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さて今回は、主人公である零と冬真が出会ったところからです。そして今回は、冬真の視点から入っていきます。
それでは、どうぞご覧ください。
俺は今日、部活の練習が終わった後、いつも父さんと練習する場所に来ていた。ここは普段、ジュニアチームの練習や試合などに使われているサッカーコートで、それがない時にはここを練習場所として使わせてもらっていた。
今日ここに来た目的は、父さんの話で聞いた『氷月零』という人物に会うためだ。何故俺が、その氷月零に会うことにしたのかというと……
『強いMFをスカウトしたい……?』
『そうなんだ………今のサッカー部にはさ、俺の全力に合わせられるやつがいなくて―――あ、いや、別に今のMFが下手ってわけじゃなくて……というかむしろ上手いんだけどさ』
『分かってるよ。冬真が仲間想いなのは知ってるから』
なら何故俺―――というよりもサッカー部が強いMFを求めているのかというと……
『……勝ちたいんだ』
『それは、雷門にかい』
『……うん』
王者雷門……25年前まで弱小校だったが、当時のキャプテンにして伝説のサッカープレイヤーである円堂守率いる雷門イレブンが快進撃を続け、その年のフットボールフロンティアで優勝を果たした。父さんも雷門に所属していたようで、エースストライカーとして活躍したこともある。
俺は1年の時にレギュラーとして出場し、フットボールフロンティア決勝で雷門と戦った………が、惜しくも敗北し、準優勝という結果に終わった。なので今年は全体のレベルを上げ、サッカー部一丸となって優勝を狙っている。今年の予選も順調に勝ち進んでおり、この調子でいけば本選に進出することができるだろう………が、今年の雷門にはサッカーモンスターの円堂ハルがいる。この前行われた北陽学園と雷門中の試合動画を見たが、その実力はまさにサッカーモンスターと呼ぶにふさわしいものだった……。
『でも、サッカー部全体のレベルは去年よりも上がってるんだろう?それは冬真も同じだ。去年よりも格段にレベルが上がっている』
『そう言ってもらえるのは嬉しいけど……そこが問題なんだ』
これは今年の始めに気付いたことなのだが……俺が全力を出してプレーした場合、そのスピードについてこられる選手が今の白恋中サッカー部にはいないのだ。加えて俺にパスを出そうとしても、それが俺にまで届かないことやタイミングが合わないことがあった。
それでもみんなは、俺に何1つ不満を言うことなく特訓によりレベルを上げていった。そのおかげで、前よりは改善されているが、先に俺以外が限界になってしまい、後半の試合スピードが落ちてしまうのが課題になってしまっていた。
『なるほど……だからMFを……』
『雷門を倒す―――ううん、フットボールフロンティアで優勝するには、俺の全力に余裕でついてこられて、最高のパスを出してくれるプレイヤーがどうしても必要なんだ』
あのモンスターは、俺が全力を出さないと勝てない………それを聞いた父さんは……
『……じゃあ、僕から1人紹介しようか?』
『紹介って、誰を……?』
『……氷月零』
『氷月零って……あの?』
氷月零は白恋中では有名人だ。温厚な性格をしており、それに加えて中性的な容姿をしている。さらには文武両道で、本人が知らないところでファンクラブまで作られている。また、零はeスポーツの全国大会で有名なプロを圧倒して優勝しており、プロのチームからもスカウトされているらしいが、何故かそれを全て断っているという………それにしても、零がサッカーをしているなんて初耳だ……。
『あぁ。零君はよくここに来て1人で練習していてね………零君の詳しい事情は言えないけど、この場所を貸しているってわけさ』
『そうだったんだ。その……零って、サッカー上手いの?』
俺は父さんにそう訊いたのだが……
『……』
『父さん?』
『一言で表すなら……天才』
『天才……?』
返ってきたのはそんな答えだった……父さんが天才って言うなんて、一体どれだけの実力が……。
『信じられないって顔してるね?』
『!ま、まぁ……いきなりそんなこと言われても……』
困惑した様子の俺を見て……
『試しに見てみるかい?』
『えっ?』
『明日、零君はここに練習しに来るからさ……言葉で説明するより、見た方が早いと思うよ』
明日か……俺自身も今の父さんの話を聞いて、零に興味が出てきた。それに、そんなやつがいるなら見てみたい……!
『分かった。そうするよ』
そうして今日、サッカー部の練習が終わった後で見に来たのだ。そこには、制服からジャージに着替えた零がいた………それにしても父さん、最初は隠れて見てろなんて言ってたけど、どういうことなんだ?
