オルクセン自動車史〜世界は如何にして白エルフの作った自動車に憧れたのか〜   作:味家

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ヴィッセル・トラクター

 

自動車とは、いやそれ以外にも製品の開発とはある日突然魔法の様に出現するものではない。

 

先ずはどの様な製品を作るか構想を練る。

小型車か、大型車かはたまたレースをする車か。どの様なボディ、エンジン、足回りにするか…

誰に向けてこの製品を届けるのか、どの様な価格帯にするのか色々と決めなければならない。

今回は国民に向けた種族統一の大衆車になった。

ラダータイプのフレームに木製ボディが乗っているタイプの従来の自動車ではなく、ペリメータータイプの鋼製シャシーにこれまた鋼製のボディが乗るといった代物のなる。

そして恐らく、世界史上初であるワイヤータイプのシフト機構とシートリフターが付いた種族統一シート…

エンジンに関してはまだどの形になるか分からないが、足回りに関してはペルシェ殿はある発明をとうの前にしていた。

トーションバー式サスペンション。

トーションバーのアームのねじれを利用して衝撃を吸収、そして油圧式のショックアブソーバーで減衰をする。

ペルシェ殿とその助手のラーべ殿が共同で開発したと言う。

他国の自動車ではこの方式を採用している所が出て来ており、アスカニアでは戦車に使われていると言うこの方式。

この方式だけでもペルシェ殿は世界の自動車史に残る発明をしていたようだ。

最も、彼女は「こういうねじれ棒という構造を昔に勉強していてね、どうにか自動車にも使えないかなって思って」と言っていた。 

彼女達は本当に勉強家である。暇さえあれば王立図書館で工学本を読んでおり、ヴィッセル社内でも資料や設計図を読み漁っている。それで得た知識を自分の技術として落とし込んでいる。

技術の進歩について行けずに昔の栄光に縋るものも多い、思えば我が王もかなりの読書家であり、噂レベルだがあの豪放磊落な軍の親父殿もかなりの勉強家、やはり生涯学ぶ姿勢を見せる事こそが今の時代でも活躍出来るのだとひしひしと感じる。

だがしかし、彼女と我々を持ってしてでもそ国民車というものは産み出すのは困難の連続であり、時間がかかる。

ですから、開発にもう少し時間を頂きたいと願っている、この車が完成された暁には、豊穣の大地がもっと魅力的な物になると確信している。国民車は必ず完成いたします、ですから重ねてしばし時間を頂きます。

 

追伸

 

「そんなのパパって出来ないんですか?だってヴィッセル社ですよね?」とかいう連邦のクソ髭面官吏や「たいへんなんですねぇー。わたしぃー、もっとすぐにできるとぉ、おもっちゃいましたぁー」とか頭が空でなんで官吏なんかになれたんだという牝オークを一々つけないで貰いたい、政府からの要請や情報提供は全て担当であるスタンレイ殿に連絡役をして頂きたい。

 

………とまあそんな事言ったのかはさて置き、ヴィッセル社と連邦政府とのやり取りや交渉はなんと創業者のヴェスト・レギンが行っていたのだ。

押しかけられた勢いで国民車構想を受けてしまった責任というのもあるが開発チームには開発に集中してもらいたいという事でレギンが率先して行っている。

そしてその中心である彼女、ペルシェの発想と技術を認めておりその力を存分に発揮してもらいたいと思っていたのだ。

……まあ最近の星欧世界のキナ臭さに対して人(?)財が外交や防衛に、内政も本当の生命線である部門に回されておりその残った官吏が担当になってるのでそこにレギンが呆れていて絶対あのアホどもをペルシェに会わせるかと思いやっていたというのもある。

 

「何考えてるんあの人…こんなの出せんてあの人らに…」

連絡役に任命されたスタンレイがレギンから渡された手紙を確認し、呟く。

なおこれで最も胃を痛めたのは言わずもがなスタンレイ氏であったのは明白であろう。

 

 

さて後日、ここはオルクセンのとある農事試験場。

 

オルクセンの豊穣の大地を耕す農家達が見るのは一台の自動農耕機…いや「トラクター」と言ったところだろう。

そのトラクターに乗っているのはクルディナ・モリエンド嬢、ヴァルターベルグで農業を営む闇エルフだ。

彼女がおっかなびっくり操作しているのは内燃機関を使ったトラクター「ヴィッセル・トラクター」である。

オークの体重に耐える為新機軸の3気筒ジーゼルエンジンを積んだオルクセン初の国産内燃機関トラクターであり、しかも世界初のジーゼルエンジン搭載のトラクターとなった。

 

