ホシノに依存するまで 作:元ポリスメン少佐
昨日は、少し勘違いをしていたのだろう。
もしかしたら、これまで助けてもらってばかりだった先輩に何か恩返しをしたかったのかもしれない。
仮にも未来を知っている、特別な人間なんだぞと、存在証明をしたかったのかもしれない。
それでも、まだ頭に銃口がこびりついている。
◆◆
キヴォトスのコンビニには、非常識が散りばめられている。
早朝、昨日言われた通りの物を買おうとコンビニに向かった所、想像以上のカオスっぷりに驚いている。
棚には弁当、おにぎり、サンドイッチが並んでいて、その横には銃弾とマガジン、グレネードが売られている。
せめてコーナーは分けてあるだろうと思っていたのだが、どうやら違うらしい。
俺はその棚から
「ありがとうございました〜」
店員の気の抜けた声を聞きながら、外へ出る。砂漠のイメージにしては、早朝のアビドスは肌寒い。
何を購入するかは非常に悩んだが、結局のところ逃げられれば良いのだ。だから、煙幕と爆弾を買うことにした。
煙幕で視界を潰し、爆弾で驚かせている間に逃げる。
更に。キヴォトスの兵器が進化していることもある。
本来、携帯できるタイプの発煙弾は起動してから徐々に周囲を覆うものだ。そのため、使用から煙幕の展開まで数十秒から数分のラグがある。
それに出てくる煙も有害で、ガスマスクをせずに長時間吸うと肺の炎症や酸欠を引き起こす。
しかし、キヴォトス産のものはやはり違う。レバーを外して3秒後には爆発し、周囲を全て煙幕で覆う。なおかつ煙は無害で、なんなら低温で火傷の心配もない優れものだ。
まあ、つまり誰も傷つけずに安全に逃げられる、ってことが確約されている。
銃は、まだ買えそうになかった。コンビニが割高──軍事用品の割には安すぎる気もするが──なのもあるが、金が足りない。
先輩が給金として俺の口座に幾ばくか入れてくれていたのだが、流石に銃を今買おうと決心できるほどの金額ではなかった。
そもそも俺に給金を払う必要は明らかにないが……好意は受け取ることにしている。
近くでできるアルバイトを探しているので、それからと言うことにした。
ひとまず、最低限の自衛用品は用意できた、これで今日からはホシノがいなくてもなんとかなる。
昨日の痴態はこれから取り返そう、と。先輩と合流して、街へと繰り出してしばらく後。
「あれ?ホシノちゃん。今日はどうしたの?」
「昨日の奴らが、仕返しに来るかもしれないので」
なんと、ホシノが合流してきたのである。
「要は護衛に来てくれたってことか?」
「いえ、あなたたちに釣られたところをまとめて倒した方が楽かなと」
「囮作戦ってことかよ!?」
なんだこいつは!
そう思いかけたところ、それだけにしてはなんだか雰囲気が柔らかい気がする。
ユメ先輩は何かに気づいたように、得意げな顔になって「そっかそっか〜」と笑顔を浮かべている。
「ホシノちゃんは素直じゃないんだね!実は、心配してくれてるんでしょう?」
「だ、誰が心配なんか……!」
「心配してなかったらわざわざ来ないだろ?」
「〜〜っ!余計な事言うなら、もう知りませんよ!」
ユメ先輩も微笑ましいものを見るかのようにホシノのことを見ている。
ホシノはその視線に耐えれなくなったのか、顔を逸らした。
なのにユメ先輩がやれ可愛いだのやれ優しいだのと構い続けているのを見ると、ほんの少しホシノに同情したくなる。
そんなホシノは、まるで思春期の子供のようで。とても可愛らしかったことをまだ記憶している。
◯◯◯◯◯◯◯◯
「見て見てレミちゃんホシノちゃん。方位磁針内蔵のリュックサックだって!便利そうじゃない?」
「コンパスをカバンに入れれば済む話では?」
「ユメ先輩がコンパスを忘れなければただの無用の長物ですね。それに高い割に普通の物より小さいですし……」
この間の刺々しい雰囲気はどこへやら。
相性が良かったのか、ユメ先輩がコミュ強だからか、ホシノが優しいからか、または全部か。
「うっ……確かに高すぎるかも」
俺たちは意外と良い三人組になっていた。
そうやって二人から三人になってしばらくした休日。
採用された引越し作業のアルバイトも順調で、何なら借金返済金にも少し当てられるようになって来た頃。
……アビドスが廃れているのもあって、未だ引っ越す人は大勢いるのだ。
窓からは風と砂が入り込み、少しずつ黄土色に飲み込まれようとしていて、もう先輩とホシノ以外の靴音を聞くことの無くなった校舎。
そこで少し積もった砂を払っていると、ユメ先輩が何かジャラジャラと金属のかち合う音を鳴らしながら歩いてきた。