「よし……」
準備運動を終えた零は、コーンを直線上に並べてから早速ボールを蹴り始めたのだが……
「っ!?」
は、速い!それにドリブルに迷いがない!まるで反射的にやっているような……。
零はコーンを敵に見立てて、ドリブルの練習をしており、高難度のテクニックを入れながら次々とコーンを抜き去っていた。
それが終わると、零は先程とは打って変わってバラバラにコーンを立て始めた。一体何をしようと―――
「っ!」
すると零は立てたコーンを狙い、様々なコースでボールを蹴り始めたのだ。この練習は……パスやキック精度を鍛えているのか……?
零が放ったボールは、次々とコーンに命中していき………
「まじか……!」
ひゃ、百発百中……!?
そう、零は一発も外すことなく、コーンを全て連続で倒して見せたのだ。それも一発ごとに違う蹴り方、違うコースで命中させていたのだ。それを数回繰り返した零は、続いてゴールのところにコーンを2つ置き、シュート練習を始めたようだが……
「ふっ!」
直線的なシュートを撃ったかと思えば、次は強烈なカーブをかけたシュート、さらにその次はジャイロシュートを撃ってみせた………な、何だよこれ……撃てるシュートの種類多過ぎるだろ……!?
シュートの種類の多さもだが、俺が驚いたのはシュートする距離の長さとコントロールの正確さだ。零はシュートが入る度に、距離を段々と離して撃っていたが、離れたところからでもコーンとコーンの間を狙い、シュートを放っていた。もちろんこれも、俺が見ていた時は一度も倒すところは見ていない……。
天才、か……父さんの言っていたことの意味が、はっきりと分かった気がした。すると……
「それにしても……零君はサッカー部には入らないのかい?」
「っ……」
父さんが零に向け、ふとそう言ったのだ………それを聞いた零は、急に何処か寂しげな表情をしていた……。
「零君なら、絶対に活躍でき―――」
「そういう問題じゃないんです……もう、どこかのチームでサッカーをすることはありませんよ。それにこっちの方が自由にサッカーできるから……これでいいんです、よっ!」
零はそう言うのと同時に、コーナーから直接シュートを入れていた……。
「……!」
あぁ……凄く綺麗だ………俺はただただ、零のシュートの軌跡を見てそう思っていた。それから俺は零のところに行き、興奮しながらさっきのシュートなどをどうやったのかを訊いた。零は何で俺がいるのか分からず戸惑っていた……それから興奮し過ぎた俺は父さんに止められ、本来ここに来た目的を思い出し、それを零に言ったのだが……
「零……サッカー部に―――」
「ごめん断る」
「まだ最後まで言ってないんだけど!?」
俺が言い切る前に断ってきたのだ。
「な、何で……?」
こんなに早く断られると思っていなかった俺は、思わず困惑しながらそう訊いた。すると零は、さっきしたような寂し気な表情をし……
「……悪いけど、僕はもうチームでサッカーをする気はないよ」
「……それって、さっき言ってたことと関係あるのか?」
「さっきって……聞かれてたんだ」
零がさっき父さんと話していた時、チームがどうこうと言っていた………昔は零もチームに入ってたらしいけど……?
「えっと……どうしてもダメなのか?今すぐ決めて欲しいってわけじゃ―――」
「……」
俺の問いに、零は黙り込むことで肯定の意志を示していた……零に何があったか訊きたいけど、無理やり話させるわけにもいかないし………うーん―――あ、そうだ!
「じゃあさ……
俺と勝負しないか?」
「勝負……?」
突然の提案に、零は困惑した様子でいた。そんな零に、俺は勝負の内容を説明した。
「あぁ!今から俺と君で1on1をする。ボールを取られたら攻守交代。それをどちらかがゴールを決めるまで続ける」
「え?今から……?」
「そう、今から。俺が勝ったら零は1度サッカー部に来る。零が勝ったらサッカー部に来なくてもいい……あ、でも零の方から来るのはもちろん歓迎だぞ」
「えっ?そこは『サッカー部に入れ』っていうところじゃ……?」
零は疑問府を浮かべながらそう言ってきた………確かにそうすることもできた。けど―――
「いやいや、無理強いするわけにはいかないだろ?それに俺は、零には自分からサッカー部に来て欲しいからな!」
「……!」
さっきの零の様子といい、詳しいことは分からない……でも零には、嫌々サッカーをやって欲しくない。やるなら、思い切り楽しんで欲しい……!
