オルクセン自動車史〜世界は如何にして白エルフの作った自動車に憧れたのか〜   作:味家

4 / 7
ボディとシート

 

 

陸軍総司令官以下オーク達による「失敗したヴルスト」が披露された日から大体1週間が過ぎたある日。ペルシェはヴィッセル社へと赴き制作の実務を行うドワーフと会議を開いていた。

やはり一番はボディの問題だろう。

オルクセンはオークを乗せる馬車とそれを引く重種馬の身体が大きい為道は広い。

だからってオークが快適に乗れるまで大きくしたら今度は別の種族の取り回しがキツくなるし、もし将来、周辺諸国をこの車で回るときには路地の多いところではきっと不便に感じる。

結果として平均的なオークがギリギリ乗れる様になるまで車体が拡幅されることとなった。

大柄のオークは「完成されたヴルスト」くらいにはなる。

最も、全てのオークが快適に乗れないといけないというのが理想だがそれには根拠がある。

ヴィッセル社がオルクセン軍から取り寄せたオーク族の身体検査データである。

これは軍が徴兵時配属や健康状態を見るために一括で身体検査と健康診断を行い、それを記録して保管していたのを身長と体型、服のサイズのデータを取り寄せていた。

そこには中央値を超えたオークは約10%くらい、そこからかつての我が王や軍の大親父等の大柄と呼ばれるオークは大体5%程度なのだ。

残りの90%は平均かそれ以下、何せ魔種族統一の国民車を作成するのだ、最大多数が最大幸福を求めればならない。

「それでも人間族でいう大型車レベルはあるけどねぇ…」

ペルシェはふうとため息をついた。

駆動方式は車室が最大限使えるフロントエンジン、フロントドライブも検討されたが、この時代はまだジョイント部の信頼性が不足しており、構造も複雑等の理由により見送られ、ペルシェの試作車の通りシンプルなリヤエンジン、リヤドライブに決定した。フロントシートは運転席と助手席がつながっているベンチシートタイプ。

足元も最大限使える様にシフトは運転席と助手席の間に生えている様に付けるのではなくインパネ部に付ける様になった。これで足元に余計な物が付いてないのでシフト操作も問題なく行える…がインパネシフトの為シフト操作の感覚が少し独特なフィールになってしまった。

そしてそのシフトが為に変速をどう伝達するかが議論になった。

「さて、インパネに付けるというのは決まったけどどうしようかな…」

「ペルシェさん、一つ提案があるんですがね、今回使う車にはロッド式ではなく、ワイヤー式を採用したいと思ってるんですよ。」そう言うのはヴィッセル社の技術者で今回の国民車を製作を現場で指揮するドワーフ族、ドムズ・デロイトだ。

「元々、オルクセン製の戦車計画の為に研究していたのですがね」そう言ってデロイトは2本の樹脂素材に包まれたワイヤーを持ってきた。

ワイヤー式は一本のロッドで直接シフト操作を伝達するロッド式とは異なり、ワイヤー式はシフトの列を決めるセレクトケーブルと実際にシフトを入れるシフトケーブルの2本で構成される。

『H』の文字で例えると横線を移動するのがセレクトケーブルであり、縦線を移動してギヤに入れる役割をするのがシフトケーブルである。

「シフトチェンジに必要なのは2本のケーブルのみです。整備性は少し難がありますが、取り回し次第では室内空間に制約がなくなりますな、ロッド式の方が直接繋げるのでそちらの方が安心感はありますが、何せ魔種族統一自動車と言う事ですからフロアには余計な出っ張りをつけたくはありませんからな。」

