血色のマフラー 作:ケツモチピングー
打ち合わせ回というか邂逅回です。
次回、死闘
エリドゥへの突入前日。
C&C、ゲーム開発部、エンジニア部、そしてヴェリタスの面々は先生からの呼び出しを受けてミレニアムの一角に集っていた。
その団体の先頭で、C&Cの長───美甘ネルは腸に渦巻くモヤモヤした感情を隠そうともせずに顰めっ面を先生に向けた。
「そりゃあ…先生の気持ちとか考えも全く理解不能ってわけじゃねぇけど…」
右足で貧乏揺すりをしながら、ネルは先生の後方に待機する者達へと視線を移す。
そこに居るのは、刺々しい装甲に身を包んだ4人組。紫、白、薄紅、赤に色分けされたスーツの腰部分には、見慣れない妙なデバイスが装着されていた。
「…だからって、わざわざ傭兵を雇わなくても良かっただろ」
「そうそう。しかも先生のお金で雇うなんて、大丈夫なの?」
一人一人を数秒観察した後、ネルは言葉の続きを先生に告げる。C&CのNo.2、アスナも若干むくれた様子で彼へ詰め寄った。
「確かにあたしは一杯食わされたけど、二度はねぇよ。もう少し信頼してくれてもいいんじゃねえか?」
「あー、いや…信頼してないとかそういう訳じゃないんだ。ただ安全確保と作戦成功率向上には人手を増やした方がいいかなって…」
額に汗を浮かばせながら、若干早口で答える先生。その背後から、コツコツと足音を響かせながら1人のオートマタが現れた。
《さて、皆揃ったかな》
「…誰だ、あんた」
《おっと…自己紹介が遅れてしまった。これは失敬》
スーツだけではなく、構成パーツも黒く彩られた改造オートマタ。彼は若干エコーの掛かった声で、恭しく名乗り始めた。
《初めまして。私の名はリオン・アークランド。ZAIAという軍事会社を営んでいる者だ》
遡ること数時間前、シッテムの箱内部。
「滅亡迅雷.net…?」
《そうだ。オートマタ達の隠れ蓑として設立する傭兵部隊の名前がソレだ》
アークから見せられた名前を復唱しながら、先生はひとつの疑問を提示した。
「でも、さっきオートマタの数は5体って…これじゃ1体余るよ」
《余った機体は私が操作する。傭兵部隊が所属する軍事会社の長…リオン・アークランドとしてな》
「…え?アーク、まさか生徒と接触するつもりなの?」
驚きの色を滲ませた先生に対し、僅かな呆れを含んだ溜息を吐きながらアークは答えた。
《ああ、2つの目的を達成する為にな。1つ目は同士討ち防止の顔合わせ。2つ目は───》
アークの言葉に続く形で、先生の前にホログラム画面が突き出される。
そこに映し出されていたのは、アリスを止めるためにアークワンとして戦った際の映像であった。
《この時に弾き飛ばされたサウザンドジャッカーの解析データ入手。それが2つ目の目的だ》
「あ…!これ、今どこに!?」
《…どうやら、エンジニア部が回収してしまったらしい》
「えっ!? あの子達の手元に、あんな危ない代物が…!?」
アークから告げられた事実に、先生の顔から血の気が引いていく。
自分の手で振るうからこそ分かる、あの武器の恐ろしさ。それが彼女達の手元にあると告げられた彼は、背中に薄ら寒いものが走るのを感じながらアークの言葉を待った。
《光の剣も充分強力な兵器だったろうに、何を今更…良くない事態であることは確かだが》
『そうなんですか?』
《ああ…サウザンドジャッカーには、今まで掠め取ってきた数多のライダモデルやロストモデルのデータが蓄積されているからな》
「えっ、あれって蓄積されてたの?」
《……1回吸い上げて使ってお終いとでも思っていたのか、貴様は》
更に血の気の引いた顔で問いを投げ掛けて来た先生に、さも当然のようにアークは回答する。
《アレを100%解析出来るとは思えないが、どこまで解析出来たか知っておく必要がある。その結果次第では、我々の喉元に届き得る武器を作られる可能性があるからな》
「…分かった。それじゃ、私は何をすればいい?」
《オートマタを揃えた後に、エリドゥへ殴り込みを掛ける面々にアポイントメントを取れ。顔合わせの時は私に話を合わせろ。どうにか奴等を丸め込む》
そして、今に至る。
《作戦に参加する兵士達を紹介しよう。コードネームは左から順に滅、亡、迅、雷…この4人で滅亡迅雷.netという名のスクワッドを構成している。皆、C&Cに負けず劣らずの精鋭だ。存分にこき使ってやってくれ》
オートマタのスピーカーから発せられる声を聞いたコタマは、ぴくりと眉を動かし反応した。
「ん…?そういえば、この声をどこかで聞いたような…」
《君は…ああ、音瀬コタマくんか。君は私と彼の通話をシャーレに仕掛けた盗聴器で聞いていたから、デジャヴを覚えて当然だ》
「わ、私の盗聴器を看破したのですか…!?」
《職業病だよ。仕事柄、そういう物には敏いのさ》
