オルクセン自動車史〜世界は如何にして白エルフの作った自動車に憧れたのか〜 作:味家
ヴィーリ・レギンは激怒した。必ず、かの那智暴虐の連邦官吏をしばき倒さなければならぬと決意した。レギンには国民車がわからぬ。レギンは、オルクセン随一の重工業企業の創業者であった。鉄を叩き、会社を大きくしてきた。けれども官吏の舐めた態度とその要求に対しては、人一倍激怒していた。
星歴920年代、オルクセンは国内の物資移動の多様化と星欧全域での不況による雇用対策の為に自動車専用道路『アウトバーン』を国中に敷くこととなった。
当時、オルクセン国内では自動車という物は全くと言っていい程普及はしていなかった。理由は幾つかある、まず単純にオークの身体が大きすぎて人間族の車では入れなかった事。隣国のグロワールのシトラス5VCや新大陸北部、センチュリースター合衆国のフィードタイプTなどの人間族が使ってる大衆車はコボルト、ドワーフ、エルフはともかくオークは縦横幅共に入らずに使えず、購入費用が高い大型車を1体で使うのがオルクセンの主流であった。
その次にも競合する交通機関が優秀だった為に自動車を使わなくてもすむということにもある。例えば戦争の為の兵帖を円滑に運ぶために作られた鉄道は都市間を円滑に物資旅客共に運び、線路や機関車も高速化で時速160kmまで最高速度が上がり、都市を結ぶ点では申し分無い能力を発揮している。また都市部では馬車鉄道から発展した路面電車が街を走っており、わざわざ車を必要としなくても生活が出来る状態になっていた。
そして最後、正直これが一番の、オルクセンの国民から自動車というものが敬遠されてしまっている原因なのかもしれない。
かつての我が王、グスタフ・ファルケンハインの言葉だった。
「車は、愛する者と同じだ。我儘で、癇癪持ち、手のかかる奴ほど離れられなくなる」
これを聞いた王妃の逆鱗に触れ、しどろもどろと数秒言い訳をした後に「すんませんでしたっ!!!」と巨体を平伏し、国民の見てる前で公開謝罪をしたこの発言。これがかなりオルクセン国民の自動車に対する感情を決定づけた。
確かにこの時代の自動車は現在に比べて信頼性という物はかなり低く、手のかかる、費用もかかる物であった。
だからこそ庶民はそんな手のかかる我が国の王妃のような物なんて維持する事はできないのだ。
駅から村まで物資を運ぶなら使い慣れた馬車で充分、しかも便利な鉄道、都市に行けば路面電車まである。
自動車など必要がない、と感じる国民が大半であったのだ。
最も、グスタフ王は生粋のカーマニアとして知られており専用に作らせた大型車を王妃と共に乗り回していたから車に関しては理解があり、オルクセンに自動車を普及させようと積極的に努力してきた。しかし、当時の自動車の事情を愛する妻にかけて上手く言おうとしたのが不味かったのだ。
そしてこれはグスタフ王の随一の失言とまで呼ばれる様になり晩年も「あんな事、言わなきゃ良かったなぁ…」と、嘆いていたそうな。
という事情により、オルクセンの自動車事情は今日まで上流階級の趣味、そして軍や警察、消防などの公共機関が使うという状態になっており、その車両も大半が自動車という物が普及したアスカニア、グロワール、エトルリアからの輸入品であり、トラブルにより故障してしまったらまず部品を発注する所から始めなくては行けない。
そう、かつてのエルフィンド海軍の艦隊の状態になってしまったのだ。
しかし政府は、そして陸軍省はそういう訳にはいかなかった。
それは第一次星欧大戦から来ている、大戦参戦諸国は塹壕を切り抜ける為に戦車を開発し、装甲車で歩兵を支援し、トラックやバスで物資や兵士を輸送した。
もうオルクセンが先の戦争で使った歩兵で戦いと馬車と鉄道で支援するの戦争は時代遅れだ。時代は歩兵と自動車が「共闘」する戦争へと変わってしまった。
かの「シュヴェーリンプラン」が不発に終わったのはこの戦場のモータリゼーションも理由の一つだ。
訓練ではしっかりと自動車の運転教練と簡単な整備訓練を行いオルクセンの兵士は運転ができる様にする事が出来たが、いざという時に即座に運転できる様にするには日常的に自動車を運転して貰わなくては行けない。
そして、その技術で全国に張り巡らされた道路で即座に配置について貰わなければならない。そして部隊が即座に移動して貰わなければならない。
ハリネズミの様に軍事力による針を立てている中立国オルクセン、これからも中立国である為には国民に自動車を手に取って貰わなければ、
オルクセンは、周辺国に確実に喰われてしまう。
