ホシノに依存するまで 作:元ポリスメン少佐
ただ、もしも銃の事が好きなら見てくれると助かります。
アビドス銃器店、と書かれた看板が砂の混じった風に揺られている。
最初こそ「何笑ってるんですか!」と文句を言っていたホシノもそろそろ諦め始めた頃、ようやく店に着いたようだ。
カランカランと、ベルが鳴った途端に咽せ返るようなオイルと硝煙の匂いが鼻をつく。
(この中に射撃場でもあるのか?)
そう思ったのだが、見える限りその類の物は見つからない。ただ、壁に弾痕が多いような気がする。もしかして、棚を動かして即席の射撃場にでもしているのだろうか。
観察していると、カウンターの向こうの人影に気づいた。
店主なのだろう。柴大将の色違いのような、まるで歴戦の猛者のような風貌をしている。
退役兵みたいな感じでカッコいいな、みたいなことを思いながら彼のことを見ていると、とあることに気づく。
(なんで、銃に手をかけてるんだろう?)
「っ!?」
突然、ホシノが俺を押し退け前へ出た。
その手にある
「そのピストルから手を離してください、さもなければ撃ちます」
そこまで来てようやく、店主が俺たちを害そうとしていた可能性に気付いた。
何なら彼が店主である確証もなく、犯行後の強盗犯であるかもしれない。
ポーチに入っているグレネードに手を掛けようとした時、店主が両手を上げた。
「悪い、撃つつもりはなかったんだ。最近、来る奴は強盗ばっかでな。そんな素振りを見せれば撃ってやろうって思ってたんだが、違うみたいだな」
ああ、この硝煙の匂いと弾痕はそういうことだったのか。
俺がそう納得している横で、ホシノはなんだか複雑そうな顔をしている。
(この辺までパトロールできていないんだろうか)
それで罪悪感でも感じているのだろう、どうしようもないことなのに。
◯◯◯
ホシノが銃を下ろした辺りで、店主が話しかけてきた。
「ところで、その制服。あんたらアビドス高校の生徒だろう?会長には多少世話になってるし、強盗と間違えた非もある。多少ならサービスするよ」
「それなら、彼女に合う銃を見繕ってくれませんか。少々特殊な環境にいたそうで……銃を持ったことがないらしいんです」
「相分かった。ビギナー向けのやつとなると……この辺りか」
口を挟む間もなくドンドン話が進んでいく。
ホシノが「これは……7.62mmですか?流石に難しいでしょう」「そうですね、彼女にはその辺りが良いかと」「ライフルだけでなくサブマシンガンも?ありがとうございます」などと店主と会話をしている横で、俺は何故だかさっきのホシノの後ろ姿が焼き付いている。
それはまるで頼れる家族のようで……強い、安心を覚えた。
そうこうして気づけば目の前にライフルや短機関銃が何丁か置かれていて、店主さんからは「店の裏手に射撃場がある。試し撃ちしてみてくれ、弾代はサービスするから」と銃を握らされている。
あれよあれよという間に、俺は銃のグリップを握って的を狙っていた。
「ストックはしっかりと肩に当ててください、左手は銃身のこの辺りに添えると反動を抑えやすいです。手前のこの穴と奥の突起を合わせるように狙ってください」
ホシノからのレクチャーを受けながら、試射をしている。
手に待っているのは、一般的なアサルトライフルのようだ。確か、AR-15と言っただろうか。
リアサイトとフロントサイトの照準を合わせ、引き金を引く。ただそれだけの作業なのに、何だかやりづらいのは何故だろうか。
ダンッと、大きな破裂音が響く。これまで聞いていた銃声と比べ、距離が零なのもあって異様に大きく感じる。
そのまま3、4発撃って、キーンと甲高い金属音がいくつか返ってくる。
「筋が良いですね、本当に初めて銃を触ったんですか?」
「本当だよ本当、どう見たって扱い方がぎこちないの分かるだろ?リロードの仕方だって分からないしな」
「それでも、初めてで40m先に当てられるのは凄いですよ。自信を持ってください」
教えてもらいながらマガジンリリースを押して弾倉を入れ換え、チャージングハンドルを引く。
撃つ度に肩に当たる衝撃は意外と小さく、あまり銃身がブレる事もなかった。
その後も複数の銃を試射させてもらった。
少しずつ銃を撃つ姿勢にも慣れていき、ライフルもサブマシンガンも、ストックを使って安定して撃つことができた。
「そういえば……拳銃とかは預からなかったのか?」
「拳銃は、初心者が扱うには少し難しいですから。撃ってみたいなら今からお願いしに行きましょう」
アニメにしろ何にしろ、よく出るのはハンドガンのイメージがある。そういった興味本位で撃ってみることにしたのだが。
「…………まっったく、当たらない」
「20m先で二割当たってるなら大した物ですよ。普通もっと外します」
「でもなぁ……さっきまでは、上手く行ったんだけどなぁ」
「ストックがないですから。腕から肩まで使えるライフルと違って、腕しか使えないハンドガンは難しいんですよ」
反動が先程までより重く感じる。いくら落ち着いて狙っても、さっきの半分の距離の的にすら上手く当たらない。
店主さんに三丁くらい拳銃を選んでもらったはいいものの、最初の自動拳銃ですらこの有様だ。
さっきまでの自信が消え失せていく感覚がした。
「そうですね……なら次はこっちの銃を撃ってみてください」
「あぁ、分かった。ただ、その……さっきまでのやつと何が違うんだ?」
ホシノに手渡された次の拳銃を見る。
見た目には何の変化もない、銃身の長さも大きさも同じくらいだ。
だが、確かにさっきまで持っていたものより軽いし、なんだかグリップが握りやすい。
マガジンを抜きチェックすると、弾丸はさきほどの半分ほどの直径だ。
「さっきまで撃っていた弾は.45ACPと言って、少し反動が強いんです。なので.22LRという、撃ちやすい弾を使って慣れてみましょう」
横からホシノに見守られながら、もう一度的に向かって撃つ。
タン、タン、タンと。ライフルやさっきの拳銃に比べ、軽い銃声が鳴った。
(やっぱり、地面にばっかり当たるな)
放った弾丸は、標的の足元で土飛沫を巻き上げた。
ターゲットには、まだ三発ほどしか当たっていない。
「レミ。今の、自分でわかりましたか?」
「分かったって……何のことだ?」
「さっきまでの強い反動に慣れて、無意識に強く銃を握っているでしょう。それで撃つ時に銃口が下を向いているんです。私が支えますから、ゆっくりと力を抜いて、トリガーを絞るように撃ってみてください」
視界に映っていた自分の手に、ホシノの手が覆いかぶさった。その妙に近い距離感は、何か変なものを感じてしまう。
そんな邪な感情を隅に置いて、ゆっくりと、時間が引き延ばされているかのように感じながらトリガーを引く。いつ弾が出るのかも分からないまま、指先に、その外側の温度に、全神経を集中させる。
少しずつ、少しずつ。プラスチックが摩耗するような幻聴を聞きながら、気づいた頃にはタン、と。
その後に返ってくる金属音は、確かな成長を教えてくれた。
「それさえ修正すれば、恐らく5割以上は安定して当たるようになります。将来的には45口径どころか、マグナム弾も撃てるようになると思いますよ」
ホシノの激励の声も、今は聞こえなかった。
俺の頭に残っているのは命中した事でも、未来のことでもなく。
何故か、先ほどの体温が頭から離れずにいた。
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