稲荷様は平穏に暮らしたい2199 作:名無しのペロリスト
地球連邦大統領は、二位を圧倒的多数で引き離して、私が当選した。
心の中で、なんでやねんとツッコミを入れる。
稲荷大社の特設スタジオでも、基本的に仕事はしませんとはっきり伝えたはずだ。
それでも自分が選ばれたので、もう頭を抱えるしかない。
しかし神皇の時もそうだったが、民意には逆らえない。
こうなった以上はやるしかなかった。
私なりに色々と調べつつ、直感で大雑把な指示を出す。
それでも普段は稲荷大社の奥に引き籠もり、緊急の案件以外は現場にお任せする。
地球連邦政府は、私が大統領に就任して喜んでくれたし、副大統領も納得している。
おかげで問題なく回っているが、自分が今の立場を受け入れられるかどうかは別問題だ。
けれど人類が結束できるのは良いことだし、どうせ任期が終われば解散するのだ。
地球連邦大統領の任期が何年かは知らないけど、普段は森の奥に引き籠もっている。
仕事が増えはしても、今までとやることは殆ど変わらない。
それに異星文明と接触するまで、多少は時間的な余裕があった。
つまり大して活躍もしないまま任期が終わる可能性が高く、問題なしと判断する。
そんなのんびりした日々を過ごしていると、数年の時が流れた。
そこである事実が判明したが、何とここは、宇宙戦艦ヤマトの世界線だったのだ。
異星文明の接触は、娯楽作品で良くある展開である。
だが解析が進められた宇宙船から、波動エンジンという単語が出てきた。
それで、ピンと来たのだ。
しかしそれはそれとして、私は宇宙戦艦ヤマトは知ってはいるが、あまり詳しくない。
環境汚染により人類滅亡待ったなしの地球を救うために、遥か遠くのイスカンダル星に旅立つぐらいだ。
OP曲があまりにも有名なので、そこだけはしっかり覚えている。
あとは、ガミラスという敵の異星人が出てくるぐらいだ。
現時点で原作とどの程度ズレているかは知らないが、歴史の修正力でもなければ、全く同じ流れにはならないだろう。
何より母なる地球が滅亡の危機に陥るなど、絶対に避けなければいけない。
なので原作云々は一旦置いておき、日本の最高統治者、それと地球連邦大統領として、やるべきことをやるだけだ。
つまり高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処する。
いわゆる行き当たりばったりだが、何百年も続けてきたことだ。
自分はコレしかできないので仕方ない。
そんな私は何故か凄い偉い立場で崇め奉られているが、いつか絶対に大失敗するに決まっているから、やらかす前に早く退位させて欲しい。
それはそれとして、波動エンジンに関しては、最初は未知の技術が高度すぎて解析は極めて困難だった。
しかし人類の力を結集し、時間をかければいつかは解き明かせる。
何しろ、このままでは私たちの故郷である地球が危険なのだ。
世界各国の技術者たちのやる気が高いし、前世の同年代よりも科学技術が発展している。
おかげで時間はかかったが、波動エンジンや戦闘艦の解析はほぼ完了した。
次は異星文明の技術を流用及び改修を行い、地球連邦の戦闘艦を建造する。
何しろ異星文明は、地球文明とは技術体系が全く異なっているのだ。
解析はしたが、そのまま使えるものではない。
それに漂着した戦闘艦は、過去の遺物だ。
さらに高度な艦が運用されている可能性が高いため、この程度で満足していては、地球は守れない。
他にも人材は変えが効かないため、AI技術を高める。
原作では、調査や分析を行うアナライザーというロボットが登場したはずだ。
しかし、この世界では何故か狐っ娘が採用された。
中身は機械だけど、見た目は狐耳と尻尾の生えた美少女だ。
どうしてこうなったと頭を抱えるが、機能的にはアナライザーよりも優秀そうだ。
名前と見た目ぐらいしか知らないので絶対ではないけど、私よりも賢くて色々できる。
何がとは言わないが、負けた気がした。
ちなみに命名は私にお願いされたので、メンタルモデルと名付ける。
何処の霧の艦隊だと、ツッコミを入れられたりはしない。
反対ゼロで、トントン拍子に採用となった。
ただし、メンタルモデルには様々な種類や体格や個性などはあるが、基本的に全て狐っ娘だ。
それが地球人類が背負う逃れられぬ業というか、自分が背負わせてしまった。大変申し訳ない。
そしてメンタルモデルのコアには、私の毛が組み込まれている。
何でそんな酷いことするのと羞恥に悶えた。
しかしそれをすると、身体能力が高まって思考が柔軟になり、本体と比べれば弱いが狐火も扱えるようになる。
