尾上 愛は生きている。   作:柳川 秀@尾上 愛【新人Vtuber】

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第1巻『~謎の転校生と天使部結成~』
01『桐村 徹は信じない。』



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君は天使を信じるか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 なんだろう、カルトかな?

 

 学ラン夏服姿の俺。登校中の信号待ち。

 風に吹かれて足に絡みついてきたチラシ。

 拾い上げて見てみると、その一言だけが書かれていた。

 

 くしゃくしゃに丸めて、ポイっとはしない。

 スクールバッグに突っ込んで、学校に着いたら捨てればいい。

 

 せっかく海と山のきれいな海原市夕凪(うなばらしゆうなぎ)だ。こんなゴミクズで汚すのはイヤだと思う。

 そのくらいの良識を、俺こと桐村 徹(キリムラ トオル)は持っている。

 

 イマドキこんなの流行るワケがない。ここは現代の日本だぞ?

 30年前にとある教団が起こしたテロで、人々の宗教に対する視線は酷く厳しくなった、そういう社会だ。

 

 何か超常的なものにすがりたくなる状況はわかる。そういう瞬間は誰にでもある。

 それは心が弱ったタイミングで、奴らはそこに付け込んで人の心を支配する。

 

 そうして行き着く先が国家転覆だの革命だのだったワケだけど。

 現代では30年前みたいにマジで世の中をどうこうしようとしてる感じではなく、壺買わせたり数珠買わせたり金儲けに利用されるのがオチらしい。

 

 まぁともかく、カルトっていうのはそういうもんだ。

 そんなのガキの俺だって知ってる。誰が引っかかるんだ、こんなの。

 

 そもそも、「あなたは神を信じますか?」じゃなくて、天使? なんで天使なんだ?

 ってかそれ以外連絡先も何もないし。何の意味があるんだこのチラシ?

 

 信号が青になってとおりゃんせが鳴り始めた。

 横断歩道に足を踏み出そうとして、少し躊躇う。

 

 何か超常的なものにすがりたくなる状況はよーくわかる。

 数週間前の俺もそこにいたし、ここにいた。

 一人の少女が交通事故に遭った、この場所に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高校1年生の初夏。文化祭の劇の練習が本格的に始まった日の、幼馴染と歩く帰り道。

 ここで別れたアイツは、トラックに撥ねられた。

 

 今でもハッキリ覚えてる。

 耳障りに響く蝉の声、オレンジに染まっていく世界。

 喚き立つ人々の声、赤色が滲むセーラーシャツ。

 

 祖父ちゃんも祖母ちゃんも健在だ。曾祖父ちゃんと曾祖母ちゃんは生まれる前に亡くなってる。

 俺は身近な人の死を経験したことがない。

 

 有り得ないほど怖かった。

 いつもの活気が失われて、アスファルトに横たわる、捨てられた人形みたいに乱雑なポーズの幼馴染。

 初めて目前に迫ってくる身近な人の死に、ひたすら怯えていた。

 神様でもなんでもいいから助けてやってくれと、必死に祈った。

 代わってやれるものなら代わってやりたいと、強く思った。

 

 コイツはいい奴なんだ。

 

 小学校低学年の頃、同じ通学路の男子が転んで膝擦り剥いて血を流して、「死ぬぅー!」と泣き喚いてた。

 「死なないで!」と、自分も泣きそうになりながら、コイツはその男子を励まして負ぶって保健室に連れて行こうとした。

 ……当然背負えるワケもなくて、俺が負ぶって行ったけど。

 

 小学校高学年の頃、不登校だった女子が終業式にだけ出てきていて、他の児童から「なんで来たん?」とからかわれていた。

 「前向いて」と、体育館の壇上で校長が長々話す中、コイツはそうとだけ言って事情に深入りすることなくその子を庇った。

 ……後からグチグチ言われてるのを、さらに俺が庇ったけど。

 

 中学の頃、俺は()()()()()()()()のせいで不良と呼ばれるタイプの人間に分類された。

 「ケンカはダメだよ!」と、もう自棄になってグレてやろうとしてた俺を、コイツはずっと構い続けてくれた。

 ……高校受験を機にそういうのからは足を洗った。元々売られたケンカを買ってただけだけど。

 

 他人の幸せを心から願い、そのために動き出すことができる。だからたくさんの人から慕われるし愛される。そういう奴なんだ、コイツは。

 

 コイツがいない世界なんて、俺は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トオル!」

 

 元気いっぱいの声が、横断歩道の向こう側で俺を呼ぶ。

 色気も落ち着きもない、天真爛漫な姿が俺に向かってブンブン手を振っている。

 

 そう、めちゃくちゃビビったけどアイツの命に別状はなかった。

 そりゃあもちろん、救急車で運ばれたし入院もしたし、なんか検査もずっと色々やってたけど。

 ともかく、尾上 愛(オガミ アイ)は生きている。

 

「おはよー!」

 

 生きている。うん、生きている。それはいい。

 両腕と右足に包帯が巻かれているのは事故の傷跡を隠すため。それもいい。いいんだが――。

 

「おはよー……。お前、なんなんだよその格好……」

 

 セーラーの背後には白い羽。頭の上には黄色の輪っか。

 羽は、シャツの背に穴を開けて、胴に巻いたベルトとそこで接合して支えてある。

 輪っかは、後ろの襟からペラいプラスチックの板で浮かべてあった。

 

「? 見ればわかるでしょう? 天使だよ」

 

 命に別状はなかったものの、事故のショックのせいなのか、アイは自分のことを「死んで天使になったのだ」と思い込んでいる。

 劇のために、主人公の天使を演じるアイのために用意された小道具を身に着けて、彼女は今日もこうして笑みを見せるのだった。

 

「ああうん、そうだよな。退院してからずっとそうだもんなぁ……」

「もぉートオルぅー、今更何言ってるの? ほら、早く学校行こ!」

 

 躊躇いもなく横断歩道を渡って、俺の手を掴んで、引っ張っていく幼馴染。

 

 俺は天使を信じない。いや信じられっかこんな偽天使ッ!

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