この調子でどんどん行きたいです。
「2人とも着替え終わったー?」
「返事する前に扉を開けないで下さいよ」
第4アリーナの更衣室で王子の服装をした一夏が呆れた様子で立っていた。店のシフト終了した後、急に楯無に呼ばれ、行ってみると『生徒会の出し物に協力しなさい』と命令口調で言われてこの第4アリーナに押し込まれ、今に至る。
「はい、王冠」
「はぁ・・・・どうも」
急展開についていけないのか、一夏は気の進まない様子だ。だが、それ以上に嫌な気分なのは彼のはずなのだが、周囲を見渡しても彼の姿はない。
「瑠奈君は?どこにいるの?」
「はい、瑠奈だったら衣装に着替えた途端、顔を真っ赤してロッカールームの奥にこもっちゃいましたよ」
「なによ、あんなにかわいい衣装を着たんだから、もっと胸を張ってもいいのに」
「いや、あんな衣装を着たら誰でもああなりますよ」
着替えている途中、何度も『衣装を交換しないか?』と交渉を持ちかけられたが、一夏の衣装であるこの王子の服装と瑠奈の衣装ではサイズが合わないため、どうしようもない。
まあ、仮にサイズがあっていたとしても断っていたが。
「瑠奈君!観念して出てきなさーーーーい!」
楯無の笑いが含まれる声が広いロッカールームにこだます。しかし、返事はなく数秒沈黙が流れる。ここでならもう少しからかってもいいのだが、今は時間が押している。
「もういい加減諦めなさい」
最後通告に似た声が再びロッカールームに響く。すると観念したのかロッカーの影からぴょこりと瑠奈が顔を出す。
「絶対に笑いませんか?」
「ええ、笑わないわ。だから早く出てきなさい」
『はぁ・・・・』と諦めに似たため息をだすと、ゆっくりとロッカーから体を現していく。
瑠奈の来ている衣装は全身にフリルが付いたミニスカートのドレスだった。全身は赤色に統一され、ガラスの靴を履き、髪はポニーテールにしているため、大胆にカットの入った背中が露出している。
さらに、瑠奈の左腕の傷口を隠すため、左上半身を布が覆い隠し、脚も義足を隠すため、両脚ともニーソックスを身に着けている。
だが、一番驚くべき場所は腰を覆い隠しているそのミニスカートだ。なんとそのスカートは布が透けており、本来隠すべきはずの腰回りを露出している。そのため、腰の白い布が頭を出している。
もし瑠奈が女で、この格好で町を歩いていたら痴女間違いなしと思われるほどの服装だ。
「よく似合っているじゃない。服飾部の部員で頑張って作ってよかったわ」
「元凶はあなたか・・・」
「まあまあ・・・・似合ってるぜ」
慰めになっていない一夏の言葉を聞きながらがっくりと項垂れる。この話を断っておけばよかったと思ったが、もし、ここで断ったらあとで何を要求されるかわかったもんではない。
どのみち地獄だ。
「さて、そろそろ始まるわよ」
「あのー、脚本とか台本とか・・・・」
「大丈夫大丈夫、何とかなるから」
「え、でも・・・・」
「いいからいいから。あ、あと瑠奈くん手を出して?」
不思議がりながら手を出すと、金色に輝く指輪を指にはめられる。
そのまま、楯無に背中を押される形で舞台袖へ移動する。当然だが、一夏も瑠奈も演劇の経験など皆無だ。無様な大根役者になってしまい、観客からブーイングの嵐になるのは避けたいところだが。
「なあ・・・・ちょっと離れてくれても・・・・」
「いいから、私から離れたら足の骨をへし折るからな」
ステージに上がる前から瑠奈は警戒モードだ。一夏の背後に隠れ、自分の姿が正面の客席から見えないようにしている。
「さぁ、幕開けよ!!」
ブザーが鳴り響き、照明が落ちる。ステージ全体の幕が上がっていき、豪華な城セットがスポットに照らされていく。
『むかしむかしあるところに、王子とシンデレラがいました』
アナウンスで楯無の声がステージ全体に響く。楯無からシンデレラの劇をするというのは聞かされていたが、服装から推測すると一夏が王子、瑠奈がシンデレラの役になっているのだろうか?
