尾上 愛は生きている。 作:柳川 秀@尾上 愛【新人Vtuber】
5人で押しかけても部室内はそれなりに余裕があった。
……アイの羽があってもまぁ圧迫感がないくらいには余裕があった。
ってかよく引っかからなかったな非日常口に。まぁ非日常そのものだから
やはり岡井と和田守はいなくて、いたのは2人だ。
室内中央、横に2つ連なった長机で、パソコンも使わずイマドキわざわざ紙の原稿に手書きで文字を連ねている
そこから離れて、わざわざ隅っこに椅子を置いて、腰かけて文庫本を読んでいる
平坂はヒョロっとしていてちょっと長身で、基本的に寡黙だ。代わりに一度喋りだしたらかなり話が長いタイプ。
以前JS探偵レムリアの古典文芸パロがよくわからなくて
「ここ、どういう意味かわかるか?」
って聞いたら、小1時間みっちり解説されてヘトヘトになったことがある。
今はその僅かに白髪のある天然パーマをわしわししながら、俺たちが入ってきても見向きもせず原稿と向き合っていた。
宝生も宝生で物静かな感じだ。
平坂と対照的に小柄で、本を読むときだけああやってメガネを掛ける、まさに文学少女。
休憩時間もいつも本を読んでいて、話しかけづらい雰囲気を、「ひとりにして」と言っているような雰囲気を放っている。
その声は高いっていうか澄んでいるというか、にしては重みも感じられるというか……。
多分、東城ならもっと巧く喩えられるんだろうけど、不思議に綺麗。放送部から勧誘を受けているらしい。
「あら」
宝生は俺たちに反応してくれた。
「来客なんて珍しいわね。ここは非日常の中だけど、日常的な飲み物もあるわ。麦茶でいいかしら?」
「大丈夫だよ栃ちゃん。お構いなくー」
「客人だ。詰めてくれ」
東城に言われ、平坂は原稿用紙から目を離すことなく長机の奥に移動していく。
「平坂くんありがとー」
勧誘してくる東城には塩対応でも、宝生と平坂には友好的だなお前。
アイが最初にパイプイスに座って、続けて四宮、テツが座った。俺とリンはちょっと躊躇ってから席に着く。
「なぁトージョー、うちも混ざってええ? ええ加減外におんの暑ぅーてかなわんし」
「いいとも。というより、彼らはどうも君にこそ聞きたいことがあるようだ」
なんでそういうとこ見透かせるんだろうなコイツ。
「うちに?」
「うん。えっとね」
そこでテツが俺の脇腹を肘で小突いた。
意図を理解して、ポケットに折り畳んで入れていた――アイとリンに「折るな!」とブチギレられた――手紙を取り出す。
「恋文か!」
「おわっ?!」
ガッと、東城が前のめりに食いついてきたので、ビビって身を後ろに逸らしてしまった。
「この時代になんと希少な! 中を拝見しても?」
「い、いいけどよぉ……まぁ、お前らなら口外しないと思うけど、誰にも言うなよ?」
「ああもちろん! ここに口軽はいない。いたならば、阿呆3人除けのためだけに、大事な部員をこの炎天下外に立たせるなどしていないさ」
「おートージョー、うちによぉよぉ感謝せーよ?」
「それで? 桐村 徹、君が受け取ったのか?」
「無視かーい!」
「ああ……けどコレ、差出人の名前がねぇんだ」
「ほーう、なるほど? フムフム。直接受け取ったのでないとすると、つまりは下駄箱に入れられていたということか。だから、見張り役をしていて差出人を目撃しているかもしれない月原に聞き込みをしに来た。良い発想だ! 差し詰め、河瀬 哲夫、君の指示だろう?」
「あー、さすがだ秀才。話が早くて助かる」
「……」
月原が顔を赤らめながら手紙を見たそうにしている。
それにアイが気づいて、
「じゃまぁー」
と、東城を手で奥に除けてやった。
「おおー……」
「いやぁー本当、我が部に月原が入ってくれて良かった。このように、恋に恋する乙女の視点を我らは持ち合わせていなかったからねぇ」
「んなっ!? か・ら・か・う・な!」
パァーン! と、月原が東城のケツを蹴り飛ばす。
まじか、え、マジで? コイツにこのノリやっていいんだ、へぇー、え?
「ッッッハァーーー! 効っくぅぅぅ!」
あ、うん、前言撤回。人間でしたコイツ。血の通った地球人でした。
呆気にとられていた俺と違って、アイは真顔で言い放つ。
「わぁ、夫婦漫才?」
「ちゃうわ!!」
「フフ。話題、逸れてるわよ?」
宝生の指摘にハッとする俺たち。
「茜っち、昨日下駄箱で何かしてる子見なかった? ウチらのクラスの子でさ」
「えぇー? うーん……せやなー……」
彼女は腕組みをして、うんうん悩み始めた。
「せやかて、下駄箱ってこっちに背向けてるやろ? たしかにうちは、小田川が部室棟に近づいてこないかって下駄箱の方をよう見とったけど……見えへんで? ラブレター入れとったとしても、その様子なんか」
「え? あー……ん-……そっかぁ……」
露骨に残念そうに肩を落とすアイ。心なしか頭の輪っか……と、支えてるペラいプラも萎れて見える。
だが待て、気落ちするのはまだ早い。
「下駄箱で誰が何をしてたかは見えなくても、
「おお! さすがはJS探偵レムリアの愛読者! 着眼点が素晴らしい!」
「ジェイエ……なんやて?」
「東城悪いちょっと黙っててくれ! で!? 月原、どうなんだ? 放課後すぐや部活終わりじゃなくて、間の時間に1人で帰った女子がいなかったか?」
別にどこかの部に所属することが校則というワケではないが、種類が多いこともあって帰宅部は多くない。
その帰宅部は、俺たちみたいに教室で駄弁ってるなら集団で帰るハズだ。1人の場合でも、HR後すぐは同じ帰宅部で下駄箱に向かう奴がいたら見られてしまうので、手紙を入れる暇はないだろう。
あるいは、部に所属しているのに理由をつけて1人先に帰った奴がいたなら、ソイツが犯人の可能性は高くなる。
「うーん、昨日は……真中と……もう1人おったような……?」
――事態は早くも進展を見せた。