パーティクラッシャー!?〜魔王を倒すため選ばれし勇者と旅をしている僧侶だが、最近パーティ内不純異性交友がけしからん!   作:無能な葦

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勇者はやはり、勇者なのである。

 

 

 

 

 嗚呼……なかなかに長い道のりだった。

 しかし、我々はやり遂げた!

 

 久方ぶりに宿として客を迎える、と語る宿屋の亭主はどことなく嬉しそうだ。

 

「すぐに夕食をご用意いたしますが、時間がかかりますので。どうぞ皆さま、先に温泉にお浸かりになってください。」

 

 亭主の言葉に、我々は頷いた。

 皆、疲れていたし、私など蛙のせいで法衣もドロドロのぐちゃぐちゃになった。

 一刻も早く温泉で疲れと汚れを流したいものだった。

 

「うぅ……ベル、ふろはいらん! 腹へった。オンセンタマゴ……」

「も、申し訳ありません……そちらもいま準備中でして」

「ベルったら。だめよ、蛙の粘液で私たちぐちゃぐちゃよ。ちゃんと綺麗にしなくっちゃ」

 

 ベルラがまるで幼児のように駄々をこねるのを、マレフィアが母親かなにかのように諭している。

 蛮族のベルラはたびたびこうして風呂を拒否し、そのたびにマレフィアが諭すのがある意味習慣となりつつあった。

 

「お風呂から出る頃には、さっぱりして、その上夕飯もオンセンタマゴも出来上がってるよ。ベル。きっと気持ちいいから」

 

 温泉、と勇者もベルラを諭している。

 勇者にしては少しばかり珍しいほどに、声音が弾んで明るい。温泉を楽しみにしていたのは、なにも私やマレフィアだけではなかったらしい。よいことだ。

 

「ゆーしゃ、いうなら。むぅ……」

 

 ベルラも不承不承ながら頷き、話が纏まると、我々はそれぞれにあてがわれた部屋に荷物を置いて浴場へと向かうのだった。

 

***

 

 脱衣所に行くと、そこには私しか居なかった。

 

「ム……。勇者はまだ部屋に……?」

 

 私はしばらく脱衣所で勇者を待った。

 荷物を置いたらすぐにも来るものと思っていたのだ。

 しかし。

 はたして。

 待てども待てども。

 来ない……。

 

「ど、どうしたことだ……!? なぜ来ない……!? まさか疲れすぎて部屋に入った途端にバタンキューとでも?」

 

 あり得ないことでもない。

 なにせ山道を登って化け蛙と大立ち回りをしてまた山道を下ってきたのだ。疲労困憊である。勇者がいくら若く体力のある青年とはいえ、着慣れぬ女の装束で気疲れもあるかもしれない。

 

 困った。

 これでは私の計画が……。

 男同士裸の付き合いで腹を割って話し、勇者の心にかかる不安や迷いを取り除く。

 それこそが神の忠実なるしもべにして清く正しい聖職者たる私の使命。

 勇者を正しい方向に導かなくてはならないのだ。

 

「よし。呼びに行こう」

 

 ドロドロの法衣だけは先に脱いで、中着とゆったりしたズボンのみの格好で私は一度脱衣所を出た。

 勇者の部屋へといざ!

 

***

 

 しかし。

 勇者は部屋にも居なかった……。

 

「な、なぜだ……!? いったいどこに!?」

「おや、神官様……? どうなさいました、そこは勇者様の……」

 

 掃除道具を手にやってきた宿の亭主が、不思議そうな顔をする。

 

「お、おぉ……よいところに。いや、勇者がな……いつまでも来ないから、もしやまだ部屋にいるものかと」

「おや? 勇者様なら、さきほど魔導師様たちと風呂へ向かわれましたよ」

「……な、なん、だと」

 

 それは、あまりにも衝撃的な話だった。

 一瞬くらりと目眩すら感じる。

 

***

 

 白くけぶる大浴場――

 ふたりの女と、ひとりの青年――

 

「フォルト……お疲れ様……。疲れたでしょう。私が体を洗ってあげるわ」

 

 そう言うと、マレフィアは自らの艶めかしい裸身にいっぱいの泡を纏わせて、勇者の逞しい背中にむにゅうとその胸を押し付ける。

 

「フォル、ベルもいっぱいゴシゴシしてやる。えんりょいらない」

 

 ベルラが手にたっぷりと泡を作り、勇者の胸板に抱き付きながら泡を擦り付ける。

 

「あっ……フィア。ベル。……そんな、体くらい、自分、で……」

「いいのよ、フォルト。遠慮しないで……私たちに、全部任せて……」

「あっ――!」

 

 マレフィアが勇者の耳元で囁き、泡と湯気に塗れて三人くんずほぐれつ――

 

***

 

「だぁぁぁあ――!」

 

 神よ――!

 

「ひゃっ!? し、神官様……ど、どうされました!?」

 

 私の脳裏に悍ましく淫らで不埒な絵がちらつく。恐ろしき邪悪! 光あれ! 破ァ――!

 としたところで、驚く亭主に振り返る。

 努めて平静の顔を保ち、私はゆっくりと首を振った。

 

「いや、なんでもない。しかしそうか。では行き違いに……いや、わかった、ありがとう亭主殿」

「ほ、ほんとうになんでも……? あ、神官様……鼻血が」

「……。の、のぼせたかな、少しばかりな。ふふ。では!」

 

 怪訝そうに眉を顰める亭主の視線を振り切るように私は手早く礼を述べ、急いで浴場へと向かった。

 

 まさか。よもや。

 マレフィア! 

 おのれなんたる破廉恥! 

 混浴する気だというのか!

