稲荷様は平穏に暮らしたい2199 作:名無しのペロリスト
地球とガミラスは、互いに未知の文明同士だ。
それでも、事前の心構えができていたのは大きい。
向こうは地球連邦を知らないだろうが、いきなり一触即発の事態にはならずに済んだ。
おかげでガミラスは銀河方面の艦隊司令長官、こちらは地球連邦大統領のトップ会談が実現する。
だが、実際にあれこれ喋るのは副大統領だ。
素人の私は何かあれば口を挟むが、そうでなければ黙ってちょこんと座っているのがお仕事である。
けど何を喋って良いのかよくわからないし、話題を振られても困る。
現時点では未知の宇宙艦隊を、太陽系の奥深くまで入れるわけにはいかない。
そこで冥王星に建設された地球連邦軍鎮守府の付近を、会談場所とさせてもらった。
別に稲荷大社の特設スタジオからでも、超空間通信で会談は行える。
しかし誠意を見せるためにも、自ら出向いたほうが良いと判断した。
もし戦闘になって宇宙空間に放り出されても、主砲が直撃しても無傷なのだ。
ちょっとやそっとで死ぬことはないので、そういう意味では気楽である。
当日まではそう思っていたのだが、副大統領や他の役人連中に急ぎの仕事が入ってしまい、彼らは地球に残ることになった。
誰もが物凄く残念そうにしていたけど、普段は私の分の業務もこなしているのだ。
多忙なのは仕方なく、結局自分が直接話すことになった。
カンペがあっても、思ったことをそのまま口に出すのは間違いない。
皆は、私なら大丈夫だと信頼してくれている。
交渉のプロが素人同然の私に期待しないで欲しい。
しかし、立場的には地球連邦大統領で神様でもある。
やるしかないのが、とても辛かった。胃が頑丈でなかったら、絶対に穴が開いていただろう。
とにかく旗艦のヤマトに乗り込んで宇宙港を出発し、月の艦隊と合流してワープに入る。
冥王星鎮守府まで一気に飛ぶと、前方にはガミラス艦隊が大小合わせて約百隻ほど確認できた。
ちなみに、こっちは旗艦を含めて二十隻だ。
数的には圧倒的に不利だが、スーパーアンドロメダ級やブルーノア級という、現在の地球連邦の主力艦なので、質では負けていないと思いたい。
ちなみにアンドロメダ級より小型で武装も少ないが、コストパフォーマンスは圧倒的に優れている。
おかげでガンガン量産できるので、地球連邦の護衛艦の要になっていた。
それはそれとして次元潜航艇を、周辺宙域を漂う隕石群の影に隠している。
万が一の備えなので、交渉の場に殴り込む気はない。もし向こうが気づけば、大人しく撤退させるつもりだ。
バレてなければ、もし戦闘になったときに不意打ちできるし、不利になったら逃げる時間を稼いでくれるだろう。
とにかく威圧的な外交は印象が悪くなるし、私や地球連邦政府は平和を望んでいる。
浪漫を追求して建造したエクセリオン級は、大きすぎて今回の交渉には不向きなので、月鎮守府に置いてきた。
まあ波動砲や艦隊をチラつかせて、平和も何もあったものではないが、それは向こうも同じなので気にしてはいけない。
ガミラスは正体不明ではあるが、案外話せば良い人で仲良くなれるかも知れない。
鬼が出るか蛇が出るかは、蓋を開けてみるまでわからないのだ。
いざとなれば近くの冥王星鎮守府からも援軍を呼べるので、何とかなるだろう。
それでも何も起きないのが一番良いが、太陽系外縁部で接触はしたのでファーストコンタクトでこそないとはいえ、やっぱり不安だ。
今は双方が扇形の陣形で待機し、攻撃の届かない距離で睨み合っている。
ちなみに地球連邦防衛軍では、百年以上前から旗艦以外はメンタルモデルが操縦する護衛艦隊になっていた。
けれど旗艦も、艦長とメンタルモデルの二人一組のほぼワンオペだ。
とにかく人材の有効活用や効率化を、徹底的に突き詰めた結果である。
何しろ他の異星文明は、領土が太陽系よりも遥かに広大なのだ。
科学技術だけでなく、マンパワーや資源も大差で負けている。
