心の在処   作:ミィーシャル

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第八話 再来

意識がはっきりしているのかどうか、自分でもよくわからなかった。

ただ、冷たい空気が肌に触れるたびに、身体のどこかが必ず痛みで反応した。

 

石畳の上を引きずられる音が、耳の奥で鈍く響く。

腕を掴む手は強すぎて、痛いという感覚すら追いつかない。

 

「……はぁ、やっと見つけたと思ったらよ」

「前より反抗的じゃん。ムカつくわ」

 

三人の男たちの声が混ざり合い、嘲りとも怒りともつかない調子で落ちてくる。

リオーモはその手から逃れようと腕を引いた。ほんの少しだけ。それでも。

 

その瞬間、空気が変わった。

 

「……おい、お前。

 誰が逃げていいって言った?」

 

掴まれていた腕が乱暴に振りほどかれ、次の瞬間、脇腹に衝撃が落ちる。

息が跳ねるほどの痛み。視界が一瞬だけ白くなる。

 

「なんだ、その顔。

 気に入らねぇんだよ、そういうの。」

 

頬に拳が打ち付けられる。

右、左――動きには一貫性がなく、昔からこの三人は苛立つとこうだった。

殴る場所、強さ、タイミング。

そのどれもが気分次第で、理不尽で、掴みどころがない。

 

髪を掴まれ、首が不自然な角度に引き上げられる。

 

「大人しくしてりゃ、まだ優しくしてやったのによ」

 

華奢な彼女の身体は、人形の様に軽々しく床へ叩きつけられる。

石畳の表面に皮膚が擦れ、じんとした熱が走る。

呼吸のたび、胸の奥がずきずきと絡みつく。

 

「立てよ」

 

命令のような声とともに腕を引かれる。

立ち上がりきる前に、別の男が蹴りつけてくる。

 

「反抗すんなって言ってんだろうが!」

 

暴力は、常に一定のリズムを持たない。

三人が三人とも、それぞれの苛立ちだけを根拠に手を出してくる。

 

気に入らない、ただそれだけの理由で。

 

意識が揺れ、地面の模様が波打つように見える。

手をついた石畳に、じわりと赤が落ちる。

その赤は形を保てずに広がり、やがて歪な円を描き始めた。

 

「おい、また血出してんぞ」

「だから言ったのに、加減しろよ」

「うるせぇ、こいつが悪ぃんだよ」

 

誰も止めようとはしない。

止める言葉も、止める意志もない。

ただ、苛立ちをぶつける口実として、そこにリオーモがいるだけ。

 

腕を掴まれ、再び引きずられる。

石畳の段差が、背中に、腰に、足に、無数の痛みを刻んでいく。

 

「ほら、歩けよ。

 逃げようなんて思うなよ?」

 

歩かされるというより、引きずられる方が近い。

膝が折れれば乱暴に引き起こされ、反射的に身体が強張る。

 

その小さな“抵抗”さえ、彼らの神経を逆撫でした。

 

「……チッ。

 本当にムカつくわ。

 なんでそんな目してんだよ」

 

指が皮膚に食い込み、無理やり顔を上に向けられる。

 

「お前はさ、

 大人しくしてりゃいいんだよ。

 それ以外、何もいらねぇんだよ」

 

その言葉。

何度も聞いた、支配の音。

耳の奥にこびりついて離れなかった言葉。

 

その言葉が聞こえた瞬間、視界がぐらりと揺れ、

リオーモの身体は再び石畳へ叩きつけられた。

 

衝撃で呼吸が止まりかける。

それでも胸の奥の荒い鼓動だけは、やけに大きく鳴っていた。

 

逃げなきゃ。

どこへでもいい。

逃げないと――。

 

だが足が動かない。

腕を掴まれ、また強く引かれる。

 

「反抗するなら、もっとやり方考えろよ」

「こっちはお前と遊んでやってんだぞ」

 

その“遊び”がどれほど残酷なものか、リオーモは知っている。

知っているからこそ、逃げたいのに、動けない。

 

歩かされるたび、滴る赤が地面に落ちる。

途切れながら、にじみながら、細い線となり――

誰にも気づかれないほど静かに後ろへ残っていった。

 

暗がりへ。

人気のない路地の奥へ。

灯りの届かない場所へ。

 

そこがどこなのか、リオーモには判断できない。

ただ、引かれるままに。

抗うたび痛みが募り、思考が鈍っていく。

 

夜の気配が深まる中――

彼女は静かに、三人の影の奥へと飲み込まれていった。

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