メスガキがBackroomsにざーこ♡ざーこ♡する話   作:聖剣エクスカリバー

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(代行)洞窟探索 Level 8 “The Cave System”(洞窟網)

 配信が終了してから6時間ほど経った頃。突然、チカちゃんねるの配信が再開した。

 洞窟の天井を背景に、金髪の外国人少女が胡座をかいている。

 

「ん……始まった?」

 

コメント:

【え】

【誰?】

【チカたんは??】

 

「“復活”中。少しの間は、ワタシが代わりに配信する」

 

 洞窟の天井はきらきらと星のように輝き、金髪のロングヘアーと額に掛けたサングラスを照らしている。その身体は年齢的には比較的高身長かつスレンダーであるが、ジトッとした目は対照的に幼い印象を与える。

 カーディガンを合わせて制服を完璧に着こなしており、オシャレさはチカと同等だった。

 

コメント:

【復活?】

【色々分からん】

【どういうこと?】

 

「まあ、明日には会えるよ。“元通りになった”チカに、ね」

 

コメント:

【それなら良かった…マジで】

【めっっっっっちゃ安心した】

【まあ……そんな予感もしてた、けどさぁ……】

【泣きそう】

【よかった…】

 

 あの配信からずっと精神的に追い詰められていた視聴者達は、やっと肩を撫で下ろすことができた。

 

 そんな安堵に包まれるコメント欄をジトっと見つめていた少女は、ため息を吐いてから平らな胸に手を当てる。

 

「……ワタシはフェリシティ・ディウィズ。チカのためだから少しだけ付き合ってあげる。光栄に思って」

 

コメント:

【よろしく】

【名前的にイギリス人かな?】

【日本語うまい】

【それにしても髪綺麗だな】

【長いしフェリちゃんって呼んでいい?】

 

「……フェリちゃん、ね。センスあるんじゃない? とっても」

 

コメント:

【よっしゃ!】

【俺もフェリちゃんって呼ぶね】

 

「……チッ」

 

コメント:

【今舌打ちした?!】

【もしかして皮肉だった…?】

 

 フェリシティは立ち上がって周りの景色をスマホで映し始める。

 

「ここはLevel 8 “洞窟網”。色々な場所があるから簡単には説明出来ないけど、その名の通り広大な洞窟が続くレベル。目立った特徴を挙げるなら──普通の物理法則は成立しないこと」

 

 現在居る場所は体育館程の大きさの空洞だ。透き通ったアーモンドウォーターの地中湖の中では、キラキラと鱗に光を反射させる魚が群れを成している。深さは目算で2m以上はあるだろうか。

 

コメント:

【てかマジで綺麗な場所だな】

【どういうこと?】

【今までも大概そんな感じな様な…】

 

「具体的には、『重力の変化』『非ユークリッド幾何学』『エントロピーの加速的な増大』の三つ。不安定な区域ほど、その影響は大きくなる」

 

コメント:

【ひゆーくりっど?】

【エントロピーってなんだっけ】

【重力の変化は分かるんだけどなー】

 

 目元をより気怠げにしながら、フェリシティは口を開く。

 

「……まあ、キミ達に言葉での理解は期待してない。IQに差がありすぎると会話にならないっていうし。動画で見させてもらったけど、キミ達は非常に理知的なコメントをするからね」

 

コメント:

【賢すぎてごめんw】

【急に自虐しなくても…】

【フェリちゃんのレベルに合わせてあげよっか?】

【(お前ら、イギリス人って京都人なんだぞ…)】

 

 呆れ顔で歩き出したフェリシティは、今回の探索の内容を説明する。

 

「今回の配信ではこのLevel8の安定した部分を主に探索し、Level9への出口までの到達を目指す。道中に不安定な部分にも少し寄って、具体的な“現象”を見せる」

 

コメント:

【なるほど】

【予め教えてくれるのありがたい!】

【チカたんは全部その場の思い付きで配信してたからな】

 

「あ、ちなみにここの天井で光ってるのはバクテリア。有毒ガスを分泌する」

 

コメント:

【えぇ…】

【安定のBackroomsクオリティ】

【なんでフェリちゃんは大丈夫なの?】

 

「少量のアーモンドウォーターを身体の中で直接作用させてる。ワタシはチカより慎重だから、これはいつもやってる。……意識が混濁してからじゃ、遅いし」

 

 そうしている内に光る天井のエリアも抜けて、通常の洞窟のように暗く天井の低い空間に入り始めた。

 

コメント:

【え、こう部分もあるの?】

【怖い】

 

「さっきの場所は特殊な方。多くは、通常の洞窟で構成される。…… 暗くなってきた。待ってて」

 

 少し目を瞑ると、光の球がぽわぽわとフェリシティの周りに浮かんできた。

 

コメント:

【え、何それ?】

【そこそこ明るくなったな】

 

「収納した光を出してるだけ。水中ではできないけど」

 

 そうして、また歩き出す。

 暗い洞窟はくっきりした影をいくつも作り出し、その凹凸だらけの表面を可視化する。

 

