血色のマフラー   作:ケツモチピングー

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予防線として言っておきます
アンチ・ヘイトはありません


5.未成年への主張

《最初に言っておくが、今回の作戦は貴様が変身することを想定していない》

 

“え?どうして…?”

 

 シッテムの箱の内部。作戦前の最終ブリーフィングの席で、アークが冷淡に言い放った。唐突な宣告に、先生は目を丸くする。

 

《考えてもみろ。仮面ライダーと同じ力を持った輩が活動している時に、貴様と入れ替わりにアークワン(あれ)が現れるなど正体を露見させるようなものだろう》

 

“…あー……。”

“それは確かに…。”

 

 ぐうの音も出ない正論に、先生は納得したように何度か頷いた。その隣から、アロナが心配そうに顔を覗かせる。

 

『でも、本当にあの4体のオートマタだけで大丈夫なんですか?戦闘用AIはかなり簡単な物だって…』

《…難航はするだろうな。スペックは申し分ないが、ラーニングの速度次第では飛鳥馬トキ相手に詰むかもしれん》

 

 アークはそう言いながら、ホログラムの指先で腰元から見慣れないプロライズキーを取り出し、二人の前に提示した。

 紫と白黒で彩られた、その物々しい形状のキーを見て、先生は首を僅かに傾げる。

 

“これは…?”

 

《マスブレインという集合知能システムの起動キーだ。各機体が得た情報をリアルタイムで同じネットワーク内へ共有・統合してラーニングを加速させる。本来はAIの統制に用いる物だが…》

 

 アークの淡々とした無機質な説明を聞きながら、先生は少しばかり唸っていたが、やがてポンと手を叩いた。

 

“…あ!もしかしてゲームの経験値ブーストみたいな感じ?”

 

《………ああ。まあ、そうだな。そう解釈すればいい》

 

 数秒の沈黙の後、アークは説明を諦めたように深く溜息を吐き、適当に話を合わせた。そして、左目の赤い視線を、再び先生へと戻す。

 

《重ねて言うが…今回の作戦、貴様は絶対に変身するなよ》

 

“それは…。”

“出来ない約束だね。”

 

 先生は困ったように、しかし遮る余地のない明確な意志を込めて微笑んだ。

 

《…予測通りの返答だ。貴様の性分は最早宿痾に等しいな。死んでも治りそうにない》

 

 アークは先生の腹部へ一瞬だけ視線を落とし、小さく鼻で笑う。

 

《……本当に、救い難い》

 

 それだけ言い残し、赤い残光と共にパーソナルスペースへ消えた。

 

 

 

─要塞都市エリドゥ・中心部─

 

❮リオ様、エリドゥの監視システムより報告が。エリアD-51ブロックに侵入者4名を感知しました❯

 

 此度の騒動における渦中の人物──調月リオは、薄暗い管制室の中で懐刀であるトキからの通信を聞いていた。

 彼女はモニターから目を伏せ、憂いを含んだ溜息を小さく吐き出す。

 

「…分かったわ。私はAMASの指示と“彼”の最終整備に専念するから、貴女はC&Cの対処をお願い」

 

 来て欲しくなかった。でも、来てしまった。

 結局、データの示した通りになる。

 

 若干の諦めと憂いを隠し切れない声音と共に放たれた指示だったが、スピーカーから返ってきたのは予想外の言葉だった。

 

❮ いえ、リオ様。D-51ブロックの侵入者はC&Cではありません。───いずれも、ミレニアムの……いえ、キヴォトス全域のデータベースのどれにも合致しない、正体不明の不審人物です❯

「…どういうこと?」

 

 リオの紅い瞳に、明確な動揺が走る。

 

「…トキ、映像を主モニターに回せるかしら」

 

 リオの硬い声に応じるように、正面の巨大な主モニターへとAMASからの追跡映像が投影された。

 

 ──そこに映し出されていたのは、キヴォトスの「生徒」とは明らかに一線を画す異形。

 紫色のスーツと不気味な装甲に身を包んだ人型の影が、夜闇に紛れる蠍のごとき俊敏さで、警備用オートマタの背後へと肉薄する。

 

【スティング ディストピア!】

 

 一切の迷いも無駄もない、冷徹な蹴りの一撃。

 火花を散らして崩れ落ちるAMASの映像を前に、リオはほんの少しだけ息を呑んだ。

 

 