「成程…良いねそれ、採用。だとするとシャーシを根本から設計する必要がありそうだなぁ。」

「正に、あの車はオーク4人の体重に耐えられましたが足元を広く取りながら同じくらいかそれ以上の剛性を持ったシャーシでないと。」

「ラダーフレームの方がやりやすいけど、ドワーフとか小型種のコボルトが乗りにくくなるしなぁ。」

前にペルシェが作った試作車のフレームはシャーシの中心に一本の太い鋼管が縦断しているフレームタイプになっている。

それを長い試行錯誤の末にフレームを周囲に配置するペリメータータイプのフロア一体型フレームを開発、底床ながらも広い車内を実現させた。

さらにペルシェたちを悩ませたのがシートである。

人間族以上に体型の差がある魔種族はクッション等でどうにか出来るレベルでは無いのでシートそのものを動かせる様にしなければならなった。

しかし、シートの前後を移動させるシートレールはあったもののそれ以外での調整手段がなかったのだ。

しかもコレを改良しようにもペルシェ達は国民車のシャーシやボディ、そして『その他』の事で手一杯になってしまいシートまで手が回せない状況になってしまった。

そこでペルシェ地元にある家具職人に助けを求めた。

 

後日、

 

「…成程ねぇ、新しい車のシートねぇ」

「そう、ちょっとマレっちゃんに助けてもらえないかなと思ってね。」

ペルシェが国民車に付けるシートの開発を依頼したのはペルシェの事務所の近くに家具製作会社を経営するオークの牝、マレリ・インパルだ。

元々夫が開いたオークの為の家具工房だったが幼い双子二名を残して『ベレリアント』で戦死。牝手一つで子供と工房を育て上げ、今は南部ではそこそこ有名な会社になっている。

ペルシェは先の大戦でトラックの整備と並行して 車体をオーク用に再架装して欲しいと頼まれた時に頼ったのが近くにあったインパルの工房である。

ペルシェの要請にインパルは快諾し、ペルシェが設計したオーク用ボディに修正入れてオークが快適に乗れる様にして、その架装を従業員と共に作り上げたのが彼女達である。その時からペルシェとラーべの良き友人である。

「勿論よ!ジルちゃんのお願いなら幾らでも聞いちゃう!」

インパルはその豊満な胸をポンと叩く。彼女はオークの中でもかなりの美人でグラマラス、その為か他の牡からも求婚される事もあったが亡き夫一筋と断っている。

それに比べて本当にちんちくりんだなぁあたしの身体…とペルシェはインパルと会う時に『オークの牝はいける!寧ろイカされたい!』と何時も言っていたアスカニア時代の人間の同僚の顔を思い出しながら毎回そんな事を思っていた。

 

そして数ヶ月後、自身の事務所で三徹目で限界に近いペルシェ達の元へ試作品が出来たとインパルから連絡があった。

完成されたシートは他国から輸入された自動車に付いていたパンタグラフジャッキから連想されたシートリフター、ラチェットが付いて自由な角度でリクライニング出来る所謂現代のシートと同等のシートが出来たのだ。

「私の親父が乗っても大丈夫だから強度も問題なしよ!」インパルはグッと親指を立てる。

勿論この機能が付いたシートは星欧どころか世界初である。

「驚いた…これは素晴らしい。」ドムズは感嘆の声を出す。

他のヴィッセル社の技術者達も構造を確認しながらああだこうだと言っている。

「ありがとねマレっちゃん、助かったよ…あとこれはちゃんと特許取った方が良いよ。」

「良いわよそんなの!ジルちゃんのお願いだもん!後、特許ってどういうことかしら」

「これは自分が知ってる限りでは世界初のシートだしね取った方がお得だよ。そして、もし良かったら、マレっちゃんのところでシートを作ってもらおうかなと思っていてね…やっぱり、正しい運転姿勢で車を乗ってもらう事は大事さ。これからもよろしくね。」

 

その後のインパルの会社はというと南部のオーク向け家具工場からヴィッセルワーゲン、ペルシェ、NMWのオルクセンの自動車メーカーのシートを一手に担い、そのうちペルシェのレース活動用にスポーツシートを開発、後の「バゲットシート」制作する国際的に有名な会社になる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。