべてを見失った。
(……またか)
胸の奥で、何かが軋む。
守れなかった。
間に合わなかった。
その感覚が、過去と重なって蘇る。
違うと分かっている。
今回はまだ終わっていない。
それでも――
“追いつけないかもしれない”という感覚だけが、じわじわと広がっていく。
「……場所が分からない以上、動きようがありませんね」
ナギサ*テラーの冷静な声が、静寂を切る。
だがその言葉には、僅かな焦りが混じっていた。
『闇雲に動けば、逆に遠回りになる可能性もあります』
正しい判断だった。
だからこそ、重い。
ミカ*テラーが苛立ったように頭を掻く。
『じゃあどうすんの?このまま何もしないで待つの?』
言葉は荒いが、その奥にあるのは焦燥だった。
『そんなの無理でしょ』
その通りだった。
何もしないという選択肢は、黒夜の中には存在しない。
セイア*テラーが静かに腕を組む。
『状況整理をしよう』
いつも通りの落ち着いた声。だが、ほんの僅かに早い。
『リオはアリスを連れて行った。そして先生たちはそれを追った』
視線が黒夜に向く。
『つまり、すでに“戦い”は始まっている』
その言葉が、はっきりと現実を形にする。
黒夜は、ゆっくりと息を吐いた。
「……なら尚更、ここで立ち止まるわけにはいきません」
声に、先ほどまでの迷いはない。
だが――
「問題は、その“行き先”ですね」
言葉にした瞬間、再び詰まる。
ただそれが分からない、どこに行けばいいのか。
どこへ向かえば、間に合うのか。
その答えが、どこにもない。
完全な行き詰まりだった。
ミカ*テラーが一歩前に出る。
『……黒夜』
呼びかける声は、少しだけ弱い。
『どうする?』
その問いは、信頼だった。
だが同時に――
委ねる言葉でもあった。
黒夜は、その問いを受け止める。
だが、すぐには答えられない。
(どうする……)
思考を巡らせる。
可能性を探る。
だが――
情報が足りない。
圧倒的に足りない。
どれだけ考えても、前に進むための“手掛かり”が存在しない。
拳を握る。
(このままじゃ……)
また同じだ。
何もできずに終わる。
それだけは、絶対に認められない。
「……」
言葉が出ない。
判断ができない。
そのわずかな“停止”が、空気をさらに重くする。
ナギサ*テラーが、そっと口を開く。
その声は、優しかった。
『黒夜さん一度、落ち着いて――』
言いかけた、その瞬間だった。
「やっと来ましたか、遅いですよ黒夜さん」
声が、割り込む。
静まり返っていた部室に、不釣り合いなほど軽やかな声。
だがその一言で、空気が一変する。
黒夜の視線が、入口へ向く。
そこにいたのは――
「ヒマリさん……!」
白い車椅子に腰掛けた少女。
いつも通りの微笑を浮かべながら、まるで“最初からそこにいた”かのように自然に存在していた。
ミカ*テラーが即座に反応する。
『……いつからいたの?』
警戒を含んだ視線。
ヒマリは肩をすくめる。
「さて、どこからでしょうね?」
その言い方が、すべてを物語っていた。
――最初から見ていた。
黒夜は一歩前に出る。
「ヒマリさん……どうして?」
問いかけようとするが、ヒマリは軽く手を上げて制する。
「説明は後です」
その声音が、僅かに変わる。
「今は時間がありません」
その一言で、場の優先順位が切り替わる。
黒夜の表情も引き締まる。
「……分かりました」
ヒマリは満足そうに頷く。
「貴方が来るのは分かっていました」
さらりと言う。
「ですから、誰よりも先に情報を押さえています」
その言葉に、全員の視線が集中する。
ナギサ*テラーがヒマリに問いかける。
「……つまり、どこに行けば良いか分かるということですか?」
ヒマリはにっこりと笑う。
「ええ、もちろんです」
その一言で、停滞していた流れが、動き出す。
黒夜の胸の奥で、何かが再び灯る。
「どこですか?」