なので戦闘のたびに貴重な人材を失っていては、到底地球を守れない。
ちなみに今回は、外交の場なので失礼があってはいけないと、全艦隊が有人仕様だ。
大統領である私が、自ら参戦しているからもある。
何にせよ、近年の地球連邦防衛軍ではとても珍しい。
そういった神聖視が加速しているからこそ、自分の声を聞いたり御姿を拝まなければ、精神的なストレスや禁断症状が出るヤバい人も増えているのだ。
特に地球連邦軍は自衛隊の延長線上にあるため、その傾向が強い。
だからなのか、ボラー連邦の戦闘艦を解析して入手した超空間通信を、ガンガン改良して新技術を生み出してしまった。
おかげで今では、太陽系外でもリアルタイムで通信を繋げている。
外宇宙で入植や資源惑星を調査している船団、それに太陽系から遥か遠くの前線基地の司令官にも、気軽にネットサーフィンができるようになった。
あまりの私への依存や信仰の高さに、ドン引きしたのは言うまでもない。
表には出さないが技術者の方々を表彰した時に、心の中でチベットスナギツネの顔になったことを思い出す。
それはそれとして、私は旗艦である宇宙戦艦ヤマトの艦橋の専用の椅子に深く座る。
これは地球連邦大統領の強い希望で、百年以上昔に建造された実験艦を改修したものだ。
原作がどうなのかは知らないけど、ヤマトに乗れば取りあえず沈むことはないと考えた。
縁起を担ぐために、わざわざ博物館から引っ張り出して利用している。
なお大本は、稲荷時空の幕末に建造された戦艦大和なので、51センチ砲が積まれているのを、ここに記しておく。
席についた私は、続けてガミラス艦隊に通信を送るように指示を出した。
「通信を繋げます!」
オペレーターが取り次いでくれたので、大きく息を吸って少し待つ。
手持ち無沙汰になったので、艦橋を軽く見回す。
艦長は沖田十三さんで、私はアドバイザー的な立ち位置だ。
自分は艦長席に座っているわけではないが、さらに高い位置なので、ちょっと恥ずかしい。
そして艦橋の中央付近には、自律型ロボットのアナライザーではなく、私が命名したメンタルモデルが専用の椅子に固定されている。
メカメカしい外見ではなく赤髪の狐っ娘で、原作はうろ覚えでも絶対に間違っているのは私でもわかる。
自分は艦のことは何もわからないし、宇宙戦艦に乗るのは浪漫が溢れて嬉しい。
でもなるべく穏便に、早く仕事を終わらせたいのが本音であった。
やがてオペレーターの準備が整ったようで、どうぞと声がかかる。
この会談で地球の命運が決まるため、表情には出さないが内心ではかなり緊張していた。
それでも、頑張って口を開く。
「私は地球連邦大統領、稲荷神です。
応答願います」
もし通信に出てくれなかったらどうしようと、不安に思いながら少し待つ。
やがて正面の画面に、青い肌の異星人が映し出される。
「私は銀河方面軍作戦司令長官! ゲールである!」
彼は自信満々に振る舞い、こちらを見下すように話しかけてくる。
「まずは辺境の下等種族の分際で、ゲシュ=タムジャンプを行うとは! 見事と、褒めてやろう!」
「それは、ありがとうございます」
怒ればいいのか喜べばいいのか微妙な発言だった。
私はこんな見た目だし、舐められるのは慣れている。
なのでこの程度で動揺はせずに、落ち着いてゲールさんの言葉に耳を傾ける。
「そうやって従順な姿勢を見せれば、偉大なるデスラー総統の覚えも良くなろう!」
どうやら彼らのリーダーは、デスラー総統と言うらしい。
何処かで聞いた覚えがあるが、原作にそこまで詳しくないのですぐには思い出せない。
「それでは改めて、テロンの艦隊に告げよう! 今すぐ抵抗を止めて降伏しろ!
さすれば偉大なるデスラー総統の慈悲により、名誉あるガミラス二等臣民になれるであろう!」
まさに降伏勧告と言っても過言ではない発言だ。
私だけでなく、ヤマトのクルーも驚き固まってしまう。
「下等なテロン人が、ガミラス人の役に立てるのだ! 光栄であろう!
