オルクセン自動車史〜世界は如何にして白エルフの作った自動車に憧れたのか〜   作:味家

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ペルシェ自動車設計・製作所①

オルクセンの南部ペアグルント州州都の郊外、田園地帯にポツンと佇む赤煉瓦造りの倉庫と二階建ての赤煉瓦造りの住宅が並んでいるのがジルベルト・ペルシェの作業所と事務所兼自宅である。

時は一次大戦勃発時、オルクセンによる魔種族への戦争参加国からの退避要請の魔術通信を受け、ベレリアントを経験していたペルシェは戦争は懲り懲りであると主任設計技師として長年働いていたアスカニアの自動車メーカーを辞め、同期だった同じ白エルフのカレン・ラーべとオルクセンへ逃げる様に舞い戻り、アスカニアに近いペアグルントの郊外に空き倉庫を借りて住宅兼整備所として開いたのが始まりだった。

当時既に人間族諸国ではペルシェとラーべは天才的な設計士と優秀なメカニックとして名が知られていたがそもそも自動車が浸透していないオルクセン南部では無名も良いところで、とりあえず社名は設計事務所として当面は周りの農家の蒸気機関のトラクターを手持ちの数少ない工具で整備をして工具と設備を充実させていつかまたレーシングカー製作と夢を追うかと思っていた。その矢先に軍の参謀と呼ばれるコーギー種のコボルトがやって来て、

 

「この辺りで内燃機関を整備できる者を探しているんですが、誰か検討付きませんか?」

「あたし、前にアスカニアで車作ってたし整備も出来るよ。」

 

ペルシェの軽い答えにコボルトは歓喜と安堵の混じった表情をして

「ありがとうございます!一応、軍で工具は揃えておりますので使って頂けたら、そのまま工具はお譲りいたしますので!勿論、報酬も支払わせて頂きます!」

まさかまさかの大量の工具とキャビネット型工具箱、そして油圧ジャッキが舞い込んで来た。

 

やった、やったぞ!と2人で喜んだのも束の間、まずはと用意された故障や破壊された軍用車とトラックが計10台程舞い込んで来た。

困惑する2人、オルクセンの自動車事情を知った2人は何故にこんな一気に来るのか訳がわからなかった。

コボルトに話を聞くとどうやら内燃機関の自動車を修理や製作、整備できる工場がヴィッセン市のあるオルクセン北部に集中しており、アスカニアに面する南部州は全くと言っていいほど無かった事、またこの時期参謀本部は派閥争いの為組織の連携が取れずに無計画に国境警備の為に軍用車とトラックを周辺国から輸入して国境に投入した事、軍用車の整備マニュアルは低地オルク語に翻訳はされていたがそれだけでは整備に苦戦した事。

「教育が終わる迄は…申し訳ありませんが、アスカニア国境一帯の自動車の整備を一手に引き受けてもらいます…後整備教育のお手伝いもお願い頂けたら…」

汗を垂らして涙目になりながら申し訳なさそう、いや本当に申し訳ないと思っているコボルトにペルシェは何も言い返せなかった。

そこからはあの戦役とは言わないが、文字通りの地獄の日々が始まった。

昼は整備をしながら工兵達に自動車の構造や整備に関しての教育をしながら夜は残ってた仕事を深夜どころか朝迄やり、少ない時間で仮眠を取る生活が大体3年程度続いた。

途中、記憶が抜けていつの間にか車の整備が終わっていて何もかも正常に動く物だから返って不安になったり、気がついたら医務室だったり、車と整備場ををぶっ壊してしまったと思ったら夢だったりとここだけ国の外の大戦が繰り広げられている様だった。労働法は何処へ。

ラーべは前は軍属にいたのか、ペルシェに対してかなり精神的にも体力的にもタフだった。それでも何回か倒れてたりしたが。

軍もかなりサポートをしてくれた、教育の済んだ工兵はすぐに他のアスカニア国境の整備場へと配属したり、ペルシェが我儘を言って高度な整備の為にとキャメロット製の旋盤、フライス盤、研削盤、どれも自動車の部品が作れる大型の物をメートル単位に直して持って来てくれたりと兎に角仕事のやりやすくしてくれる様にしてくれた。やりやすくなった分大掛かりな仕事が増えたけど。

2人が最も助かったと感じた存在は周りの農家のオーク達である。

そもそもオルクセンの北に位置するエルフ達が住まうベレリアント半島から離れているオルクセン南部には白エルフどころか闇エルフまで降りて来ておらず、かつて野蛮な行動を行ったとされる白エルフ達には怪訝な目を送ったが、来た途端に軍の要請に駆られて夜な夜な水銀灯を着けて何か作業している所を見て翌日様子を見に行ったら2人共倒れていた所を助けた所から何かと気にかけてくれる様になった。

時には食事を差し入れてくれたり、農業の閑散期には仕事を手伝ってくれたり、連日舞い込んで来る仕事に対して怒りを募る気力も無くなったペルシェとラーべの代わりに軍の担当に怒ってくれたりとかなり助けてくれた。ペルシェも気分転換に軍の仕事をほっぽり出して農家のトラクターの整備をするなど、地域に無事溶け込めていけたのだ。

そうこうしているうちに工兵は無事配備された場所で軍用車の整備を始め、仕事も落ち着き始めやっと市井の者たちの様な生活になり、その頃にグロワールに住む友人からの伝手で航空エンジン設計の仕事を貰い、終戦後元鞘の自動車メーカーから自動車設計の依頼が舞い込み、オルクセンでも趣味でレースをしている上流階級からレーシングカーの仕事を貰い、いまだに2人だけの事務所だがここ10年は忙しい日々を送っている。

なお、オルクセン軍がジルベルト・ペルシェが余りにも偉大な設計士だというのを他国の軍属から知り、そんな仕事をさせるなと怒られてしまったのは戦争が終わった随分後の事である。

 

 

「調べれば調べる程凄え奴じゃなコイツ…」

ペルシェの事務所に向かう大型車の中でレギンは唸った。

「私もそんな方とは思いもしなかったんですよ。当時は突然来た車をなんとか修理しないと、と思ったのも有るんですが…」

そう言って車を運転しレギンに同行しているのはオルクセン陸軍参謀本部南部防衛担当のレイブリック・スタンレイ大尉、コボルト族コーギー種、ペルシェに軍用車の整備を依頼したコボルトである。

「軍の中でもこんな奴をオルクセンは20年近くも放っといていたのかと驚いていたんですよ。」

特に軍が驚いたのがオルクセン空軍の創設、そしてヴィッセル社で新たに設立する航空メーカーの参考の為に練習機としてキャメロットから飛行機を購入していた。

その空冷4気筒の水平対向エンジンはアスカニアのエンジンが元なのだがその設計者がペルシェだったのだ。

アスカニアの航空用エンジンは優秀と聞いたがまさかペルシェ設計だとは思わなかった。そしてあの我が王の搭乗していた車なのだが、グスタフがドワーフの技術者に造らせたのは事実だがベースとしたレースカーというのがありそれがなんとペルシェが設計したレースカーだったという。

政府や軍は驚愕した、最初は「彼女は最近までオルクセン国民では無かった白エルフですぞ!?」と他の国内自動車メーカーや官吏に言われていたが彼女の実績を調べ上げていくうちにそんな事を言う者は居なくなった。

ただ、いつアスカニアに行ったのかがよく分からないのだがそんな事はどうでも良い。とりあえず今は目の前の国民車の事だ。

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