奇天烈少女と米花町   作:あとか

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奇天烈少女と名探偵

 とある町のマンションの一角。自室のパソコンに向かい、呟く少女がいた。

ただ…反応が大袈裟だった。

その言葉に反応したのは、彼女の相棒たる存在。

と言っても、家族には"視えていない"存在なのだが。

好奇心旺盛な彼女を抑えるのに毎日苦労している相棒は、彼女の言葉に呆れながら返す。しかし彼女はそれを軽くあしらい、興味津々で恐ろしい場所に向かおうとしている。相棒は慌てて抵抗する。彼女が暴走した時の末路を身をもって体感しているためである。だが、彼女に"普通の忠告"が効くわけもない。

結局必死に止める相棒を揶揄ったがために、狭い部屋の中で”いつもの地獄絵図”が完成していた。

 

 

 

翌日。米花駅。電車内から少女を心配する声が聞こえる。

しかし、ホームに足を付け振り返った彼女はいつもの笑みを浮かべてこう言い切った。

 

「心配ご無用!私は”普通“じゃないので!」

 

 殺人の温床・米花町。

殺人事件が頻発し、入ったら出ることのできない蟻地獄とも評される日本のヨハネスブルク。

そんな場所に、一人の少女が降り立った。

果たしてそれはどんな結末を迎えるのだろうか?

 

 

 彼女はこの地が恐ろしい場所だと分かっていながら、すっかり観光していた。持ち前のテンションを一切崩すことなく。相棒は彼女の行動力に既にヘトヘトだった。そして心の中で呟く。

(殺人事件が多い場所にウキウキで入っていく小学生なんて、ユー以外いないダニ….。)

 

 そもそも”普通の子供”なら、避けるはずだ。なのに、彼女は寧ろ自ら寄っていく。彼女は恐怖より興味関心のあるものに心の天秤が動いている。だから彼女の言動は突拍子もないことが多く、行動力もある分余計についていくのが大変なのだ。

彼女の仲間と言える彼も、彼女の相棒も。

 


 

「……なにやってんだ?あの子……。」

学校帰りのコナンは、自分より年下*1のボブカットの彼女の言動に呆れの目を向けていた。小学校高学年程度に見える、ボブカットで丸眼鏡の少女は、至ってありきたりなガラスを見ては、急に変な方向に回りだしたり真剣な表情で何やら呟いたりと、奇妙な行動を取っている。しかも、スマホで電話をかけている素振りもないのに、どこかにむかって話しているようだ。何を話しているのかは聞き取ることはできないが、彼女が”変わっている”ことだけはすぐに理解できたコナンだった。

コナンはつい好奇心を抑えきれず、彼女に声を掛けた。それが、失敗であると知らずに……。

 

「ねぇ、お姉さん。何してるの?」

「おぉ!住人発見!」

「へ?」

 声を掛けたにも関わらず、全く会話の成り立たない返事をされ、思わず間抜けた声が出る。

普通、"何しているの"と聞かれたら素直に答えるもののはずなのに、彼女は全く質問に答えていなかった。

 

「米花町在住ですか?少しばかり調査に協力していただけませんか?!」

 そればかりか、こっちの要件も聞かずにグイグイと来る。これは周りが苦労してそうだと、内心で苦笑いを浮かべる。その苦笑いを顔に出さないように頑張って、詳しい内容を聞こうと質問を続ける。

 

「調査って何を調べてるの?」

「守秘義務故、秘密にさせてください!ネットを介して依頼を受けたんです。」

「依頼って……。お姉さん、探偵なの?」

 この街に探偵が多いことの弊害。依頼=探偵と安直に結び付けてしまったのだ。少し考えれば、小学5年生くらいの子供が探偵であるはずがないと、気づくはずなのに。

 

「よくぞ聞いてくれた!私はイナウサ不思議探偵社の未空イナホ!相棒と共に様々な怪事件を解決してきた名探偵だ!」

 ドヤ顔で言い切るイナホに、コナンはポカンとするしかない。

つい探偵かと聞いてしまったが、あり得ないと思っていたところにこの回答である。まさか探偵だとは思わなかったし、しかも堂々と名乗られるとは思わなかったのだ。流石に子供一人でやっているわけなかろうと思って聞いてみれば、本当に子供一人でやっているらしく、しかも遊び半分なのか依頼料はないらしい。なのに事務所もあればパソコンもある。そんな状況なのに依頼料がない方がおかしい。収支が完全にマイナスだ。

もしや、ウソ言ってるんじゃ?