─エリドゥ・D-32ブロック物資輸送用無人列車ターミナル─

 

「うわぁ…」

「なんと荒々しい…」

「派手にやってるねぇ…」

 

 モニターに映し出された仮面ライダー滅の苛烈な戦闘映像に、エンジニア部の面々が感嘆の声を漏らす。その背後から、リオン・アークランド───もとい、その皮を被ったアークが、愛想の良い声音で言葉を添えた。

 その傍には、滅を除く滅亡迅雷.netの3機が無言で控えている。

 

《派手にやってこその陽動というものさ》

 

 一同は物資輸送用無人列車ターミナルから地下道を経由し、エリドゥの中心部を目指して進んでいた。

 

「たった1人なのに、C&Cに負けないくらいの暴れっぷり…ちょっとビックリしちゃった」

 

《飛鳥馬トキに備えて、C&Cには弾薬と体力を温存する必要があるからね》

「…というか、ちょっと質問なんだけどさ…上司のアークさんまで現場に来る必要あるの?」

 

 モモイが走りながら、ふと疑問を投げかける。

 

《仕事の成果は自分の目で確認しないと気が済まないタチでね。何、いざという時は私も戦える》

 

 アークはそう言って、懐から深緑と白に彩られた見慣れない銃───ショットアバドライザーを取り出して見せた。

 キヴォトスの既存の銃器とは明らかに異なる、ソリッドで冷徹な駆動音を立てる未知の兵器。その洗練された、かつ異質なディテールに、ウタハの目が鋭く細められる。

 

「面白い構造の銃だね。後でじっくり見せてもらいたいところだけど……っと、そろそろ地上に出るよ」

 

 ウタハの報告と同時に重厚なハッチが開放され、地下通路へ冷たい外気が流れ込んできた。

 視界に飛び込んできたのは、煌々とした光に彩られた、冷徹なまでに洗練された超高層建築の群れ。

 

 一番乗りで外へ飛び出したモモイは、久々の空気を胸いっぱいに吸い込むと、元気よく大声を張り上げた。

 

「よーーし!外に出れた!」

「えーと…それで、次はここからどこに向かえばいいの?」

 

 快活な姉とは対照的に、あまりに壮大なスケールの未来都市を前に、ミドリが気圧されたように尋ねる。

 

❮アリスがいるのは恐らくエリドゥの中心部…。あのタワーの中に───❯

 

 ハレからの通信を遮るように、一際大きな爆発音が響き地面を揺らした。

 

「えっ!? な、何…!?」

《…ふッ、どうやら“ボス戦”が始まったらしい》

 

 アークは爆煙の上がるタワーを見上げ、芝居がかった調子で肩をすくめる。

 

「ボス戦!?」

《ああ、C&Cと飛鳥馬トキが会敵したと考えて良さそうだ》

 

 才羽姉妹からの問い掛けに答えようとしたその瞬間、アークの視線が、先程の爆発でヒビ割れた地面の裂け目へと釘付けになった。

 歪んだコンクリートの隙間から覗く、無数の油圧シリンダーと巨大な駆動ギアの群れ。

 

 それを目にしたアークの超高度演算が、最悪の予測を叩き出した。

 

《…この構造……まさか、都市の地形そのものが可動するというのか……?》

「アークさん…?」

 

 突如として、リオンとしての温和な仮面を剥ぎ取ったアーク。その声に宿った剥き出しの焦燥に、モモイたちは息を呑む。

 アークはインカムを乱暴に起動すると、怒号に近い通信を飛ばした。

 

《美甘ネル、聞こえるか! 急いでC&Cを連れてそこから離れろ!》

❮はァ!? ふざけてンのか!! 目の前にアイツが居るってのに───❯

《早くしろ! そのエリア諸共、他の連中と完全に分断されるぞ!》

 

❮分断!? 何言って───うぉおッ!? ちょ…ンだよ、コレ!?❯

❮……部長、これは…!❯

❮えっ、なにこれー!? 地面がグラグラしてる!❯

❮それだけじゃない、建物が動いて…隔壁が…!❯

 

 ──ゴゴゴゴゴ、と地底から響く重低音。

 モモイたちの視界の先でも、煌々とした光を放っていたはずの超高層ビル群が、パズルのように位置を入れ替え、巨大な壁となって通路を遮断していくのが見えた。

 