内燃機関トラクターとしては北センチュリースターのフィード社が開発、販売しておりトップリンクとロアリンク2点で作業機を繋いだ3点リンク機構を採用し、作業機を動かすための動力取出軸(PTOシャフト)を備えた物を開発しておりこれが初めての内燃機関トラクターである。

しかし、ヴィッセル・トラクターではフィード社のトラクターの欠点であったPTOシャフトの回転数の不安定さや走行用クラッチを切ると作業機も止まるという症状をドライブシャフトと別にPTOシャフト独自でエンジンから駆動力を取れる様にし、独自のクラッチで切り替えを行いレバーの操作で自由自在に作業機を使える様にした。

勿論これは革新的な発明であり、これで自由自在に作業機を使い畑を綺麗に耕せた。

 

またこのトラクターには手動デフロックと他に試験的に車軸作動制限装置、所謂リミテッドスリップデフ(通称LSD)が使用された。

これは元々は某国民車開発のトップのエルフがヴィッセル社内で転がっていたVf社の航空機用エンジンを車体を取り付けてアウトバーンで走らせるというなんともエキサイティングな遊びをしていた時、片側のタイヤのみに駆動力が行ってまともに走らないのを見た某エルフがアイデアを出しそれを受けたドワーフ達が開発した物だった。

流石にトラクターの量産車ではこれはつけられなかったが後々の軍事車両やモータースポーツでは標準装備となっていった。

 

「どうだい、お嬢さん。乗り心地は?」

ヴィッセル・トラクターを設計・開発した白エルフ…ジルベルト・ペルシェはクルディナに問いかける。

ペルシェは国民車の他にこういう事も同時並行でやっていた。

「これ凄いです…今迄の蒸気トラクターより簡単に扱えてこんなに綺麗に耕せるなんて…これならもっとにんじんが作れそうです」

「それは良かった!気に入ってくれて嬉しいよ!」

ペルシェは満面の笑みでクルディナに言った。

「俺にも乗らしてくれ!」

「ちょっと待て、俺が先だ!」

「ちょっと痛いわよ!」

「おっと済まねえお嬢ちゃん!」

その後ろでは農家のオークやエルフ達がやんややんやと我先にとトラクターの試乗に群がっている。

ペルシェはこの光景を見てこれで助けてくれた農家のオーク達に報うことが出来ると思った。

 

「ヴィッセル・トラクター」はペルシェ最初のヒット作品と言われる程オルクセンや周辺国で広く販売された。

オルクセンでは政府から購入奨励金が出ていたので安く販売する事が出来、国内で瞬く間に浸透し、農業地帯を走るとこれを見ない日はないという位に普及した。

またグロワールやキャメロット等の周辺諸国、さらにはロヴァルナにまで輸出され不景気の後遺症が続いていたヴィッセル社を大きく助けた。

ペルシェはこのヴィッセル・トラクターをほぼ自腹で周りの農家に提供をした。ヴィッセル社らしい無骨な外装からペルシェ独自の丸みを帯びたエレガントなデザインに変更された。これらは「ペルシェ・トラクター」と呼ばれ、僅かに10台程度しか生産されず今となってはオルクセンのペルシェ・ミュージアムと秋津洲にあるトヨカワ博物館にある2台が現存するのみとなっている。なお2台とも動態保存状態でトヨカワ博物館ではたまに実走が見れる。

 

「では、あたしはまた事務所に戻りますから後はよろしく。」

「わかりました、それではお気をつけて。」

ペルシェは農事試験場で働く係員にそう挨拶をすると最近完成された第一弾の試作車の一台に乗り込もうとした。

「あの…」

そこへ今までトラクターを試乗していた闇エルフ、クルディナ嬢がペルシェに声をかけた。持っているのはカゴいっぱいの人参。

「これ、食べてください。沢山採れたんです、甘くて美味しいですよ。」クルディナはペルシェに籠ごと人参を渡す。

「これはこれは…ありがとう、美味しくいただくよ」

ペルシェは微笑む、そして試作車の助手席に人参を乗せる。

それを見ていたクルディナは、一つペルシェの首元について気づいた事があった。

「……あの、ペルシェさ」

「改めてありがとう!それじゃちょっと急ぐから!ごめんね!」

クルディナが言う前にペルシェはすぐに試作車に乗り込みそのまま発進、あっという間に去っていった。

ペルシェの車が小さく遠くなっていくのを見てクルディナは呟いた。

 

「あの人…白銀樹の護符、つけてなかったなぁ。どうしたんだろ。」

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