また、メンタルモデルは独自のネットワークで繋がっており、さらに各々個別の仮想空間を持っていた。
どれだけ離れていても、いつでも自由にお話できるようだ。
最上位権限を持っているのが母親の私なので、一度興味本位で参加させてもらったことがある。
そこでは、生んだ覚えのない大勢の娘たちに囲まれて、ワッショイワッショイされた。
羞恥のあまりお尻が痒くなったので、以降は一度もログインしていない。
なお人間や動物には、毛を埋めたり飲んだりしても効果がない。
試験に協力してくれた人たちはとても残念がっていたが、好き好んで私の眷属になりたがるとか、マジでドン引きである。
こうなったのは自分のやらかしのせいなのは明らかだが、それでもどうしてこうなったと、大いに頭を抱えるのだった。
それはそれとして、戦艦モノのアニメのように旗艦に艦長を一人乗せる。
あとはメンタルモデルをずらり揃えて、無人の宇宙艦隊を率いて戦えるようになるのが理想だ。
ただ完全に機械化すると、電磁パルスやウイルスで攻撃された場合、戦闘能力を失ってしまう。
そのような緊急時に防ぎ、素早く復旧するためにも、人員はやはり必要だ。
何しろ異星文明の技術力は、地球よりも遥か先をいっている。
電子戦を仕掛けられたら一方的にやられる可能性が高く、戦闘のプロの意見も参考にしつつ、対策を講じておくに越したことはない。
その後、上層部だけでなく全地球人類にも知識を共有するため、大本営発表を行った。
大陸を消し飛ばしたり、惑星を破壊したりするような兵器を積まれた戦闘艦を持っているのは、好戦的な異星文明の可能性があることを伝える。
現時点では戦争は起きていないし、他の星とも接触はしていない。
それでもいつか来るべき対話に備えて、少しでも危機感を持ってもらうのだ。
結果的には軍拡に舵を切っているが、私は別に侵略戦争を仕掛けるつもりはない。
平和主義者だと主張する気もないけど、地球の支配や滅亡を防ぐためにも自衛の力は必要不可欠である。
特に敵はこちらの技術力を遥かに越えているなら、当然の備えと言えた。
ちなみに地球連邦大統領は任期が終わっても、再選挙でまた私が選ばれる。
そんな無限ループに陥っていた。
個人的には辞めたくても、民意が辞めさせてくれなかった。
そのせいかはわからないが、毎年の表彰も日本限定ではなく、世界どころか宇宙規模で行われるようになる。
波動エンジンやワープ航法、防壁や次元潜航などの新技術を開発した人などを褒め称えるのも、地球連邦大統領の仕事の一つらしい。
神皇でも同じようなことをしてたし、そういうものあるかも知れない。
小っ恥ずかしくて納得はできなくても、頑張って受け入れる。
それでモチベーションが上がるなら、表彰するのもやぶさかでないのだ。
私は元々日本のフリー素材だったが、世界のフリー素材にランクアップしたらしい。
恥ずかしさに拍車がかかり、一仕事終えた後は家の布団で転げ回ることになるが、地球人類が救われるなら、私の羞恥心ぐらい安いものだろう。
これは平穏な暮らしとは言い難いと、自問自答することも良くあった。
とにかく大勢の人々に支持され、私はかれこれ二百年近くも地球連邦初代大統領を続けることになる。
のんびり平穏に暮らしたい私は、悲しみを背負うハメになった。
だがおかげで地球人類は、今日も繁栄を謳歌している。
波動エンジンやワープ航法も広まり、宇宙艦隊も戦艦、巡洋艦、駆逐艦、空母、航空機や宇宙艇、さらには陸戦兵器なども開発や運用されるようになった。
他にも未知の言語や文明などの情報も得られたが、そちらは破損が多くて穴だらけだ。
それに古いデータなので、何処まで信用して良いやらである。
とにかく各惑星や重要拠点にも、堅牢な鎮守府が建設される。
亜空間ソナーや波動防壁、艦隊や各種兵装なども一通り揃えられた。
外宇宙はまだ途中だが、本丸である太陽系の守りは万全と言える。
できれば異星文明には来て欲しくはないけど、やれるだけの手は打ってきた。
私は基本的に指示だけ出して森の奥に引き籠もっているので、全ては優秀な部下がやってくれたのだが、それはそれである。
やがて時は流れて、西暦二千百九十一年四月一日になった。
いつもは近衛と一緒に荷物を届けてくれるのだが、今日は玄関のインターホンが押された。
私はいつも通り、縁側に座ってお茶を飲んでいたが、呼び出されたのでよっこらしょと立ち上がる。
「どうやらお客さんを連れて来たようだね」
こういう場合は、高確率で厄介事だ。
できれば関わりたくはないが、自分を頼ってきた人を突き放すのは良心がとがめる。