 スピーカーから聞こえる混濁した悲鳴と駆動音。

 アークは苦々しく、チッと口元のスピーカーから明確な舌打ちの音を漏らした。

 

《遅かったか…!》

 

 

 

─同時刻:エリドゥ・D-78ブロック─

 

 地鳴りを立てて現れた巨大な装甲障壁によって、強引に分断されたトキとC&C。

 厚い鉄壁の向こう側から、トキの淡々とした声が響く。

 

「この一体の都市構造を変更し、先輩方と隔離させて頂きました」

 

「おい! 逃げンのか後輩!!」

 

 ネルは怒声を上げながら、二丁のサブマシンガンから銃弾の雨を防壁へと叩きつける。だが、エリドゥの強固な装甲壁は、激しい火花を散らすのみで微動だにしない。

 

「いえ、逃げるわけではありません。『不審者』の排除を優先するだけです。先生達の制圧と、先輩方の相手をする程度の雑事は、その後でも遅くはありません」

 

「てめぇ…!!」

 

 自分が先程トキに告げた言葉の意趣返しをされ、ネルは顔を怒りで紅潮させる。

 

「…… 仕方ねぇ、ここで油売ってる暇はねェな。先生のところへ行くぞ!!」

「う、うん…!」

 

 ネルは荒い深呼吸で強制的に頭を冷やすと、アスナたちに合図を送り、先生との合流を目指して走り出した。

 

「…先生、聞こえッか。今、クソ生意気な後輩に逃げられた」

❮え? トキに…?❯

「…ああ。アイツ、先生達を狙ってソッチのエリアに向かってる。あたし達も今からそっちに───」

 

《その必要はないよ、美甘ネル》

 

 先生の通信へ強引に割り込んだ、リオン・アークランド───否、アークの冷ややかな声が、ネルの耳元で滑らかに跳ねた。

 

《…既に、毒牙は喉元へ向かっている》

 

 

 

「貴方は…」

 

 障壁に背を向けて歩き出したトキの眼前に、音もなくその男は現れた。

 紫のプロテクターを身に纏い、左手にアタッシュケース型の鉄塊───アタッシュショットガンを携えた戦士、滅。

 

 ──速い。

 態度には出さずとも、トキの全身の細胞が明確な警戒警報を鳴らした。

 効率的な資材運搬や防衛のため、エリドゥは極めて合理的な構造をしている。それを加味しても、配置されていたAMASやオートマタの防衛群を瞬時に無力化し、ここまで到達しているという事実がトキの警戒心を煽り立てる。

 

「…初めまして。わざわざ此方に出向いて頂き、ありがとうございます」

 

 近距離での対峙。トキは完璧な礼儀作法で挨拶を終えると同時に、愛銃『シークレットタイム』を構え、銃口を最短距離で滅へと向けた。

 

「申し訳ございませんが、此処は押し通らせて───」

 

──トキの言葉の遮断と、滅の消失は同時だった。

 爆発的な初速。過去に対峙したことのない、不規則な踏み込み。

 滅が手にした鉄塊が、風切り音さえ置き去りにしてトキの顎を斜め下から強烈に跳ね上げる。

 

「……ッ!!」

 

 予測不能の質量攻撃。直撃の寸前、トキはタイミングよく上体を反らし、スリッピングアウェイの要領で間一髪衝撃を逃した。

 それでも、殺しきれなかった重い衝撃が脳を激しく揺さぶる。

 視界が火花を散らし、鼻の奥がツンと焼けるような不快な匂いに満たされた。

 

「…なるほど。リオ様が酷く警戒するのも納得できます」

 

 トキは大きくよろめきつつも、バックステップで強引に距離を取る。

 そして、血の滲んだ口の端を軽く指先で拭った。

 

「ですが…問題はありません。立ち塞がるならば、その全てを排除しましょう。それが私の仕事ですから」

 

 

 

 

─エリドゥ・中心街道─

 

《……む、滅が飛鳥馬トキと交戦を始めたようだ》

 

「…滅さんが?」

「滅って、確か…あの紫色の人でしたよね?大丈夫なんでしょうか…」

 

 コトリが心配そうな声音で問いかける。アークは他の面々と共にタワーを目指して足を動かしながら、リオンとしての温和な声音で答えた。

 

《心配いらないさ。滅は滅亡迅雷.netの中でも一番の手練れだ。彼を信じよう》

 

