稲荷様は平穏に暮らしたい2199   作:名無しのペロリスト

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イスカンダルのユリーシャ

 ガミラスとの戦争は依然として継続中だが、今のところは問題なく対処できている。

 おかげで外宇宙は荒れ放題でも、私は平穏に暮らせていた。

 

 しかし今日は、久しぶりに呼び出される。

 森を抜けて稲荷大社の謁見の間に向かった。

 

 何でも、外宇宙からお客さんが来たようだ。

 もしかしたらガミラスの特使が戦争に勝てないと判断し、停戦の交渉に訪れたのかも知れない。

 

 そう思って謁見の間に入り、一段高い畳の上を歩いていく。

 専用の座布団に座り、相手を観察すると金髪碧眼の女の子であった。

 

 おまけに青い肌ではないので、ガミラス人ではないようだ。

 

(と言うか、人間でもなくない?)

 

 目を凝らして観察すると、どうにも存在がぼんやりしている。

 見た目は普通の人間っぽいが、実際にはメンタルモデルのように、人格を移した仮の体かも知れない。

 

 つまり私の予想はハズレということだ。

 表情には出さないが、心の中でガックリと肩を落とす。

 

 それでも地球連邦大統領として恥ずかしくないように、まずは堂々と自己紹介を行う。

 

「私は地球連邦大統領の稲荷神です」

「私は、ユリーシャ・イスカンダル。……よろしくね」

 

 ほんわかしてて掴み所がない人だなと思いつつ、その名前には心当たりがあった。

 宇宙戦艦ヤマトのOPに登場したのが、イスカンダルだ。

 

 しかしそれを口に出しても怪しまれても面倒だし、告げる気はない。

 とにかく長話も何だし、率直に用件を尋ねる。

 

「それで、ユリーシャさんが地球をやって来た目的は?」

 

 有名なオープニング曲の歌詞にも含まれているので、目的に関しては予想はついていた。

 

「救済に来た」

 

 具体的にはどういうことだってばよなので、少し待つ。

 しかし、それ以上言葉が出てこないので、おもむろに口を開く。

 

「……あの、ええと? それだけですか?」

 

 短いにも程があるし、意味深なだけで一体何を言っているのか、さっぱり理解できなかった。

 

 だが私が口にしてようやく、ユリーシャさんはそれだけでは足りないとわかったようだ。

 

 しばらく考えて、頑張って説明してくれる。

 

「貴女は、ガミラスとの戦争を終わらせたい。

 私たちは、ガミラスにも地球にも、これ以上傷ついて欲しくない」

「なるほど。目的は一致していますね」

 

 私たちというのが少し気になる。

 多分、イスカンダル星の民意だろう。

 そして互いの目的に関しては、かなり近いことがわかった。

 

「では、ガミラスとの戦争終結を手伝ってくれるのですか?」

「そのつもり」

 

 良いことじゃないかと心の中で喜びながら、その辺りを詰めていく。

 

「具体的には?」

「デスラー総統に、和平交渉の席についてもらう」

 

 それは素晴らしい提案だ。

 お互いのトップ会談が実現すれば、戦争終結が一気に近づく。

 交渉が決裂して関係が拗れる可能性もあるが、このまま何もせずに泥沼の戦争を続けるよりはマシだろう。

 

 しかしここで私はあることを思い出して、はっきりと口に出す。

 

「ですが、開戦してから七年も無視し続けたのですよ?

 そう簡単に、和平交渉に応じてくれるのですか?」

「お姉さんから頼めば大丈夫。……恐らく」

「恐らくですか」

 

 ちょっと不安だが、外交が上手くいく可能性はこれまでで一番高い。

 このチャンスを逃せば、戦争継続だ。

 駄目で元々でも賭けてみる価値はありそうだった。

 

(連戦連勝なのは良いけど、嫌がらせされるのは地味にストレスなんだよね)

 

 少なくても被害を受ける。

 命を狙われているのに違いないし、そんなギスギスの関係はさっさと終わらせたかった。

 

(イスカンダルはガミラスにとっての信仰対象らしいし、案外上手くいくかも)

 

