ホシノに依存するまで 作:匿名
葬式はつつがなく終わった。
細々と、誰も招待せずに俺とホシノだけで終わらせた。
今は、先輩の遺品を整理している。
整理……と言っても、集めているだけだ。
捨てられないでいる、細やかな思い出を。小さな付箋を。くしゃくしゃに丸まったプリントを。使えなくなったペンを。
どんなものでも、先輩の残滓を、思い出を感じて。
ホシノと二人して、目に何かを浮かべながらゴミ箱の中までひっくり返している。
俺にはそんな権利、無いのに。
そうやって、生徒会室の整理が終わってからしばらく。
ホシノが口を開いた。
「…………私のせいです。私がつまらない意地を張って、先輩に八つ当たりなんてしたから」
顔を俯かせながら、まるで懺悔でもするかのように声を震わせながら。
「違う」
──その言葉の先は、続かなかった。
違うんだ、ホシノのせいじゃないんだ。知ってたのに、気づけたのに、見殺しにしたのは、先輩を砂漠で死なせたのは、俺なんだ!
そう言うべきなのに。
「……お前のせいじゃない、ホシノ」
口をついたのは、告解じゃなかった。
醜く悍ましい、嘘の慰めだった。
だって、言える訳が無いじゃないか!
真実を伝えれば、間違いなくホシノは俺を軽蔑する。俺のことを糾弾して、詰って、謗って。
……最後には、「お前なんてアビドスの一員じゃない」って、追い出されるに違いない。やっと見つけられた居場所、俺が誰かの隣に立ってもいい場所。
諦めることができなかった。責められたくなかった。嫌われたくなかった。
(ああ、そうか)
ホシノは憔悴しきっていて、まるで刑を待つ囚人のような顔をしている。
それを見てようやく、気付いた。
(俺は……二人と居ちゃいけなかったんだ)
表情を見れば分かる。ホシノには、覚悟と責任感がある。
分からなかったはずだ。俺が責めることなんてないって、出来ないって。
そんな状況でも誠実に自分のしたことを言ったんだ。
なんと清廉なことだろうか。
それと比べ、いざとなれば自己保身ばかり考えて、誤魔化す事ばかり考えている自分の矮小さ。
自己嫌悪を感じても、表情には出さないように堪える。
今そんなことをすれば、ホシノはもっと辛いだろうから。
俺が居なければ、ホシノはもう少し楽だっただろう。
ホシノからすれば、俺は先輩と仲が良かった、無実のただの同級生。
まるで、俺から先輩を奪ったかのように感じて、罪の意識に苛まれていることは考えるまでもない。
例えば、俺が全てを白状すれば楽になるだろう。
俺がこのまま
でも……俺には、どうしてもその手段が取れない、取りたくない。
だから。
「これから、二人で、なんとかしよう」
せめてこれからホシノに全てを捧げて、助けようという淡い覚悟を掲げながら。
単語を無理くり繋げたような発音で、最低な未来の話をした。
◯◯◯◯◯
「────これで全員、だな」
撃ち切ったマガジンを新品に差し替えながら、周囲を見回す。
辺りには気絶したバイカーヘルメットの集団、ヘルメット団が倒れていた。
「レミ!そっちは!?」
「なんとか。全員暴れてるホシノしか見てなかったからな、楽だったよ」
「それなら……良かったです」
先輩がいなくなってから数週。指名手配犯を見つけては捕縛し、時折傭兵の仕事も探し……どうにか、今月の返済額を賄えそうだ。
あの日から、ホシノと俺はずっと一緒に行動している。
多分それは、お互いのことを監視するようで、守るようで。少しずつ、二人で共有していない時間が減っていった。
だからこそ見えてくるものもあって。
(ホシノも、夜寝れてないんだろうな)
目立つ隈は見えない。明らかな不調らしきものもない。それでも、言葉の間ひとつ、歩き方ひとつ。細かな仕草の違和感からして、本調子でないことは明らかだった。
気絶させたヘルメット団を結束バンドで縛りながら、ホシノの動きを見る。洗練されていて、無駄のない動きのように見えて……ほんの少し、言葉に表すのも出来ない程のほんの微妙な部分において、精細を欠いている。
「ホシノ……ちゃんと、寝れてるか?」
「えぇ、もちろん。体調管理は、基本ですから」
──バレバレの嘘だった。息遣いに、不自然な間の開け方。
俺を心配させたくないんだろう、そんな意思が丸見えの演技だった。
そんな優しい嘘を真正面から剥がす行為は、どうも躊躇われて。
「──実は、最近寝れないんだ。妙に、寂しくて……それで、その」