迷いなく問う。
ヒマリは一瞬だけ黒夜を見つめる。
その視線は、観察するようでいて――どこか試すようでもあった。
「要塞都市エリドゥです」
その名前が、静かに落ちる。
聞いたことがない場所だった。
セイア*テラーがすぐに反応する。
『……要塞都市か、名前からして面倒そうだね』
「そうですね」
ヒマリが頷く。
「ミレニアムの中でも、最も隔離された施設の一つです」
ナギサ*テラーが息を呑む。
『そんな場所に……』
「そして恐らく――」
「そこで“処理”するつもりでしょう」
その言葉が、重く響く。
ミカ*テラーの表情が変わる。
『処理……?』
ヒマリは視線を逸らさない。
「言葉の通りです」
黒夜の拳が、強く握られる。
遅れた時間。
見失った場所。
だが今、ようやく繋がった、道が見えた。
なら――
「行きましょう」
ヒマリはその様子を見て、静かに笑う。
「ええ、そう言うと思っていました」
その笑みは、どこか安心したようにも見えた。
黒夜は振り返る。
「皆さん、準備をお願いします」
三人もすぐに頷く。
もう迷いはない。
間に合うかどうかは分からない。
それでも動くしかない。
黒夜はすぐに行動に移ろうとした。
「ヒマリさん、ルートは――」
だが、その言葉をヒマリが遮る。
「その前に、一つだけ」
声音が変わる。
先ほどまでの軽さが消え、わずかに重さが乗る。
黒夜の動きが止まる。
「……なんでしょうか?」
ヒマリはすぐには答えない。
代わりに、ほんの少しだけ視線を外す。
窓の外。ミレニアムの整然とした街並み。
その景色を見ながら、ゆっくりと口を開く。
「……リオのやろうとしている事は正確には間違っていません」
その言葉に、場の空気がわずかに揺れる。
ミカ*テラーが眉をひそめる。
『……えぇ?』
ナギサ*テラーも黙ったまま、視線をヒマリに向ける。
ヒマリは構わず続ける。
「彼女の判断は合理的です」
「危険な存在を排除し、多数を守る」
「それだけを見れば、正しい選択です」
淡々とした説明。
だがその奥には、明確な“理解”があった。
黒夜は静かに聞いている。
否定も肯定もしない。
ヒマリは一度、黒夜を見る。
「黒夜さんなら分かるでしょう?」
その問いは、試すものではない。
確認だった。
黒夜は短く答える。
「……そうですね」
その一言に、ヒマリは小さく頷く。
「ええ、そうでしょうね」
そして、続ける。
「ですが――」
わずかに声が落ちる。
「私は、あのやり方が嫌いです」
その一言には、明確な感情が乗っていた。
理屈ではない。
“拒絶”だった。
「確かに正しい」
「ですが、その正しさは……あまりにも一方的過ぎる」
視線が、今度はまっすぐ黒夜に向く。
「一人で決めて」
「一人で背負って」
「一人で終わらせる」
言葉を重ねるたびに、僅かに苛立ちが混じる。
「……なぜ、頼らないのでしょうね」
ぽつりと零れる。
それは、誰に向けた問いでもない。
だが――
確実に、リオへ向けられたものだった。
セイア*テラーが静かに口を開く。
『……理解はしているが、納得はしていないというわけか』
「ええ」
ヒマリは即答する。
「彼女の考えは理解できます」
「ですが、その在り方には共感できません」
そして、ほんの一瞬だけ間を置く。
その間に、視線が黒夜へと戻る。
「……黒夜さんも、同じですよ」
その言葉に、黒夜の瞳がわずかに揺れる。
「……私も」
「ええ」
ヒマリは当然のように頷く。
「貴方もまた、全部を自分で抱えようとする人です」
黒夜は反射的に否定しかける。
「それは――」
「違う、と言い切れますか?」
先に遮られる。
黒夜は言葉を止める。
思い当たる節があるからだ。
ヒマリは続ける。
「守るために、自分を削る」
「誰かのために、自分を後回しにする」
「結果として、すべてを一人で背負う」
静かに並べられる事実。
