引退したVtuber、夢野ねむこに関連するかも知れない一連のファイル 作:ゆめことほぎのります
■■■とは、2012年から2016年に掛けてサービスを提供していたスマートフォン向けの写真・動画共有アプリである。児童ポルノ等、違法コンテンツの共有に利用されていることを認識していながらも放置していたことを受け、2015年に運営会社が摘発、同年に■■■もサービスを終了した。
■■■のファイル共有システムの特徴として、『合言葉』の存在が挙げられる。アップロード者は、写真や動画の共有の際に合言葉を設定し、ダウンロード者はその入力を求められる。この仕様により、データを共有する相手を意図的に制限することが可能であり、広く知れ渡られては困る写真や動画の共有に用いられるに至った。
例えば、インターネット上の特定の掲示板で『合言葉』だけを共有する。そうすると、その掲示板を知る者のみが■■■を通してデータをダウンロードすることが可能となり、そうでないものからはそもそもその共有それ自体が不可視化される。違法性のあるデータの共有に関して、この共有手段の隠密性の高さは珍重された。
本稿に記載する以下の文章は、2015年1月1日に■■■にて共有された写真、及び動画にまつわる一連の出来事を、当時の利用者に対する取材を通して、一部情報を伏せつつもまとめたものである。
内容は以下。
◆◆◆
A氏は、過酷な工場勤務のストレスをアングラ掲示板に入り浸ることで解消していたという。十年近く前の話であるから、当然履歴などは残っていないし、当時のブックマークは全て削除してしまったために、どのサイトにアクセスしていたかの情報は完全に失われてしまっている。
曰く、「Torが必要なレベルのサイトではない」とのことだった。つまりは表層ウェブレベルのアングラ掲示板なわけだが、しかしその掲示板でも■■■を用いた違法性のあるポルノの共有は行われていたらしい。
A氏にはその手の趣味はなく、なにより「アングラサイトに入り浸るほどネットに精通した自分」という状況それだけで満足できていたので、実際に■■■を用いて画像や動画をダウンロードしたことはこれまで一度もなかったと言うが――しかし、掲示板に書き込まれた一件の投稿が、どうしても頭から離れなかった。
No.13 咒萼 2015-01-01
pass : amatonihseagurakam
たぶん、関係とかはないんだと思います。
合言葉が異様に長かった、と言う。普通、■■■で用いられる合言葉というのは日本語の文章が主であった。確かにアルファベットを用いた合言葉も無くはなかったが、それでもここまで長々と、しかも意味の分からない文字の羅列というのはなかなか無い。更に言えばそれに添えられた「たぶん、関係とかはないんだと思います。」という文章にも違和感を感じた。普通、ここには共有された画像や動画の内容だったりが来るが、しかしこの文章はそんな風ではない。いや、見方によってはデータの説明にも読めるが――しかし、A氏の感じた違和感は拭えなかった。
合言葉の謎は、割と早くにピンと来たらしい。倒語――文字の左右逆転である。個人サイト全盛の時代も通ってきているA氏にとって、この手のアルファベットの連なりは、だいたいアナグラムか倒語かのどちらかであろうことは自明であった。
『amatonihseagurakam』
逆転させて、
『makarugaeshinotama』
まかるがえしのたま――
古代神道にて語られる「
ああ、そういう系ね――と、Google検索の結果を数十秒眺めた後、A氏は流そうとした。なにせそこは匿名掲示板、神話にあやかろうとするものは珍しくもない。
しかし、疑問は晴れない。なぜ、わざわざ■■■の合言葉を、こんなものにした? 百歩譲って神宝の名称であることはいい、なぜ倒語にしたものを用いた? どちらにしても罰当たりも良いところではないか?
A氏の疑問は次第に好奇心へと変わり、ついに携帯端末に■■■をインストールさせるに至る。A氏は、合言葉『amatonihseagurakam』の入力を試みた。
A氏曰く、内容はあまり思い出したくはない、らしい。
共有されていたデータは、画像が三つと動画が一つ。サムネイルは表示されていなかった。■■■では、合言葉を入力するまでは内容が一切分からない仕様である。
最初に開いた静止画を見た瞬間、A氏は反射的に画面を伏せかけたという。写っていたのは、死後数日は経過していると思われる、十代前半と思われる少女の遺体である。それが、浴槽の中に横たえている。浴槽の底には死後遺体から流れ出た体液が広がり、染みが出来ている。A氏もアングラ掲示板に入り浸るほどであるから、グロテスクなものに対する耐性は人並み以上にあったつもりだが、しかし対象が少女であるというところがひどく応えてしまったと語る。
二枚目、三枚目も同一人物で。構図が違うだけで、身体の向きや置かれている場所が少しずつ変わっている。まるで、時間を置いて何度も撮影したかのように。
しかし、どの写真でも共通していたのは、遺体の傍らに、小さな玉が置かれていることだった。掌に収まるほどの大きさで、鈍い光を放つそれは、どの写真でも必ず遺体の近くにある。胸元、枕元、あるいは手のそば。曰く、偶然とは思えない配置であった。
そして、最後に残った動画。A氏は音量を最小にして、再生ボタンを押した。
動画は短い。最初の数秒は暗く、何が写っているのか分からない。やがて画面が持ち上がり、背景のタイルなど、浴室内を映した後、遺体に寄っていく。映像は手ブレが激しく、どうやら携帯端末で撮影されたものらしい。静止画と同じ人物、同じ場所。音はほとんどなく、撮影者の息遣いだけが微かに入っている。
そして終盤。遺体のすぐ横に置かれていた玉が、わずかに動いた。転がったわけではない。誰かに触れられた様子もない。ただほんの数ミリだけ位置を変えた。
その直後、動画は唐突に終わる――たぶん、関係とかはないんだと思います。A氏の頭に掲示板の一文が浮かんだ。
遺体と玉。倒語の『amatonihseagurakam』という合言葉。
◆ ◆
B氏は、倒語である『amatonihseagurakam』を左右逆転させて元の意味に直した『makarugaeshinotama』を、■■■にて入力した。
1枚の画像データがダウンロードされる。
そこには、『明らかに合成みたいに人体の部位それぞれをコラージュしたみたいな男性』が写っていた。
B氏曰く、たぶん関係はないらしい。
◆ ◆
2016年2月17日に、X(当時はTwitter)に投稿された迷惑メールのスクリーンショット。現在、当該ポストのアカウントは非公開設定になっており、直接確認することはできないが、検索エンジン上のキャッシュに残ったものが検索でヒットする。
内容は以下。
From: ███████@███.jp
To: ████@███.jp
件名: 添付した画像について
すみません
もう私の手には負えません
うちの浴槽はいっぱいです
[添付ファイル: ユキコ20150101.png]