いつの間にかコナンの中で彼女は警戒の対象になっていた。

 


 

 結局グイグイ来るイナホを拒めず、コナンはイナホを連れて事務所に帰ることとなった。その間、それとなく探りを入れようとしたのだが、矢継ぎ早に飛んでくるイナホの質問を躱すことしかできなかった。

(こんな小学生、見たことも聞いたこともねぇ……。とにかくやりずらいったらねぇな。)

 コナンは自分のことを棚に上げつつ、内心そう呟く。そんなコナンの思惑を他所に、イナホはうひょーとわめいていた。

「いい感じの喫茶店じゃないですか!!いいなぁ、こんな近くに喫茶店があって。うちの場合、一駅行かないとないんで面倒なんですよ~。」

喫茶ポアロを見るなり、誰も聞いていないのにべらべらとしゃべりだす。流石にコナンもこれが彼女の平常運転だと悟り、いつもの態度で店内に入った。コナンが喫茶ポアロに来たのは、イナホを彼に任せるつもりでいたためだ。

「やぁ、コナン君。珍しく年上の友達を連れてきたんだね?」

「彼女は友達じゃないよ、安室さん」

 彼女の様子を見て、揶揄うように言ってくる安室にコナンはジト目を浮かべてそう言い返す。

 

安室透

「ここでバイトしている私立探偵」という設定でコナンの様子を見ている、警察庁警備局警備企画課の秘密組織・ゼロに所属する警察官。そして、コードネーム・バーボンとしてコナンがコナンになった所以の組織に潜入捜査している。

 

バーボンは探り屋として名を馳せている。

今でこそフランクな距離感の二人だが、安室の正体を知るまでコナンはかなり警戒していたし、お互い笑顔で本音を隠して腹の探り合いをしていたものだ。だからそんな彼に頼めば、彼女の謎だって解ける。そうコナンは信じていたのだ。

それが思わぬ方向に行くとも知らずに……。

 

 

「初めての方ですよね?」

「うぁぁ!イケメン店員来たぁぁ!テンプレ敬語が嫌みじゃないとか、羨ましすぎるんですけど!!」

「あの?!話聞いてます?」

「つーか!史上初じゃないっすかね?金髪褐色の優男が敬語話してるんですよ!!どこの紳士っすか!もはやどこぞの少女漫画のお相手にもなりそうなレベルじゃないですか!」

「シツレーですね!!」

 

 予想通りと言えば予想通り、逆に想像を超えてくると言う意味で予想外の展開となったことにUSAピョンは呆れていた。コナンは安室をここまで弄ぶイナホに、驚いて言葉が出なかった。安室の方もまさかここまでグイグイ来るとは思っていなかったためか、対応に困っている様子。余りにも押しが強いために、いつもの仮面がはがれていることに気付けないほどに。そんな二人を見ながらUSAピョンは苦笑いを浮かべ、落ち着くようにイナホを宥めるが止まるわけがない。唯一、彼女の矛先が向かなかった店員の梓がクスクスと笑いをこぼす。

 

「面白い子ね。」

「面白いで済ませていいとは思えないけど、梓ねえちゃん……。」

梓のその言葉に、コナンは呆れというか何とも言えない表情で返す。

確かに変わっているイナホだが、それを”面白い"の一言で済ませていいのか微妙だ。余りにも突拍子のない行動が多すぎて、ついていくのにやっとの状況だというのに。

 

「おぉ!こっちはかわいい系の店員さん!看板娘なんて言われてそうです!!」

 イナホの矛先を向けられたものの、自分をべた褒めするものなので梓は笑顔で返す。その笑みにやられたのか、一瞬くらっとした演技をして見せてから、手を額に当て点を仰いで叫んだ。