 そして自らの体を使い勇者を籠絡しようというのか! 

 まだ幼いベルラまでもを巻き込んで!?

 

 考えれば考えるほど沸々と頭に血が昇る。

 いったいどんなめくるめく柔らか白パン――

 

 いや! 違う! 

 そのような淫奔かつ放埒な振る舞い、私は許さんぞ!

 

 ぐいっと鼻を拭いながら足を早め、私は。

 バァン! 

 と女風呂へと至る扉を開け放った!

 

「勇者……! マレフィア……! 男女混浴など、風紀を乱すが如き行いは慎むのだ――」

 

 もやもやと白くけぶる湯気の中、バシャンと湯の音が立つ。

 

「……にゃっ!」

「きゃあ!? ちょ……っ……! なに入ってきてるのよ!? どう見ても風紀を乱してるのはあなたの方でしょうが。バカモノ!」

「ぬぁガッ――!?」

 

 よく見えない湯煙の中というのに、実に見事なるコントロール!

 勢いよく投げつけられたマレフィアの桶がカァンと良い音を立てて私の額を直撃した――

 

***

 

「レリジオさん……まさか、女風呂を覗くだなんて……信じられない。幻滅しました……」

 

 勇者が目を伏せ私に背を向ける。

 

 嗚呼……勇者よ……!

 違うんだ……誤解だ……!

 私はただ……君を正しき道に導かんとしただけで……!

 ぱくぱくと口を動かすも、なぜかうまく声にならない。

 

「さようならレリジオさん……僕は、フィアとベルと、それから……」

 

 勇者の歩いて行く先には、マレフィアとベルラ。ふたりの肩を両手で抱いて引き寄せる。

 いや、まて、なんだその手は!

 まさか三人仲良くトライアングルを維持したまま旅を続けようというのか!?

 私を置いて!?

 そんなの嫌だ!

 勇者……!

 

 不意に白いもやが沸き起こり、ゆらめいて勇者たちを包み込んでいく。

 見えなくなる。

 

 そして――

 

「ケロォ! 代わりにボクがかわいこちゅぁんたちを守ってあげるぉ~!! ゲケロロロロォン!」

 

 湯気の中、あの化け蛙……!

 

「そ、そんな奴に私の代わりが勤まるものかぁ~! 勇者ぁあ……!」

 

 思わず叫びながら手を伸ばし――

 

「レリジオさん……? 大丈夫ですか!?」

「おぁッ!?」

 

 私を覗き込む澄んだ紫水晶の如き瞳と目が合う。

 心配そうに眉を寄せる勇者の顔がそこにはあった。

 

「……ゆ、勇者……」

「おでこ、冷やしておきましたから。コブにはなってないと思いますけど」

 

 気付けば私は、脱衣所の籐の寝椅子に横たわり、額には濡れ布巾をあてがわれていた。

 勇者の髪はしっとりと濡れ、頬は赤みが差している。風呂上がり……だ。

 私は、思わず震えそうになる声をどうにか堪え、表情は努めていつも通りを心掛けた。

 

「……勇者よ。これだけは言わせてほしい。私は決して、マレフィアたちに覗きを仕掛けたわけではなく……やはり風紀的に考えて男女の混浴はあるまじきこと、それを阻止せんと……崇高なる志しのもとに」

「わかってますよ」

「お、おぉ……勇者……わかってくれるか」

「レリジオさんに、そんな気がないことはわかります。……それに……男女で混浴なんて、していませんから。心配しないでください」

 

 混浴は、していない……。

 では、勇者は……。

 ひとりで……?

 

「うぁぁ……不覚! 私は、君と……男同士裸の付き合いで、腹を割って話そうと思っていたのだ勇者よ。ラーナの一件以来、君の心になんらかの迷いや……不安が、あるように思えて」

 

 勇者は、ぱちりと瞬きをした。

 思いのほか睫毛が長い。

 実に整った美しい顔立ちだ。

 温泉上がりだからか、肌のツヤも良くきめ細かい。

 精悍な美青年と思っていたが、こうしてみるとどことなく中性的な美貌だ。

 知らなかった。

 

「レリジオさん……。ありがとうございます。僕のことを、気にかけてくださって。いつも、レリジオさんは僕のことをちゃんと考えてくれている。とても心強いんです。大丈夫……ラーナさんのことはショックだったけど、僕には……フィアがいて、ベルがいて、レリジオさんが居るから。必ず、使命は果たします」

 

 微かに笑った。かと思えばその表情は次第に引き締まり、決意に満ちて……いつもの、精悍な青年のものになる。

 勇者の言葉は実に頼もしく、誇らしく、素晴らしいものだった。

 

「そうか、ね……なら、私も、安心だ」

 

 なのになぜか、奇妙な胸騒ぎを覚えた。

 私は、なにか重大な、大切なことを見落としているような、そんな不安に駆られる。

 勇者はゆっくりと立ち上がり、そして私に手を差し伸べた。

 

「もう立てますか? 夕食の用意ができているそうですよ。行きましょう、レリジオさん」

 

 剣だこの目立つ、ゴツゴツと硬い手のひら。

 長い袖に隠れるように嵌められた腕輪。

 その手を取れば、力強く引き起こされる。

 化け蛙と対峙したときの、奇妙に儚げで華奢な姿など、まるで幻のように。

 

「あ、あぁ……」

 

 勇者は、やはり……私の理想の勇者そのものだった。

 彼は使命に惑うことはなく、決して弱音など吐かず……人々の希望をその双肩に背負って立つ勇敢な青年。

 嗚呼、神よ……。

 私は思わず心からの祈りを捧げずにはいられなかった。

 

 どうかこの若者の道行きに、加護のあらんことを。

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