『2人は夢の舞踏会で運命の出会いをし、豪華なお城で2人幸せに暮らしていました』
「ん・・・・・?完結してね?」
シンデレラという物語は、舞踏会を夢見る少女『シンデレラ』が魔女の魔法でかぼちゃを馬車に変えてもらい、それで王子のいる舞踏会に行くという話だったはずだ。
初めから王子とシンデレラが一緒にいては初めからハッピーエンドだ。
『しかし、舞踏会にいた人々は許さなかった!!美しいシンデレラとあの凛々しい王子の2人がくっつくことなど!彼女を自分の妻にしたい、彼を自分の夫にしたい、その恋心に似た嫉妬心が人々を支配していった!』
この時点で一夏と瑠奈の額に嫌な汗が流れる。やはり、あの楯無だ。この劇を普通に終わることなど彼女が許さなかった。
『ある日、人々は叛逆を起こした!!全ては惚れた相手を自分の物にするために。いつ、だれが裏切るか予測不能のサバイバルゲーム!!それがシンデレラ!!』
「おいおい・・・・なんだそりゃあ・・・・」
『それぞれの愛の証である王子の王冠と姫の指輪。それを守るために今日も2人は大勢の襲撃者と戦い続ける!!全ては2人で幸せを掴みとるために!!」
「は、はぁっ!?そんなの聞いてなーーー「一夏伏せろ!!」」
後ろにいた赤いドレスを身に纏った瑠奈が、突然一夏の頭を掴むと思いっきり押さえつけ、身を屈ませる。その瞬間、さっきまで一夏の頭があった場所へ、鋭い刃をした手裏剣が飛んできた。
「なんだよこれは・・・・」
素早く一夏の手首を掴み、近くにあったテーブルの影へ隠れる。全てが理解不能な状態だ。いきなりの襲撃、敵の目的も分からない。こうなったら瑠奈のやるべきことは1つ。
「一夏」
「な、なんだよ・・・」
「ここは戦場だ。運命は自ら切り開け」
「え!?ちょ、なーーーー」
その言葉が終わる前に、ガラスの靴を履いた瑠奈の足が一夏の肩を蹴飛ばし、障害物であるテーブルの外へと吹き飛ばす。
「ひっ!!死ぬ、死んでしまう!」
的となった一夏に容赦ない手裏剣が投げつけられ、ステージ上を逃げ惑う。そんな様子を確認すると、身を屈めながら静かに移動する。
ひとまず、先ほどの場所から離れ、逃げ切ったと安堵した時
「もらったぁぁぁっ!!」
王子の恰好をし、両手にタクティカルナイフが握られたラウラが出現し、斬撃を繰り出してくる。
「おいおい・・・・非武装な一般人相手にえげつないな」
「指輪を私に渡すのなら逃がしてやってもいい!!」
敵の目的が瑠奈の指にはめられている指輪とわかったのなら、今すぐにでも渡したいところだが、あの楯無のことだ、何か恐ろしい目論見が絶対にある。
「それは出来ないなっ!!」
二刀流のナイフ裁きを金属でできている左脚の義足で防ぎながら凌ぐ。瑠奈の義足はエクストリームの装甲を使ったお手製だ。ナイフや銃の攻撃程度では壊すことは出来ない。
「くっ!!なかなかやるな!!」
「私を仕留めたいのなら技量勝負じゃなくて持久戦に持ち込んでくるのが正解だ。そんなことではーーーーはっ!!」
そこまで言いかけたところで、素早く後ろに後転し、立っていた場所から離れる。その瞬間、バシュッと乾いた音が起こり、先ほど瑠奈が立っていた場所が吹き飛ぶ。
(この音はライフルでのサイレンサーの狙撃・・・・・セシリアか・・・・?)