「うぉぉぉ!!この笑み、愛おしすぎまする!梓さん、あんま他人に振り撒かない方がいいですよ、マジで。勝手に恋に落ちる輩、沢山いそうですもん。」

「そんな必死にならなくても……。でも、ありがとう。えっと……。」

真剣な顔して梓に忠告したイナホに、梓はちょっと驚きつつお礼を言おうとして、イナホの名前を知らないことに気付いて詰まる。

「あぁ、そう言えば自己紹介してませんでしたね!ちわっち!私、未空イナホと申します!さくら第一小学校の魔の五年一組の生徒で、全方位オタクさせてもらってます!この度はイナウサ不思議探偵社の依頼として、こちらに参上した次第で……。

 

ってなに?言いすぎ?別にいいじゃん。どーせ、誰も分かんないんだし。

……ってことで、よろしくお願いします!!」

 梓にそう言われ、イナホは我に返って自己紹介して勢いよくビシッと敬礼を決める。目の前に本物の警察官がいる前では、及第点にも届かないレベルではあるが、彼女の自信が垣間見えるものだった。

 

 

「なんだかキミの言うこと、気になることが多そうなんだけど。それにしても探偵ということはクライアントは……?」

 安室の言葉にイナホは笑って言った。

「ネットを通じてのご依頼でしたし、そもそも依頼内容が"人"じゃないので連れてくるわけがありませんって。」

「依頼内容が人じゃない?」

 安室がそう呟くと、コナンがアイコンタクトを取った。そして話の主導権はコナンに移った。

 

「さっきイナホさ「ちょっとストップ!」え?」

「イナホさんはできればやめてほしいです!この呼び方は彼専用なので!」

 詳細を聞こうとすれば、真っ先にストップが入り目を丸くする。呼び方にまでこだわりがあるのか?コナンはつい呆れの目を向ける。

「……イナホ姉ちゃん。これでいい?」

「かわいい呼び方あざす!うちの弟、生意気だからこんな呼び方してくれないし……。で、なんだっけ?」

 家族のことを愚痴ったあと、ボケた。全員が漫画のようにガクッと崩れる。そんな彼らを見てイナホはニコニコと笑っている。態とボケたのが丸わかりで、USAピョンは呆れながら文句を垂れた。そんなUSAピョンに気付かないまま、コナンは気を取り直して話を再開する。

 

「なんでさん付けが嫌なの?」

「いや~。年下の子にさん付けされると落ち着かないといいますか。」

「でもさっき、"彼専用"って言ってたよね?彼氏がいるの?」

「彼氏?!いやいや、滅相もない。私がマスターたる彼と恋愛的意味でくっつくなど恐れ多くてできません!私は言ってしまえば彼の見習いですので。」

 照れる素振りもなく真顔で言い切るイナホに、コナン・安室・梓は(あっ、完全に違う)と悟った。USAピョンは、イナホの言う"彼"が誰であるかを分かっているため、いつもイナホに振り回される"彼"のことを思い浮かべ苦笑いを浮かべた。

「ていうか、イナホちゃんのその……彼ってだれ?」

 なんだか話が逸れてきたように感じた梓がそう尋ねると、イナホは待っていましたとばかりに目を輝かせて語りだした。

 

「平々凡々の見た目に騙されること勿れ!様々な冒険をし、数多の妖怪と友達になっている、心霊系メンタルバリ強の小学生!名前を言うわけにはいきませんが、血縁でもすご〜いお方です!普段は本当にフツーですが、それすらも“妖怪マスター”と言う肩書きを印象付けるスパイス!妖怪と関わることを天から命じられた彼は、私の大先輩と言って過言ではありません!」

「はぁ……。」

 興奮気味に"彼"のことを語るイナホだが、意味不明の単語が並ぶので周囲は困惑の表情で気の無い返答をする他ない。疑問符を浮かべているコナン達に得意気にしていたが、ハッとしたような顔をするとコホンと咳払いをして再度語りだした。

