稲荷様は平穏に暮らしたい2199   作:名無しのペロリスト

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さらば地球よ

 とにかく時間はかかったが、西暦二千百九十九年にようやく旅立つことができる。

 目標は一年以内の帰還であり、それ以上は地球が恋しくてホームシックになりそうだった。

 

 世話係と近衛を連れてヤマトに近代化改修を施した、宇宙戦艦に乗り込む。

 ちなみにユリーシャさんが乗ってきた宇宙船は分解して、この艦に組み込まれている。

 

 最初は調べるだけの予定だったけど、何度か会って話している間に信用できると思われたのか、良かったら使って欲しいと言われたのだ。

 

 イスカンダルとの友好の証にもなるし、非武装で一人用の宇宙船である。

 地球に来るだけでも大変だし、乗って帰れる保証はない。

 つまり今後は使う予定はないため、有効に活用して欲しかったのだろう。

 

 ヤマトは最初期に建造された実験的な宇宙戦艦で、開戦時に乗り込んだのもコレなので思い入れがある。

 そんな割とふんわりした理由で、旗艦及び私が乗り込むことを強行した。

 

 実のところ、原作再現が目的なのは言うまでもない。

 

 散々本来の流れを変えているので、今さらな気もする。

 だがこれ以上揉めていては、ガミラスに旅立つ日が大幅に遅れてしまう。

 

 それよりは見た目はちょっと古いが、最新鋭の戦艦と遜色ないように改修したヤマトなら、結果的には悪くはないと思われる。

 

 

 エクセリオンは、太陽系の守りのために置いていく。

 どう考えても目立ちすぎて隠密行動には不向きだ、外交圧力が過剰すぎて険悪ムードになりそうだ。

 

 

 

 取りあえず改修したヤマトに乗り込んだ私は、艦橋に向かう。

 そこで主要メンバーと顔合わせをし、簡単な自己紹介を行った。

 

 艦長は沖田十三さん、副長は真田志郎さん、戦術長は古代進さん、航海長は島大介さん、オペレーターの森雪さんなどで、まだ若いが皆優秀とのことだ。

 

 ちなみに、ユリーシャ・イスカンダルさんも乗っている。

 和平の使者やアドバイザーなど色々な理由があるが、彼女の乗ってきた宇宙船はなくなってしまったので、故郷に帰るためにヤマトをタクシー代わりに使う。

 

 

 

 護衛艦隊も連れており、メンタルモデルとのマンツーマンではなくて有人だ。

 それでも自立型人工知能や自動化、さらに眷属で狐っ娘の配備が進んでいるので、前世の軍艦と比べれば乗員は半数以下である。

 

 

 

 そして護衛艦隊も、たったの十隻だ。

 地球連邦軍の一パーセントにも満たない少なさである。

 

 しかし、あまり大所帯になると動きが鈍くなり、敵に発見されやすくなる。

 船足が遅くなるし、いちいち戦っていては、いつになったらガミラス本星に到着するのかわかったものではない。

 

 

 

 なので最新鋭の宇宙戦艦や乗員を選抜し、さっと行ってさっと帰って来ることを目的に艦隊を編成した。

 

 総合戦闘力が高いのはもちろん、足もかなり早い。

 いざという時に、逃げられるのも強みだ。

 

 具体的にはヤマト以外の九隻は、全艦ブルーノアという布陣である。

 

 まず全長が七百五十メートルで巨大なうえ、六連大螺旋炉心✕3の高出力。

 ホーミング螺旋砲を筆頭に、頭がオカシイ火力が揃っている。

 その分だけ扱いが難しいため、旗艦ならともかく護衛艦には不向きだ。

 

 しかし足が早くて次元潜航もできるため、基本性能はかなり高い。

 何より私が少数精鋭を求めたからか、各々のシナジーとか関係なく、ただ強い艦を入れたほうが総合的には強くなるという、頭がオカシイ考えに行き着いた結果でもあった。

 