 それでもデスラー総統は話を聞いてくれなかったようだが、地球連邦だけで交渉を進めるよりは成功率は高そうだ。

 

 私はしばらく考えたあとに、大きな溜息を吐いて決断する。

 

「わかりました。和平交渉の助力をお願いします」

「うん、頑張る」

 

 頑張るのはユリーシャさんではなくお姉さんだけど、やる気があるのは良いことだ。

 しかしトップ会談を行うには、地球からでは距離が遠すぎる。

 

 流石に通信だけで済ませるのは誠意に欠けるし、最低でも使者を派遣するべきだろう。

 何にせよガミラス本星に行くのは、ほぼ確定と言える。

 

 私としては、往復で一年も家を留守にしたくない。

 だがズルズル戦争を続けるのも嫌という、究極の二択である。

 

「それと、コレも預かっている」

 

 何処までも掴み所がない女性だ。

 そんなことを思いつつ、3D投影機を桜さんに受け取らせて起動してもらう。

 

 すると、ユリーシャさんと良く似た女性が映し出された。

 

 彼女はイスカンダルのスターシャを名乗っていて、地球とガミラスの現状に心を痛めていた。

 そして波動エネルギーを侵略の兵器として使う、かつての自分たちのように過ちを犯さないで欲しいと警告してくる。

 

 また、イスカンダルが仲介するので、ガミラスと停戦して欲しいとも訴えた。

 ユリーシャさんの発言に、嘘はないようだ。

 

「訴えはわかりますが、波動エネルギーの兵器転用は、自衛のために必要です。

 それでも乱用を控えることはできますので、妥協点を探ることから始めましょう」

 

 いくら危険性が高くでも、波動砲がないとガミラスを撃退できない。

 なので使用停止にはできないが、それでも乱用を控えることはできる。

 

 今の地球連邦防衛軍に、余裕があるのは大きい。

 だけど、七年も戦争が続いているのだ。

 決して平和とは言えないのが、悲しい。

 

「ありがとう。イナリ」

「礼は不要です。こんな方法しか取れなくて、申し訳ありません」

 

 呼び捨てにされたが、相手もイスカンダルでは偉い立場のようだ。

 私個人としては、様付けで敬われるのは、小っ恥ずかしくてお尻が痒くなってくる。

 これは六百歳を過ぎても相変わらずで、どうにも克服できそうになかった。

 

 とにかく現時点では、波動砲は地球連邦軍になくてはならない。

 絶対に手放せなかった。

 

 しかしいつかは宇宙が平和になって、軍縮の時代が来るかも知れない。

 それに惑星を破壊できる兵器を乱用するのは、取り扱いの面でも不安があった。

 

(あとはイスカンダルが、波動砲を封じる技術を持っていてもおかしくない)

 

 地球よりも、遥かに優れた文明のイスカンダルである。

 かつての過ちを繰り返さないためにと、波動砲や波動エンジンを封じ込める技術を持っていてもおかしくないというか、むしろあって当然だろう。

 

 今のところは使う様子はないけど、いよいよとなれば地球連邦の波動エネルギーを強制的に抑制してきそうだ。

 

 そのためにも、波動砲に頼り切るのは危険だろう。

 新エネルギーや、兵器の研究開発を行う必要がでてきた。

 

 なお、もちろんユリーシャさんには伝えない。

 地球連邦政府上層部には提案するが、不確定な情報である。

 十割が私の勝手な思いつきに過ぎないため、開発を進めるにしても実用化が成功するまでは、秘密裏に行うつもりだ。

 

「とにかく、ガミラスとの停戦交渉は望むところです。

 お力添え、よろしくお願いします」

「イナリ、良い人。私も協力する。

 それと、ガミラスを止められなくて、ごめんなさい」

 

 確かに七年も放置しておいて、今さら出てきて自重を促されても良い気分にはならない。

 

 だが地球を遥かに超えた星間国家が、波動エネルギーの兵器は危険だと訴えているのだ。

 過去の過ちもあるようだし、きっと事実なのだろう。

 

(私は素人だし、兵器のことは良くわからないんだけど)

 

 いわゆる、『ま……まあ、アンタほどの実力者がそういうのなら』というやつだ。

 ガミラスにも崇められている神様的な存在だし、忠告を素直に聞いておいて損はないだろう。

 