「“彼専用”って言うのは、彼を尊敬しているためです。あと、ぶっちゃけて言うと”さん付け“されるの、落ち着かないんですよねー。」

「そ、そうですか……。あ、だから”さん”付けはダメと?」

「まぁ、そういうことになりますかね〜。私は妖怪マスターの右腕になるので!!」

ドヤ顔を決めるイナホに、全員が揃って呆れる。コナンと安室が顔を見合わせるくらいに、彼女のテンションに付いて行けないのだ。USAピョンは呆れてため息を漏らした。

 


 

「そう言えば、イナホ姉ちゃんはどうしてこの街に来たの?って言うか、妖怪っているわけないじゃん。」

「おや?君は現実主義ってタイプかな?それだと痛い目見るかもよ?

真実は目に見えているものだけとは限らないんだから。もしかしたら、君のそばに居たりして……。」

「んな訳ないじゃん、何言ってるのイナホ姉ちゃん」

態とおどすように言うイナホに、ジト目を向けてコナンは一刀両断する。それに安室も同調する。

「未空さん、コナン君で遊ぶのもそこまでにしてくださいね?それに、現実主義でない人に探偵が務まると?探偵を舐めないで。もっと現実的に考えてください。」

「この街の探偵さんは厳しいですねぇ〜。私、これでも探偵やってるんですよ?現実主義者じゃなくても探偵はできるって証拠に他ならないじゃないですか。」

「「貴方/イナホ姉ちゃんみたいな人、探偵とは認めません/認めないよ。」」

「ひっどいなぁ。」

「二人の言う通りダニ。"妖怪専門"だから今まで上手く行ってただけの話ダニ。」

「え~USAピョンまでそう言う?」

ちょっと不満げに言うイナホに対し、USAピョンが言った。しかしイナホをより不貞腐れさせるだけだった。ついいつものノリでUSAピョンを揶揄おうとするイナホを他所に、コナンと安室は本題に入っていく。

 

「で、イナホ姉ちゃんが受けた依頼って何?」

「それは……。」

 コナンの質問に答えようとした矢先、ポアロの目の前で悲鳴が聞こえた。コナンと安室は真っ先に店を飛び出し、悲鳴の聞こえた方に向かう。

そこには、男性が一人遺体となっていた。

 


 

「梓さん、警察を呼んでください!」

「もう、亡くなってる。」

いつも通り、安室とコナンは周りに指示を出し、現場保存に努める。イナホはというと……

 

「ガチの殺人?!しかも、こんな間近で?!」

流石に目の前に起こった事件に驚いているが、その瞳の奥に好奇心が疼いているのを、USAピョンは見ていた。けれど、周囲の意識が向いていないことをいいことに、イナホは左腕を構え、右手でそのボタンを長押しする。

イナホがこれまで幾度となく繰り返した動作。

青い光が、辺りを照らす。

"普通の人"が視るのことのできない存在……妖怪を視つけるためのもの。しかし、期待する反応は一切なかった。そう、妖怪はいなかったのだ。

 

「この街で事件が多いのは、ミーたち妖怪のせいじゃないってことダニね。」

「だねぇ~。けど妖怪のせいじゃなくてこんなに事件が多いなんて……。人の業は恐ろしいもんですなぁ。」

 調査をさっさと終えたイナホは、誰も気にしていないことをいいことに、USAピョンと話していた。イナホはケータ程妖怪が引き起こす不祥事案件やデカい事件に遭遇していない。

(それは偏にクラスの特徴や彼女の性格によるものだが。)

しかし、それでもハラハラするような事態に遭遇したり、命の危険を感じたりしたことはある。

だが、日常生活で人間からの恨みを買うことは殆どないし、同じ人間にやられるなど考えたこともなかった。だからこその、"恐ろしい"発言である。

 


 

