挿絵がありますが個人的にかーなり昔にAIピカソというアプリで描いた物ですのでAI絵が苦手な方はご注意を。
私が前世の記憶がある事を自覚したのは中学生の頃にたまたま暇だったのでテレビでやっていたスケート選手の特集を見ていた時だった。
幸い前世で色んな作品で見たような主人公が前世の記憶を思い出した事で鼻血を出して倒れたり気絶したりはしなかった。
「あ、思い出した!」みたいな感覚で前世の記憶を自覚したパターンだ。
それよりもだ。
私には夢がある。それは漫画家になる事だ。
正確に言えば沢山の人からチヤホヤされるような人気漫画家になる事だ。
多少、絵が上手く描けるくらいで終わった前世だったが、今世ではその腕を磨く時間がある。
何せ私の意識は中学生からあるのだから、一から絵を勉強する。
ベタやトーンを貼る技術、背景から話の構成まで漫画に関する事を勉強し積み重ねていく。
その一環としてよく学校の図書室に入り浸り、本を読んでいたものだ。
何も知らない者からすれば私は絵に描いたような文学少女に見えていただろう。
無論、本を読んでいるだけではない。
漫画家は体が資本。
健康体を維持できなければ漫画を描く事も難しい。
定期的に身体を動かし運動もしなければならない。故に筋トレも欠かさないようにした。
日々の鍛練によって自分の肉体が鍛えられていくのを感じるのが思ったより爽快で私はいつの間にか筋トレが趣味となった。
そんな時だ、私は筋トレの一環でスポーツを始めて見ようと思って、たまたま私の住んでいる近所にスケートリンクがあったので、せっかくなので前世では全く縁の無かったスケートをやってみようと近くのスケートリンクに来た時の話だった。
私がいざスケート靴を履き、初心者なのでヘルメットを着けてリンクに入ろうとした時
「…うわっ!」
リンクで転倒し、そのまま倒れ込んだ姿勢のまま私の目の前に滑ってきた男子中学生がいた。
「大丈夫かいキミ?」
「……なんとか大丈夫です」
「鼻血出てるぞ、ティッシュ貸そうか?」
「ありがたくお借りします…」
それが私こと
ついで言えば、この時に私はこの世界がメダリストの世界だという事に気づいた。
私はメダリストという漫画への理解は"にわか“と言わざるを得ない。
メダリストは明浦路司と結束いのりの2人の主人公が金メダリストを目指すスポ根ストーリー。というあらすじくらいしか私は覚えていない。
たしか前世でアニメの第一話だけは見た気がするが、それ以外は記憶に無い。
というかその第一話の内容も曖昧だ。
ただ主要キャラが明浦路司と結束いのりの2人だという事だけは覚えてる。
漫画家志望の私は別にフィギィアスケート選手になりたいとは思っていない。
確かにテレビで見た金メダリストの夜鷹純のスケートの演技はまさかに圧巻で、観るものを魅了する凄まじさがあった。
だが、それだけだ。
私は「凄い」とも「綺麗」とも思ったが彼のようになりたいとも思えなかった。
そもそもの話だ。今の私はまだうら若き女子中学生。
フィギィアスケートで選手を目指すには最低でも五歳くらいから初めるのが一般的とされてる。
だから私がフィギィアスケート選手を目指そうにもあまりにも遅すぎる。
更に言えば私は別に原作の物語に介入したいとは思ってはいない。というか私は原作を読んだ事がないのに介入のしようがない。
前世でアニメをちょっとしか見た事ない。ぶっちゃけ私はにわかだ。
結論として私は原作に介入しない、と思っていたのだが。
「随分と熱心に練習しているね。選手でも目指してるのかい?」
「……うん。お金が無いしコーチもいないから、とりあえず独学で…」
「へぇ〜」と私は感心したように彼を見る。
気まずそうに顔を曇らせている彼を見て、私は決心した。
「なあ、キミ」
「分かってますよ。中学生から選手目指すなんて遅過ぎるって」
「漫画の主役になる気は無いか?」
「……はい?」
私は原作に介入するつもりは無い。でも今の彼はおそらく原作前。
でも今の彼を応援するくらいは許されるだろう。
というか彼は実際の漫画の主人公の一人なんだ。彼と一緒にいればネタに困らないかもしれない。
「つまりあなたは漫画家志望で自分の漫画のネタの為にスケート始めたと?」
「そうとも、何事も経験だ。だが初心者なので滑り方が全く分からん。教えてくれ」
「別にいいですけど…なんで俺を漫画の主役に?」
「後発の選手が遥か格上の選手達を渡り合っていくストーリーとか面白そうだと思ってな」
「……なるほど(ハッキリ言うなこの人…)」
そして色々と打算込みの私と司君の交流が始まった。
それから司君と連作先を交換しスケートリンクで度々会いながらスケートの世界を教わりながら、私は司君の練習を眺める日常が始まった。
“私は滑らないのか"だって?