お前たちが捧げた資源と労働力は、我々が有効に使ってやろう!」
あまりにも高圧的な態度に、私は言葉を失う。
何とか気を取り直して、ゲールさんに話しかける。
「あの、ゲールさん。私は地球人類を代表して、外交に来たのですが」
「辺境の星間国家の分際で、大ガミラスに外交だと?
お前たちにできることは、降伏か! 死の二択だけだ!
それに、まだ子供ではないか! 馬鹿にしているのか!」
確かに見た目は十歳ほどの幼女だが、こう見えて何百年も生きているのだ。
私は、そのことを率直に伝える。
「見た目は子供ですが、これでも六百年ほど生きてますよ」
「ふむ、長命種というわけだな!」
説明しても納得はしないだろうと思っていた。
しかし、意外なことにすんなり受け入れてくれる。
どうやら宇宙には、私のように長生きしている人がいるようで、ちょっと驚く。
それでもゲールさんは、全面降伏以外は受け入れる気はなさそうだ。
私はどうにも困ってしまう。
(ガミラスの支配を受け入れることなんてできないし、ここは戦うべき?
今日は話し合うつもりだったんだけどなぁ)
地球から持ってきたの二十隻ほどだ。
冥王星鎮守府に多数の艦を待機させているが、圧力をかけすぎると戦争の引き金になる。
今のところは、出撃を見送らせている。
しかし天照大御神様の神託の通りで、ガミラスはまさに好戦的な異星文明と言えた。
(ゲールさんが喧嘩っ早いのもありそうだけど。
少なくともガミラスは、拡大政策を推し進めているようだね)
降伏すれば二等臣民、抵抗すれば殺されるのは間違いない。
彼にそれだけの権限が与えられているということは、きっとそれがガミラスの基本方針だ。
ならば私が選べる選択は、そう多くはない。
「一旦持ち帰って検討したいのですが──」
「駄目だ! 今すぐ決めろ!
降伏するか! ここで死ぬか!
元からテロン人に、選択の余地などないのだ!」
どうやらこの場で決めるしかないようだ。
ゲールさんではなく別の交渉役の人に代わって欲しいが、そっちも同じような問答になりそうだし、本当に困った。
「私としては、ガミラスと仲良くしたいのですが」
「ならば、降伏を選ぶのだな!
辺境のテロンが戦いを選んだところで、遅かれ早かれ降伏するのだからな!」
取り付く島もないとはこのことだ。
私は大きく息を吐く。
もし逃げ出したら後ろから撃ってきそうと思いつつ、覚悟を決めて発言する。
「では、お答えします」
私は正面モニターを真っ直ぐに見つめて、真剣な表情で話し始める。
「私は地球連邦と大ガミラスの両国で、対等で友好的な関係を築いて仲良くしたかったです。
ですがそれは、今すぐには不可能だとわかりました」
今後はわからないが、現時点では友好関係を築くのは不可能だ。
なので、その路線は一旦諦めることにした。
「結論を言います。地球連邦は大ガミラスには従いません。
ですが、貴方たちに侵略戦争を仕掛ける気もありません」
ゲールさんは私の反抗的な態度に若干苛立っているが、構うことはない。
地球は違うかも知れないけど、少なくとも自分はガミラスを支配したり、滅ぼしたいとは考えてはいない。
「つまり、降伏はせんのだな?」
「はい、私は地球を守るために、ガミラスと戦います。
ですが後任の大統領が降伏を選べば、その限りではありません」
我ながらややこしいが、自分は地球連邦大統領としてこの場に立っている。
今回の判断が間違いだった場合、強制的に辞任に追い込まれるだろう。
そして後任の大統領が降伏を選べば、それが地球人類全体の選択になる。
だが現時点では、己の意思を曲げるつもりはない。
ガミラスが襲ってくるなら迎え撃たせてもらうし、そのための準備をしてきたのだ。
「後悔するぞ!」
「そうならないことを願っています」
この発言のあと、ゲールさんとの通信が途切れた。
さらにオペレーターがレーダーの異常を感知して、大きな声を出す。
「ガミラス艦隊が動き出しました!」
本来ならば、沖田十三さんが指示を出すところだ。
しかし私はその前に、いつもの癖で大声で叫んでしまう。
「皇国の興廃! この一戦にあり! 各員、一層奮励努力せよ!」
「「「ははー!!!」」」
ちなみに全艦隊と通信を繋ぎっぱなしなので、今の発言は丸聞こえである。
殆ど条件反射のようなものだが、全乗組員は気合が入ったようだ。
「沖田艦長。あとはお任せします」
「わかりました。艦隊指揮権をお預かりします」
艦隊戦の素人である私に、できることは何もない。
なので邪魔にならないように椅子に座り、成り行きを見守る。
「全艦! 波動防壁を展開しつつ中央突破を行う!