閑話休題。

 梓が通報してから数分後、白と黒に塗装された車が赤色灯を照らしながら道路に止まった。警察が来た証拠である。普通、緊張感が出る場面なのだが……。

「うひょ~!!本物のパトカー!!本物の刑事!!間近で見られるなんて感激であります!!」

イナホに、"普通"の反応を求める方が無理だ。もうこの数分で慣れた安室とコナンは呆れるだけで何も言わずにいた。パトカーから降り捜査を開始しようとした高木刑事と佐藤刑事は、イナホのテンションに押され戸惑っていたが。

 

「あれ?コナン君の知り合い?」

「ううん。僕は今日初めて会う人だよ!」

((……だろうな。))

高木刑事はコナンに尋ねながらも内心そう思っていたのだが、佐藤刑事もそれを察した。が、口に出したのはコナンに対する質問の方だったため、心の中でツッコむことになってしまったが。

 

そしてイナホはと言うと。

パトカーの中に興味津々で近付いたかと思うと窓ガラスにへばりついたまま動かず、中を覗こうとしていた。それにぎょっとした高木刑事は、落ち着きをとり戻すように首を振りイナホを引き離そうとするも、それを察した彼女も負けじと抵抗する。コナンとUSAピョンが慌ててイナホをパトカーから離そうとするがビクともしない。

 

その攻防を見かねてか、安室がため息まじりに口を出した。

「興奮する気持ちは分かりますが………未空さんは少し落ち着いてください?佐藤刑事達が戸惑ってますよ。」

「安室さんの言う通りダニ!」

「アハハハ……すみません。私って、いつもこうなんですよー。」

相棒にも指摘され、イナホは引き下がる。まだ、不満げではあるが………。その様子に、USAピョンは呆れていた。

 


 

 現場から少し離れたところで事情聴取が行われ、容疑者と思われる人物が現れた。まぁ、”事情聴取“と言う単語を聞いてスイッチが入りかけたイナホは、USAピョンのベイダーモードで押さえ込まれることとなったが。

 

 

 現場に入り、刑事と同等の視点で事件を捜査しているコナンと安室を尻目に、イナホは暇を持て余しウロウロしていた。けれどそれは普段とは少し違っていて、USAピョンはそれをすぐに感じ取った。

「イナホ、どうしたんダニ?」

「USAピョン。私、犯人分かったかも。」

「ダニ?!」

「多分なんだけどさ……あの人!」

 

イナホは周りに目を気にして指を刺す。それは一見事件とは無関係そうな女性であった。

「それ、ホントダニ?」

私の勘を信じなさい!んで、証拠の事なんだけど、みちび鬼君とかどうかな?あと犯人から自白させるためにバクロ婆さんとか、口すべらしとか。あんま長時間場所拘束されるの、耐えらんないし。」

 イナホは真剣な眼差しをしつつもどこか楽しげだ。

USAピョンはその様子を見て、ため息をつくもののその提案を受け入れた。イナウサ不思議探偵社としての仕事はとっくに終わっている訳で。USAピョンとしては、イナホがこれ以上暴走しないうちに帰りたいのが本音。イナホに暴走されて周りに迷惑かけるくらいなら、とっとと帰ってしまった方がいいのは、長いとも短いとも言えない付き合いで分かっている。

 

「じゃ、()びますか!」

笑顔でサムズアップして見せたイナホに、USAピョンは若干呆れ気味の言葉を返した。

 


 

友達を喚ぼうと人目のない場所に移動しようとするイナホを、コナンは怪訝そうな表情で見ていた。イナホの体調は悪そうには見えない。っていうか、寧ろ急に叫びだすほど健康そのものだ。

なのに、人目を避ける行動をしていて、怪しさしかない。

幼き頃—工藤新一としての幼少期から”探偵になる”と言って憚らなかった好奇心は今も健在。コナンはイナホに気付かれぬよう、後を付けた。イナホが人気も気配もない路地裏に入ったところで、コナンはイナホに声を掛けた。

「イナホ姉ちゃん、なんでこんなところにいるの?」

「コナン君こそ、なぜここに?」

「僕はイナホ姉ちゃんの後を追いかけて……。で、こんなところで何しようとしているの?」

「内緒です!」

 