滑っているよ。あくまでも趣味の範囲内だがね。
私と司君は同い年だが中学は違っていたので必然的に彼との時間はスケートリンクだけになる。話題も基本的にスケートの事に限定される。
「この夜鷹純の隣にいる鴗鳥慎一郎ついて知りたいんだが…」
「鴗鳥慎一郎!骨や腱が切れても新技を引っ提げて舞い戻ってきた凄い人だよ!」
「うわ、急に早口になるな」
私が有名なスケーターを聞いたりスケートのルールを聞けば司君はすぐに答えてくれる。
どうやら彼はこの時から既に熱心なスケートオタクだったらしい。
私はスケートの知識も曖昧なので司君の知識にはとても助かった。
スポーツとしてのスケートのルールについても詳しかったので、漫画の参考にもなった。
正にWin-Winな関係。
私と司君の関係は良好と言っていいだろう。
ある日、私が滑りながら前世で聞きかじっていたイナバウワーでもやってみようとして盛大に失敗してリンクの傍らで休んでいた時の話だ。
「木由さん」
「礼音でいいよ。もう知り合って1か月は経ってるんだ。気安くていい」
「じゃあ礼音さん。礼音さんの漫画の進捗はどうなってるの?」
「なんだ、見たいのか?」
「まあ…俺をモデルにした主役の漫画を描くって初めて会った時に言ってたんだし、正直めちゃくちゃ見たいよ」
「だったらすまん。まだ構想段階で、キャラデザも出来てない」
「全く出来てないどころか絵も描いてないの⁉︎」
「仕方ないだろう。ああ言った手前、君の為に面白い物を作らないといけないからな。下手な漫画は描けんよ」
「そんな重く考えなくても…」
司君の落胆した表情に私も申し訳ないと思うが、出来てない物は仕方がない。
それに彼を主役のモデルにすると言った手前、それ相応の作品にしなければならない。面白い作品を作るには様々な積み重ねを得て初めて生まれる物。
私はまだまだ未熟、故にまだ彼に私の描いた物を見せる訳にはいかない。
「多分キミを主人公にした漫画を見せるには最低でも5年以上かかりそうだから、気長に待っててくれ」
「その頃にはもう中学卒業してるよ…」
結局、私が試作した漫画を司君に見せてはたまに司君からスケートについて教えてもらうという関係に落ち着いた。
司君を主人公にした漫画は今もまだ描けていない。
私と司君の関係は中学卒業後も続いた。
彼から進学する高校を聞き出して同じ高校に通ったし、その高校生活でも中学の頃と何も変わらない関係だった。
私としても彼と離れたくないという思いもあった。
司君は素直で良い奴だ。
その性格が災いして損をしやすい性質なんだろう。
彼と共にいれば漫画のネタに事欠かないし、友人としても放っておけないと思ったからだ。
原作の主人公の1人と関わるのは原作に何らかの影響を及ぼす事があるかもしれないが、私1人が関わった所で大した変化はおそらく無いだろう。
いつも通りのWin-Winな関係と言いたい所だが、いかんせん私が彼の力になれるような事は少ない。
むしろ助けられてばかりで、彼からすれば迷惑でしかないのかもれないという不安があるがそれでも私は司君と関わり続けた。
私は彼からスケートを教わりながら漫画を描き、司君は独学で練習し続ける。
彼のおかげで私も多少はスケーティングが上手くなったが、ジャンプやスピンなどの技は出来ない。あくまでも普通より多少上手いだけだ。
今世の私の体は発育が良く、中学の頃からには既に胸が出ていたし、高校生になる頃には我ながらわがままボディのモデル体型になっていた。