 

 

 とにかく、私としては家を長く留守にしたくない。

 ガミラスと全面戦争するには足りないけれど、首脳会談なら十分だ。

 

 ブルーノアなら非戦闘員の政府関係者も快適に過ごせるだろうし、輸送手段としては適してはいるだろう。

 

 それに捕虜から内情を聞く限りでは、度重なる領土拡大や民族同化で、各地で暴動が起きている。

 圧政や派閥争いで、統治や軍も十分に行き届いていない。

 

 太陽系のように内地をガチガチに警備しているわけではなく、あまり派手に動かなければ戦闘回数は少なく済みそうだ。

 

 こっそり本星まで行くぐらいなら、何度かは見つかるにしても、到達は十分に可能らしい。

 

(ガミラスは、いつまで経っても停戦に応じてくれない。

 直接乗り込んで交渉の席に座らせるのが、一番手っ取り早いんだよね)

 

 危険なことには変わりないが、戦争の早期終結のためにやってみる価値はある。

 もし無理そうなら引き返せば良いので、駄目で元々で気楽ではあった。

 

 とにかくヤマト艦隊は地球を飛び立ち、遥かなる星イスカンダル……ではなく、ガミラス本星を目指す。

 

 

 

 ちなみに旗艦のヤマトが日本なだけで、護衛艦隊の乗員は多国籍のごった煮だ。

 当初は希望者が殺到して大艦隊になってしまったが、別に侵略戦争を仕掛けるわけではない。

 

 あくまでガミラスに、多少強引にでも停戦協定を結ばせるためだ。

 いざとなったらぶん殴ってでも話し合いの席につかせるが、船足が速い少数精鋭のほうが、隠密行動には適している。

 

 最初はヤマトだけで行く予定だったけど、待ったがかかったのだ。

 その後は各国の首脳陣が取っ組み合いの喧嘩を始めて、仕方なく護衛艦隊を率いることになった。

 

 何とか穏便に話し合ってもらい、十隻まで減らすことができた。

 

 大きい子供たちを宥めすなど、地球連邦大統領の仕事じゃない。

 だが私以外やる人がいないし、仕方がなかった。

 

 心の中でチベットスナギツネの表情を浮かべながら、世界各国の偉い人たちを説得して回った。

 

 日本は旗艦だけでなく護衛艦隊の枠も取れたので、そちらは古代進さんのお兄さんが艦長として務めている。

 兄弟揃って優秀なようだ。

 

 ただ今回は旗艦のヤマトが一番能力が低いため、護衛艦隊は本気で守護りにくる。

 ブルーノア九隻に囲まれる様子は、まるでお姫様を守る騎士たちのようだ。

 

 

 

 それはそれとして、最近はガミラスの襲撃の頻度が減り、大人しくなったと思っていた。

 しかしそれは、地球連邦に侵攻する場合に限ってだ。

 

 

 

 どうやら私たちは、ガミラスにとって警戒すべき敵らしい。

 太陽系から旅立った私たちの艦隊は、ガミラスに監視されていたようだ。

 

 ワープ座標を特定するのは容易なことではないが、こっちも連続で飛ぶのは難しい。

 ワープアウトした先で、近くを巡回している艦隊を差し向けられる可能性が高かった。

 

 なので、決して警戒を緩めるわけにはいかない。

 それでも太陽系外に出るまでは、戦闘は起きずに穏やかな航海だった。

 

 だがグリーゼ581星系にワープアウトとしたとき、衝撃を受けてヤマトが微かに揺れる。

 

「強力な荷電粒子の波動を検知!」

 

 狐っ娘のメンタルモデルが、異常の原因を解析する。

 沖田艦長が状況報告を求めると、すぐに答えが返ってくる。

 

「どうやら、超高密度のプラズマフィラメントに接触したようです」

 

 真田副長が状況を伝えると、クルーの一人が理解できなかったのか率直に尋ねる。

 私も全然わからなかったので、とても助かる。

 

