尾上 愛は生きている。   作:柳川 秀@尾上 愛【新人Vtuber】

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03『四宮 透はやってきた。』

「おらー苅部ー、書いてるモンしまえー」

 

 福原は、天然パーマの髪はボッサボサで、黒縁メガネの奥に見える目は伏せがちで、無精ヒゲが……いやヒゲくらい剃って来いよ公務員。

 そんな風体でだる~んとした感じに喋る、全く覇気のない現代文教師。

 

「あー、朝礼の前に――」

 

 遮るようにシュピっと挙手して俺が物申す。

 

「センセー。尾上さんの服装が校則違反でーす」

「おー、羽とかは天使生来のものだからセーフだー」

「まじか」

「おい桐村、そういう風に言うのは差別だぞ!」

「アイちゃんカワイソー」

「そーだそーだ」

「トオル……」

 

 アイがこっちを向く。

 

「どうしてそんなひどいこと言うの? わたし、かなしい」

 

 グスン。なんだそのわざとらしく潤んだ瞳は。

 

「おい桐村、女を泣かせる男はサイテーだぞ!」

「アイちゃんすっごくカワイソー」

「そーだそーだ」

 

 退院後、アイが当たり前というような顔で天使コスプレで登校してきた日。あの日からみんなこうだッ!

 誰一人としてこの偽天使に突っ込みをいれず、「へぇ、そうなんだー」で済ましてやがる!!

 なんかのドッキリなのか? だとしたら期間か長すぎるぞ!? いい加減テッテレーってドッキリ大成功の看板を見せてくれ!!

 

「話し戻すぞー。今日からうちのクラスは1人増えまーす」

「えっ? こんな時期に転校生!?」

「なんで1組じゃなくて2組?」

「だから席増えてたのか」

「宿題やったけど忘れましたー」

「どんな奴?」

「お前らちょっとは落ち着くことを覚えろー。あと宿題やってこなかった小川は説教なー」

 

 福原が手をパンパン鳴らして少しすると、教室のザワザワは一旦止まった。

 

「よーし、入れー」

 

 クラス中の視線が、開けられたままだった引き戸に集まる。

 

 緊張するだろうなぁ、こんだけ静まり返って注目浴びてる中、知らない奴ばかりの教室に入ってくるのって。

 下手すると、遅刻したとき後ろ側の戸からそろーっとシレーっと入るのよりも緊張するかもしれない。

 人は第一印象でほとんどが決まる。絶対に外すワケいかないのは転校生だってわかってるハズだ。

 

 だが、肩に力入った様子もプレッシャー感じている素振りも全くなく、むしろ心にゆとりが溢れているようにゆっくりと、ソイツは戸をくぐって来た。

 色白で細身で、少し癖のある髪の毛と切れ長の目。微かに笑みを浮かべているようにも見える整った顔立ち。

 

「じゃあ自己紹介よろしくー」

 

 転校生は福原からチョークを受け取って、黒板に自分の名前を書き、チョークを置いて、手についた汚れを数回掃ってから前を向き直した。

 

「えっと、四宮 透(シノミヤ トオル)です。母の転勤が急に決まって越してきました。今日からよろしくお願いします」

 

 ニコッ。多分今の爽やかスマイルでコイツはクラスの女子人気ランキング上位に躍り出ただろう。

 現になんか黄色い声がワーキャーワーキャー湧いてる。

 

「うるせー……」

「でも声出しちゃう気持ちもわかるなぁ。綺麗だよね、あの子」

「んあ? アイもああいうのタイプか?」

「タイプというか……うーん、モデルさんを見てうっとりするみたいな、そういう感じかも」

「どうした、妬いてんのか?」

「なになにトオルっち、嫉妬ぉ~?」

 

 テツとリンが振り向いてからかってきた。

 

「なんでそうなんだよ! 前向け前!」

 

 アイの言わんとしていることはなんとなくわかる。

 あの転校生からはギリシャ彫刻のような美しさを感じて……カッコイイとかイケメンとかじゃなくって、そういうタイプの美男子だ。 

 

「おーい、だからお前らちょっとは落ち着くことを覚えろって」

 

 呆れた福原が手をパンパン鳴らして少しすると、教室のザワザワは再度止まった。

 

「みんな仲良くしてやってくれなー。そんで痴情のもつれがあっても自分たちで解決してくれなー。先生そういうのめんどいから」

 

 なに口にしてんだこのクソティーチャー。

 

「でー、先生が五十音順に並んでないとお前らの名前がわからなくなるのでー、席を1個ズラしまーす」

「いや覚えろや」

「愛が足りなーい」

「めんどくせー」

「うるさいぞー。俺はお前ら以外に何クラス授業やってると思ってんだー。覚え切れるかー」

「いや自分の担任クラスくらい覚えろや」

「愛がすっごく足りなーい」

「クソめんどくせー」

「苦情は一切受け付けませんそれが大人でーす。はいじゃあ鈴森から1個ずつズラせー」

 

 グチグチ言いながら動かなきゃいけない奴らは席を移動し始めた。

 幸い、俺たち幼馴染四人組は動く必要なかったけど……んあ?

 『四宮』ってことは、『佐々木』と『鈴森』の間で、元々鈴森がいた席――リンの後ろに来るワケだから?

 

「やぁ、よろしく」

 

 席替えの間にカバンを収めた転校生が、俺の左隣に座った。

 

「君、名前は?」

「え? あっ、ああ。桐村 徹。よろしく」

「ふーん、トール……徹くんかぁ」

 

 右手を差し出してきたソイツと視線がぶつかる。

 シャンプー……なのか? なんかの花っぽいような果実っぽいような香りが鼻を撫でてきた。

 

「うん、よろしくね。トオルくん」

 

 ニッコリ笑顔が逆に気持ち悪い。

 なんだその、語尾にハート付いてそうな呼び方は。

 

「いやお前も()()()だろうが……」

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