 内心汗だらだらになりながら、それを感じさせない笑みでイナホは答える。

"現実主義者じゃなきゃ探偵はできない"。

そう言い切るコナンや安室には、イナホがこれからやることなど理解できないだろうから路地裏に向かったのだが。それは結局無駄になった。イナホの傍にいるUSAピョンも、コナンのこの行動力には驚いて言葉も出なかった。

 

 

「ねぇ、教えてよ~。」

 コナンは下手に出る作戦に出た。今まで現在の容姿を活かして大人を手玉に取り、自らの望む情報を手に入れてきたコナンだからこそ、この作戦に自信があった。しかし……。

 

「グウッ……。だ、騙されませんぞ!」

 妖怪という存在と関わっているイナホには、効かなかった。

コナンのこのあざとかわいい仕草は、イナホの中でかわい子ぶる妖怪数人と重なってしまい、一瞬可愛いと思ったものの嫌な思い出にすり替えられてしまった。USAピョンも彼女たちの悪行を思い出し、遠い目を浮かべていた。

 

 

「なぁんだ……僕、イナホ姉ちゃんなら話してくれるかと思ったんだけどなぁ。」

「こうなったら仕方ありませんね~。後悔しても知りませんよ?」

 思ったようにいかなかったことに、コナンは驚きつつそれを隠して不貞腐れたように言った。

その言葉を聞いて、イナホが笑う。ただし、よからぬことを企んでいるときの、妖怪すら引く気味悪い笑顔で……。その怪しく不敵に笑った表情には、流石のコナンも引いてしまう程に不気味だった。USAピョンにとっては慣れたもので、もう慌てることもせず呆れていたが……。コナンは一体何が起きるのか分からない不気味な状況に、子供の演技を忘れて警戒していた。

 

 

 コナンの許可を得たイナホは、USAピョンに託した妖怪大辞典からメダルを三枚抜き取る。そして、友を()ぶための合言葉を口にする。

 

「私の友達!出でよ、みちび鬼・バクロ婆・口すべらし!妖怪メダル、セットオン!」

 

 妖怪ウォッチから音楽とともに放たれる光の帯で作られた逆円錐形。その中に、メダルに描かれた妖怪が姿を現す。ケータ程でないにしても、イナホも慣れた光景もの。普通の、霊感のない人たちは一生気づかない、鏡写しの世界の一片。人間界と妖魔界。外見は異なりながら、その本質は似ている異世界同士。その境を越えることのできるツール・妖怪ウォッチによって成せる業。

妖怪マスターと称されるケータ程ではない。けれど確かにイナホと妖怪たち、その間に絆があるからこそ、できるもの。

見慣れた"友達"の姿を見て、イナホは自然な笑みを浮かべた。

 


 

「な、何してんだ?」

コナンはイナホの言動を理解できず、呆然と立ち尽くしていた。

今までの脈絡がなくて思いつきだと考えられる行動とは、一線を画していた。

明らかにその行動の意味を理解したうえで行われていたモノだった。しかし、コナンが認めたくないモノ ー非現実的な"妖怪"を受け入れることが出来なかった。

探偵は現実的でなければ真実を見つけらない。

そう思っているけれど、今さっき行ったイナホの行動もまた事実。今までのイナホの言動を振り返れば、真実は既に見えている。己が尊敬するシャーロックホームズの名言・「不可能なものを排除していって残ったものが、どんなに信じられなくても真実」、その言葉を反故にしたくないがどうしても認められない事実に、コナンは混乱していた。そして、行きついた推理に対する困惑もある。

 


 

「みちび鬼君は、この街の探偵さんたちをおねがい!口すべらしとバクロ婆さんは、彼女に取り憑いて情報漏らさせて!」

 イナホはいつものように、喚んだ妖怪たちに指示を飛ばす。全員が現場に向かっていったのを確認して、"いい笑顔"を浮かべてコナンを見下ろした。その笑みに、USAピョンは心当たりがあった。FBYを名乗るマルダーとカクリーがイナホの秘密を探りに来た時に浮かべていたものだ。