「恒星から放射されている、フレアプラズマの束だ」

「つまり、太陽風だよ。本艦はその、プラズマ回廊の壁面に接触してしまった」

 

 沖田艦長の説明を補足した真田さんが、さらに解析を進めながら疑問を口にする。

 

「だが、これは異常だ。

 理論値の数億倍の、ビルケランド電流が流れている」

「どういうことです?」

「明らかに、人為的な物……ということだよ」

 

 つまりこの星系は、敵が罠を仕掛けた可能性が高い。

 早めに抜けたほうが良さそうだ。

 

 乗員も異論はないようで、プラズマの束に触れないように艦隊に注意喚起を行いつつ、慌てず騒がず落ち着いて先を急ぐ。

 

 プラズマが微弱な領域を見つけたのは良いが、後方に重力場の歪みができる。

 ガミラスの艦隊がワープアウトしてきたのだ。

 

 しかし、敵は一隻だけだったので少々拍子抜けである。

 それでも、いきなり魚雷を撃ち込んできた。

 

 私は猛烈に嫌な予感がして、大声で叫ぶ。

 

「アレは不味いです! 何としても撃ち落としてください!

 それと、絶対に近づいては駄目です! 急いで離れてください!」

「了解! ……捕捉した! 対空戦闘用意!」

 

 古代さんが速やかに迎撃準備を整え、他の護衛艦隊にも情報を共有する。

 いつもの直感だが、理由はわからなくてもヤバい代物だと本能的に察した。

 

「艦尾魚雷! 発射管開け!」

「撃てえっ!」

 

 誘導魚雷が物凄い速度で飛んでいく。

 そして、敵の魚雷に命中して大爆発が起きた。

 

 普通ならこれで終わりだが、私は椅子から下りて歩き出す。

 

「稲荷神様、どちらへ?」

「アレの後始末です。少し席を外しますが、すぐに戻ります」

 

 沖田艦長に簡単に説明をしたあと、お世話係と近衛を連れて艦橋から早足で出ていく。

 

 ヤマトの構造は覚えているとは言え、細かいところまでは良くわかってない。

 なので桜さんに、目的地まで案内してもらうのだった。

 

 

 

 私は船外の後部甲板に出た。

 周囲を見回ると星の海が広がっているが、その中でもとびきり目立っているのは、今現在ヤマトを追いかけている巨大なガス生命体だ。

 

 どうやらあらゆるエネルギーを同化、吸収するヤバい奴のようだ。

 周囲のプラスマを取り込んで、どんどん大きくなっていた。

 

 その様子を宇宙服も着ずに巫女服姿でのんびり眺める私は、ドン引きしつつ口を開く。

 

「放っておくとヤマトだけじゃなくて、惑星や銀河が丸ごと飲み込まれない?

 思ったよりもヤバいのが出てきたけど、ガミラスはどう始末するつもりだったのかしら?」

 

 本当にこんな怪物を解き放って、後処理とかどうするつもりだったのやらだ。

 魚雷に詰め込んでいたので、大人しくさせる手段はあったのだろう。

 

 私としては、そっちのほうが気になった。

 

 しかし、今は艦隊に迫る危機を何とかするのが先決だ。

 ガス生命体に右手を向け、宇宙空間だけど気にせず呼吸を整えて意識を集中する。

 

「狐火!」

 

 ヤマトを飲み込めるほど巨大化しているガスの化け物だ。

 それと比べれば、笑ってしまうほど小さな狐火を飛ばす。

 

 宇宙空間なのに燃え続ける不思議な火だが、今さらその程度では驚かない。

 

 やがてガス生命体と接触すると、狐火は吸収されることなく、逆に盛大に燃え広がっていく。

 

「狐火は燃やす対象を任意に選べるのです。

 それに相手を喰らって、より大きくなることも」

 