それでも、その控えめなSOSを無視するのも嫌だった。
「嫌じゃなかったら、今晩泊まってもいいか?」
睡眠障害は、孤独感が原因だって聞いた事がある。
だから、それを紛らわせば眠れるんじゃないだろうか──と。それが自分自身の欲望であることに目を背けながら、彼女にそう提案した。
◆◆◆◆◆
レミは、最初から変なやつだった。
生徒会長と仲が良くて、いつも二人でいる同級生としか思っていなかった。
いざ話してみると、もっと変なやつだった。
銃を持ってないとか言うし、記憶喪失だなんて嘘かどうかも分からないことを言ってきた。
最初こそ先輩を騙しているのかもしれないと疑っていたが……二人と一緒にいて、そんな疑惑は瞬く間に消えた。
二人は明らかにお互いを信頼していて、良く笑い合っていた。
その二つの笑顔はとても綺麗で、見るだけで自然とポカポカするような暖かいものだった。
それだけで敵意や警戒心なんてものは抱けなくなって、気づけば三人で行動するようになっていた。
それからは……まあ、あまりに警戒心が薄い二人に怒ってばかりだったけれど、でも。
三人で宝探しだ〜なんてスコップを持ってバカなことをしたり、先輩の人助けを手伝ったり、時々ただただ三人で散歩してみたり。
二人の前で素直にそう言うことは、ついぞ無かったけれど……とても楽しかった、尊かった、好きだった。
そして、壊してしまった。
下手な意地を張って、先輩を突き放してしまった。
ただ自分の道が正しいと思い込んで、甘い先輩もレミも……独りよがりな私も、許せなかった。
まさか、あれが最後になるなんて思わなかった。
ようやく見つけた先輩は、レミの腕の中で動かなくなっていた。
息を忘れていた。先輩を抱えているレミは、まるで彫刻かのように動かなかった。その目は何も見ていなくて、どこまでも空虚だった。
私が。
私が、壊した。
アビドス生徒会を、先輩を、大切な同級生を。
私のせいだ。
アビドス生徒会は以前ほど住民からの依頼を受けなくなった。
当然だ、いつもは先輩が頼み事をされていただけで、生徒会そのものへの依頼はほぼ無かったから。
レミは、言葉を発することが減った。
それでもいざ口を開いた時は、私を励ましたりポジティブなことを言ってくれる。一番苦しいのはレミなはずなのに、私を恨んで然るべきなのに、そんなことを感じさせないように振る舞ってくれている。
きっと気づいている、私が夜眠れてないことなんて。それでも私のために、レミのためだからという言い訳を用意してくれた。
私は……せめて、アビドスというものだけは残せるように、毎月の返済をこなしている。賞金稼ぎとして、傭兵として。
もしも私だけだったら、学校を畳む選択をしたかもしれない。けれど、私だけじゃない、レミもいるのに勝手に畳む選択なんて、できる訳がなかった。
まだ、終末じゃない。
拙くても、逸れていても、私はレミを、アビドスを守って、続けなければならない。
先輩ならそうしただろうから。レミはそれを望んでいるだろうから。
例え贖罪にはならないとしても、それ以外に自分の価値を見出せないでいる。
◆◆◆◆◆
太陽は落ち、月が空を照らしている夜。同じ布団に二人くるまりながら、明かりのない世界を怖がっている。
泊まるだけではなく、同衾にまで発展したのは……単に、俺がまだ眠れなかったからだ。
隣にホシノがいるのは分かっていた、ここが安全なのも分かっていた。それでも、妙な寂しさが胸から離れなかった。
つくづくホシノに頼り切りな自分の情けなさが、惨めさが際立つ。
だけれど、体を覆う互いの体温に、かすかに感じるホシノの匂いに、いろんな感情がコーティングされて、苦味を失って消えていく。
憧れだった、羨望していた、嫉妬していた、家族のように感じていた。
そんな彼女が、俺の腕の中にいる。こんな俺も、彼女の腕の中にいる。
それはまるでお互いに所有しあっているようで、俺も……多分彼女も、なんだか変な安心をしている。
そんな穏やかな日々が続けばいいと、自分の所業に目を瞑って、未来を望む。
そうやって、秘密は秘密のまま終わると思っていた。
テストが終わりました、二つの意味で。
あとタイトルから察してる人もいるかもしれませんけど、好きな曲の歌詞をガイドラインに引っかからない程度に引っ張ってます。良ければ元曲聞いてみてください。
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