それに一応は神様だし、困っている人を助けるのは当たり前だ。
少なくとも私は、六百年ほどずっと行き当たりばったりの考えなしではあるが、それなりに善い神のつもりだった。
言い切れないのは、自分が大雑把で適当な性格なのもある。
あとは中身が元女子高生で、あくまで神様のフリをしているだけのため、自己評価がかなり低いからだった。
だがそれはそれとして、居留守を使うわけにはいかない。
来客を出迎えるために玄関に向かうのだった。
訪ねてきたのは、地球連邦防衛軍に所属する土方竜さんだ。
だが別に、巨大生物の群れを歩兵で倒すEDFではない。
私がトップの地球連邦に属する、ちょっと特殊な軍隊である。
そして今回は、その偉い人がわざわざ訪ねてきたので、十中八九で面倒事だ。
取りあえずお客さんを居間に案内し、お茶とお菓子を用意しようとしたら、お世話係の桜さんが代わってくれた。
ご厚意に甘えて任せることにする。
その間に、私はちゃぶ台を囲むように敷かれた座布団に腰を下ろす。
全員が着席したことを確認したあと、おもむろに口を開く。
「それで、土方さん。本日のご要件は?」
私は温かい緑茶をフーフーしてから、少しずつ飲みながら率直に尋ねた。
彼も組織の上に立つ者として忙しいだろうし、世間話をするために来たのではないはずだ。
まあ内心ではしたがっているかも知れないけど、今は仕事モードである。
「まだ公表はしていませんが。
先程、太陽系外縁部で、異星文明の艦隊と接触致しました」
驚いて湯呑を持つ手が少し震えたが、何とか大きく息を吸って落ち着く。
「とうとう来ましたか」
「はい、この日のために準備はして来ましたが、やはり不安も大きいです」
異星人と接触したので、大ニュースだ。
百年以上前から準備は進めてきたが、それでも不安だった。
私は今後の対応について土方さんに尋ねると、すぐに答えてくれる。
「通信は行いましたが、互いに未知の言語です。
今すぐの意思の疎通は難しいですし、地球連邦大統領である稲荷神様が不在です。
交渉や決断をその場で行うわけにはいきませんので、後日に会談を行うことを伝えて退いてもらいました」
身振り手振りやその場の雰囲気だけでは、交渉もままならない。
一応、ボラー連邦の戦闘艦から得た情報に言語も含まれてはいたが、破損していたので完全ではない。
まずは、その辺りを何とかしてからだろう。
「賢明な判断ですね」
「ありがとうございます」
私が率直に褒めると、土方さんは嬉しそうに笑う。
そこで彼はコホンと咳払いをしたあとに妙にかしこまり、続きを話していく。
「とにかく次回は、大変重要な会談になります。
ぜひ稲荷神様にも、立ち会っていただきたく存じます」
深々と頭を下げた土方さんを見て、この人は本気だと理解する。
(でも私が会談に立ち会っても、政治や交渉をできる気がしないんだけど)
六百年が経っても、相変わらず行き当たりばったりだ。全然賢くなっていない。
不思議なことに大きな失敗をしたことはないけど、その場の状況に流されて勢いで誤魔化すことも多々ある。
幸い国民はワッショイワッショイしてくれているので、現時点では問題にはなっていないのだろう。
(立場的には地球連邦大統領だし、一番偉いからなぁ。
重要な会談には、出席しないと駄目か。
まあ私が発言しなくても、副大統領や他の役人が上手いこと進めてくれるでしょ!
彼らは交渉のプロだし!)
ぶっちゃけ、民意には勝てないのでしょうがない。
私は内心で大きな溜息を吐きながらも、顔には出さない。
そして土方さんに参加することを伝えると、彼はとても喜んでくれた
「我々も、この日のために準備を進めてきました。
稲荷神様。ガミラスとの交渉を、何卒よろしくお願い致します」
「微力を尽くします」
殆ど置物になりそうだけど、一応は神様だ。
なのでお願いされた以上は、できることはやるつもりだ。
(しかし相手はガミラスだし、どう考えても拗れる予感しかしない)
宇宙戦艦ヤマトの敵として、何度も立ち塞がるのがガミラスだったはずだ。
具体的に何があったのかは知らないけど、歴史の修正力というのがあるなら、私が参加しても同じ結末を辿りそうで怖い。
二百年ほど前から外宇宙に進出はしていたが、これまで接触しなかった。
きっとガミラスとは別方向に、地球連邦の領土を拡大していったのだろう。
とにかく別に自分は、星間戦争がしたいわけではない。
平穏に暮らしたいだけなので、争い事など望んでいないので、何とか平和的に終わりたいものだ。
その後は土方さんや各関係者と連絡を取って、今後の打ち合わせを進めるのだった。