転生したら躯倶留隊だった件   作:トックー0322

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今回ちょい短いです。


間話:屈辱《後編》【禪院直哉視点】

 

 

 

 頭の奥が、ずっとじんじんしていた。

 鼓動が耳の内側で鳴って、視界の端がわずかに揺れる。

 

 俺は立ち尽くしていた。

 さっきまであったはずの圧が消え、既に廊下の空気は元に戻っている。

 なのに、戻ってこおへんものがあった。

 

 ──俺への視線。

 ──俺の存在感。

 ──俺の価値。

 

 呪力のない黒い着物の男──あの“鬼”が去ったあとも、俺の中では何かが崩れ続けていた。

 

 目の前には、まだ源之助がおる。

 膝をついて、こちらを見ている。

 その姿が、無性に腹立たしかった。憎しみすら湧く。

 

 なんやその態度。

 なんでお前が、そんな顔しとんねん。

 なんでお前が、あの人と()()()みたいな空気出しとんねん。

 

 俺は一歩、前に出た。

 気づいたら足が動いていた。

 

 禪院源之助。

 数分前まで()()()()()()()と思っていた相手。

 術式も持たへん、分家のカス。

 

 ──そして、俺越しにあの人に話しかけられた存在。

 

 腹の奥で、黒いもんがぐつぐつ煮えた。

 

「何しにきたんやカスゥ……!」

 

 自分でも驚くくらい、低い声が出た。

 震えてるのが分かる。

 怒りが強すぎて、抑えが効かへん。

 

 源之助は、すぐに平伏した。

 片膝だった姿勢から両膝をつき、床に額をこすりつける。

 

 反応が早い。

 まるで、こうなるって分かっとったみたいに。

 

 源之助は床に額をつけたまま、両手を差し出してきた。

 その手に乗っていたのは──扇子。

 俺が気に入っとった扇子や。

 

「こちらは、直哉様のものではないでしょうか」

 

 (……あ"?)

 

 その瞬間、頭の奥で何かが切れた。

 

 ()()()

 呼び方だけは正しい。

 でも、そこに込められたもんが気に入らん。

 

 尊敬ではない。

 恐怖でもない。

 どこか、冷静すぎる。

 

 まるで、俺が怒るのを織り込み済みみたいな態度。

 

 俺はわざと足音を立てて源之助に近づいていく。

 そして俺は、足を振り上げた。

 

 ──ドンッ!

 

 源之助の頭を踏みつける。

 感触が足裏に伝わる。

 骨の硬さ。呪力の柔らかさ。

 その全部が、不快やった。

 

「カスごときが俺に何か差し出すなんて──」

 

 体重をかける。

 わざと、ゆっくり。

 痛みを噛み締めさせるために。

 

「──千年早いねんダボがッ……!!」

 

 足の下で、源之助の体が微かに揺れる。

 呻き声は出えへん。ひたすらに無言。

 それが、余計に腹立つ。

 

 泣けや。

 叫べや。

 抵抗しろや。

 

 なんで、そんな()()()()()()()()()()()()みたいな空気出しとんねん。

 

 俺は未だ差し出されていた扇子を奪い取った。

 誕生日に父ちゃんがくれた、俺のお気に入りの扇子。

 それを、迷いなく──

 

 へし折った。

 

 音が気持ちよかった。

 木が割れる、乾いた音。

 装飾が砕ける音。

 

 ──自分の中の殻が割れる音。

 

 そしてその残骸を、源之助の頭に叩きつけた。

 

 これでええ。

 これで、上下関係がはっきりした。

 お前は下。

 俺が上や。

 対等なんかやあらへん。

 

 俺は最後にもう一度、強く踏みつけてから足を離した。

 

 源之助は動かへん。

 床に額をつけたまま、ぴくりともせん。

 

 それを一瞥して、俺は踵を返した。

 

「……カスが」

 

 小さく吐き捨てる。聞こえたかは分からない。

 そして、ドスドスと音を立てて歩き去った。

 

 

 

 

 

 

   §

 

 

 

 

 

 

 廊下は、やたら長く感じた。

 柱の一本一本が、俺を見下ろしてる気がする。

 

 歩きながら、歯を食いしばる。

 奥歯がキリキリときしむ。

 

 源之助。

 禪院源之助。

 

 その名前が、顔が、声が頭の中で何度も反芻される。

 

 (──殺したろか)

 

 父ちゃんに言うたら、一瞬で消えるやろ。

 分家のガキ一人、どうとでもなる。

 理由なんて後付けでええ。なんなら家ごと潰したろうか。

 

 ──けど。

 

 それやと、足りひん。

 あの屈辱は、そんなんで消えへん。

 

 思い出すのは、あの男。

 呪力のない猿。

 禪院家の落ちこぼれと呼ばれていた。

 せやのに、圧倒的な覇気を纏っとった男。

 

 俺を見もせんと、源之助(カス)にだけ声をかけた男。

 

 あの視線。

 あの圧。

 あの「お前じゃねぇよ」という言葉。

 

 (……認めさせたい)

 

 無意識に、そう思っとった。

 

 あの男に。

 あの鬼に。

 父ちゃんよりも、誰よりも、何処か"本物"やと直感した存在に。

 

 源之助なんかより、俺の方が上や。

 圧倒的に。

 才能も、血も、実力も。

 

 それを、()()()に見せつけたい。

 俺の方がすごいって教えたい。

 

 そこで、ひらめいた。

 

 ──あの人の前で、源之助を殺す。

 

 それもただ殺すんやない。

 正面から、叩き潰す。

 力の差を徹底的に分からせてから、嬲り殺す。

 

 そうしたらどうなる?

 

 源之助の、あの鉄面皮が剥がれる。

 あの冷たい無表情が、恐怖で歪む。

 プライドが折れる。心が折れる。アイツの泣き顔が見れる。

 

 その瞬間を、あの人に見せる。

 そして──

 

 どうや。

 どっちが“本物”や。

 術式もないカスと、俺と。

 どっちが"上"や。

 

 ──そう聞いてやる。

 

 一石二鳥や。

 

 「うひっ、うひひひっ…!」

 

 想像した瞬間、口元が勝手に歪んだ。

 喉の奥から、ぬちゃりとした笑いが込み上げる。

 

 源之助が崩れる瞬間。

 あの人が、初めて俺を見る瞬間。

 

 それを思うだけで、胸が熱くなる。

 今度こそ、俺の名前を聞いてもらう。

 

 (──待っとれや)

 

 俺は廊下の影で立ち止まり、誰にともなく呟いた。

 

「ぶち殺したるわ、源之助ェ…!」

 

 声は低く、静かやった。

 誰の耳にも届いてへんやろう。

 けど、その言葉は、はっきりと俺自身に刻まれた。

 

 この屈辱は、忘れへん。

 絶対に返したる。

 

 禪院直哉は、そういう男や。

 

 

 

 

 





前後編に分けなくてよかったかも。
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