尾上 愛は生きている。 作:柳川 秀@尾上 愛【新人Vtuber】
「部室棟からなら下駄箱もよく見えるだろ」
と、テツが言うので。
休憩時間だとまた小田川あたりに嗅ぎつけられて面倒なことになり兼ねないので。
翌日の放課後、我々天使部(仮)は早速部室棟へ向かうのだった。
下駄箱から校門に向かうのが斜め右で、部室棟は反対の斜めやや左に進んだとこにある。
外階段付きのプレハブ2階建てで、各部屋は割と広く、エアコンまで完備されている。
なんでも金持ちのOBが「生徒の自主性のためー」とか言って寄付した金で、数年前建てられたらしい。
「お?」
「茜ちゃーん!」
「おーアイ! ギョーサン連れて、どないしたん?」
階段を上った先、手すりに寄りかかって下敷きで顔を仰いでいたのは
高校入学と同時に大阪からやってきたクラスメイトで、家はアイの隣だ。
セミロングの髪を後ろで一本縛り。半袖をさらに肩までまくっているのは、さすがに男子からすると直視しにくい。
やっぱこう、大阪ってこっちより開放的というか、そういうの気にしないのか?
月原に大阪の空気を感じることは頻繁にある。
特にツッコミはさすが大阪って感じ。反射的なツッコミもしてくれるし、喩えツッコミもしてくれるし、ノリツッコミもしてくれる。
入学後すぐ彼女はクラスのムードメーカーになった。
……いぃやじゃあツッコめやアイの天使コスプレによォ!? なぁーにフツーに話してんだよ!?
言えよな「お前は魔人ブウ編のエンディングの孫悟空かーい」とかさぁ!!
今更言い出してももう仕方ないのでそれはさておき。
なんでアイ以上に活発な彼女が文芸部なんかに入っているのか、誰もよく知らなかった。
一部では
「ほーう、尾上 愛?」
噂をすればなんとやら。いやまぁ俺が内心で思っただけなんだけど。
アイと月原の元気な声を聞いて、奥より2番目の部室から姿を現した男子生徒は
「我が部にようやく興味を持ってくれたのかと思ったが、どうも事情が違うようだ」
部室の扉を緑に塗り、非常口マークを左右反転させたピクトグラムを描き、『非日常口』としている変人でもある。
「悲しいなぁ。君の豊かな感性を以てすれば、この世界の有り触れた景色すら忘れられないあの日の記憶として切り取れるだろうに」
「ちょっとムリかな」
「おお、思い切りの良さもいい!」
「そういうとこだと思うよ」
塾にも行ってないし家庭教師もつけてないのに、ていうか自習時間すら教室内の様子を観察しているような奴なのに、常に成績は学年トップ。
化学・物理・生物でテツが1位を独占しているのを除き、テストじゃほぼ満点を取る。
普通、そういう役どころってのはメガネかけたガリ勉キャラのポジションなのにな。
妙に仰々しい言い回しをしてくるので、みんなからはちょっと煙たがられがちだ。
本人はそれをどうとも思っていない。むしろそれさえも面白可笑しく受け入れているんだろう。
常に仮面を被り、『文芸部部長の怪人:東城 順作』を演じている感じ。
「転校生の君も一緒か」
東城の目はグリっと大きく、黒い。
学ランのズボンの黒より黒い。本当に真っ黒で、光を一切飲み込む深淵みたいな黒だ。
「……うん、直接話すのは初めましてだね。よろしく」
「ああ、よろしくお願いするよ」
リンが「ウチ、あの目ニガテなんだよね」と小声で言う。
俺だって、自分の奥の奥まで覗かれてるようでなんかニガテだ。四宮より宇宙人ぽい。
「えっとね、茜ちゃんは見張り?」
「せやで。うち、読み専やから。適役っちゅーこと」
小田川対策に東城が立てた見張りが月原か。こんな暑い中ゴクローなこって。
ってか、月原は読書が好きなのか? だから文芸部に……いやだとしても東城みたいなのがいてよくやっていけるな。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」
チラッと非日常口を見やるアイ。それに気づいた月原が東城に目配せする。
彼はわざとらしくゆっくりニッタリ笑って、VIPを高級ホテルへエスコートするドアマンみたいに、両手で仰々しく俺たちを中へ誘導した。
「ようこそ、我らが文芸部へ!」
ここでは言いづらいから中へ入れろ。いいだろう入れてやる。
話が早いのは助かるが、文芸部って月原とその友達の
岡井は生徒会があっていないだろうし、和田守もサッカー部と兼任だからいないだろうし。
「さぁどうぞ。この時間の西日を浴び続けていては、頭もぼぅっとしてきてしまう」
「東城くん、いつも汗一つ掻かないのにそれ言う?」
かくして天使部(仮)と怪人と大阪少女は文芸部部室の中へ。
……非日常口を通って、バケモノ共の住まう魔窟へ入って行った。