豊穣の大地が人間の手により滅ぶ前に、魔種族が大した事ないと舐められる前に、
起こさなければ、モータリゼーションを。
その為にも国土改造計画としてアウトバーン敷設と国民車と呼ばれる安価な自動車を作る必要があった。
政府はもし国民車計画を受けたら開発資金を出し、国民車と呼ばれる物が出来上がった暁にはメーカーには成功報酬、購入者には補助金を出して自動車の浸透を手助けする…という制度が出来たが、オルクセンの工業系メーカーからは難色、というか拒絶の反応をされて案がたらい回しになったところでヴィッセル社のレギンの所にもう一度回ってきたのだ、ヴィッセル社自身は息子が一回断っている、無理だと、阿保かと。
しかし連邦官吏も食い下がりに食い下がり、果てにはレギンの小屋に駆けつけて押し付ける様にレギンに依頼して逃げ帰ったのだ。
レギンはもう一度激怒した。あの舐めた顔のコボルトもう一度会ったら絶対にしばいてやると。
レギンは無茶苦茶でクソみたいな仕様書をもう一度見る、その内容とは、
・オーク、コボルト、ドワーフ、エルフが同一の車で運転ができる小型車の事。
・平均的なオーク4人が乗車出来て時速100km程度で巡航できる事。
・頑丈で長期間大きな修繕を必要とせず、維持費が低廉である事。
・7リットルの燃料で100km走れる事。
・国民に自動車を手に取ってもらえる様にする為に親しみやすいデザインにする事。
・製作、デザインはオルクセン国内、オルクセン国民で済ませる事、他国の協力を仰がない事。
・上記の条件を満たした上でなるべく短期間で開発し低価格で販売する事。
「なんだこれ!本当に!!なんだこれ!!!!」
レギンはこの仕様書を投げ捨てたくなった、押し付けられたとは言え求められたら技術の腕は貸すというドワーフの信念を捨ててまでこれを捨てたかった。
これをかつての我が王に依頼されても嫌な顔をしただろう。
別に内燃機関の技術がヴィッセル社に無いわけではない、しかしこれを小型にして、量産する、これが一番難しい。そして恐らくヴィッセル社単体では対応出来ない、誰か「魔種族」でこれを作れる奴が居ないか探さなければ。
レギンは社内を駆け回りこのような仕様書で自動車を作れる者はいないかと探した。
そして国の参謀本部にも伝手で聞いてみた。
するとヴィッセル社社内のあるドワーフからは「アスカニアの自動車メーカーの経由でオルクセン南部にある白エルフが経営している設計所からレーシングカーの試作品としてエンジン部品の鋳造を依頼された。」
参謀本部からは「大戦時、オルクセン南部に防衛増強として輸入した軍用車とトラックの整備に苦戦してた所、アスカニアの自動車メーカーで開発技師として働いていて最近設計所を開いたという白エルフが軍用車整備と教育を一手に引き受けてくれた、見返りとして謝礼と
キャメロットから輸入した大掛かりな工作機械を贈与した。」
前者と後者の話の白エルフは同一人物であった。
前者はオルクセンにある上流階級が趣味でやるレーシングマシンを作るビルダーのよくある話だが、続きがあった。
「この前また部品の注文をその白エルフに直接頂きましてね、その際にアスカニアの人間族向けに小型車を設計して試作したが政治の体制が変わってその話が無くなってしまったと嘆いてましたわ。」
レギンは歓喜した、なんともはやこの無理難題の解決の糸口は見つかった、まさかまさかのオルクセンに小型車を試作していた奴が居たとは、早速見に行かなければ!
昔、レギンの一族を滅しドワーフの国を滅ぼしたエルフに今度は小型車の知識を乞う事になるとは。しかし我らはドワーフ、鍛治を基本とする技術の種族。知らないことを知っている奴がいれば、我等のものにする為にも素直に教えを乞うべきだ。
レギンは電話を連邦にかけた、国民車計画の為の重要人物と会いにいくという事とあの舐めた顔のコボルトの連邦官吏は同行させないでほしいという事を。
「おう!俺だ、あのアホに押し付けられた国民車計画だが、進められそうだ!社内の奴がそんな物作ってた奴を知ってたんでな!…おう!一応同行を頼みたいなと思ってなあ、あのアホはもういいぞ、道中のメシが不味くなる。……ほら、先の大戦で軍用車の整備を全部押し付けた奴……そう!『ペルシェ自動車設計及び製作所』、社長は『ジルベルト・ペルシェ』だ!よろしく頼むぞ!」
そう、その『ジルベルト・ペルシェ』、オルクセンに史上初の魔種族統一の大衆車「ヴィッセルワーゲン・タイプ1」を世に送り、第二次星欧大戦後は現在、星欧どころか世界が憧れるスポーツカーブランド『ペルシェ』の創業者となる伝説的な白エルフなのである。