ライスシャワーはお義兄さまと結婚したい   作:雅媛

12 / 23
6-2 夏合宿 Side:RiceShower

夏といえば、夏合宿。

 青春の1ページであり、恋する乙女にとっては勝負の季節でもある。

 

 私とお兄さまも、トレセン学園恒例の夏合宿へとやってきていた。

 青い海、白い砂浜、照り付ける太陽。

 本来なら、リゾート気分で「キャッキャウフフ」なバカンスを楽しみたいところだけれど、ここは地獄の強化合宿所。砂に足を取られながら走り込む、過酷なトレーニングの日々が待っている。

 

 けれど、私にとってはそんなこと関係ない。

 だって、お兄さまと四六時中一緒にいられるのだから。

 汗を流すお兄さま、真剣な眼差しで指導するお兄さま、夜風に吹かれるお兄さま……。

 この合宿中に、トレーナーと担当ウマ娘という関係を一歩進めて、あわよくば「男女の仲」に持ち込む。それが私の裏メニューだ。

 

 気合十分で砂浜に向かった私だったけれど――そこで私は、いきなり心臓を鷲掴みにされるような衝撃を受けた。

 

「よし、ライス! 準備運動は済んだな。まずは軽く流すぞ!」

 

 振り返ったお兄さまの姿を見た瞬間、私の思考回路はショートした。

 

「……は、はいっ! ……って、お兄さま?」

 

 嘘でしょ。

 なんで、なんでお兄さまも水着なの!?

 

 そこにあったのは、あまりにも無防備に晒された、男性の肉体美だった。

 普段はジャージやスーツに隠されていてわからなかったけれど、お兄さまの体は完璧に鍛え上げられていた。

 彫刻のように割れた腹筋、厚みのある大胸筋、そして引き締まった腰回りから伸びる、しなやかな脚。

 水着の面積は驚くほど小さく、それがお兄さまの男らしさをこれでもかと強調している。

 

 ――ッ!!

 鼻血が出るかと思った。いや、実際少し出ていたかもしれない。

 これは凶器だ。

 思春期の、しかもお兄さまに恋い焦がれているウマ娘に見せるには、あまりにも刺激が強すぎる「歩くフェロモン発生装置」だ。

 

 当然、私の目は釘付けになる。

 あそこをツンツンしたい。あの胸板に顔を埋めたい。あの腕に抱きしめられたら、きっと骨抜きにされてしまう。

 妄想が暴走し、顔から湯気が出そうになったその時。

 

「あら、あのトレーナーさん、いい体してる……」

「腹筋すごくない? 触ってみたいかも」

 

 風に乗って、そんな不穏な声が聞こえてきた。

 ハッとして周囲を見渡すと、休憩中の先輩や他のクラスの子たちが、熱っぽい視線をお兄さまに向けているではないか!

 

 ダメ。

 絶対にダメ!

 その体はライスのものなんだから! タダ見なんて許さない!

 

 私は瞬時に「独占欲全開モード」に切り替わり、お兄さまの前に立ちはだかった。

 両手を広げて、これ以上その危険な魅力を周囲に振り撒かないようにバリケードを作る。

 

「だ、ダメ! ダメだよお兄さま!」

「何がダメなんだ? ここでの水着着用はルール違反じゃないぞ」

 

 お兄さまはキョトンとしている。

 この人は……自分がどれだけいい男で、どれだけ周囲の女豹たちを刺激しているか、全く自覚がない!

 

「そうじゃなくて! ……みんなが見てるの!」

「ライスの気にしすぎだって。自意識過剰はよくないぞ」

 

 気にしすぎなものですか!

 現に、あそこの先輩なんて目をハートにしてよだれを垂らしそうになってるじゃない!

 

「いいから! さっさとこのパーカー羽織って!! 前もチャック閉めて!」

 

 私は脱ぎ捨ててあったパーカーをひったくり、お兄さまに無理やり着せた。

 ブーブー文句を言うお兄さまのチャックを首元まで閉めて、ようやく一安心。

 ふぅ……危なかった。

 とりあえず封印完了だ。でも、あの水着姿は私の脳内に完全保存した。あとで二人きりの時に、こっそりアンコール上映をお願いしよう。そうしよう。

 

 

 

 お兄さまの露出対策も終わり、気を取り直してストレッチを始めた時のことだ。

 背中に、熱っぽい視線を感じた。

 お兄さまだ。

 お兄さまが、私の体をじっと見つめている。

 

 私の鼓動が跳ね上がる。

 今日の私は水着だ。

 スクール水着のような競泳用だけど、体にフィットするデザインで、体のラインがはっきりと出る。

 お兄さまのために、プロテインを飲んで、スクワットをして、少しは女性らしい体つきになったつもりだ。

 もしかして、気づいてくれたのかな。

 ライスがもう子供じゃなくて、魅力的な女の子になったって。

 

「……お兄さま、何を見てるの?」

 

 期待と羞恥を込めて尋ねると、お兄さまは真顔で答えた。

 

「ライスの尻と太もも。太くなったなって」

 

 ――ッ!!

