尾上 愛は生きている。   作:柳川 秀@尾上 愛【新人Vtuber】

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11『河瀬 哲夫は提案する。』

 あのまま下駄箱で話し続けていては小田川あたりに見つかるかもしれないので、俺たち天使部(仮)は再び文芸部部室に、非日常口の中に戻ってきていた。

 さっきの流れを説明すると東城は興味深そうにしていた――いつか小説のネタにされるかも――が、それがなくても彼はおそらく作戦会議にここを使うのを許可してくれただろう。

 

「筆跡鑑定だ」

 

 平坂が原稿を書き進め、宝生が文庫本を読み進め、月原が外で多分「あちぃー」と嘆いている中、テツがそう提案した。

 

「ほーう面白い! だが誰が鑑定を? もしこの恋文を綴った人物の特定を誤れば、事件は我ら2つの部と黒猫少女以外にも周知されてしまう」

 

 おー……東城は真中のことを『黒猫』と表現するのか。

 たしかに『一匹狼』より可愛らしさを含んでいるし、自由気ままな感じもして、シャーッと威嚇してくる様は猫の方が似合ってる。

 

「あー、問題ねぇ。俺がやる」

「テツくん、筆跡鑑定なんてできるの?」

「去年夏休みにあった科学捜査展。そこの体験コーナーで情報科学第二研究室の奴にウザがられるほど教えを乞いまくった」

「さすが科学部部長ゴイスー……」

「となると、問題はどうやって我がクラスの女子生徒たちの筆跡を収集するかという点に移っていく。最初からこの案を採らなかったのはその点が懸念されたからだろう、河瀬 哲夫?」

「あー、ご名答だ。技術はあってもサンプルの確保ができないとなれば、鑑定もクソもねぇ」

「さて、どう解決する?」

 

 なんかもう真中より東城のがよっぽど天使部6人目の部員ぽいんじゃないかな。

 要らないけど、こんな奇人変人の部員。絶対に。めちゃくちゃ要らないけど。

 

「うーん……自然な流れで集めないといけないよね。あんまり不自然だと小田川くんたちが勘付いちゃうかもしれないし」

 

 アイの言う通りだ。マジで邪魔くさいなあのバカトリオ。

 

 一遍にクラス中の書いた字を集められそうというと、宿題とか?

 出された宿題は授業前に教卓に積んでおくのが大体の先生で共通だ。

 でも、それを一冊一冊じっくり観察するには休憩時間だけじゃ足りないし、なによりすげぇ怪しまれる。

 

 放課後、回収された宿題を先生に見せてもらうのは?

 福原なら頼めばワンチャン見せてくれ――ないよなぁさすがに。

 丸付けされた宿題を見せてくれ、なんて、他の生徒のデキを見せろと言ってるようなもんだし、絶対断られる。

 

 宿題に固執するな俺。やはり直接集めるしかないか。

 自然な流れでクラス中に書いてもらうことができるもの……寄せ書き?

 いや誰に贈るんだよ。四宮とか? いや贈るのは転校してきたときじゃなくて転校するときだろそういうの。

 

 それに、なるべく女子の字だけ集める方が時間も短くてすぐ解決できそうだよな……んあ?

 

「そうだ!!」

「トオルっち……なんか思いついたのはいいけどさー。ここ、集中して書いてる子と読んでる子いんだからね?」

「あ、悪ぃ……」

「なに、気にすることはない。栃は集中していても周囲の音を聞き漏らすことはない。どこに面白いネタが転がっているかわからないのだから。平坂も、こう見えてこの事件についてはしっかり聞いているさ」

「まじか。え、マジで?」

「いいから早く教えてよー!」

 

 アイが羽で俺の肩をバシバシ叩いた。

 っておい、そういう使い方しないだろ天使の羽。設定はどうしたんだよ設定は。

 

「プロフィール帳だよプロフィール帳!」

 

 「やめろ!」と叱る前にアイは羽攻撃を止める。

 

「え?」

「え? ってなんだよ。この方法なら女子だけの字を自然に集められるだろ?」

「トオル……古くない、ソレ?」

「……そう、なんすか?」

「あー、平成レトロってヤツだな」

「イマドキ見かけないってジーマーで」

「それに……小学生のときならわかるけど、わたしたちもう高校生だし。しかも、学校始まったばかりでもないから、『なんで今更?』って思われちゃうかも。自然に書いてもらえるかな……?」

 

 え、どうしよう。めちゃくちゃ自信あった案だけに今すっごい顔真っ赤なんですが。

 

「うーん、そこはリンさんのキャラを頼れば誤魔化せるんじゃないかな。『チョー懐かしい物見つけたからみんな書いて~!』って。平成レトロという概念の一環と思わせれば、案外なんとかなりそうだよ」

 

 四宮……なんてナイスな助け舟だ!

 

「僕はいつだって君の味方だよ、トオルくん」

 

 気持ち悪っ!

 

「んー、なんか四宮っちが言うと説得力あるかも……」

「どういう意味だおい」

「まっ、他にできそうなこともないし? ウチが一肌脱ぐしかないじゃん?」

「お願いリンちゃんがんばって! ……けど、プロフィール帳そのものはどうしよっか? 文房具屋さんでも見たことないよね?」

「あるわよ」

 

 パタンと文庫本を閉じて、宝生が椅子から立ち上がった。本当に聞いてたのか。

 彼女は本棚の下の戸を開けて、中をゴソゴソと漁って、なんかそれが小動物――リスが餌を隠す仕草に見えて面白くて、じゃなくて。

 ともかく、そこからパステルカラーのキラキラkawaiiプロフィール帳を取り出した。

 

「実物を見ながら湧き起こるイメージの力は膨大だ。そのため、我が部は小道具を豊富に保有している。もっとも、ほとんど平坂が集めてきた物だが」

「すっごーい!」

「だろう? 興味を持ってくれたかな尾上 愛!」

「全然」

 

 東城をサラっとフって、アイは宝生からプロフィール帳を受け取る。

 

「使っちゃっていいの?」

 

 彼女はチラっと平坂の様子を伺ったが、彼は顔を向けることもなく、だが手を挙げて応えた。

 

「ええ、いいわ。あなたたちの紡ぐ物語は、とても面白そうだもの」

 

 宝生の見せるやわらかい微笑みは、なんか子どもを見守る母親みたいだ。

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