狙撃手が自分を狙っている状況だというのに、冷静さを失うことなく、客観的な判断で行動する。その人並み外れた態度に驚くがそれ以上にラウラが驚いたのは
「瑠奈!お前狙撃がわかるのか!?」
「このステージであれほどの殺気を向けられれば気が付く。狙撃手に一番必要なのは殺気を押し殺し、冷静に目標を仕留める気力とどんな環境でも耐え凌ぐやせ我慢だ」
人間の殺気や気配を感じ取るなど、どんなに熟練の兵士でも難しい神業に等しい技だ。そのはずなのに、彼は自分の目の前でその技を披露した。
「すごい・・・・・」
無意識に両手のタクティカルナイフを握りしめていた。これで
「ますますお前を手に入れたくなった」
「私は自分より弱い人間の下に就くつもりはない。どうしても私を服従させたいのならば力を示せ。この小倉瑠奈に!」
「面白い!!今日こそお前に勝ってみせるぞ!!」
互いに構え、戦闘態勢を保つ。久しぶりに純粋な戦いを楽しむことが出来る状況だ。奇妙な興奮を感じていると、なにやら地響きが起こり始める。
「ん?・・・・なんだ?」
『さあ!ただいまからフリーエントリー組の参加です!!みなさん、王子とシンデレラ、自分の手に入れたい商品目指して頑張ってください!!』
その声と同時に大量の王子とシンデレラが出現する。王子は瑠奈へ、シンデレラは一夏へ突き進んでいく。
ここで技量戦でもなければ持久戦でもない、物量戦で挑んでくるとは予想外だ。
「小倉瑠奈ぁぁぁ!!指輪よこせぇぇぇ!!」
時々昼食を御馳走してくれる柔道部の主将を初めとする、柔道部の部員たちが襲い掛かってくる。
「やばいな・・・・」
ひとまず、攻撃から逃げ続けるが、手数が多すぎる。かわすだけで精一杯だ。一瞬、エクストリームを展開しようと思ったが、非武装な生徒相手にそれはないだろう。
だが、このままではジリ貧だ。どうするべきか・・・・・
ーーーー
(もう少し・・・・もう少し・・・・・)
瑠奈を取り囲む王子の中で1人の王子が、他とは一味違った視線を瞳に宿していた。その正体は姉の楯無に誘われ、この観客参加型演劇に参加した簪だ。
彼女の瞳には瑠奈の指にはめられている指輪が映し出されている。
瑠奈の指輪を手に入れたものの報酬、それは『小倉瑠奈への絶対命令権』だ。たとえどんな命令だろうと、瑠奈は指輪を奪われたものの言うことを聞かなくてはならない。生徒会も全面協力のこの企画、逃すわけにはいかない。
目の前で瑠奈はたくさんの攻撃をかわしているが、いつかはスタミナは尽きる。息切れを起こし、動きが止まったところで、今持っている
指輪を奪い取り、瑠奈と指輪を手に入れ、彼の本当の恋人としてたくさん愛してもらうのだ。失敗は許されない。
(あ、今だ!!)
偶然、周囲の人間を相手にしていた瑠奈が、簪に背を向け、隙を作る。その瞬間、全速力でダッシュし、瑠奈へ接近する。
いくら瑠奈とはいえ、後ろに目があるわけではない。その死角を責めることが出来れば、簪でも勝つことが出来る。
腕を伸ばし、スタンガンの先端が瑠奈のうなじに触れる瞬間
「うわッ!!きゃっ!!」
素早い動きで屈み、攻撃をかわすと、そのまま180度ターンをして簪に向き合うい、手首を押さえつけて持っていたスタンガンを手放させる。その手早さと精密さは精鋭部隊顔負けの腕前だ。
「相手が隙を見せたからってすぐに攻めるな。それは相手からの攻撃の誘いの可能性がーーーーって簪?」
「る、瑠奈・・・・・これは・・・・その・・・・・」
「まあいいや、ちょうどいい。面白いものを見せよう」
手首を掴んでいた腕を素早く、簪の胴体に抱えこむと、数歩下がり、周囲の人間と距離を取る。男装した王子を抱える女装したシンデレラ。
いろいろと立場や役が逆転している面白い光景だ。
「よし、簪、しっかり掴まっていてくれよ」
そうつぶやいた瞬間、履いていたハイヒールの靴底からわずかにプラズマらしきものが発生したと同時に8メートルほどの大ジャンプをし、城のセットへ飛び乗る。周囲の生徒からは瑠奈が簪を抱えて大ジャンプしたという、あり得ない光景に見えただろう。
ISの部分展開ならぬ、
常に展開する部分展開よりも、この瞬間展開の方が省エネな画期的なシステムだ。
『瑠奈、瑠奈』
すると、整備室で作業中のエストから通信が入る。
『整備室に不審人物が侵入しました。まっすぐ
「了解した。すぐそっちに向かう」
あのまま帰っていて欲しかったが、やはり彼女も手ぶらで帰るわけにはいかないのだろう。だが、こちらにも事情がある。このまま『はい、どうぞ』といって打鉄弐式とエストを渡すわけにはいかない。
「簪」
「え・・・・何?」
「これあげるよ」
先程の大ジャンプで腰が抜けてしまったのか、地面に座り込んでいる簪に右手にはめられていた指輪を投げ渡す。
「後はよろしく」
それだけ言い残すと、セットの裏側に飛び降り、姿を消した。残された簪は周囲に誰もいないことを確認すると、瑠奈に渡された指輪を左手の薬指に付けて、結婚指輪風にすると、『ふふ・・・』と小さく無邪気な笑みを浮かべるのであった。
ーーーー
整備室に誰もいないことを確認すると、なるべく足音を立てないよう、静かにターゲットを探し始める。やはり、今日は学園祭のため、不要な機材などが撤去されているからなのか、すぐに見つけることが出来た。
このIS学園でどこの企業の援助を受けることなく、独自開発されている小倉瑠奈のお手製のIS、打鉄弐式を。
「これか・・・・」
セキュリティなどがかけられていないことを確認し、懐から1枚のカードキーと携帯端末を取り出し、打鉄弐式へハッキングしていく。
「はんっ、脆いガードだな」
ハッキング率・・・・60%・・・・75%・・・・85%・・・・
次々に機能を制圧していく。そしてそのままハッキング率が100%に達しようとしたとき
ビーーー!!
