オルクセン自動車史〜世界は如何にして白エルフの作った自動車に憧れたのか〜   作:味家

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ペルシェ自動車設計・製作所②

「ああ、言っていた小型車の試作品ね。レイブリックの事だからまた面倒くさい奴見てよとか言われそうだったけど。」

エルフでは珍しい銀髪でウェーブのかかったショートヘア、目は大きいがタレ目で翡翠色の瞳、人間で言うと20歳にいかない少女の様な風貌の白エルフこそがあの天才設計士、ジルベルト・ペルシェだ。丁度昼時だったらしく、汚れた作業着を着たままアスカニア風の挽肉と香味野菜とスパイスを混ぜ合わせて焼いたレバーケーゼを丸パンで挟んだサンドイッチを食べながら応対している。

「ジルベルトさん!スタンレイさんは兎も角ヴィッセル社の創業者の前でご飯食べながら応対するのはやめて下さいよぉ!」

とペルシェに叱っているのはペルシェと共にスタンレイの無茶振りに応じた相棒兼メカニックのカレン・ラーべ。

エルフによくある金髪碧眼で髪を一つにまとめ上げており、何処となく目元は力強い印象を見せている。

「ふぁれならふぉうこのおくにふぁるふぁらふぉれふぁれふぃってふぁらいふふぇふふぁんれい」

「食べながら喋らなぁい!」

ペルシェはアスカニア時代やその前から苦労はしているものの基本的に自由なエルフと言われている。ラーべもこんなペルシェに苦労してそうだ。

こんな光景を見てスタンレイは呆れ笑いをしながら言う。

「…レギンさん、こんな感じなんです。ペルシェさんは」

「だろうな、まあ俺は傲慢な軍事の天才を知っとるからこんなもん可愛いもんじゃ」

レギンはふふんと笑った。

 

レギンとスタンレイはペルシェに連れられ倉庫に案内される。

まず2人が見たのは小型種のコボルトが入るくらいのレースカーだ。レギンがこのレースカーをまじまじと見ている。

「ペルシェよ、これはコボルトが乗るタイプの奴か?」

「ええ、これはエトルリアの南部の島でやるタルガ・フルーチオというレースに参戦してたマシンですね。ファーレンス役員とその有志たちが大鷲に乗ってたコボルトを引っ張って来てレースしてるんですよ、名前をタウベルト号って呼んでるらしいんすけど。」

「ほうほう、どれくらいのパワーが出るんじゃ?」

「1.2lの直列4気筒で大体45馬力ですかね、エンジン見ていきます?」

「いや、まずはゆっくり外装から見さしてくれ、何しろ車、しかもレースをする為の車はこの国では珍しいからな…」

レギンは生来の技術者の目をしはじめている、ペルシェとの会話が段々と技術者同士の会話となり弾んでいく。

流石に自由なエルフ、ペルシェと言えども目上の者には敬語で話している。流石に設計所を20年近く運営してるだけはある。

側から見ているスタンレイでも分かるくらいにレギンの目は輝き始めていた、これは長くなると彼は思った。

 

30分程話し込んでいたが様子を見に来たラーべの一声でようやく会話が終わり、本題の小型車についてになった。

「これがアスカニアの人間族向けに試作した小型車ですよ、これは直列2気筒の水冷エンジンですね。まだ試作も試作なんで一回も走れてないんですけどね…」 

小型車であるがオルクセンの周りやかつての我が王が乗っていた車とは違い妙に丸っこいデザインだ。親しみ易さを感じるデザインと言えばそうだとレギンは感じた。

「ボディは全部鋼製のボディを使っていて、ベースは鋼管バックボーンフレームとビードを打ったフロアパン、そしてそのシャシーに被せるボディも鋼製で曲線を出して剛性を出しています。ドアは2ドアの後部エンジンに後輪駆動。センチュリースターではこの丸みを帯びた流線型のデザインがトレンドだったりするんですよ。」

因みにこの時代はオルクセンはともかく、アスカニアでも木製ボディの自動車の方が多かった。

「でも、前言った通りアスカニアの体制が変わってキャンセルになってしまってこの車の着手金どころか製作代も払ってもらってない…って感じです。」

アスカニアはアスカニア民族至上主義の政党が政権を握ってからはオルクセンも在アスカニア国民に退避命令を出している程だ。あくまで噂程度であるが、六芒教を信仰している人間族が捕えられ、あの「レーラズ」と同じ状況になっているという。

「正直、オークは入りませんよ?人間族用ですし。」

「いや、構わんよ。正直ここまで完成されているとは思わなかった、おみそれいった。」

「フフッ、ありがとうございます。実は何台も作っては消えてるんですよ、これで3〜4台目ですかね。」

「ほう、ペルシェは何故にこんなに小型車に拘るんじゃ?」

「あたしの夢…ですかね。」

ペルシェには設計者・製作者として活動を続けているうちに3つの夢が出来た。

 

一つは『最速のレーシングカーを作る事』これはアスカニアに来て自動車レースを初めて見た時から抱いていた夢である。

もう一つは『内燃機関のトラクターを自分の手で作る事』自分の事を助けてくれた農家達を自分なりに報いたいと考えたからだ。

そして最後は『誰でも手に入れられる大衆車を作る事』であった。実は大戦後にペルシェはラーべと共にアスカニアに訪問した事があるが、そこで困窮する人々を見た時にこれからは誰でも手に入りやすい大衆車、しかも豪華な大型車では無い質素だが扱い易い小型車が良いと考えていた。

 