 フェリシティはチカほどの雑談狂ではないようだが、視聴者との交流を全くしたいないという訳でもなさそうだった。比較的ゆっくり流れるコメントを少しずつ拾いながら、慎重に起伏の中を進んでいく。

 

「……ん? 好きな食べ物?」

 

コメント:

【フィッシュアンドチップスとかなのかな】

【逆に甘いもの好きそう】

【チカたんはスープ類好きって言ってたよね】

 

「ワタシは……」

 

──フェリシティの足音が止まった。

 

「………。」

 

コメント:

【どうしたの?】

【上に何かがあるの?】

 

 天井に生えたつららから水滴が滴る音だけが、洞窟の中で静かに反響する。

 視聴者の中の数人は、それに混じって微かに何かとても大きなものが滑るようなうなり音を微かに聞いた。

 

コメント:

【フェリちゃん、謎のフリーズ】

【どしたん】

【今何か聞こえたような…】

 

「……聞こえた? 今のは、体長約1マイル……つまり、1.6kmほどの巨大蛇“ラングラー”の音。かなり遠くみたいだけど、活動を始めたらしい。成熟した個体以外は地面をドリルのように掘り進めて移動するから洞窟の崩壊の要因になる。進行方向と距離的に、今回の探索に影響はなさそう」

 

コメント:

【マジか】

【そんなのも居るのか…】

【よくそんな細かいことまで分かるな】

【このレベルにもエンティティいるんだね】

 

「エンティティはウジャウジャ居るよ。ラングラーの他にも、数百匹の群れをなす蜘蛛の大群に、落とすフンによって独自の生態系を作り出すデスラットの群れ、沼に引き摺り込んでくるタールの手──ふふ、怖い?♡」

 

コメント:

【怖いなんてレベルじゃねぇ】

【殺意高くね?!】

【蜘蛛だけはやめてくれ】

【うん、このレベルだけは絶対に入らないわ】

【大丈夫なの??】

 

「安定した地帯から過剰に離れなければ、そこまで理不尽な目には合わない。それにエンティティの生息地は避けて移動してるから、大丈夫だと思う」

 

コメント:

【なら安心】

【予め計画を練ってるんだね】

 

「あ、そうだ。好きな食べ物は…」

 

 悪戯っぽく笑って答えた。

 

「チカの手料理かな♡」

 

コメント:

【?!】

【?!】

【?!】

 

「……今から少し、不安定な場所に行く」

 

 近くの縦横2m程の横穴に踏み入り、テクテクと軽い足取りで進んでいく。

 

コメント:

【なるほど、なるほど…】

【2人はどういうご関係なんですか?!】

【脳が回復する】

【俺たちを揶揄っているのか、はたまた…】

 

 段々と広がってきた道は、大きな空間に繋がった。形状としては、天井から床までを貫く大きな縦穴、それを避けるように半周ぐるりと階段状に道が繋がっている形となる。

 

コメント:

【ヒェッ…】

【この穴どこまで続いてんだ?】

【気を付けてね】

【怖】

 

 フェリシティはしゃがんで石を掴んだ後、それを高く放り投げた。すると、独特な軌道を描いてから壁に“落下”した。

 

「ん」

 

 石を今度は3つ掴んで放り投げて、それぞれの軌道を確認してから頷く。

 

「重力が捻れてる」

 

コメント:

【俺もなんとなく分かった】

【あーね】

【??】

【大穴を軸に上に行くほど重力が壁側に捻れている、で合ってる?】

 

「つまり……まあ、コメントのそれで合ってる」

 

 若干嫌そうにしながら、カツカツと歩き出す。

 

コメント:

【なんか悔しそう?】

【かわいい】

【おぉんおぉん? 先に解説されて嫌な気持ちになっちゃったのかな〜んwww??】

【うわぁ…】

【草】

 

「……働けキモニート」

 

コメント:

【ぎゃぁぁあぁぁあぁあぁあぁあぁあぁぁあぁぁぁぁ】

【ぐふっ】

【ひでぶっ】

【一撃カウンター草】

【流れ弾が多すぎるんですが…(瀕死】

【そんな直球悪口も言うんだ…】

 

 どこか満足そうな表情をしながら、フェリシティは階段状の坂道の壁側の端を歩いて行く。段々と角度が変化していき、元々出口に見えた場所に辿り着いた頃には完全に壁に足を着けていた。

 フェリシティは、最初は出口に見えた足元の穴を覗き込む。

 

コメント:

【流石にここ降りるのは厳しいな】

 

「うん。だから、こっちの方に進む」

 

 フェリシティは石を再び放り投げて確認してから、つららの合間を通り抜けて大穴の中を歩いていく。

 そして暫く一本道を歩いた先に広がっていたのは──先ほどと同じ空間だった。

 

コメント:

【え?】

【戻ってきたの?】

【そんな道のりじゃなかったよね?】

 

「これが、非ユークリッド幾何学構造。空間の連続性は保証されない。地図は全く意味をなさなくなるし、同じ道を行って戻っても同じ場所に戻れるとは限らない。……尤も、このぐらいまでならある程度の法則性を保ってくれるけど」