 ──『マスブレイン』のラーニング効率計測とデータの蓄積には、あの飛鳥馬トキはうってつけだ。心の中でそう算盤を弾きながら、アークはインカムに触れる。

 

《…ウタハ、ヴェリタスとの通信は復旧出来るかい?》

「…ダメだね。さっきの区画変形に乗じて通信回線をジャミングされたみたいだ」

《… そうか。些か不味いね》

 

 ウタハとの問答が途切れた、まさにその瞬間だった。

 一同の行く手を遮るように、一機のドローン型AMASが音もなく空中へ静止する。直後、ドローンから幾筋もの青白いレーザーが照射され、夜闇の中にホログラムを編み上げた。

 そこに映し出されていたのは───渦中の人物。

 ミレニアム生徒会長、調月リオその人であった。

 

「…本当にここまで来てしまったのね、先生。生徒だけじゃ飽き足らず、他の大人まで巻き込んで」

 

“…リオ。”

“君を止めに来たよ。”

 

「…やはり、あの時の私の言葉と行動だけでは貴方を…そして、その子達を説得できなかったのね」

 

 先生からの言葉に、リオは目を伏せながらも口を開いた。

 生徒6人、大人1人、怪しげなオートマタ1機、厳つい鎧を纏った不審者3機を見据えてから、リオは問いかける。

 

「───貴方達は、トロッコ問題をご存知かしら?」

《…止まれないトロッコの行き先にいる大勢を助けるために、進路を切り替えて1人を犠牲にするのは許されるかという倫理学の問いか》

 

 困惑するゲーム開発部の面々を他所に、アークがリオの言葉に答えた。

 

《随分と手垢に塗れた問題だが…もしや、君はその分岐器を自分から進んで切り替えようと?》

 

「…ええ、そうよ。誰かがレバーを引く役割を引き受けなければならない。そして、私はその役割を喜んで引き受けようとしているだけ」

 

 リオは淡々と告げる。そこに憎しみもない。だが、友好もない。ただただ、告げていく。

 

「悪意も敵意も、端から持ち合わせていない。私はただ───」

《……フ、フフフフッ…! ああ、成程。なるほど、そういう事か》

 

 抑揚のないリオの言葉を、低く、低く響く地を這うような笑い声が遮った。

 アークの口元にあるスピーカーから漏れ出たのは、紛れもない『嘲笑』。

 

「……あ、アークランドさん…?」

「どうしたの…?」

 

 ヒビキやモモイが思わず一歩引くほど、その声は冷酷で、これまでの温和な大人としての響きとは明らかに一線を画していた。場に居合わせる生徒たちの背中に、正体不明の悪寒が走る。

 

「…何が可笑しいのかしら」

 

 リオの声音が、初めて明確な不快感に硬直した。

 

《……いや、とても子供らしく微笑ましい考えだと思ってね》

「…どういうこと?理解できないわ」

 

 アークの双眸が赤く光る。

 その光が、リオを見据えた。

 

《……ふむ、トロッコ問題か。ならば問おう。一体、誰が───君にレバーを預けた?》

 

 エリドゥの大気が、一瞬で凍りついたかのような静寂。

 向けられた底知れない眼差しに、リオは無意識のうちに喉を鳴らした。

 

「…何が言いたいの?」

《君は、ただただ傲慢だと言っているのさ》

「……傲慢、ですって?」

 

 リオの眉がぴくりと跳ね上がった。

 その端麗な貌に、それまでの憂いとは異なる、明確な拒絶と動揺の感情が初めて浮かぶ。

 

《そうだ。確かに君の言う通り、変数(アリス)には世界を滅ぼすだけの力があるかもしれない。それは認めよう。だが───》

 

 一息ついてから、うっすらと哀れみを滲ませた声音でアークは述べた。

 

《…アリス(やつ)は子供だ。そして君も同じく、まだ世界に翻弄される側の存在(コドモ)に過ぎない》

 

 一歩、アークはホログラムへ詰め寄る。

 

《だからこそ子供は先人からラーニング(がくしゅう)する。悪意(せかい)に容易く呑まれないように》

 

 もう一歩、詰め寄る。

 

《そんな不完全な幼子が、世界の命運をその小さな手に握っているだと? ───片腹痛い。それは、御伽噺の中だけの話だ》

 

 アークの人差し指が、ゆっくりとリオのホログラムに突きつけられた。

 