「夢か…良いじゃねえか、儂らにもその夢を協力させてくれんかのぅ?国民車計画についてはスタンレイから聞いてるじゃろ?設計はお前さんに任せる。」

「…自動車文化の無いオルクセンに、いきなり国民車ですか。」

「まあ確かにゼロからのスタートじゃな…でも、文化がないが故に固定概念も無いから恐らくじゃが、他の国よりもこの車は作りやすいじゃろう、しかもな…儂はこの国をここまでさせてグスタフ王は凄いし今でも敬愛している、でもそれよりも凄いのは初代のオルクセン王だと考える様になった。」

「どうしたんですか藪から棒に」

「ふふふ、それは有るものを更に良くするよりも0から1を作る方が途轍もなく労力も要るし、1にしたやつは偉大という事なんじゃ。まあ我が王も0から1にした物は多いがな、これから宜しく頼むぞ!ペルシェ!」

「…ええ、こちらこそ。」

こうして、オルクセンの国民車計画はヴィッセル社が担当する事となりその設計担当をペルシェが行う事決まり、計画は進行する事となった。

 

後日、ペルシェの事務所レギンはじめヴィッセル社の社員や軍の関係者等が集まっていた。

オーク、エルフ、コボルト、ドワーフ…将来の国民車を使うであろう4種族が集まっていた。

本日集まったのはペルシェが試作していた小型車に乗ってもらうためだ。

ペルシェが乗った試作の小型車が皆の目の前に到着する、この車はあの日以来倉庫の奥から引っ張り出されて再整備されて試走ついでに買い物車になっている。

この日のペルシェは作業着姿ではなく薄水色のワイシャツとベージュのスラックス、革のベルトを巻き革靴を履いていた。外に出る時や公の行事の時は大体これらしい。

ラーべは白いフリルが付いた白いブラウスに紺のロングスカート、そして革のパンプスを履いたエルフらしい格好になっていた。

各種族が実際に人間族用の試作品に乗ってみて実際にどうなるか試してみようとの事である。

人間族にも身体の大小あるが魔種族が乗るとなると大柄のオークから小型種のコボルトまでその差が顕著になりやすい。

なので実際に乗ってもらって大体のサイズ感を見てみる、そして魔種族用の車のサイズを考えるとの事だ。

大柄から小柄まで色々な体型の各種族というのがペルシェの注文であった。

「これが…」

「本当に小さいなぁ」

「これで馬なしで動くの?」

「馬車と違う形をしてるなぁ」

「成程、鉄を曲げて全体の強度を…」

各種族様々な反応を見せている、その中でも一際大柄の髭面で右に傷跡が付いたオークがいた。

「ほうほう、これが小型車の試作品かレギン殿!いやいや、これは可愛らしいのう!まるでうちの孫じゃな!」

何とあのオルクセン陸軍最高司令官、豪放磊落な軍の親父殿、アロイジウス・シュヴェーリンが来ていた。最近新たに孫が出来たらしい。

国民車の元となる他国向けに作った試作車があると聞いて是非この目で見てみたいとここまで押しかけたのだ。

流石に軍関係者は当然の事ながらヴィッセル社の面々も緊張の面持ちで、特にラーべは彼から出る雰囲気に負けたのか直立不動で額にに汗が垂れている。

しかし自由なエルフ、ペルシェはそんな雰囲気を介せず

「うわー、シュヴェーリンさんって特に大柄ですね。ここまでは見た事ないですよ」と呑気に言っている。

そんなペルシェにシュヴェーリンは少しキョトンとした後ガハハと大笑いした。

「流石じゃのう!まあそんな感じが天才というのを理解させてくれるのう!昔に我が王の車には少し乗らさせて貰ったが、自動車については不勉強じゃから宜しく頼むぞ!」

「ええ、こちらこそ…うおお」

シュヴェーリンがペルシェと握手して腕を振り、ペルシェの体が揺さぶられた。

 

そんなこんなで試作車乗車試験が始まった。

先ずはエルフ。ペルシェとラーべが普段使いしているので当然ながら入った。ただ後ろは背丈が高いエルフには少し足りないか。

続いてコボルト。ほぼ人間族の高さの種族なのでこのままでも大丈夫、しかし小型種はハンドルは触れてもペダルに届かない種類がいるのでそこは工夫が必要だ。

次にドワーフ。こちらもコボルトと同じくペダルが届かない者がいた。やや小さめな背丈の種族のためこちらも工夫が必要だ。

さて最後、このオルクセンで車を最も使うであろう種族、そしてこの国民車計画で一番の壁になるであろうオーク族である。下手したら車を壊しそうなので最後に入ってもらう。

先ずは小柄なオーク族が2人、後部座席に入る。

予想通り、ぎゅうぎゅうになった。高身長なエルフより身長は低い為頭はギリギリついてないが横が明らかに大きい為苦しそうだ。車もぐんとリアが沈む。

「ぐええ….」

「苦しい…」

こんな断末魔が聞こえるがまだ終わりではない。これから前にオーク2人、しかも1人はシュヴェーリンに乗ってもらうのだ。

運転席に中型のオーク、助手席にシュヴェーリンが入る。

案外いけるかも…と思ったのも束の間、車は地につきそうなほど沈みシュヴェーリンは助手席でも頭を入れるのにも一苦労で後ろは更なる密度感で大変なことになっている。

「ほれ!もうちょっとそっちいけんかのう!?」

「無理です総司令!これでは運転出来ません!」

「痛い!いたいです!」

「助けてーっ!」

阿鼻叫喚の光景が繰り広げられてる中心配そうに見てるコボルトや「案外丈夫だな」と思ってるドワーフがいる中、

ペルシェがポロッと一言呟いてしまった。

 

「まるでブルストだねぇ…」

「失敗した、な」

 

レギンの返答にオーク以外の全員が吹き出してしまった。  

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