「レミちゃん、リフォーム終わったって!」
「リフォーム?……あぁ!終わったんですか!?」
そういえば最初の時、『使われなくなったお家をリフォームしてもらうから、それまで学校に住む?』と聞かれたのを思い出す。
「本当に何から何まで……ありがとうございます」
この校舎もそろそろ限界ですし、と繋げかけて、やめた。
まだ頑張っている先輩にそんなことを言うのは失礼だろう。
「良いの良いの。私がやりたくてやったんだし」
ユメ先輩は、本当に善の人間なんだなぁとふと思う。
世の中にいる良い人には、二つの種類がある。
ただただ本当に隣人を愛し、不遇な人に同情でき、人を助けることが大好きなやつ。
ただただ外面ばかり気にして、人を助けている自分に酔って、帰ってくるものばかり気にしているやつ。
ユメ先輩も、ホシノだって、前者の人間なんだろう。
俺とは違って。
着いた先は、一軒家だった。
アビドス郊外の空き家で、住人が引っ越す時に引き払ったそう。
砂嵐の影響が少ない郊外であるおかげで、状況は悪くなくリフォーム代は安く済んだのだとか。
ユメ先輩にせめてリフォーム代金だけでも後で返させて欲しいと頼んだが、「レミちゃんがアビドスにいてくれるだけで嬉しいから」だなんて躱されてしまって、そのまま引き下がってしまった。
そうやって家の中で、ただひたすらボーっとしている。
何かしようにも、流石にスマートフォンは先輩に用意してもらうのを遠慮した影響でまだ契約していないし、寝るにはまだ早すぎる。
ただそうやって何もしないでいると、何だか罪悪感のような……貴重な時間を無為にすり潰しているように感じる。
これだけ与えられて、俺は何もできないでいる。
人生を歩む準備をしておきながら、何も見返りを求めなかった先輩。
いつも悪態ばかりついているのに、いざという時はいつだって助けてくれるホシノ。
俺の暗さに比べると、あまりに輝いていて、綺麗で、尊くて。
(そうだ、走ろう)
そんな虚無感を打ち払うべく、何も考えずに走ることにした。
◯◯◯◯◯◯◯◯
「あれ、レミ?珍しいですね、この辺りにいるのは」
迷わない程度に走り続けて数十分。何の音もしない住宅地を抜け商店街に差し掛かろうというところで、ホシノと出会った。
(正直、まだ二人っきりで話すのは苦手なんだけどな……)
ユメ先輩を挟んで三人でいることにはすっかり慣れたが、俺たちが先輩のいない場で会うことはそうそう無い。
「少しでも体力つけた方がいいかなって、走ってたんだ。そう言うホシノは?」
「……少し散歩してただけです」
彼女を見ていると何だか……自分が惨めに思えて。
だから、いつも先輩を挟んで直視しないようにしていた。
(そろそろ向き合うべき……か)
意を決して、震えかけている喉を開く。
「ホシノ、これから暇か?」
「何ですか急に。まぁ予定は空いてますけど」
「手榴弾とかは買ったんだが、銃は買ってなくてな。これから買いに行こうと思ったんだが店の位置が分からなくて、着いてきてくれないか?」
俺がそう言うと、ホシノは少し考え込んでから、
「いいですよ。この辺でガンショップとなると……あそこですかね」
と、俺を先導し始めた。
銃器店に向かう道すがら、気づいたことがある。
まず、さっきホシノが言っていた散歩。これは真っ赤な嘘だ。
「あ、そこのピンク髪の子!さっきはありがとな、危うく店の売り上げが飛んじまうとこだったよ」
「カバン取り返してくれてありがとうね。盗まれちゃうかと思ったよ」
さっきから色んな人が、ホシノを見るや否や感謝の言葉を述べている。
パトロールをしていたというのは本当だったようで、地域の人からするとホシノは警察のような物なのだろう。
「ホシノは、すごいな」
「藪から棒に何ですか」
「さっきからずっと感謝されてただろ?いつもあんなツンツンしてるけど、案外良いやつなんだなって」
最悪の初対面だったり、嫉妬だったりで詳しくは知らなかったが、やはり彼女は善人なのだろう。
彼女は少し赤面して、
「目の前で不法行為が起こっていれば、止めるのが普通でしょう?止めない方がおかしいですよ」
と言い訳をしている。だが、日頃からパトロールをしている事実は否定できていないのだ。
そうやって、何でか自分が善であることを否定している彼女がどうしても可笑しくって。
「ふふっ」
「何笑ってるんですか!」
店に着くまで、ずっと笑っていた。
……笑うしか、なかった。
可能な限りレミちゃんにはどうしようもない人間でいてもらいます。
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