 無差別に巨大化するガスの怪物とは違い、こちらは制御が可能だ。

 流石は上位存在の力である。

 

「もし耐えるようなら、もう二、三発お見舞いするつもりでしたけど。

 ……その必要はなさそうですね」

 

 たったの一発の小さな火は、あっという間に燃え広がった。

 全身を青い炎に包まれたガス生命体は、苦しそうに暴れまわる。

 

 もはやヤマトを追いかけるどころではなく、炎の勢いは増すばかりだ。

 逆に怪物は体内のエネルギーを燃やされて、急激に萎んでいく。

 

 そのまましばらく観察すると、数分も保たずに綺麗さっぱり消えてしまう。

 

 そして最初に狐火を放つ際に念じた通り、怪物を喰らい尽くして一緒に消滅した。

 それを見届けた私は、艦内に戻ろうとした。

 

 

 

 しかしガス生命体を倒しても、まだ敵艦が残っている。

 一隻だけなので、てっきり尻尾を巻いて逃げるかと思っていた。

 

 だが何故か、主砲を撃ちながら突進してくる。

 

 地球連邦軍の精鋭艦隊を相手に、無謀極まりない。

 自殺志願者かと思いはするが、ガミラスに戻っても犯罪者として裁かれる。

 せめて敵を道連れにして、華々しく散ろうというのだろう。

 

「見上げた忠誠心ですね」

 

 私はここで死なせるには惜しいと思い、遠隔でガミラス艦を包むように狐火を発生させた。

 人体に害はないが視界は完全に塞がれて、今頃艦内は大混乱に陥っているはずだ。

 

「今のうちに逃げてしまいましょう」

 

 しばらく炎は消えないので、当分は航行不能だ。

 彼らはもう、ヤマトを追っては来られない。

 

 次に会う時は、ガミラスと停戦してからだろう。

 そうなるのが理想だけど、実際のところは不明だ。

 

 私たちは戦争に行くのではなく、停戦協定を結びに行くのである。

 わざわざ殺さなくて良い敵まで殺す必要はないし、追って来ないなら見逃すのもやぶさかでない。

 

 なのでこの宙域を離脱するように全艦に通達したあと、すぐにワープの準備に入る。

 ガミラス本星を目指し、先に進むのだった。

 

 

 

 

 

 

<ガミラス>

 星系を予測して罠を張り、テロンの艦隊を無限増殖するガス生命体に襲わせる。

 あらゆるエネルギーを分解吸収する特性と、高密度のプラズマ回廊、唯一の逃げ道の先には恒星があった。

 まさに完璧な作戦で、必ず成功するはずだった。

 

 しかしテロンの旗艦に、宇宙服も着ずに一人の少女が外に出てきたかと思えば、青い火を灯してガス生命体に向けて飛ばす。

 

 あまりにも常識外れの行動に驚く。

 だがさらに驚愕したのは、ガス生命体をたったの一撃で葬り去ったことだ。

 

 小さな青い火が、無限増殖するガス生命体に接触した瞬間、爆発的に燃え広がった。

 エネルギーを吸収するはずが、逆に喰らっているように思える。

 

 最後には完全消滅してしまったのだ。

 

 辺境の星間国家であるテロンだが、侮り難しと警戒はしていた。

 そして地球連邦大統領が、動物の耳と尻尾を生やした長命種なのも知ってはいる。

 

 しかし宇宙空間でも生存が可能で、恐ろしい化学兵器をたったの一撃で消滅させられるほどの、凄まじい戦闘能力を有しているとは予想外だ。

 

 もしかしたら我々が信仰する、イスカンダルに連なる者かも知れない。

 

 何にせよ、さらなる警戒が必要なのは言うまでもなかった。

 あの青い炎に焼かれたガミラス艦は無事だったことから、生かすも殺すも自由自在なのだろう。

 

 まさに神の御業と言っても過言ではないため、急ぎテロンに関するさらなる情報収集を行うのだった。

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