アラームが鳴り響き、持っていた端末がエラーの表示を映し出すと、ブツっと音を立て、画面が真っ黒になりブラックアウトする。
「おいっ!なんでだよ!どうした!?動きやがれッ!!!」
端末を叩いたり、振ってみるが一切反応することなく、暗い画面のまんまだ。
『ん・・・いったい何事ですか?騒がしいですねーーーー?』
のんきで眠たそうな声が打鉄弐式からしたと思うと、目の前にIS学園の制服を着た少女の立体映像が映し出される。
「あ、お騒がせして申し訳ありません。わたくしはあなたの作り主である小倉瑠奈さんの任意でこのISを回収しに来たものです」
『そんな話聞いていませんよ』
「急遽決まった話なのでご存じないのかもしれません。ひとまず詳しい話をわが社でお話したいと思いますのでこのISのロックを外してはいただけないでしょうか?」
『我が創造主である瑠奈からは、私とこのISの操縦者以外の人間には絶対にロックを外すなと命令されています』
「いや、その小倉瑠奈さんがわたくしにあなたを回収するように言われたんですよ」
『ああーーーそういえばこんなことも言われていましたね。髪型がロングヘアーのもっさり頭でいつもニコニコと不愉快な作り笑顔を浮かべているビジネススーツを着た女の言ったことは、絶対に信用するなと』
嫌味っぽく言われたその言葉に体が凍り付く。エストの言っている外見的特徴はこれ以上ないくらいに自分に当てはまっていたからだ。ロングヘアーでビジネススーツを着た女性ーーーー巻紙玲子と。
「なにかの誤解です。きちんと話せばーーー「いい加減諦めろよ」」
呆れに似た声が後ろから聞こえたと同時に、後ろ襟を掴まれ、後方に吹き飛ばされる。
「あの時帰っておけばよかったものを・・・・・・」
「て、てめぇ・・・・」
赤いドレスを着た瑠奈を睨みつける。その表情にはさっきまでの余裕のある笑みはなく、憎しみや恨みが籠った気色悪いものだ。
「ちっ、しょうがねぇ。てめぇも一緒に仕留めてやる!!」
やけくそ気味に叫ぶと、全身が光り輝き、ISを展開する。全身が紫とオレンジ色の装甲に包まれ、背後から伸びた8つの装甲脚が特徴的な機体ーーーーアラクネを。
「ここだと打鉄弐式とエストが危険だ。外でやろう、おばさん」
ーーーー
「織斑先生、アリーナで未確認のIS反応を感知しました。現在、小倉さんと交戦中です」
「やはり来たか・・・・・・ただ今をもって学園祭を中止、生徒たちを避難。アリーナ方面を全面的に封鎖してください」
モニタールームで警備にあたっていた真耶が、緊張した様子で千冬に現状を伝える。多くの部外者が学園に入場する学園祭当日。やはり無法者が攻撃してくることは予想できたが、実際その状況に直面してみると緊張するものだ。
「専用機持ちを増援に向かわせます」
「いや、その必要はありません。専用機持ちも避難させるように」
「え!?小倉さんはあの体なんですよ!?流石に1人では無茶です!!」
「こちらで策は打っておきます。山田先生は生徒の避難を最優先に行ってください」
それだけ言い残すと、真耶を残してモニタールームを退出し、廊下を歩いていく。
どうにも最近、奇妙な胸騒ぎが収まらない。何か不吉なことが起きる前兆でなければいいのだが・・・・・
(
ひとまずは手を打つ必要がある。大勢の人混みの中をかき分けて進んでいった。
ーーーー
大きな爆発音がアリーナで響く。大量のビームの弾丸が飛び交う戦場での死闘が続いていた。
「おらおらぁ!!どうした小倉瑠奈ぁ!?」
8本の蜘蛛の脚のような装甲脚から次々とビームが発射され、弾幕となってゼノンを襲い掛かる。さっきからずっとこんな戦況が続いている。
強力な弾幕で近寄らせずに、ゆっくりと相手が弱らせていく確実かつ隙のない戦術。これでは瑠奈は、まるで蜘蛛の巣にかかった獲物のようだ。
「くっ!!」
どうにかしてこの状況を覆したいが、簡単なものではないだろう。格闘特化のゼノンでは近寄れない。かといってエクリプスに換装したら機動性が落ちていい的だ。
アイオスにするべきかと考えたが、あのビットを完全制御できるだろうか?いや、そもそも換装する時間を相手が与えてくれるかも不明だ。
(こうなったら一か八か!)