《…調月リオ、貴様は驕っている。自覚(あくい)無き驕りだ。確かに君はこれだけの都市を作れるだけの才覚があるのだろう、力もあるのだろろつ。だが…世界とは、数人の子供がどうにか出来るほど軽くはない》

 

 リオの瞳が揺れる。

 正面切って突きつけられた「傲慢」の二文字。

 久方振りの動揺が、彼女の心を激しく揺さぶっていた。

 

“…アーク。”

 

 追い打ちをかけようとしたアークの背後から、先生の低い声が響いた。

 

“それ以上は、許さないよ。”

 

 冷静な、しかし確かな怒りを孕んだ響きに、周囲の空気がピリリと張り詰める。

 

《…おや》

 

 アークは振り返り、先生の射抜くような視線を受け止めた。数秒、何かを値踏みするように赤い双眸を明滅させた後、観念したように肩をすくめる。

 

《…少々、口が滑り過ぎたか。兎にも角にも───》

 

「もうーーーッ!! 世界がどうとか分かんないよ!! 難しい話はいいから、アリスを返してっ!!」

 

 大人たちの間で破裂寸前だった重苦しい緊迫感を、モモイのよく通る大音量が力業でぶち破った。

 

「貴方は…」

 

 リオの紅い瞳が、アークからモモイへと移る。

 世界の命運を懸けた自らの覚悟を、アークに「自覚無き驕り」と断じられた直後。あまりにも直感的で、あまりにも子供じみた割り込みに、リオの精緻な思考回路は一瞬だけ停止した。

 そんなリオの戸惑いなど、今のモモイには知ったことではない。

 

「…全部聞いたよ。私が寝てた間のこと」

 

 一歩、今度はモモイがホログラムに向かって踏み出す。その小さな肩は小刻みに震えていた。

 

「名無しの噛み噛みの女王がどうとか、意味不明な難癖をつけてアリスを誘拐したらしいけど!」

 

「そもそもキヴォトスの脅威だとかなんとかって理由、スケールが小さすぎるよ!! 普段私の書いてるシナリオの方が、ずぅ〜ッと規模が大きい!」

 

 ずびし、と勢いよく指を突きつけてからモモイは更に声を張り上げる。

 

「そんな話、通じるわけないじゃん!!」

 

「モ、モモイ…」

「お姉ちゃん、比較対象そこなの…?」

 

 一気に捲し立ててゼーゼーと荒い息を吐くモモイを見ながら、ゲーム開発部の面々は数珠繋ぎのように疑問を口にした。

 

《…才羽モモイ、か》

 

 臆する事なくリオへ向かっていくモモイを見つめるアークの思考が、一瞬だけ遠い過去に引き戻された。

 

 モモイの言葉は、理屈ではない。打算でもない。

 

 ただ“友達を返せ”と叫ぶ、その無鉄砲さ。

 その姿に、酷く見覚えがあった。

 

(似ている。あの男───飛電或人と)

 

 まるで昇る太陽の様。

 騒がしく。

 熱く。

 目障りなほど眩しく、鼻につくほど青臭い。

 そんな男の背中が、彼女の小さな背中に少しだけ重なって見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ええ、そうね。今すぐ貴方達に納得して貰うのは、難しいのでしょうね」

 

 モモイの訴えを受けたリオ。溜息の後、その白い指がコンソールを操作していく。

 

 エンターキーを押すと同時に、リオは告げた。

 彼女が手塩に掛けて作り上げた、最高傑作の投入を。

 

「───アバンギャルド君、発進」

 

“…え? アバンギャルド、くん?”

 

 周囲を包む緊迫感や、リオの冷徹な風貌にはおよそ似つかわしくない、奇妙奇天烈な名前が響いた。

 ぽかんとするゲーム開発部一行の足元を、突如としてキャタピラの重低音が揺るがす。

 

 そこに現れたのは───あまりにも「前衛的(アバンギャルド)」すぎる巨躯であった。

 歯を剥き出しにして威嚇する猛々しい貌。

 雄々しく主張するミレニアムの校章。

 重武装を構える阿修羅の如き四本腕。

 そして、それらを支えるどっしりとしたキャタピラ。

 

 それらの要素が、この上なくしっかりと噛み合った結果───奇跡的なまでに不格好なロボットが完成していた。

 

「…うわぁ、ダッッサぁ!!?」

 

 アークですら口にしなかった感想を、モモイはエリドゥに大音量で響かせた。

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