 

コメント:

【色々と脳がバグる】

【でも結構楽しそうじゃね?】

【そういえば加速的なエントロピーの増大って?】

 

「これは見せて説明しにくいけど……要は、生物の時間の流れが速くなる。老化は加速し、食べ物は急速に腐ってしまう。この程度の滞在時間ならほぼ影響はないけど、長く留まりたくはない」

 

コメント:

【老化はいやだな】

【不安定な場所のデメリットがデカずきる】

【食べ物腐るってのが致命的だな】

【安定な場所を進み続けるのが大事ってことか】

 

 重力の流れに気をつけながら、元来た入り口に戻っていく。

 

コメント:

【そういえばさ】

 

「……ん?」

 

コメント:

【さっき奥の方で、地面とつららの間に沢山あったプツプツって何?】

 

 ぎこちなく振り返って、大穴を見上げる。

 1匹の小さな蜘蛛が、つららの裏からひょっこりと姿を現した。

 

 そして──画面の半分が絨毯のような小さな蜘蛛の大群で覆われた。

 

「ひ゛ゃぁぁぁああああああ!!!!」

 

コメント:

【おんぎゃあああああああああ】

【視聴中断】

【ハァァァ】

【オエッ】

【?!?!】

【ウソだろ…?】

 

 フェリシティは凄まじい勢いで走り出した。

 狭い穴の中で何度か身体をぶつけながら、反対側の安定した広い空間に飛び出す。しかし、その後ろに波のような大群が押し寄せているのが感覚で分かった。

 

コメント:

【老化が加速って、孵化も加速するってことか!!】

【さっきの奴、もっと早く言え!!!】

【まずい】

【逃げて!!】

 

「っ!」

 

 電動スケボーを取り出して、フェリシティは岩肌の上を走り出す。

 ズシャァッと音を立てて走るスケボーだったが──やはり走る場所が不適切。パキッという嫌な音と共に、車輪が急に止まってしまった。

 

「あ!」

 

コメント:

【あ】

【あ】

【やば】

 

 バランスを崩して転げ落ちたフェリシティに反して、全く勢いを止めることのない蜘蛛。涙目になりながらあわあわと手足をバタバタするフェリシティの視界に、わずかに映るコメント。

 

【光!】

 

「っ!」

 

 勢いよく、閃光弾に匹敵する光量を放出する。

 

 蜘蛛の群れが一斉に体を震わせ、爪で岩を引っかく音と金切り声が洞窟中に反響した。ゾロゾロと踵を返して行く蜘蛛達を尻目に、フェリシティは陸上選手も感嘆するほどのフォームでスタタタと走り出し、湖にダイブするのだった。

 

 顔を半分だけ水から出して、スマホが無事か確認する。

 

「ブクブクブククク……」

 

コメント:

【よかった】

【ふぅ…】

【あぶな!!】

【光ってコメントした奴、ナイスすぎる】

【もう蜘蛛居ないよね? 画面見ていい?】

【あぶねえええええ】

 

「……ぷはっ…………はぁ……」

 

 湖から身体を引き摺るように出しながら、フェリシティは大きくため息を吐いた。

 

「……あんな場所に、あのタイミングで蜘蛛の巣ができるなんて……」

 

コメント:

《 ガチでかわいそう ¥2000 》

《 ドンマイなのだ ¥1000 》

【安心したけどごめん、ちょっと面白かったw】

【あんな悲鳴出すんだ】

【ひっくり返った虫みたいな動きしてたよね】

《 元気出して ¥1111 》

【かわいい】

【慎重とか自称してたけど、怖がりが正しいなコレ】

 

「っ………も〜っ……///」

 

 恥ずかしさに耐えきれず顔を手で覆うその様子は、残念ながらかわいいとしか言い様がなかった。

 

 

 

 

 

──数十分後。

 

「……。」

 

 洞窟探索の末に発見した、周囲と不釣り合いなコンクリートで舗装された道。その行く先は真っ暗で何も見えないが、ザーザーと激しい雨の音だけが聞こえる。

 

コメント:

【この先が次のLevelだよね?】

【何の道なんだろう】

【凄い雨降ってない?】

 

「……伝えることも伝えた。Level 8もざっと紹介できた。ワタシの役目は、もう終わり」

 

コメント:

【え】

【まあ、あくまで代役だもんな】

 

 インカメに変えて、フェリシティは軽く手を振る。

 

「またね……ぁ」

 

 思わず言ってしまった自分の言葉に、小さな声を漏らした。

 

コメント:

【ありがとう、楽しかった】

【またねー!】

【お疲れ様!】

【普通にコラボ配信してほしい〜】

 

 コホンと咳払いしてから、最後に付け足すように口を開く。

 

「次のLevelはこれまでで一番危険。……朝ぐらいにまた配信が始まると思うけど、チカをちゃんと抑えてね?」




意図しないミスリードになってしまった感があるので、補足。
前回の〈チカたんデスメーター〉とは筆者が設定した数値であり、ストーリー上の意味はありません。ただチカたんが今までに死んだ回数を示しているだけです。
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