初めて会ったのは母に連れられ、とある騎士様の荘園に連れて行かれた時だ、中流貴族の当主である母は荘園の主に様があったらしい、まだ騎士見習いだった私は母の用事が終わるまで屋敷の庭を宛もなく歩いていた
その時彼と出会ったのだ、夜より暗い見事な髪、焼きたてのパンより柔らかそうな肌、天使の様に澄んだ声、深く吸い込まれそうな瞳で私を見つめる彼と出会った
初めて見た時は妖精の類いかと見紛うた、小さい彼は私を見て目を輝かせ
「騎士様!外の話を聞かせて下さい!」
と甘えるように擦り寄って来たのだ
これで惚れないメスがこの世にいるか?
完璧な芸術品が突然手の中に転がり込んで来たと思ったら、自分を尊敬の眼差しで貫いてくるんだぞ?
平静を装い声が震えない様にするので精一杯だった
しかし子供が喜びそうな話など私は知らなかった、囚われの王子が姫に助け出される定番のお伽噺も受けず、この宝物を喜ばせる為にどうしたら良いかと思案を巡らせ時間稼ぎのつもりで話した冒険活劇がとても気に入ったようだった
魔竜を退治し故郷で英雄となる話や霧の谷に眠る霊廟を発掘する話、どれも幼い女子が喜びそうな少し荒っぽい話を目を星より輝かせ聞く彼は本当に美しかった
二つ程話を聞かせると母の用事が終わり、荘園を去らなければならなかった、その都度彼は仔犬の様に寂しそうな顔でため息を吐く
その時私は誓った、この子を婿にしようと
これまで王都で会った男達は家柄と財産目当てに、女に怯え自分の人生を悲観した政治の道具として己を捨てた紳士達、そんな彼らとあの子は違った
どこまでも純粋で清らかな存在だった、私が守護らねば私の手の中に
そして帰りの馬車で母に彼の正体を聞くと私は高望みをしていたのだと分からされた
荘園の主たる救国の英雄その人の一人息子
亡き夫の眠る荘園と近くの魔族との国境を守る国の要、一人で戦場を駆け抜け敵将の首をもぎ取り戦を終わらせた豪傑、そんな暴れ龍の宝玉に私は心を奪われてしまった
それでも私は諦め無かった、ようするに英雄の息子に相応しい存在に私がなれば良いのだ、何度か荘園に出向き彼と話す内に決意は固くなっていった
せめて同列、格下でも外堀を埋め尽せば求婚を申し出ても許される地位に就こう、すべては彼の為に
そこから最速で騎士の任を拝命し、誰よりも努力し手柄を立て、史上最年少で母の門閥が率いる騎士団の団長に抜擢された
まだ足りない、まだ届かない、彼に会いたい、彼が欲しい
欲望と焦燥感に苛まれていた時、一つの命令が下った
あの荘園近くの国境に魔族が集結しつつあるらしい、それに伴い領土が荒れ野党の類が出没していると
国境防衛と治安維持の任を負い、騎士団を出立させた私は少し落ち着かせる事にした
まだ手柄が足りないのだ、英雄の宝を狙うにはまだ足りない、この国境防衛で荘園主、母君と轡を並べ少しでもお目通りが叶えばまた一歩
そんな事を考えながら馬を歩かせ行軍していると斥候から報せが届いた、街道の先で馬車が野党に襲われているというのだ、治安維持も今回の任に入っている、後方の輜重部隊はこのままに足の速い騎兵隊だけで早急に救援に向かった
そして向かった先で私は天使を見つけた、馬車で恐怖に震える彼は思い出の中より美しかった、しかし何故ここに?
野党を蹴散らし彼の無事を確認すると急ぎ戻り部隊に天幕を張らせた、休止の予定地はまだ先だったがそんな事知るか緊急事態だ
部下に彼を私の天幕に連れて来るよう厳命し、髪を整え手鏡で容姿の確認をする
こんな事なら化粧道具も持ってくれば良かった、戦装束の顔料しか入ってないポーチを睨見つけていると
天幕に彼が入ってきた
あぁ本当に美しい
絵画からそのまま連れ出したような完成された美
欲しい、欲しい、欲しい
久しぶりだね、元気だったかい、覚えてるかな
あぁ言いたい事が伝えたい事が多過ぎる
そうだまずこれを伝えないと、私の気持ちをそのままに跪き彼の手を取り
「結婚しよう」
気分で投稿してます