パーティクラッシャー!?〜魔王を倒すため選ばれし勇者と旅をしている僧侶だが、最近パーティ内不純異性交友がけしからん!   作:無能な葦

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いざ行かん、敵は砦に

 

 荒くれどもは村から北にいくらか行った先にある砦に住み着いているらしい。

 

 元々は魔族や魔物の群れと対抗するためであった砦が、敗走と共に打ち捨てられ、いっときは魔物の住処となったのち荒くれどもが奪い取ったという話だった。

 

 村から砦まで、馬で一刻程度の距離。

 村長が貸してくれた馬車のおかげで、道中は楽をでき……

 

「ぐっ……ぅうっ……!」

 

 なかった。

 

 ガタガタと荒れた道を走る馬車はあまりにも揺れた。

 

 板張りの荷馬車である。人が乗るようにはできていない。ガタンッと揺れるたびに尻は痛いわ腰は痛いわ最悪の乗り心地だった。

 

「あ、あぁ……ぅう……」

「情けないわね、これくらいのことで」

 

 砦を前にして、すでに満身創痍の私をしりめに、若者どもは平然としていた。ハーフエルフが若者の保証はないが。

 

「オマエ、あしでまといなる。どうせいつもなにもしない。そこでまっとけ」

 

 ベルラが屈伸運動をしながらにべもなく言ってくる。失礼な!

 私はいつも祈っているのだ。後方で、しっかりと、神に。

 

「ベルラさん、そんなこと言わないでください。レリジオさんは、頼りになりますよ」

「そうだぞ。私はいつも君たちの勝利と安泰を祈ってやっているのだ。血反吐をはくような熱意と想いで……な。」

「あぁ、そう。はいはい、いいわよ、お祈りで血でもなんでも吐いておけば。そのお祈りで、魔物が倒せるといいわね」

 

 嗚呼、勇者。よくわかっている。

 それに引き換え、マレフィア! どこまでも私を馬鹿にしてくれる!

 

「それより……あなたも大丈夫なの、坊や。ちょっと顔色悪くない?」

「えっ……!? だ、大丈夫、です。……馬車で、酔った……んだと、思います」

 

 マレフィアの指摘に、勇者は驚いたように目を瞠り、顔を逸らして俯いてしまった。

 たしかに、マレフィアの言うように、いささか顔色が悪いような気もする。

 

「ふぉる、オマエ、へんな匂い。オマエもあしでまとい。まっとけ」

 

 おのれベルラ! 勇者から変な匂いがするわけないだろう! 勇者なのだぞ! 爽やかなシトラスの香りに決まっている!

 

「ベルの言う通りよ。こんな砦に巣食うウジムシども、私の魔法だけで十分」

 

 高慢な態度で砦に歩き出すマレフィアと、

 

「なにゆう! ベルひとりじゅぶん!」

 

 対抗意識をガンガンと燃やしながら続くベルラ。

 もう、いいのではないかな。あのふたりに任せれば。という気はした。

 

「待ってください! ふたりとも! ……レリジオさん、お願いが……」

 

 勇者が真剣な顔で私を見上げてくる。

 その縋るような眼差し。嗚呼、私を必要としている。勇者は!

 

「なにかな……なんてな。ふふ、言わずともわかっておりますぞ。なに、馬車酔いなどすぐに治してしんぜようとも」

 

 私は聖印を胸に掲げ、聖句を唱える。

 柔らかな青白い光が両手に宿った。

 これぞ神の奇跡の力。癒しの法力。

 やはり私もできる男ではないか!

 

「さぁ、これでもう大丈夫」

 

 軽く勇者の肩に触れ、癒しの力を送り込んだ。勇者の頬に赤みが戻る。なるほど、マレフィアの言う通り少し顔色が悪かったのだな。

 あのハーフエルフ、案外と皆をよく見ているようである。

 

***

 

 荒くれどもが占拠したという砦は、堅牢な造りをしていた。

 

 城壁の四隅には高い塔が聳え、四方を見張れるようになっている。塔同士を繋ぐ城壁の上には物々しいバリスタ。

 

 元は対魔王軍、対魔物のために築かれたものなだけあり、対空武器としての意味もあり用意されていたのだろう。

 

 急勾配の斜面の途上、聳え立つ砦を見上げて、我々は一度足を止めた。

 

 たった四人でどうにかできるのか? と私は訝しんだ。

 勇者と魔導師と戦士。そして僧侶の私。

 このような状況で必要なのは、隠密行動の得意なタイプなのでは?