 ド直球!

 あまりにもストレートな指摘に、私の思考は真っ白になった。

 し、尻!? 太もも!?

 そ、そこを重点的に見ていたの!?

 

「お、お兄さまのエッチ!!」

 

 私は思わず叫んでしゃがみ込んだ。

 顔が熱い。全身が火照る。

 まさかお兄さまが、そんな目で私の下半身を見ていたなんて!

 

「だ、だって! そんな真顔で……じろじろ見て……!」

「いや、見惚れていたんだよ。素晴らしい成長だと思って」

 

 み、見惚れていた……!?

 

「み、魅了されてたの!?」

「ああ。ライスの体に魅了されてしまって、目が離せなかった」

 

 決定打だった。

 お兄さまの口から「魅了された」なんて言葉が出るなんて!

 これはもう、愛の告白と受け取っていいのでは?

 私の体に欲情してしまったということだよね? そうだよね?

 

「体目当てってこと!? お兄さまは、ライスの体が目当てだったの!?」

「どこからそういう言葉を覚えてくるんだ。少女漫画の読みすぎだぞ」

 

 お兄さまは慌てて否定しているけれど、男の人の本能は隠せないはずだ。

 だって、「目が離せなかった」んだから!

 

 私はドキドキする胸を押さえながら、お兄さまを見上げた。

 困ったような、でもどこか熱を帯びたように見える瞳。

 もし、お兄さまがそれを望むなら。

 私が大人になるのを待てずに、今すぐ私のすべてを求めているなら。

 

 ……覚悟を決めるしかない。

 

 私はもじもじと指先を合わせ、勇気を振り絞って蚊の鳴くような声で言った。

 

「……でも」

「でも?」

 

 私は潤んだ瞳で、上目遣いにお兄さまを見つめた。

 私の精一杯の、愛の誘惑。

 

「お兄さまなら……いい、よ」

 

 好きにしていいよ。

 お兄さまになら、ライス、何されても受け入れるよ。

 さあ、優しく抱きしめて!

 

 甘い沈黙が流れた。

 波の音が遠のく。

 お兄さまが、ハッとしたように息をのむ音が聞こえた。

 伝わった。私の想いが、覚悟が、お兄さまの男心に火をつけたんだ!

 

 お兄さまが大きく口を開く。

 どんな甘い言葉が飛び出すのか。

 「好きだ」? 「愛してる」? それとも「部屋に行こう」?

 

「よし! じゃあランニングに行ってこようか!」

 

 ……はい?

 

「今日のメニューは砂浜ダッシュ20本だ! 俺も走る! ついてこい!」

「え……えええーーー!?」

 

 お兄さまは爽やかに言い放つと、脱兎のごとく走り出した。

 ま、待って!

 今の流れは、どう考えてもラブシーンへの導入だったじゃない!

 なんでそこで「砂浜ダッシュ20本」が出てくるの!?

 色気より食い気、ならぬ、色気より走り込み!?

 

「待ってよお兄さまー!」

 

 私は慌ててお兄さまの背中を追いかけた。

 悔しい!

 せっかくの決死の誘惑が弾き返された!

 この鉄壁の鈍感要塞め!

 

 けれど。

 砂を巻き上げて走るお兄さまの背中は、やっぱり大きくて、頼もしくて。

 パーカー越しでもわかる逞しい筋肉が躍動しているのを見ると、胸がキュンとしてしまう。

 

 ……まあ、いいか。

 私の誘惑は失敗したけれど、こうして二人で汗を流して、同じ方向に向かって走れるなら。

 それに、お兄さまは私の体を「魅力的だ」と言ってくれた。それは事実だ。

 今はまだ、トレーナーと選手としての信頼関係が勝っているだけ。

 いつか必ず、その理性のタガを外させてみせるんだから。

 

 私は砂に足を取られながらも、必死にお兄さまの後を追った。

 というかお兄さま速くない? 全然追いつけないんだけど!?




評価お気に入り・感想お待ちしております

雑談等はディスコード鯖
https://discord.gg/92whXVTDUF

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。