それは否定できないものだった。
「……似ていますよ、黒夜さんとリオは」
その一言が、重く落ちる。
ミカ*テラーが小さく舌打ちする。
『全然違うでしょ!黒夜は他人を犠牲にしたりなんかしない!』
感情的な否定。
だがヒマリは否定しない。
「ええ、違う所もあるかもしれません」
あっさりと認める。
「ですが、“根本”は同じです」
黒夜は黙っている。
ヒマリは続ける。
「だからこそ、貴方に頼みたいのです」
声のトーンが、わずかに変わる。
それは初めての“依頼”の声音だった。
「リオを、止めてください」
その言葉に、全員の視線が集まる。
ヒマリは真っ直ぐ黒夜を見る。
「いいえ、違いますね――」
一度、言い直す。
「リオを救ってあげてください」
その言葉は、明確だった。
黒夜は一瞬だけ目を閉じる。
その意味を、すぐに理解する。
ただ止めるだけではない。
否定するだけでもない。
――“救う”
それは、最も難しい選択だ。
ヒマリは続ける。
「私は、彼女の思考を理解できます」
「ですが、寄り添うことはできない」
わずかに視線を落とす。
「合理的すぎる人間同士では……結局、平行線にしか辿り着きませんから」
その言葉に、少しだけ苦味が混じる。
黒夜は静かに聞いている。
ヒマリは顔を上げる。
「ですが貴方はリオとも違う――」
「正しさを理解しながら、別の選択を取れる人です」
その評価は、非常に高いものだった。
「だからこそ――」
一拍置く。
「貴方にしか頼めない」
その言葉に、場の空気が締まる。
黒夜はゆっくりと目を開く。
視線が、ヒマリと交差する。
逃げない。
逸らさない。
そのまま、静かに口を開く。
「私も…リオさんのやり方は、正しいと思います」
「多数を守るために、少数を切り捨てる」
「それ自体は、間違いではない」
ナギサ*テラーが静かに目を閉じる。
ミカ*テラーは不満そうに眉を寄せる。
だが、黒夜は続ける。
「ですが、私はその選択を選びたくありません」
はっきりと、断言する。
ヒマリの目が、わずかに細くなる。
「選ばないのではなく?」
確認するように問う。
黒夜は首を振る。
「選びたくない…」
その言葉は、以前と同じ。
だが――
今は“迷い”がなかった。
「アリスさんも――」
「リオさんも――」
「どちらも救います」
言い切る。
それは理想論ではない。
覚悟だった。
ミカ*テラーが小さく笑う。
『……やっと普段通りになってきたね』
ナギサ*テラーも頷く。
『ええ、それでこそです』
セイア*テラーは満足そうに目を細める。
『ようやく“覚悟”が形になったね』
ヒマリは、しばらく黒夜を見ていた。
その表情は読めない。
やがて、小さく息を吐く。
「ふふ……本当に、手のかかる後輩ですね」
呆れたような、しかしどこか安心したような声だった。
「ですが、だからこそ任せられます」
その言葉で、完全に委ねられる。
ヒマリは端末を操作する。
「エリドゥへの最短ルートを送ります」
「先生たちはすでに向かっていますが……まだ間に合う可能性はあります」
データが転送される。
黒夜はそれを確認する。
ルートは明確だ。
もう迷うことはない。
「ありがとうございます、ヒマリさん」
ヒマリは軽く手を振る。
「礼は必要ありません」
そして、少しだけ真面目な顔になる。
「その代わり――」
「必ず連れて帰ってきてください」
黒夜は頷く。
「はい」
その返事を聞いて、ヒマリは微笑む。
「よろしくお願いしますね」
そして背を向ける。
「では、行ってください」
黒夜は振り返る。
「行きますよ、皆さん」
三人もすぐに応じる。
『うん』
『ええ』
『当然だね』
四人が動き出す。
止まっていた時間が、再び流れ出す。
目指す先は一つ。
要塞都市エリドゥ。
救うべきものと、向き合うべき現実。
そして、乗り越えるべき選択。
黒夜は、もう迷わなかった。