スポーツにおいて大きい胸は邪魔でしかない。
実際私がジャンプを跳ぼうとした時は胸が重くて痛いしもの凄く邪魔だった。
私にはスケート選手など到底無理なんだと改めて思い知らされる。
普通なら多少は絶望する所なのだろうが、生憎こちらは漫画家志望なので痛くも痒くもない。
むしろ、これをもしスケート漫画を描く事になった時のいいネタになりそうなので結果オーライだ。
スケートをやってるライバル系ヒロインが胸が大きくなったのでジャンプが飛べなくなって舞台から退場する展開とかやったら面白そうだ。
そのネタを司君に伝えたらなんかもの凄く微妙な顔をされた。
ただそんな関係に終わりが訪れたのは高校卒業の時だ。
「礼音さん」
「なんだい司君」
卒業式を終えて、後はもう帰るだけになり人が少なくなった教室で神妙な顔をした司君に呼び止められた。
「礼音さんは高校卒業したらどうするの?」
「進学だよ。美大に行って絵の技術を学び磨くつもりだ。そしてその後は実家に帰って今まで描いてきた漫画を出版社に持ち込んで漫画家デビューだな。そっちは?」
「俺は就職。加護さん達の所からは離れてどっかで働いてお金貯めながら俺のスケートを磨き続けるつもりだよ。そしていつか選手になる」
「君が居なくなると知ったら加護さん達も寂しがるだろう。あのまま加護社長の所に就職して働いたらどうだ?その方がスケートもやりやすいだろう」
「ただでさえこれ以上無いくらいにあの人達の好意に甘えてるのにもう甘える訳にはいかないよ。というかあのままあの家で世話になるの申し訳なくてさ…」
確かに司君のバイト先である加護家の彼に対する援助は普通に考えたら血の繋がりの無い赤の他人に援助などありえない。
だが、司君は気づいていないのだろう。
病弱な芽衣子さんが司君のスケートに魅入られている事も。
頑張っている彼の姿が加護家全体の支えになっている事も。
相変わらず自己評価が低いなキミは。
というかまだ親御さんに「スケートをやりたい」と打ち明けていない上に司君は自分の稼いだお金でスケートをやるつもりだ。
頑固な司君の事だ。万が一諸々含めて親御さんに話して反対でもされたら面倒な事になる事は必死。
こういう問題は避けておいた方がいい。
それはそれとして
「結局ご家族にはスケート選手目指している事は言ってないのかい?」
「……うん。就職する事だけ伝えてる。心配もかけたくないしね」
「そうか、スケート選手として急にテレビデビューを果たした君をご家族が見る事になったら腰抜かすだろうよ」
「ははは、そうだね。うん、どうせならビックリさせてやるさ」
「ははは」とお互いに笑い合うこの関係もこれで最後だと思うと寂しくないと言えば嘘になる。
まだもう少しこの関係を続けたいと思わなくもない。
「ところで司君、キミは第二ボタンを誰かにあげたのかい?」
「誰にもあげて無いよ。礼音さんはそういう人いないの?」
「残念ながらこの学校にそんな男はいなくてね。強いて言えばキミくらいだ」
「………へ?」
いかん、なんか告白みたいになってしまった。これから別々の道を行くというのに…
いや、この際だ。告白しよう。
それにいい事を思いついた。
「一つ、賭けをしよう」
思い立ったら吉日。すぐさま行動だ。
「私がヒット作を生み出して人気漫画家になるのが先か。キミがスケート選手として大成するのが先か勝負だ」
「負けた方が罰ゲームとして相手の言う事を何でも聞くっていうのはどうだ?」
そう言うと、司君は「えぇ…」と呆れながら驚いている。
なんだその反応は?
