Exist of If Dream[Limited] 作:一般通過みゅーたいぱー
「...ふぁ」
あくびが出た。
人間として当然の行動だ。
続いて伸びをする。
これも人間ならやる。
しかしここが、
「暇だ」
ひょんなことから迷い込んだ、VRミーティングルーム、通称みゅーたいぷチャットルーム。
寝落ちてログアウトすることもなければ、起きたら別の場所に移っているなんてこともない。
俺の現実の体は、一体...?
物思いに耽っていると、視界の右端が若干光った。
「...なにしてんの?」
「...仮眠」
光る演出はどうやらログイン/アウトの演出のようだ。
そして今入ってきたのは黒ピンクツートン、千石ユノ。
「寝るならリアルで寝なよ。休まった気しないでしょ」
「...生憎と、リアルの体がどこにあるか知らないもんでね」
「は?なにそれ」
なにそれといわれても事実だしなぁとしか。
文字通りの飛び入り参加をした俺のデータが問題なくここにあること、しかし自発的にログインした記憶のないここに俺が問題なく存在できること。
導かれる答えは、ただ一つ。
「俺が世界で初めて、データ間の移動を可能にした仮想生命体だからだってとこかな」
「アニメの見過ぎ」
「アッアッ」
冷静に突っ込まれて横転、俺カオナシ。
「ていうか、仮にそうだとしたら、あたしよりAIだよ」
「え、千石さんAIだったの?」
「違うけど、勝手に言われてるだけ。この前なんてロボットかどうかのテストされたし」
確かに冷めてる人ではあるけど、音楽に関しては逆に熱いというか...寧ろ全てを音楽に注ぎすぎて他が軽薄になっているような...あるいは――
「...音楽に入れ込む事情があるかどうかかなぁ」
「何ぶつぶつと」
「いや、人と関わらないのに音楽だけはまじめに作ってるから。なんか事情があるのかなって」
千石さんの目が見開かれた。
「...あんた、なんでわかったの」
「...予感がしただけだよ」
「...今の話、誰にも言わないで」
「わかった」
どうやら図星だったようだ。
人のデータを覗くのはよくないね、まったく。
と、また視界の端で煌めく。
「ののちゃん参上!!」
「ん」
「ユノちゃーん!!」
「近い、離れて」
コントか?
と、白い眼が俺を捕らえた。
「あれ?この人昨日の...?」
「どうも」
「ののちゃんです!あなたは~?」
「...カナタ」
「カナタ君!こんにちは~!!」
VR空間特有の浮遊を活かして空中ダイブを仕掛けてくるののちゃん。
間一髪で回避すると、ののちゃんは顔面から床に突っ込んでいった。
「むむむ...躱された...」
「躱せるだろ...あと絵面がダメだから」
「ののちゃんは気にしな~い」
「気にしろよ」
起き上がってなお突っ込んで来ようとするのを片手で制す。
と、震えた声で名前を呼ばれたのでそちらを向けば、顔色が悪い千石さん。
しきりに震え、「いや、そんな、わけ」とうわごとを繰り返している。
「ユノちゃん?」
「カナタ...?カナタって...そんな、だって、あの時...」
「お、おい...」
手を伸ばすと、対応するように千石さんの足が一歩下がった。
「ごめん宮永さん、あたし今日休む」
いい終わりと同時に、姿が消えた。
「...なんだったんだ...?」
「ユノちゃん、心配...」
VR空間から戻ったあたしの頭は、いまだに真っ白なままだった。
あの声、話し方。
無意識に思い出さないようにしてただけで、ずっと覚えてた。
カナタ。
1年前に