「……いいよ。その勝負受けるよ」
「!……ありがとう、零!」
零は少しの間考えた末、俺との勝負を受けてくれることになった。
◇
「先攻は零からでいいよ。勝負しようって言ったのはこっちだしさ」
俺がそう言った瞬間……
「……分かった」
「!」
零は一言そう言い、俺から離れていった。何だ……零の雰囲気がさっきと違―――
「それじゃあ……スタート!」
「!?」
審判役の父さんがそう言った瞬間、零は俺との距離を詰めてきた。
「っ!」
俺も自慢のスピードで零に迫り、一気にボールを取ろうとした……が、
「っ!」
「なっ!?」
その動きが分かっていたかのように、零はスピードを落とすことなく又抜きを決め、俺を抜き去ってゴールへと迫っていく。
「まだだ!」
俺はすぐさま全力のスピードを出すことで零に追い付き、その前に立ちはだかる。俺が目の前に来たことで、零も立ち止まり……
「……」
さぁ、どっちに動く………!右だ!
「!」
「っ!?」
零が右に動いたのを見て、俺もそれを追って右へと動いたが、零はすぐさま左足でボールを逆に蹴りながら左側に動いていったのだ。その時の俺は零の狙い通り右側に引っ張り出されており、零がゴールへ近づくのを許してしまう。
「ちっ……!」
くそっ!俺のスピードを利用したのか……!
俺は零に食らいつくように再び全力で走り、ぎりぎりのところで零の目の前に立ちはだかる。よし!これでさすがにシュートコースはな―――
「そこ」
「……え?」
零は瞬時にボールを右足で外側に軽く弾くと、すぐさま右足でシュートを放ったのだ。零のボールは見事な放物線を描き、ゴールの右上へと突き刺さった……。
「……」
ゴールを決めた本人はというと、冷たい目をゴールに向けていて、喜びもせずにただそこに立っていた………俺はその場で思わず立ち尽くしていたが、決して絶望していたわけではない。もちろん悔しさはあったが、むしろ不敵な笑みを浮かべながら、こう思っていた―――
俺は……
俺は……!
俺は零と、サッカーがしたい……!!
「次、吹雪君の番だよ?」
「!あぁ、分かってるよ」
零にそう言われた俺は、すぐに配置についた。そして、父さんの合図でボールを前に蹴ると、ゴールに向けて一気に駆け出していく。そのまま蹴ったボールに追いつこうとし―――
「そこだね」
「なっ!?」
零!?何でそこに……!?
「勝負あり……だね」
零は俺が何をしようとしていたのか分かっていたようで、既にボールが来るポイントに先回りしていたのだ………そして、そのままボールを奪われ、勝負は零の勝ちとなった………ど、どうなってるんだ……?
「確かに吹雪君のスピードは脅威だよ。でもボールがくるところが分かっていれば、対処のしようはある………と言っても、今のは結構ギリギリだったけどね」
俺の困惑を見透かしたように、零はそう説明した………やっぱ凄いや、零は……!
「凄いな、俺の完敗だよ」
勝負には負けてしまったが、俺の中に悔しさはなくむしろワクワクしていた。こんなやつが、こんな凄いやつが身近にいたなんて……!!
「あのさ……良かったら俺と、またサッカーしてくれないか?―――あっ!?」
考えるよりも前に、俺の口からはそんな言葉が出ていた。俺はやってしまったと思い、思わず自分の口を塞いだ………が、
「……分かった」
「えっ?」
「今の勝負は、久し振りに楽しめたから」
零はこちらを向いてはいなかったものの、俺の頼みを聞いてくれることになったのだった。
◇
吹雪君と勝負した翌日、僕はいつも通りに学校に向かっていたのだが……
「おはよう零!」
「!……あぁ、おはよう吹雪君」
その途中で吹雪君が声を掛けてきたのだ。
「冬真でいいって!」
「……で、何の用?」
「なぁ!今日も勝負してくれないか?」
「勝負って……昨日言ったはずだよ。僕はもう、誰かとサッカーをやるつもりはないって」
僕は昨日と同じことを言ったのだが……
「でも昨日、またサッカーしてもいいって言ったのは零だろ?それに勝負が楽しかったって言ったのも」
「!それは……」
あの勝負の後、僕は冬真に何故かそんなこと言っていたのだ………何で昨日の僕は、あんなこと言ったんだろう……?
……まさか僕は、まだ誰かとサッカーをやりたいと―――いや、そんなははずない!!僕はあの時、チームを壊していた………そうなってしまうくらいなら、1人でサッカーをした方が―――
「零?どうかしたのか?」
「!ううん、何でもない……」
「……?」
僕は冬真にそう返すと、共に学校へと歩いていった。
読んで下さり、ありがとうございます。
零はパスやキック精度が特に高く、ドリブルに関しても先に挙げた2つよりは低いですが、相当高い実力をもっている選手としています。
一方で冬真は足が速いため、そのスピードで相手を置き去りにしてシュートを決めるというプレースタイルの選手となっています。
それでは、次回の話もどうぞよろしくお願いします。