稲荷様は平穏に暮らしたい2199 作:名無しのペロリスト
地球を旅立って、少しだけ時間が流れる。
ガス生命体以降は、ガミラス艦隊とは遭遇せずに進めていた。
このまま何事もなく、目的地に到着すれば良い。
そんなお気楽なことを考えながら、船室の椅子に座って艦内ラジオを聞く。
温かいお茶を飲んで、のんびりしていた。
やがていつものようにワープに入ったが、移動は一瞬で終わる。
慌てる必要ないが、何となく嫌な予感がするので立ち上がった。
部屋の外に出て艦橋に向かう。
扉を開けると、ちょうど謎の空間に迷い込んだところだった。
島大介さんが驚きの声をあげる。
「何処なんだ? ここは?」
辺り一面、水底のような透き通って見える。
「各部点検急げ!」
「レーダー! スキャナー! 共に反応無し!」
「超空間通信は使用できそうです!」
何やら慌ただしい。
素人の私が口を出したらややこしいことになるので、専用の席にちょこんと座って大人しくしておく。
「使えても、恐らくこの中だけだろう。
この空間内で反響して、外部と交信はできない。
……艦長! 我々はどうやら、次元の狭間に入り込んでしまったようです!」
流石は真田さんだ。
すぐに現状整理して、結論を導き出した。
私は少し考えて、メンタルモデルに指示を出す。
「メンタルモデルのネットワーク経由で、亜空間に囚われていることを伝えてください。
脱出まで少し時間がかかると」
「了解!」
ヤマトのメンタルモデルが元気良く返事をした。
外の護衛艦隊は、これで問題はないだろう。
そして沖田艦長が、おもむろに口を開く。
「異次元との結節点。つまり、次元断層か」
何だか良くわからないけど、大変なことになったようだ。
おまけに機関室から報告が入り、謎のエネルギー流出現象が起きているらしい。
沖田艦長は一先ず機関停止を命じて、流出を止めて原因究明を行う。
「ここでは時空の性質が反転している。
本来真空から無限にエネルギーを取り入れる特性を持つ螺旋エンジンが、逆にエネルギーを外部に放出してしまうのだ」
良くわからないが、そういうこともあるようだ。
何とも厄介なことになった。
「警告! 前方に未確認物体多数!」
ヤマトのメンタルモデルが連絡を終えたようだ。
周囲の状況を報告する。
艦橋の乗組員は前方を注意深く観察すると、航行不能になった宇宙船が多数浮かんでいた。
きっとここから抜け出せなくなり、永遠に異次元を漂流し続けているのだろう。
ヤマトも下手をすれば彼らと同じ運命を辿ることになるが、私は割と落ち着いていた。
「十一時の方向! ガミラス艦!」
再びメンタルモデルから報告が入ったが、今度は航行不能の艦ではないようだ。
向こうの動力は生きているようで、臨戦態勢に入った。
「敵は一隻です! 攻撃しますか!」
「火力は圧倒的に! こちらが上です!」
乗員は沖田艦長の指示を待っているが、彼は私をじっと見つめる。
もっとも高い権限を持っているのは自分なので、大雑把でも良いので方針を提示して欲しいのだろう。
私は特に考えることもなく、思ったことをそのまま口に出す。
「止めておきましょう。
異次元から出られないのは、向こうも同じです。
こんな状況で争っても共倒れがオチですし、賢明な艦長ならそれぐらいわかっているでしょう」
ただし愚かにも本気で攻撃してきたら、容赦なく沈める気満々である。
「稲荷神様! 敵艦が呼びかけてきています!」
「回線を開いてください」
話し合いの余地があるなら、まずはそれに賭けてみるべきだ。
嘘なら嘘でも構わない。騙したら相応の報いを受けさせるまでである。
なのでまずは、ガミラス艦が送った使者を迎え入れるのだった。
ガミラス人との接触は、八年も前に終わっている。