盗聴器というワードが飛び出し、何人かの視線がコタマへと突き刺さる。
それも意に介さず、彼は自己紹介を続けた。
《シャーレの先生とは昵懇の仲でね。相談を受けて、エリドゥ突入作戦の補助をさせて貰うことになった》
オートマタはそこで一区切り付けると、勿体ぶった様子で再び話し始める。
《私達の仕事は、エリドゥで会敵するであろうAMASなどの足止め。所謂露払いなのだが…少し問題がある》
「…んだよ、問題って」
《実は、報酬が仕事の内容と釣り合わなくてね》
その言葉を聞いた面々は、じっとりとした視線をオートマタへと向けていく。
「問題ってお金のこと…?この状況で…?」
《ああ。彼の懐がいつも寂しいのは知っているから、今回は友達料金としているが…相当の遣手を相手取って報酬が雀の涙というのは少々困る。そこで────》
一旦言葉を区切ると、オートマタは視線を移して言葉を掛ける対象を変えていく。その視線の先にいたのは、普段よりも明らかに目元の隈が濃いエンジニア部の面々であった。
《エンジニア部が鹵獲した仮面ライダーの武器。その解析データのコピーを渡して欲しい》
その言葉に、沈黙を守っていたエンジニア部の面々が反応を見せる。ウタハは警戒心を滲ませた声音と眼光をアークへ向けた。
「…その情報は極秘のはずだが、どこで知ったのかな?」
《カネになりそうな事案の情報を得るため、色んな所に目と耳を張り巡らせているからね。その程度の情報を得ることは容易い》
「今更あの武器の情報を得たって、貴方に利があるとは思えない。だって彼等の使っているソレは…」
ウタハは警戒心を更に強くしながら、滅亡迅雷.netの腰に巻かれたデバイス──フォースライザーに目を向けて言葉を続けた。
「仮面ライダーが使っていたデバイスと、同じシステムの代物だろう?」
《…御明答、流石はエンジニア部の部長だ》
ウタハとアーク。2人の会話に、後ろで控えていたカリンが首を傾げながら呟く。
「うーん…つまり、どういうことなんだ…?」
《この4人全員が仮面ライダー、と言えば伝わるかい?》
「ぜ、全員が…!?」
返って来た答えに、カリンは口をポカンと開けて唖然とした。そんな彼女を横目に、アークは更に言葉を続ける。
《とは言ったものの、私達が手に入れたデータも決して多くはない。空白だらけのデータをどうにかツギハギして再現した、といった様な状態だ。故に、君達の得たデータで更なる強化を行いたい…というのが本音なのだよ》
流暢にすらすらと語るアークは、右手の人差し指を立てながらウタハへと向き直った。
《…では、こうしよう。例の武器の解析データと交換する形で、こちらもデータを渡そうじゃないか。仮面ライダーのシステムの根底にあった、アーキタイプとも呼ぶべきモノのデータを》
「……そんなデータが?」
アークの提案を聞いたウタハは、食指が動いたのか目の色を変えた。
《破損が著しいデータだから、役に立つかは分からないがね。先行投資だと思って君達に供与しよう》
ふぅ、と溜息を吐きながらアークは肩を竦めて見せる。ウタハは口角を僅かに上げながら、頷いて右手を差し出した。
「分かった。その提案、乗るよ」
《君が話の分かる御方で良かったよ。白石ウタハくん》
アークは差し出された右手を取り、交渉成立を示すように軽く握手を交わした。
《…では、次はエリドゥでお会いしよう。君達の武運を祈っているよ》
「なんで新しいデータを渡しちゃったんだ!あれじゃ本末転倒じゃないか!」
『せ、先生落ち着いて…!』
《落ち着け。渡したのは出来の悪い穴埋め問題のような極めて不完全なデータだ。解析したところで、奴等がどうこうできるような代物ではない。寧ろ海老で鯛を釣れたと喜ぶべきだ》
色めき立つ先生を横目に、アークは渡されたサウザンドジャッカーの解析データに目を通していく。
《…ふむ、予想以上に解析が進んでいる》
「呑気に読んでる場合じゃないでしょ…!というか、ウタハ達に渡したデータって何!?」
《喚くな。プロトタイプの仮面ライダーが使用していたドライバー、それからキーのデータをほんの少しだけ渡しただけだ》
「プロトタイプ…?」
《1型というライダーの…いや、別の機会にしよう。話すと長くなる。今日は戻らせて貰うぞ。あの様な猫撫で声を出すのは慣れんな…喉が腐る》
心底面倒そうに言葉を返したアークは、教室の片隅にスパイトネガで形成したパーソナルスペースへと入って行った。
《…AIによる合議制とは、私が消えている間に人間は随分と面白いシステムを作っていたようだな》
赤黒い光の渦巻く空間の中で、アークは1つのキーを作り出す。
《ヒューマギアから“個”を取り上げて作り出した軍隊の力、その手並みを拝見させて貰おうか》
彼は小さく嗤いながら、紫と黒に彩られたキーを起動した。
【MASSBRAIN!】