気に食わん。よし、せっかくだしこのまま畳み掛けよう。
少し行儀が悪いが机に腰をかけて彼に顔を近づけて告げる。
「もし君が勝ったら」
「君は、私に何を望む?」
司君は「何を望むって言われても…」と私との距離が近くて照れたのか顔を赤くして俯く。
そしてしばらく悩んだ後、「よし決めた」と顔をあげて私に告げた。
「じゃあ、礼音さんのスケート漫画を読みたい」
え?
たしかに私は今まで司君に私の描いた漫画は見せていた。
司君に見せていた漫画は主にバトル漫画とスポーツ漫画だ。
どれも1話完結の読み切りだ。
「今まで色々読ませてもらったけど、やっぱり俺は礼音さんが描いたスケート漫画が読みたいかな」
そう来たか、このスケートオタクめ。
確かにスケート漫画はまだ描いた事は無かったな。
スケートが心から好きな司君を満足させる漫画を描けるか正直不安だったので今まで描かなかったが仕方ない。
「いいだろう。君が勝った時はきっと面白いスケート漫画を必ず君に見せてやろう」
そう宣言する。見せる事になった時は絶対に君を満足させてやろう。
「そして私が勝った時の話だが」
そう言って私は司君に近づき第二ボタンを素早く引きちぎる。
「あ」と驚く司君を無視して私は司君の第二ボタンを手に宣言する。
「先に言っておくぞ。私は君が好きだ。勿論likeという意味ではなくLoveの意味でな」
「ええっ⁉︎」と驚く司君を他所に私は彼の第二ボタンをポケットにしまう。このボタンは宝物にしよう。
「それって……」
突然の私の告白に困惑しているようだが、このまま畳み掛けてやる。
「自慢じゃないが、私は漫画の方に集中するあまり結婚は出来ないタイプだと自負している。ほぼ確実に売れ残るだろう」
「それはまあ…これまでの付き合いで何となく察してる」
おい待て否定はしないのか…まぁいい。
「だからもし、私が勝った時にお互い独身だった時は私を貰ってくれ」
「えっ⁉︎」
ずっと驚いている司君が面白くて私はついつい笑ってしまう。
前から思っていたが彼は実に良いリアクションをする。リアクション芸で芸人でも目指せば食っていけそうだ。
「まあ、もしその時の君に恋人や奥さんができていたなら別に反故にして構わないよ」
正直恥ずかしくて体が熱くなってきたので、ついそんな事を口走ってしまう。
私の悪い癖だな。本当は本命だと言うのに。
今ほど原作を読んでおけば良かった思った事はない。
この先、司君に恋人は出来るのだろうか?それとも結婚しているのだろうか?
正直不安で仕方ない。
恋というのは難儀なモノだ。
彼への好意を自覚したのはいつだっただろう?
一生懸命にスケートに打ち込む姿を見たからか?
彼に漫画を見せた時に褒められた時か?
それはもう分からない。
ただ前世含めても私が人をここまで“好き"と思えたのは初めてだった。
「約束だぞ?」
伝えたい事は伝えた。
彼の机から降りて私は精一杯の笑顔を浮かべて、彼に別れを告げて教室を出た。
それから約10年間、私は司君と直接会う事は無かった。
司先生の事が恋愛的な意味で好きなキャラがメダリストに1人もいないのはおかしい!という個人的にメダリストの数少ない不満点を糧に書きました。
オリ主みたいなキャラが1人くらいは居てもいいと思うんです。