国境の魔族共を滅ぼし、砦の修繕と戦後のゴタゴタを騎士と魔法使いの小娘に押し付け王城に報告に来た私を待って居たのは、小難しい顔をした宰相と門閥貴族の同輩だった。
二人が口を揃えて“何があっても陛下の御前で取り乱すな、頼むから”と抜かす、そんな事言われなくても今までの謁見や叙勲の時に一度たりとも取り乱した事など無かっただろうに、そもそも私は忙しいのだ、今すぐ帰って捜索隊を組み荘園総出であの子を見つけ出さなければ。
二人の小言を無視し早足に謁見室に急ぐ
近衛によって大仰な造りの扉が開かれ、玉座の間へ歩を進める
紅い絨毯に金の紋章が描かれた定位置で止まり最敬礼を取り頭を下げ形式通りの挨拶を済ませた
大臣によって今回の防衛戦の慰労と感謝、報奨と感状は後日改めて、と告げられいつもならここで退室が許されるのだが
「最後に英雄殿に告げねばならぬ事があります」
陛下が口を開いた
なんだ?叱責を受ける様な事をしたか?
少し剣戟がズレて砦が崩れたのはいつも通り、貴族の令嬢共が箔付けに籍を置いてる騎士団は後方に下げて負傷者も無し
「貴女のご子息の件ですが」
なに?あの子の事だと!?流石陛下だ、私の最大の懸念、我が最愛の怪物の奔走を既に察しておられたとは、既に王都で保護され私を待っていたのだ、いくつか咎める事もあるがまずはお日様の匂いのする頭を吸いながら抱き締めねば、沐浴をしておいて良かった
「魔族に拉致されました」
帰ったらあの子の言い分も聞こう
ワガママを言うのが初めてで熱量の使い方と方向を間違えただけだ、それを正しい道に戻すのも母の務めというものだ
「そも、何故魔族が王国に侵入出来たかですが、国境の件が陽動であった可能性も…」
今日はあの子の好きな兎肉のシチューにしよう
きっと疲れてるだろうから久々に一緒に風呂に入り、小さい頃よく語った武勇伝を寝物語に聞かせて
「あの、聞いてますか?」
「………………」
「くっくっくっ…はっははははははは!」
突然の私の高笑いに謁見室にいる全員がたじろいだ
そうかそうかあの子は拉致されたかしかも下衆な魔族に?そうかでは取り返さないとな
いやまさか捜索の末見付かったのではなく、拉致被害の報告とは陛下もさぞ気が滅入った事だろう
「錯乱するのも無理はありません、貴女のご子息に対する深い愛情を想えば当然です、私達も何とか見つけ出そうと御触れを出し、つい先日近隣都市の冒険者組合で目撃情報が入り情報の精査をしていたのですが」
錯乱…あぁそうかそうか
女王陛下は私の気が触れたと思われているのだろう、でも違います、違いますとも陛下
「上級冒険者が依頼中に高位魔族と戦闘に突入し、その被害の中に貴女のご子息が…ですね…あの大丈夫ですか?」
「病は切れぬ」
「は?」
「病は切れぬのですよ陛下、私がどれ程強くても病は斬り伏せる事が出来なかった」
「…それは」
私はあの時無力だった
救国の英雄、国防の要、稀代の剣聖、いくら他者が私を持て囃そうと病一つ倒せない、好きな人を救えない無力な女だった
「しかし此度の敵は病ではありません、だからつい嬉しくて品の無い笑い声を上げてしまい申し訳ありません」
今回は違う
「敵は魔族です」
無力な女ではない
「魔族は血を流します」
待っててね可愛い坊や
「血が出るなら殺せます」
お母さんが行くから
いつもご閲読ありがとうございます
お母さん魔“族領”界行くってよ
次は母性拗らせ耳長姉さんの予定です