言語の翻訳も済んでいた。
なので艦載機に乗っていた女性のパイロットとの会話は、日本語で行っても問題はない。
だが大勢で囲んで銃を突きつけながらなので、険悪にも程がある。
「全員、銃を下ろして下がりない」
「ですが、稲荷神様!」
「心配なのもわかります。
ですが私なら、たとえガミラス人やガミロイドに取り囲まれても、十秒かからずに倒せますよ」
0.1秒の隙を突ける狐っ娘にかかれば、白兵戦を仕掛けてきた大勢の兵士を叩きのめすのは容易いことだ。
たとえ不意打ちや奇襲を受けても、見てから対処可能である。
逆に近くに味方が居るほうが、守りながらなので面倒だ。
ぶっちゃけ、邪魔まであった。
地球人類とはかれこれ六百年ほどの付き合いだから、私の言うことはわかってくれたようだ。
武器を下ろして扉の外まで下がってくれた。
そういうことで仕切り直しだ。
お世話係や近衛は居るが部屋の隅で待機しており、武器は収めている。
互いに椅子に座ってリラックスしながら、まずは自己紹介から始めるのだった。
彼女はメルダ・ディッツさんで、階級は少尉のようだ。
ここから脱出する方法というのは螺旋砲で、次元断層に穴を開けてそこから脱出するらしい。
真田さんも、理論上は可能だと判断したことで信憑性が増す。
だが、これには大きな問題がある。
螺旋砲を撃てばヤマトはエネルギーの殆どを失い、次元断層内では回復できない。
つまり航行不能になり、以降は脱出不可能になるのだ。
ディッツさんはガミラス艦がヤマトを牽引すると言ってくれたが、何処まで信用できるものかである。
しかし、迷っている間にもエネルギーは減少し続けていた。
やがて螺旋砲すら撃てなくなってしまうだろう。
一応、螺旋エンジンに改修しているので、気合を入れれば何とでもなる。
だがずっと気を張り続けるのも疲れるため、そう何度も使える手段ではない。
グレンラガンでも、螺旋力を吸収する空間に囚われてピンチになっていた。
早めに決断したほうが良いだろう。
そして私がやったほうが手っ取り早いが、何でもかんでも頼りにされても困る。
一分一秒を争う危機的状況でもないし、我関せずとのんびりさせてもらう。
ちなみに私が落ち着いて椅子に座っていると、ヤマトの乗員は気持ちに余裕ができるようだ。
知らない間に危険度の測定機にされていた。
鉱山のカナリアのように便利に使われているが、そんなに間違っていないので何も言えない。
とにかくヤマトはガミラス艦を信じて、螺旋砲を撃って空間に穴を開けた。
一時的にエネルギーが枯渇寸前まで低下したが、約束通り牽引ビームで引っ張ってくれる。
ちなみにディッツさんは、連絡要員としてヤマトに残ることになった。信頼の証や、人質なのだろう。
とにかくこれで無事に脱出できたと思いきや、途中で牽引ビームが切られてしまう。
螺旋力で主砲も撃てるし自力航行も可能だが、私は少しだけ待つようにと指示を出す。
するとやがて牽引ビームが再接続されて、無事に通常空間に脱出することができた。
すぐに味方の艦隊から連絡が入る。
私たちの帰還を喜ぶと共に、周辺宙域のガミラス艦を排除したことが伝えられる。
牽引してくれた敵艦としては複雑だろうが、取りあえず再会できたのでヨシとしておく。
その後はディッツさんを艦載機に乗せて帰還させ、戦いを始める。
しかし短い間とはいえ、手を取り合った相手を殺すのは心苦しい。
なので、最初強く当たってあとは流れで済ませる。
具体的には何発かスレスレを掠めるように撃つ。
さらに螺旋防壁で守られているとはいえ、こっちも何発かわざと攻撃を受けた。
これで上に報告しても、一方的に罰せられたりしないだろう。
