尾上 愛は生きている。 作:柳川 秀@尾上 愛【新人Vtuber】
みなさんの中に女性はいらっしゃるだろうか。いるかも知れないので解説しよう。
男子トイレは小便器が横に並んでいる。一番手前が手すり付き。
最初に入った奴はほぼ必ず最奥に行く。
もし4台小便器があったら、2番目に入ってきた奴は1つ開けて手前から2番目。
3番目に入ってきた奴は仕方なく先の2人の間に行く。
ここら辺はまぁ、牛丼屋とかのカウンター席と同じ感覚だ。
なんとなく1つ開けて、すぐ隣に詰めては並ばないだろう。
では、小便器が3台だと、2番目に入ってきた奴はどうなるか?
世の中には2種類の人間がいる。手すり付きに行く奴と、最初の奴のすぐ隣に詰めて来る奴だ。
最奥に俺が行ったすぐ後に入ってきて、ソイツは俺の隣に並んだ。
そう、野沢 洋太は後者だったってワケ。
もう1つ解説しよう。
昔の不良漫画とかでビビった奴が失禁するシーンがあるのはなんとなくわかるだろうか。
俺はそんな経験ないけど、緊張して尿意を感じやすくなるのはなんとなくわかる。
だが、隣に並ばれると緊張で逆に尿が出なくなるタイプの男も多い。
なんだったら後から並んできた奴が終えて去るまで待たないと出ないこともしばしば。
「……」
「……」
そう、野沢 洋太も俺もそういうタイプだったってワケ。
こうなったら、もうどっちかがチョローって出し始めるまで、お互い無言のまま真っ直ぐ前を見つめていることしかできなくなる。
いやなんで隣に来たんコイツ?
「……」
「……」
「……なぁ」
しかも話しかけてくるんかい。
「な、なんだよ」
「苅部から聞いたんだけど、色々と振り回しちまったみたいだな」
「ああ……おう……」
別に野沢のせいでなければ苅部のせいでもないんだけどな。
なにもかもあのバカトリオが勝手に野沢の下駄箱開けて、苅部のラブレター読んで、俺の下駄箱に突っ込んだのが悪い。
まぁ、なんだかんだ差出人探しは探偵みたいで楽しかったし、おかげですぐ事件が起こって天使部も設立できたし。
俺が危うく苅部にされてもない告白のお断りしに行きかけたことを除けば、特に謝られる筋合いもない。
「で……どうなったんだよ、その後?」
「ああ。俺さ、苅部と付き合うことにしたよ」
「! そうか……そうか!」
良かった、と続けようとしたのに。
「なんかゴメンな」
「はぁ!? なんで俺がテメェに気を遣われなきゃなんねぇーんだよ!!」
「あっ、桐村、もうアイツには興味ない感じ?」
「ねーよ!」
「まぁそうだよな。あんなんガキの頃の話だもんな」
なに言ってんだコイツは……その通り、小学生の頃の話だぞ。
「あの頃は桐村の方が背も高かったし、体育の時間でも俺よりバスケが上手かった」
「ああ、たしかに。お前中学入って、バスケ部入ってから急に背伸びたよな。今じゃ1年でキャプテン。すげぇよ」
「俺がバスケ始めたのってさ、お前に勝ちたかったからだぞ?」
「俺に?」
「ああ。俺はひとりで張り合ってたんだよ。勝手に、ずっと」
変な気分だ……。
校内一モテると言っても過言ではない野沢が、俺のことをそんな風に思っていただなんて。
俺なんか逆だ。テツの言う通り、俺たちにはすっかり差が出来ていると思ってた。
中学のときクソダセェ異名つけられた俺と違って、野沢はもっとキラキラした世界に、遠い場所に行った存在で、俺たちが交わることはもうないんだっていう風に。
「まぁいいよな。今は、桐村には尾上がいるもんな」
「はぁ?! なんでアイが出てくんだよ!!」
「だって、付き合ってるんだろ?」
「いぃや付き合ってねぇーよ!!?」
「あっ、そうなのか? お前らのこと、付き合ってると思ってる奴結構多いぞ?」
「マジかよおい……」
アレか? 割といつも行動を共にしてるからそう見られちまうのか??
「実際どうなんだ?」
「どうって、なにが」
「尾上のこと、どう思ってるんだ?」
「……」
俺にとって、尾上 愛が何なのか。
そんなの決まってる。アイツは俺の、俺の――
「ただの幼馴染だよ」
「……そうか」
チョロチョロと、野沢の尿が出始めた。
「俺もさ、苅部のこと、まだ恋なんてわからないガキの頃の話だったってお仕舞にしてたんだよ。でも向こうは俺のこと、何年も真剣に考えてくれてたんだ。それがわかってさ、俺、なんかすげぇうれしくて。自分で言うのも変だけど、告白なら結構受けてるのにさ。苅部に面と向かって好きだって言われて、初めて、誰かに想われてるのってこんなにうれしいんだなって感じた。なんか特別なんだよ、俺にとって苅部は」
段々と勢いが強くなって、全部出し切った野沢は、ひとりスッキリした感じで手を洗い、去って行く。
「桐村 徹にとって尾上 愛は、特別じゃないのか?」
俺はまだ、小便すら出すことができないまま置いてけぼりにされていた。
実を言うと高校時代に文芸部で書いた恋愛小説のトリックに近い今作。
もっと言えば、そのときの主要登場人物を流用している今作。
アイとトオルの恋愛を中心に描いていく予定なので、やっぱり最初は恋愛についての話にしたいなと思ってこうなりました。
アイのキャラクター造形は、最初は不思議ちゃん系だったのですが、CVを担当していただいた七瀬 千代子様の声を聴いていて「もっと明るくかわいい系の、素直で愚直で健気な子がいいな。そういう子好きだし」となって変わっていきました。
テツについてはリア友がモデルです。だから、ひやま様にめっちゃイケボ頼んじゃいました。私はイケボじゃないので、低く重たいひやま様の声が羨ましい。
リンは個性的なキャラが増えていく中でなるべく「普通」である、各キャラを中和して繋ぐ役目がほしいなと思ってそうなりました。あと、オタクに優しいギャルです。豊川ゆき様はえっちな音声作品で活躍されている方です。
トオルは最も悩ましかったキャラです。一人称小説の主人公なのに? ツッコミ役としてだけだとこれから考えている話を回せなくなるので、やっぱトラブル解決には暴力。暴力は全てを解決する。ということで腕っぷしをプラスしました。宵乃 御影様のボイスはカッコイイ思い描いた通りの主人公です。
四宮はアイの次にキャラクターが定まった人物です。ぶっちゃけ言うとカヲルくんとかそこら辺のキャラ。底知れぬ魅力を出すという大変難しい依頼を、相沢毬藻*様が見事に演じてくださいました。彼は本当に宇宙人なんですかね?
トオルが入力中
「なぁ四宮、まだ起きてるか?」
四宮が入力中
『うん、起きてるよ。どうしたの、トオルくん?』
トオルが入力中
「聞きたいことがひとつある」
トオル・四宮が入力中
『なに?』
「俺たちが野沢が4組の女子からコクられたって盛り上がってたとき、お前はまだ教室にいなかったハズだ。なのに、なんでそれを知っていた?」
トオルが入力中
「四宮 透。テメェ、ナニモンだ?」
四宮が入力中
『天使』
『部員だよ』