ガミラス艦隊が射程に入り次第、砲撃せよ!
冥王星鎮守府にも出撃要請!」
「了解! 波動防壁を展開します!」
「冥王星鎮守府に出撃要請! 送りました!」
艦橋が急に慌ただしくなり、鏃(やじり)のような陣形の情報を、地球連邦艦隊で共有される。
旗艦である戦艦ヤマトはもっとも安全な中央で、周囲を残りの艦が囲む。
「今だ! 波動砲を使う!」
だがそこで突然の作戦変更に、他の乗組員は驚く。
「はっ、波動砲ですか!? 中央突破を行うのでは!」
確かに先程まではそうだったが、戦況は刻一刻と変化する。
「我々の中央突破を、ガミラスは迎え撃つつもりだ!
しかし敵の密集陣形は、逆に好機でもある!」
つまり私たちを迎え撃つために一点に集まったガミラス艦隊を、波動砲で一掃する作戦に切り替えたということだ。
(ガミラス艦隊は、波動砲のことを知らないのかな?)
波動砲をガミラス艦隊も備えているなら別だが、見たところヤマトや護衛艦隊のように巨大な砲はなさそうだ。
知らないからこそ、密集陣形を取ったのだろう。
私は、なるほどなと思いながら、成り行きを見守る。
やがてエネルギー充填が始まり、周りの艦隊にもテキパキと指示を出していく。
「射線状の味方艦隊が退避後! 敵陣中央に波動砲を撃つ!」
「了解! 射線状の味方艦隊が退避後! 敵陣中央に波動砲を撃ちます!」
やがてヤマトのエネルギーが百二十パーセントまで充填され、タイミングを見計らって射線状から味方艦隊が一斉に退避した。
そしてガミラス艦隊の中央を狙い、正確な座標が送られる。
重力アンカーで固定し、艦首の微調整が行われた。
発射シーケンスはワクワクするが、これはゲームやアニメではない。
現実なので、大勢の命が失われることになる。
(せめて彼らの冥福を祈ろう)
人が死ぬのも見送るのも慣れてはいるが、決して気分が良いものではない。
なのでせめて彼らが、苦痛なく安らかに逝けようにと静かに祈る。
まあ、殺らなきゃ殺られるのだから致し方ない。
全艦が対ショック閃光防御を行い、戦術長が引き金を引く。
「波動砲! 発射!」
青と白が混じり合った波動砲が、密集したガミラス艦隊を飲み込んだ。
長年の勘や、本能的に危機を感じ取って慌ててワープで退避した艦もある。
それでもガミラス艦隊の半数以上が、たったの一撃で葬り去られた。
奇跡的に無事な艦も、次々とワープで逃げ出していく。
(惑星を破壊するような兵器で、戦争する星間国家とか怖すぎる)
だからこそ人類は危機感を持って、団結することができた。
そこに私が少しだけ後押しして、外宇宙の脅威に備えたのだ。
(しかし、これからが大変だなあ)
ガミラス艦隊は撃破したが、戦争はまだ終わってはいない。
むしろここからが始まりであり、私は沖田艦長に指示を出す。
「生存者の救出をお願いします」
「了解した。全艦に通達! 急ぎガミラス艦隊の生存者を救出せよ!」
宇宙空間に放り出されては、長時間生存するのは難しい。
それに辛うじて原型を保っている艦はあっても、航行不能な時点で大きな損害を受けたり、怪我人が大勢出ている。
敵でも、見捨てるのは心苦しい。
今は戦争状態だが、いつかは手を取り合えるかも知れないのだ。
あとはガミラスの最新情報を得る良い機会のため、救出して損はなかった。
とにかく、こうして地球連邦防衛軍とガミラス艦隊との外交は決裂する。
だが、初戦はうちの完全勝利に終わったのだった。