「確かに七年放置したのは、私も納得しかねます。

 ですが、それでも貴女は地球に来てくれました。

 だから、……ありがとう。ユリーシャさん」

 

 今はそれだけで十分だと、ユリーシャに微笑みかける。

 彼女は嬉しそうな表情を浮かべた。

 

 何もしないよりはマシだ。

 協力が得られるなら、駄目元でもやってみるべきだろう。

 

(もし無理ならデスラー総統の首根っこを押さえるとして、まあ何とかなるでしょ)

 

 最悪交渉が決裂しても、ガミラス本星に辿り着けば戦争を終わらせることはできる。

 敵のリーダーを捕縛して言うことを聞かせようという、相変わらずの行き当たりばったりの脳筋だ。

 

 きっと海賊戦法にイスカンダル人もドン引きだろう。

 

(地球連邦大統領の姿か? これが?)

 

 ……と、自分で自分にツッコミを入れる。

 

 やはり私は、地球連邦大統領に相応しくない。

 でも民意は圧倒的多数で続行を望まれており、辞めさせてくれないので仕方ないのだ。

 

 だがまさかこっちの世界でも、イスカンダルと双子星のガミラス本星に向かうとは思わなかった。

 これが歴史の修正力かは不明である。

 

 とにかく地球連邦大統領として首脳会談を行うためにも、急ぎ艦隊を編成しないといけない。

 

 地球はいつでも停戦協定の窓口は開いているが、ガミラスが一向に応じてくれないのだ。

 

 急にやることが増えて忙しくなるが、ここであることを思い出す。

 ユリーシャさんに声をかける。

 

「ユリーシャさん。一つお願いがあるのですが」

「お願い?」

 

 彼女は可愛らしく首をコテンを傾げたので、続きを話していく。

 

 

「ユリーシャさんの乗ってきた宇宙船を、調べさせてくれませんか?」

「……それは、どうして?」

 

 彼女の率直な疑問に、私はなるべくわかりやすく説明していく。

 

「イスカンダルの技術に興味があるのは当然ですが、このお願いはユリーシャさんのためでもあります」

 

 ユリーシャさんはまだ良くわからないようだし、順番に話していく。

 

「先程も言いましたが、イスカンダルの立場は微妙なんです」

 

 七年も放置しておいて、今さら口を出してきて何様のつもりだという意見は、決して少なくない。

 ついでに防衛の要である波動砲を使うなと訴えているのだ。

 

 正直に言えば、地球人類の印象はあまり良くない。

 

 ガミラスの停戦協定に口添えしてくれるのは助かるが、未知の異星文明なのもあって警戒せざるをえない。

 

 それらを天秤にかけると、良し悪しは人それぞれという判定の難しさだ。

 どうにも扱いに困っていた。

 

「ユリーシャさんは良い人ですけど、イスカンダルは未知の異星文明です」

 

 ガミラスに神として崇められている程の、超技術を持っている。

 あとは、長い歴史があるぐらいだろう。

 過去の過ちについても聞かせてもらったが、私はイスカンダルの悲しき過去は別に興味はなかった。

 

「なのでユリーシャさんの宇宙船を詳しく調べさせてもらい、イスカンダルから技術提供を受けたと大々的に公表します」

 

 こうすれば正体不明の異星文明が、地球と仲良くするために遠路遥々やって来たというシナリオができる。

 ユリーシャさんの立場も良くなるので、面倒なイザコザを避けられる。

 

「別に宇宙船を分解するわけではなく、詳しく調べるだけです。

 その際に、色々教えてくれると助かりますけど」

「……わかった。協力する。ううん、させて欲しい」

 

 どうやらユリーシャさんは、今の説明で理解してくれたようだ。

 私のお願いを、快く聞いてくれた。

 

 そうなれば善は急げということで、次は稲荷大社の特設スタジオに向かう。

 そこでイスカンダルについて詳しく紹介するために、相談して番組の段取りを整えて資料作成などを急ぎ進める。

 

 そして一通り済ませたあとに、地球連邦国民に向けて、大本営発表を行うのだった。

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