腕で顔を覆い隠すように構えると、そのままビームの弾丸の中に突っ込んでいく。このままでは勝機は薄い。ならば、多少の被弾は覚悟で一気に接近するしかない。
「はぁぁぁぁっ!!」
右拳に渾身の力を込め、敵ISに殴りかかる。敵に接近すること夢中になっていたせいだったからだろうか、その時瑠奈は気が付かなかった。敵の表情が歪んだことを。
「甘ぇぇぇ!!」
本体の両手を向けたかと思うと、指先から白い蜘蛛の糸のような粘着質のあるものを発射し、ゼノンの動きを封じ込める。
何とか抜け出そうとするが、その蜘蛛の糸は意外と強固でもがけばもがくほど機体を縛っていく。
「流石
ゲラゲラと笑い声をあげている相手を睨みつけながらなんとか逃げ出そうとするが、手首や両脚も完全に拘束され、身動きが取れない。せめて左腕があったら手はあったかもしれない。
「くっ、くそぉぉぉぉ!!」
「ぎゃははは!!残念だがてめえの
『負け』その言葉を聞いた瞬間、さっきまでもがいていた瑠奈の動きがぴたりと止まる。
負ける? 誰に? ISに?
ダメだ・・・・それだけはダメだ。自分は勝たなくてはならない。生きなければならない。自分は『
「おい・・・・・」
「あん?」
「あんた名前は?」
「秘密結社『
完全に勝ち誇っている様子で笑いながら瑠奈に自己紹介していく。この時、オータムは知らなかった。自分に大きな危機が迫っていることに。
「そうか・・・・オータム、あんたに1つ警告しておく。これから起こることに危険を感じたらすぐに逃げろ」
「はぁ?」
突然の意味不明な言動に眉を歪め、笑い声が止む。
「てめえ、負け惜しみか?いまさら遅いんだよ」
「・・・・・・警告はしたからな」
これでひとまずオータムの身は案じた。これでもう何もできることはない。
あとはシステムを起動させるだけだ。自分が、世界が変わってしまうかもしれない禁断のシステムを解き放つだけだ。
「極限・・・・進化・・・・・」
そうつぶやいた瞬間、瑠奈の周りをたくさんのディスプレイが出現し、複雑な英数字が映し始める。
system startup data file extreme evolution all systems are go
「くっ・・・ぐぅぅ・・・があっ!!」
段々と瑠奈の表情が曇り始め、縛られたまま狂い悶える。そのまま全身が赤く輝き始める。
「なんだよ・・・・これは・・・」
違和感を感じ、勝ち誇っていた優越感が消え、戸惑いと恐怖が心の底からにじみ始める。これは戦闘で感じる恐怖ではない。人間が、生物が古の時代から持ち続けてきた原始的な恐怖だ。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
突如、獣のように叫び声を上げた瞬間、バックパックが展開され、ゼノンを縛っていた蜘蛛の糸を衝撃波で吹き飛ばし、地面に降り立つ。
「なんだよ!!こいつはッ!?」
いきなりの機体の変異に戸惑いつつ、距離を取る。ゼノンの変化はとどまることを知らず、全身に次々と追加装甲が出現し、瑠奈の体を覆い隠していく。
さらに追加された装甲の所々が金色に輝き始め、ゼノンの全身からは光があふれる。システム自体が「格闘用」にバージョンアップされたのだ。
「が・・・・ぐぅぅ・・・・ぐがぁぁ・・・・」
全身が痙攣し、口からは言葉になっていないうめき声のようなものが漏らしながら、既に人間の理性が消失したかのように顔を俯かせていた瑠奈がゆっくりと顔をあげる。
「てめぇ・・・・
目が赤く濁り、瞳孔が限界まで縦に裂けた異常者の姿。顔の下半分をマスクのように隠し、目元も装甲が追加され、完全に顔を覆い隠す。
全身が赤と金に輝く装甲に包まれたフルスキャンの姿。まるで神のような神々しさを感じさせる姿だ。
輝く全身の中でも一番強い光を発する右手には、パワーが集まっていた。脚部の輝く装甲が扇状に展開したと同時に、ゼノンは目の前の敵に突っ込む。
その瞬間、瑠奈の心の中で何かが崩れ落ちる音が聞こえた。
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