尾上 愛は生きている。 作:柳川 秀@尾上 愛【新人Vtuber】
真相がわかった後の展開は案外アッサリしたものだった。
本人の申し出でアイが苅部にラブレターを返却することになり、経緯も説明した上で、彼女は野沢への想いを認めた。
封を小田川によって開けられてしまっているし、俺たちも読んでしまったし、もう一度書き直して下駄箱に入れるのか聞いたら、「やっぱり、ちゃんと自分の口で告白しようと思う」と返されたらしい。
「うん、それがいいと思う。手紙だと全部の気持ちが伝わらない、なんてわたしは思わないよ。でも、晴美ちゃんに直接言ってもらった方が、野沢くんも喜ぶと思うから。だから……あなたの愛を響かせて」
その結果がどうなったかまでは知らない。けど、上手くいってればいいな、とは素直に思う。
……ああ、やっぱ俺、あの手紙を最初に読んだときうれしかったんだな。
だから、これから愛の告白を直接受けるだろう野沢のこと、祝福できているんだろう。
「とんだ騒ぎだったけど……まぁ、楽しかったな……」
「なに言ってんのトオル?
「そーそー。ウチら、こっから色んな事件や問題を解決していこうってんじゃん? 終わったーなんて空気出してる暇、なくなくない?」
「なくなくなくないな。お前ら、まずは手を動かせ手を」
部室棟2階の一番奥の部屋、非日常口の右隣。今俺たちはそこに物を運んでいる。
苅部がアイと一緒に福原のところへ行って証言してくれたおかげで、天使部は正式に部として設立を認められたワケだ。
「おー、んなことあったのか……。まぁアレだ、痴情のもつれが起きなくて安心したわー。よし、お疲れさん」
とか言ってたらしいぜあのクソ教師。
申請書がそのままだったので、結局部長は俺、副部長はアイになってる。
今更変更手続きすんのもめんどくせぇし、アイもウダウダ言うだろうし、そこに関してはもう諦めた。
「ねぇ、テツくん。ラップトップ、窓際でいいの?」
「あー、構わねぇ。家に余ってた程度のモンだ。初期化はしてある。セットアップできるか?」
「うん、任せて。プリンターも繋いでおくよ」
「部室のカギ、管理する場所決めといた方がいいかな?」
「eスポーツ部が失くして大騒ぎだったし、その方が良さげかも? あんときは小田川が盗んでたってオチだったけど、一応ね?」
「あはは。じゃあ、ここに引っ掛けるの貼って、必ず掛けておくっていうのはどうかな?」
「アイアイ、ナイスアイデア!」
なんだかんだ自主的に動いてくれるタイプの奴らだ。部長だからって気負う必要もなさそう。
部長会には出なきゃならねぇけど、他の部の長みんながみんな東城みたいなイロモノってワケでもないし――いや、ないよな? アレ? どうだっけ?
「トオル! ボケっとしてないで、コレ! 棚の一番上に入れて!」
アイがプンスカ顔でファイルを渡してきた。黄緑と水色の中間色、コイツの好きな色だ。
「別にボケっとしてたワケじゃねぇって。……なんだこれ?」
「解決した事件のレポートと、証拠品みたいなのを保管しておくファイル! 今回はわたしが書いたけど、次からはトオルが書いてよね?」
「なんで俺が書かなきゃなんねぇんだよ!」
「えー? 部長でしょー? そのくらいのことしてよー」
「現代文、お前のがデキいいだろうが! 大体、証拠品つったって何を――」
ファイルを開くと、専用のクリアポケットの中に、あの小田川に開けられた封筒とシールが入っていた。
「はぁ!? お前これ、苅部にもらったのか!?」
「うん、そうだよ。あ! 中の手紙はもちろん返してるからね!?」
「いやそういう問題じゃ……いや、それならいい……のか……?」
苅部も了承の上なら考えるのも無駄な気がしてきて、ファイルを閉じて言われた通り棚の一番上に収める。
「にしても、焦ってたんならなんで直接じゃなくて手紙だったんだろうな」
「……人に自分の本心を全部曝け出すのって、怖いんだよ。それを受け入れられなかったらどうしようって、不安で不安でたまらないと思う。だから、晴美ちゃんにとってそのときできる最大限が、手紙だったんじゃないかな」
「そういうもんか?」
「あー、お前は昔からそういう人の機微に疎いとこあるからな。人でなしだ人でなし」
「トオルっち、人のこと人として扱ってないときあるよねジーマーで。だから不良なんかやってたんじゃん?」
「え、不良だったの? 三中の雷神って――」
「だあああ! その話はまた今度な、今度!!」
「ハハ、ちゃんと聞かせてよ? 僕は君のことが一番気になってるんだから、トオルくん」
「その気持ち悪い呼び方やめろ! ってかお前もトオルだろうが!」
みんなが笑ってる、偽天使も笑ってる。ルールルルルー、今日もいい天気。
「けど、いいじゃない? どれだけ強烈な思い出も、年月を経れば掠れたり余計なものがくっついたりして変わってしまう。でも、形に残る物なら、大切に保管していればずっとその日のまま覚えておける。だから手紙を送ったり写真を撮ったりするんでしょ、君たち人類は」
「人類ってお前……だからナニモンのつもりだよ」
「んー、宇宙人」
「どこらの」
「光の星」
「ウルトラマンかよ。しかもシンの」
よくわかったね、と四宮が笑ってくる中、
「トオルは――。トオルは、いつまでわたしのこと覚えていてくれる?」
アイが神妙な面持ちでそう聞いてきた。
「んあ? 一生忘れられるわきゃねーだろ。天使のコスプレした幼馴染なんてよ」
「……もーぉ! コスプレじゃなくてわたしは天使なんだってば!」
「はいはいはいはい。もうそういうことにしといてやるって」
「それ絶対わかってなーいー!」