それでも処罰されて刑務所行きになったら、悪いとは思うが停戦するまで牢屋に入っていてもらいたい。
とにかくこっちは戦う気はないので、先を急ぐために艦隊に指示を出す。
ついでにガミラス艦にも、次元断層から速やかに離れるように警告し、長距離ワープで急いで逃げ出すのだった。
途中で次元潜航艇と遭遇したが、地球連邦軍でも実用化されている。
対処法も周知されているし、そもそも異星文明は地球よりも技術力が高いと想定していた。
どれだけ優れた兵器や技術を研究開発しても、決して油断はしない。
ガミラスの次元潜航艇も同じだ。
すぐに感知して、通常空間に現れた敵の目を破壊する。
強制的に、撤退に追い込んだ。
なので、残念なのかは知らないが特に見せ場はない。
うちの艦隊もその気になれば潜れるが、その必要はなかった。
しかし、敵の攻撃が激しくなるということは、それだけ本星に近づいている証拠でもある。
さっさと停戦して地球に帰り、狼たちと戯れたいものだ。
そんなことを考えながら船室で緑茶を飲んでいると、いつも通りピコーンと何やら嫌な予感がして席を立つ。
部屋に外に出て周囲を見回すと、何故か皆がぐっすり眠っている。
何だか良くわからないが、敵の精神攻撃に間違いはないだろう。
そう考えて、真っ直ぐユリーシャさんの部屋に向かった。
すると向こうも同じことを思ったのか、廊下でバッタリと出会う。
「イナリは何ともないの?」
「はい、神様なので」
何の説明にもなっていないが、そうとしか言いようがない。
ユリーシャさんは微妙な表情をしていた。
ガス生命体を狐火で焼き尽くしたり宇宙空間に出てもピンピンしていたりと、この航海の間だけでも色々見てきたのだ。
なので、一応は納得してくれたようだ。
「これからどうするの?」
「まずは、皆の目を覚ましましょうか」
私はそう言って意識を集中させる。
そしてほぼノーモーションで、ヤマトだけでなく護衛艦隊の全てを覆うほどの広範囲を、狐火で一気に焼き払った。
人体には無害で、敵のデバフを打ち消すのが目的だ。
そんなに高威力は必要なく、このぐらいチョロいものである。
「……凄い」
感応能力を持っているのか、ユリーシャは影響範囲の大きさに驚いている。
「地球連邦大統領なので」
私はどうにも説明に困ったので、さっきよりも苦しい言い訳を口にした。
もはや地球連邦大統領とは関係ない。
しかし気合でゴリ押すのは珍しくないし、今回もそういう感じだ。
やがて、廊下で寝ていた人たちが目を覚まし始めた。
そっちは医療スタッフやメンタルモデルに任せることにする。
私は気にすることなく、艦内の異質な気配を追って歩き出す。
ユリーシャは要人なので、敵が紛れ込んでいるのに一人にさせるのは不味い。
しかし起きたばかりの乗員に任せるのも不安だし、仕方なく彼女も連れて行くことにした。
やがて機関室に到着すると、螺旋エンジンの前に青い肌の若い女性が倒れていた。
輪郭がぼやけていることから、どうやら肉体ではなく精神体のようだ。
どのような手段で侵入したかは、良くわからない。
だが広範囲を浄化の炎の焼き払ったことで、今の彼女は陸に打ち上げられた魚も同然である。
放っておいても消えてしまうだろうが、それは心が完全に死ぬということだ。
「こんな状態では尋問も無理そうです。
取りあえず、帰ってもらいましょうか」
すぐに目覚めさせたので、味方の被害は殆どない。
これに懲りたらもう襲撃して来ないだろう。
私は女性の精神体の前でしゃがみ込み、手で触れて静かに念じる。
すると宙に溶けるように消えたので、これで無事に家に帰れたはずだ。
実際のところは知らないし、確認する術がない。
取りあえず何とかなったので、とにかくヨシとしておくのだった。