 

「い、イナホ姉ちゃん?」

「どうかした、コナン君?」

「い、いや……。」

混乱極めたコナンは相手に聞くという最終手段に出ようとした。しかし、"いい笑顔"にやられて直接聞くのを憚ってしまった。そして、真実を知る手がかりを失ったのだった。

 

「じれったいっすなぁ。まぁこの事件、すぐ終わると思うよ。」

イナホが笑う。コナンの頭脳をもってしても、状況を理解できないことだった。コナンは駄々を捏ねるように彼女に問いかける。

 

「どうして?」

「言ったって、君は認めないでしょ?目の前に視えていることだけで世の中回ってないんだよ?偶然証拠を見つけたり、犯人がポロっと零したり。そんな何気ないこと、"偶然"で済ませてない?とんでもない、偶然なんて、この世に存在しないんだよ。私たちは日々踊らされてるんだよ、君が否定するものに。」

 イナホはそう言って、口元だけ笑みを浮かべる。絶句するコナン。そして長らく感じていなかった怖さ―得体のしれない人ならざるモノへの恐怖を感じた。コナン基新一は、生粋のシャーロキアンで現実主義者(リアリスト)。7歳という年頃で”お化けなどいない"と言い切って見せる程の筋金入り。そのコナンでさえ、この含みのある言葉に背筋の凍る思いがした。

 


 

 イナホはそんなコナンの様子を気にすることのないまま、コナンの手を取り現場に向かった。すると、イナホの宣言通り既に犯人は捕まっていた。イナホは計画通りと笑い、コナンは状況を理解できずにポカンとしていた。

「う~ん、一体誰だったんだろう?」

 被疑者をパトカーに乗せながら、高木刑事はそう呟いた。今回の事件解決のための物的証拠を見つけたのは、現場にいなかった少年だった。

高木刑事に対して手招きをし、気になって後を付けるとその姿はなく代わりに証拠があったのだ。さりげなく佐藤刑事や安室に聞いてみたものの、二人ともそのような子供は見ていないと答え容疑者だった人たちもそれに賛同したため、高木刑事は幻覚だったのかと頭を悩ませた。ただ、周りが"知らない"と言っている以上、余計なことを言えば精神が疲れていることを疑われることを感じない高木ではない。やけにあったりとした幕引きを不審に思いながらも、パトカーに乗り込んだ。

 

「一体どういうことか、説明していただけませんか?」

状況を理解できていない中の一人・安室は、バーボンの笑みでイナホに迫る。

裏社会の者の顔。

普通ならその不気味さに引くなり恐怖するなりするのだが、イナホのメンタルは強かった。コナンも引いてしまう程に不気味なあのよからぬことを企んでいる笑みを浮かべ、不敵な色を瞳の中に携えてバーボンをしっかりと捕えていた。

 

「説明できることなんて、有りませんよ?偶々刑事さんが証拠を見つけて、犯人がボロ出した。それでエンドです。」

「そ、それはそうですが、やけに幕引きが早すぎると言うか………。」

安室はイナホに問い質そうとして、正論を突き返される。

そう、上手いこと偶然が重なって早く事件解決しただけに過ぎない。

普通はその“偶然”を不審に思うことなど、殆どないのだから。

コナンは路地裏でのイナホの発言を覚えているから、はぐらかしているのは分かっていたものの、迂闊に踏み込むことはできずにいた。こう着状態に陥った二人を見て、イナホは笑った口元に人差し指を添えて言った。

 

「それ以上は、“need not to know”ってヤツですよ。」

 

 その言葉にコナンと安室は反応する。“need not to know”ー警察内部で使われる隠語。” 知る必要はない “を意味し、何か裏があることを表す言葉でもある。警察庁の秘密組織に所属する警察官に無意識に喧嘩を売ったイナホだが、それを全く以って意識せず “普通の笑顔”を浮かべては堂々とその場から立ち去った。

 

 

 事件が起きた場所にはコナンと安室だけが残され、冷たい風が吹いた。

 

*1
(精神年齢で)

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