 

「そうね。魔法を撃ち込んで城壁を壊す、というのもなくはないけど……対魔物用に築かれた砦だもの、二発や三発程度では難しいかもしれないわ」

「ワナ、におい……ない。ひと、かず、いっぱい。かやくにおいする」

 

 獣人のよく利く鼻と耳は、数キロ先の砦の内部まで嗅ぎ取ることができるのか。日常生活がやや心配になる。

 

「こっそり、中に忍び込むことは……できないでしょうか。マレフィアさん、マレフィアさんの魔法なら……」

 

 勇者がじっとマレフィアを見つめる。

 マレフィアは肩を竦め、背負っていた魔導書を手に取った。

 

「ヒューマンは特にそのあたり誤解してるけど、魔法だって万能な訳じゃないのよ。……でも、私は優秀だから」

 

 物言いこそ高慢だが、にこりと微笑む顔は意外にも嫌味がなかった。

 

「目眩しの術をかけましょ。それで砦の中に忍び込むの。最初の関門の城門と見張りをやり過ごして内部に入れれば」

「なかいるのやつ、全部倒す!」

「そ、簡単でしょ」

 

 ベルラが拳をガツン! と打ち合わせグルルと唸り、マレフィアは片目を瞑ってみせる。

 作戦というにはあまりに雑だ! なぜそんな自信満々なのか。眩暈がした。

 

「頭目を制圧できれば……なんとかなるかもしれません。やりましょう!」

 

 勇者もなぜか乗り気。なぜだ。こんなのは作戦とは言わんぞ!

 

「あなたはどうする、お偉い神官さん? いいのよ。おとなしく馬車で待っていても」

 

 マレフィアが私をちらりと一瞥し、ふふんと鼻先で笑った。小馬鹿にしているな!?

 

「なにをいう。共に行くに決まっているだろう。仲間なのだから」

 

 私は努めて落ち着いた声で言った。

 

 だいたいひとりで馬車に残っていて荒くれどもの仲間や魔物に襲われたらどうする。死ぬではないか!

 

***

 

「聞け、遊び躍るマナよ、小さきいのちの煌めきたちよ……私マレフィアの名の下に、いまおまえたちに意味を授けましょう。“#目眩し__ プリスティーズ__#”!」

 

 マレフィアが魔導書を手に詠唱を行う。彼女の足元から風が渦を巻くように湧き起こり、長い銀の髪がぶわりと広がる。

 本がパラパラとひとりでに捲れ、パァッと眩い光が生まれた。

 

「ふぅ……これでいいわ」

「……な、なにがだ? なにも変わりないぞ」

 

 てっきり透明にでもなるのかと思いきや、なにも変化がない。

 失敗ではないのか?

 

「でも大丈夫なの。もう絶対バレないわ。……あ、でも気をつけて、すっごくカンのいいやつや魔法の心得のあるやつにはさすがにバレる」

 

 なにが大丈夫なのか……。

 勇者も、ベルラも、いまいち納得いかないという雰囲気を醸し出している。

 

「マレフィアさんを信じないわけじゃ、ありません、けど……」

「いい。マホーあってもなくても、ベルやることかわらん。行く!」

 

 くんくんと自分の体を嗅いでいたベルラは、そういうとパッと走り出す。

 

「あ、こら、待つんだ……!」

「ベルラさん、ひとりでいくのは危険です!」

 

 駆け出したベルラを追って勇者も走り出し、更に後を追ってマレフィアも。

 

「く……神よ、どうか我らをお守りくださいますよう」

 

 私も覚悟を決め、聖印を握りしめて祈りを捧げてから、三人の後を追いかけた。

 

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